愛子さま初めての地方ご公務
先頃、天皇、皇后両陛下のご長女、敬宮(愛子内親王)殿下には、佐賀県で開催された国民スポーツ大会を視察されるなど、初めての単独での地方ご公務に当たられた(10月11・12日)。
多くの人々が出迎える中、終始、明るい笑顔を絶やされず、爽やかな印象を国民の心に刻んだ。殿下のお姿、その笑顔を拝見するだけで、幸せな気持ちになれるという感想も、多く聞かれた。
もともと、敬宮殿下の単独での初めての地方ご公務は、能登半島地震の被災地となった石川県の七尾市へのお見舞いが予定されていた。これは殿下ご本人の強いご希望が背景にあったとされている。
皇室のご公務は一般に、あらかじめ要請があってそれにお応え下さるという流れだ。だから、いささか異例とも言える。だが、「困難な道を歩まれている方々に心を寄せる」ことこそが「皇室の役目」(「日本赤十字社御就職に際しての文書回答」)という、ご自身の強い使命感によるものだったと拝察できる。
しかし、お出ましを間近にひかえた9月21日に能登半島を襲った豪雨により、大きな被害が生じた。そのため、残念ながら取りやめざるをえなくなった。
しかし、敬宮殿下が被災地にお寄せ下さっているお気持ちは、しっかりと伝わった。
「愛子さまこそ天皇に」という声
その敬宮殿下に、是非とも次代の天皇になっていただきたいという国民の声が、ますます高まっている。
天皇、皇后両陛下のお子さまが天皇の後継者になるのは当然で、ただ「女性だから」というだけの理由で除外されるのはおかしい。という当然の感覚に加えて、敬宮殿下のお人柄、自然なお振る舞いに人々が接する機会が増えるたびに、このような方こそ次の時代の「国民統合の象徴」に最もふさわしい、という共感が強くなっているためだ。
しかし、今の皇室典範の規定では、敬宮殿下をはじめ未婚の女性皇族方は皆さま、ご結婚とともに皇族の身分を離れられるルールになっている。将来の天皇どころか、ご本人が望まれても皇室に残ることさえできない制度になっている。
このような欠陥ルールをそのまま放置していてよいのか、どうか。
これ以上の先延ばしは許されない
実際に皇室典範を改正するのは国会であり、その国会の取り組みにリーダーシップを期待されているのが政府だ。その政府・国会が、長年にわたってこの問題の解決を怠り、いたずらに先延ばしを繰り返してきた。
しかし、敬宮殿下もすでにご成年を迎えられ、大学もご卒業になった。やがてご結婚も遠い将来のことではないだろう。
もはや、これ以上の先延ばしは許されない局面を迎えている。
岸田政権での取り組みは竜頭蛇尾
皇位継承の問題をめぐる政治の現状はどうか。
上皇陛下のご退位を可能にした皇室典範特例法が可決された時に、国会は全会一致で「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」について政府が「速やかに」検討すべきことを、附帯決議として要請した(平成29年[2017年]6月)。
しかし政府が有識者会議を立ち上げ、やっとその報告書が国会に提出されたのは、決議からすでに4年以上が経過した令和4年(2022年)1月だった。とても「速やか」とはいえない対応だ。
しかも、その報告書は驚くべきことに、先の課題に対してまったく“白紙回答”だった。勝手に検討課題を「皇族数の確保」にすり替えて、問題だらけの方策を提案する内容になっていた。
しかし岸田文雄前首相の働きかけによって、この報告書を基に国会の合意を取りつけることが図られた。そのために、額賀福志郎前衆院議長の主導で衆参正副議長の呼びかけという形を取って、国会を構成する全政党・会派を一堂に会した協議の場が設けられた。
そこで国会の総意を取りまとめようとしたものの、全体会議が2回開催されただけでたちまち頓挫してしまった(5月17・24日)。
その後、やむなく党派ごとに個別に意見聴取を行った。だが合意の形成にはほど遠く、解散・総選挙の気配が濃くなる中、聴取結果を併記しただけの中間報告を政府に提出してお茶を濁す竜頭蛇尾ぶりで、岸田―額賀ラインによる取り組みは終わった(9月26日)。
お粗末だった報告書
このようなふがいない結果を招いたのはなぜか。
単に、岸田前首相や額賀前議長らの政治手腕が未熟だったから、というだけの理由ではない。そもそも、検討の土台となるべき有識者会議報告書の中身自体が、あまりにもお粗末だったことが大きな原因だ。
問題解決につながらない政府プラン
報告書で提案された方策は主に2つ。
①内親王・女王がご結婚後も皇族の身分を保持される一方で、その配偶者やお子さまは国民と位置づける。
②一般国民の中から、いわゆる旧宮家系子孫の男性だけに限定して、他の国民には禁止されている皇族との養子縁組を例外的・特権的に認めて、皇族の身分を与える。
しかし今の日本では、側室制度がとっくに過去のものになった一夫一婦制の下で、少子化が進んでいる。そうした条件下で、皇位継承資格を「男系男子」に限定するという明治の皇室典範で初めて採用され、側室制度とセットでしか機能しない時代錯誤でミスマッチなルールをそのまま維持していては、当たり前ながら「安定的な皇位継承」は決して望めない。
①②のような目先をごまかすだけのプランでは、何ら根本的な解決につながらない。
旧宮家養子縁組プランは憲法違反
それどころか、①は皇族と国民が1つの家庭を営むという、「家族の一体性」をかえりみない方策だ。近代以降、前代未聞の家庭を女性皇族に強制する言語道断なプランというほかない。
②はそもそも結婚という心情的・生命的な結合もないのに、自ら進んで国民としての自由や権利を放棄して皇族になろうとする当事者が現れるのか、どうか。
それ以前に、一般国民の中から特定の家柄・血筋=門地の者だけが、他の国民に“禁止されている”手段によって皇族になるという制度に対しては、かねて「門地による差別」を禁止している憲法(第14条第1項)に違反する疑いが指摘されている。これに対して、内閣法制局もいまだに説得力のある釈明ができないままだ。
違憲の疑いが晴れず、「国民平等」の原則を損なうプランは、とても許容できないはずだ。
しかも親の代から国民で、すでに“国民の血筋”になった者が結婚も介さないで皇族になり、万が一その子孫から天皇に即位する事態になれば、これまでの皇室の血筋はそこで途絶える。国民出身(!)の新しい王朝に取って代わられる結果になる。
そもそも、皇族でない者を養子縁組によって皇族にするような事例は、長い皇室の歴史の中で、まったくなかった。
このような無理で無茶なプランを基にいくら協議を重ねても、野党に健全な感覚が残っていれば、合意できるはずがない。
キーパーソンは石破首相と野田立民党代表
9月27日の自民党総裁選挙を経て石破茂衆院議員が新たに首相になった。それに先立ち、野党第1党の立憲民主党でも代表選挙があり、野田佳彦衆院議員が代表に選ばれた(9月23日)。
先の特例法制定のプロセスを振り返ると、皇位継承問題がひとまず決着する場合、さしあたりこの2人がキーパーソンになる可能性が高い。
より「マシな結果」だった石破首相の誕生
石破首相については、総裁選翌日の朝日新聞と産経新聞が足並みをそろえて「女系天皇に理解を示す石破氏」(朝日)、「前例のない『女系天皇』を排除しない考え方を示した」(産経)と報じていた。これはおそらく、総裁選の候補者同士の討論の中で小林鷹之候補から「女系天皇を否定しないのか」と問われたのに対して、「大事なのはいかにして国民統合の象徴の皇室をお守りしていくか」という答え方をした場面(9月13日)などを念頭においた記事だろう。
また「石破茂首相誕生で女性天皇に関する議論が急加速か」(『女性セブン』10月24・31日号)といった観測も見られる。
しかし私は以前、皇位継承問題をテーマに取り上げた共同討議で、石破氏とご一緒したことがある。その時の発言の様子では、女性天皇・女系天皇(※)にとくに前向きな印象は持たなかった。
もちろん、総裁選の決戦投票で争った高市早苗衆院議員と比べた場合、より柔軟な姿勢とは言えるだろう。皇位継承問題に対してブレーキをかけ続けた安倍晋三元首相の後継者を任じる高市氏の政治スタンスから考えると、おそらく①②のプランをそのまま制度化する方向で、無理やり決着を図ろうとするのではないだろうか。
そうした、ほとんど最悪のコースを避けられる可能性がわずかでも生まれたという意味では、石破首相の登場は、よりマシな結果だったといえる。皇位継承問題への知識も関心も、他の総裁候補だった議員らより持っているように見える。
ただし、よく知られているように党内基盤はいたって脆弱。そのために、党内の「男系男子」維持に固執する勢力への配慮が欠かせないだろう。「個人として男系男子で継承されるべきだと考えている」(産経新聞10月17日付)という発言もしている。したがって、過剰な期待は禁物ではないか。
※女性天皇・女系天皇:女性天皇は、女性の天皇を指すのに対し、女系天皇は、本人の性別に関係なく、母親が天皇であるなど、母方に天皇の血筋を持つ天皇のことを指す。たとえば敬宮殿下が即位される場合は、天皇陛下の血統に基づくので、「男系の女性天皇」となり、次にもし敬宮殿下のお子様が皇位を受け継がれるとしたら、その方は女性天皇である母親の血筋によって即位されるから、ご本人の性別に関係なく「女系の天皇」ということになる。
「女性宮家」に踏み込んだ立民党
その意味で、私はもう1人のキーパーソンである立憲民主党の野田代表に、より注目している。
たとえば、立憲民主党のインターネット番組「立憲ライブ」で辻元清美代表代行と対談した時の発言を、NHK NEWSが報じていた(10月1日)。そこで、野田氏の以下のような発言が紹介されている。
「女性皇族が結婚後も皇族にとどまれるようにするやり方が大事だが、その配偶者やお子さんが皇族になるのか、国民のままなのかわれわれと他の党と差がある」
「私は配偶者もお子さんも皇族にすべきだと思う。男系の女性天皇に持っていくためにも、今のところ配偶者やお子さんの問題をどうクリアするかだ」
党の番組で、代表と代表代行との対談において、このような発言があった。ということは、ほぼそのまま立憲民主党の見解と受け止めてよいだろう。
この発言で興味深いのは2点。
まず1点目としては、先に紹介した①のプランに対して、自民党をはじめ同調する党派も多い中で、それらと明確に一線を画した、ということだ。
ご結婚後も皇室に残られる女性皇族の配偶者やお子さまが皇族なら、そのご家庭は紛れもなく「女性宮家」にほかならない。泉健太前代表の頃には、党としてここまで踏み込んだ主張はできていなかった。野田代表に交代したことによる前向きな変化が、ハッキリと見て取れる。
女性天皇につながるステップ
2点目としては、女性皇族の配偶者やお子さまの身分の問題が、“次の課題”である「女性天皇」の可能性とリンクする事実も、しっかりと自覚されていることだ。
もし女性皇族の配偶者やお子さまが国民なら、女性天皇の可能性は大きく狭まらざるをえないだろう。さすがに天皇の配偶者やお子さまが国民のままだったり、即位する直前まで国民という在り方は、望ましくないからだ。
野田氏はここで、あえて「男系の女性天皇」という言い方をしている。これは、政界的には「女性天皇」のさらに先にある課題と受け取られている「女系天皇」というテーマを今の段階で持ち出せば、ハレーションを起こして「女性宮家」すら実現が困難になるおそれがある、との判断がはたらいているためだろう。
「女性宮家の実現」が意味するもの
野田氏は代表選期間中に「女系天皇を認めるかどうかが問われるのは決勝、女性天皇を認めるかどうかが問われるのは準決勝、今は皇族数の確保をめぐる準々決勝」という趣旨の発言をしていた(9月15日)。
このような整理の仕方は、あるいは問題解決を先延ばしする消極的な姿勢と受け取られるかもしれない。
しかし政界の現状は、先に紹介した①②をそのまま押し通そうとする自民党とそれに同調する党派も多く、立憲民主党がほとんど孤立無援で懸命に押し戻そうとしている、という残念な構図の中にある。
もちろん、共産党など自民党に同調しない党派は他にもある。だが、それらはもともと天皇・皇室に対して冷淡なので、政府・自民党とのギリギリの綱引きによって粘り強く事態を動かそうとする熱意が感じられない。
このような困難な状況の下で、公然と女性天皇・女系天皇という課題を明示的に取り上げた事実は評価できる。
野田氏としては、決勝までを視野に入れた展望の中で、一歩ずつ勝ち上がろうとしているのではないか。まずは準々決勝で「女性宮家」を実現して、次の女性天皇の可能性につなげることを最優先しているのだろう。
しかし、立憲民主党が「女性天皇」を可能にする皇室典範の改正を鮮明に打ち出せば、幅広い国民の支持を集めることができるのではないか。
改めて言うまでもなく、敬宮殿下は「直系の長子」なので、今後、女性天皇を認めるルールが採用されれば、直系優先の原則(皇室典範第2条)により即位への道が開ける。