携帯電話番号数逼迫で、ついに「060」番号がスタート
2024年10月2日、総務省は「060」から始まる携帯電話番号の解放を情報通信行政・郵政行政審議会に諮問した。その答申を受け、早ければ12月中にも「060」番号の導入が開始されることになる。現在、携帯電話には「090」「080」「070」から始まる11ケタの電話番号が割り振られているが、それで捌ける携帯電話台数は約2億7000万台とされており(頭3ケタをのぞいた8ケタの数字をフルに使えば約3億台となる計算だが、一部割り当てられない番号があるためこの台数となる)、格安スマホプランが登場して個人でも複数持ちがたやすくなったあたりから番号の枯渇が懸念されていた。それがいよいよ残り約530万番号となった(総務省発表)ことで、ついに「060」も動員せねばならなくなったということだ。
ただし、「060」番号の利用には携帯電話事業者各社のシステム改修などが必要となるため、実際にユーザーにこの番号が割り振られるのは数年先になる見込み(2013年に「070」番号が解放された時も同様だった)。それまでは残った530万番号と解約された番号で凌いでいくことになる。
おじさんたちが番号にこだわるのにはワケがある?
このように携帯電話番号は、その利用実態に合わせて少しずつ割り当てを増やしてきた。「060」「070」の前は、2002年に「080」がといった具合だ。なお、「070」はそれまでPHSで使われていた番号だったため、筆者の周りでは「070」を割り振られることに抵抗がある人も少なくなかった(厳密に言うと「070」の後の4ケタ目が「5」か「6」の番号がPHS用で、それ以外が携帯電話用だった)。中には「080」すら「最近、携帯電話を買った人みたいで恥ずかしい」なんて言う人も……。
このあたり、若い人にはピンとこないかもしれないが(ぜひ、笑い話として読んでほしい)、携帯電話が普及し始めた90年代後半~00年代前半には言わば「番号ヒエラルキー」とでもいうものがあった。合コンなどでの電話番号交換時、「070」番号は安価なPHS持ち=お金がないということで敬遠されるなんてこともあったのだ。
なお、さらに時代を遡ると、携帯電話が「090」、PHSが「070」になったのは1999年1月1日午前2時からの「携帯電話11ケタ化」以降。それまでは携帯電話が「030」「040」「010」などから始まる10ケタの番号、PHSが「050」「060」から始まる10ケタの番号だった。
自動車移動電話時代からの真のエリートは「090-3」ナンバー
そして、そこにも「030」から始まる番号が最も古い(=えらい)という番号ヒエラルキーが存在したのだ。11ケタ化の際は、図表1のように番号を変換する処理が行われたため、「090-3」から始まる番号は言わば最古参の証。もちろん、番号は解約された後、一定期間をおいて使い回されるため、必ずしも「090-3」番号の全員が古くからのユーザーというわけではないのだが、とにかく当時はそんな風潮があったのである。
そんなわけで、アラフィフ以上の世代は昔からのこだわりが捨てられない携帯電話番号だが、昨今は料金を気にせず使えるLINE通話などで話すのが当たり前となっており、若い人は電話番号なんて一切気にしていないし、聞かれることもないので自分の番号を暗記してもいない。なので、今後「060」番号を使う若者に出会っても、それをイジるのは厳禁だとキモに命じておきたい(というか、理解されないだろう)。とは言え、インスタなどのアカウントが短くてシンプルなものが偉い(名前だけで数字などもついていないアカウントは神!)という風潮はあるようなので、ヒエラルキーは別のカタチで今も存在し続けてはいる。
50代の女性編集者が15歳の息子の携帯番号を選んだら…
そうした中、アラフィフの女性編集者がこの番号ヒエラルキーがきっかけでちょっとしたトラブルに巻き込まれたというので紹介させていただきたい。
この女性編集者には先日、2023年4月に高校生になった息子がおり、進学のお祝いに新しいスマートフォンを買ってあげることになったのだが、お子さんが2000年代生まれの若者らしく、前述のように電話番号の継続(080ナンバー)に全くこだわっていなかったため、中学校時代のスマホからの機種変ではなく、より安価に購入すべく新規契約を選び、新しい電話番号を取得することにしたそう。この際、大手携帯キャリアのカウンターで3つの電話番号が提示され、その中から選ぶよう指示されたのだが、そこに「080」ナンバーのほか、「090-3」から始まる番号があったのだ。
「これ、3ナンバーじゃん! ぜったいこれがいいよ」
母親は、女子大生時代ソバージュヘアに青みピンクのルージュで合コンに繰り出していたバブル世代。赤プリ(今はなき赤坂プリンスホテル)のラウンジで待ち合わせをした商社マンが、ハンドバッグのようにドコモのショルダーフォン(030ナンバー)を吊り下げてやってきて、「ここから電話できるんだ⁉」と物珍しさのあまり、通話料金がバカ高いのも知らず、友達に電話をかけさせてもらったこともある。
「PHSで使われていた070なんてもってのほか、080もできれば避けたい。本当は090がいい」と思っていた母親。やや興奮気味に息子にいかに「090-3」番号がレアかを説き、息子も特に番号にこだわりがなかったため、この番号を選んだのだが、それが悲劇の始まりだった……。
あこがれの「090-3」は最近亡くなった高齢者が使っていた
使い始めて数日後、知らない番号からの着信が続き、その全てが老人からの間違い電話だった。そう、この番号は自動車電話時代から数十年にわたって携帯電話を使い続け、そしてお亡くなりになった方が使っていた番号だったのだ。
「ああ、やっとつながったわ。鈴木さん(仮名)、元気やったか」
おそらく何らかの理由で死去が友人たちに伝わっておらず、息子はその都度、もう新しい契約になっており、元の契約者にはつながらないことを伝えるはめに。「お母さんのせいでひどいことになった」とすっかり参ってしまった。
母親の編集者は、そういった電話がかかってくると代わって応対し、「この番号、今はうちが使っているので」と言ってみたが、中にはこちらの言っていることが理解できないのか、何度もかけ直してくる老人もいて、「もう、かけてこないでください」とお願いしても、「そんなこと言われても、(番号の元の持ち主に)連絡が取れないもんでね」と聞いてもらえない。ある高齢の女性は認知症なのか、説明した翌日にはまた電話をかけてきて「鈴木さん?」と始めから聞いてくる始末だった。
使い回しの「090」よりも新しい「060」の方がクリーン
「お近くにお子さんはいらっしゃいますか。いたら電話を代わってもらえませんか」と交渉すること数回。ようやく近くに住んでいるという娘さんに代わってもらえ、なんとか事態は収束した。しかし、事故物件とまでは言わないが、「この番号は最近死んだ人が使っていた。しかも突然、事故死などをしたのではないか」という、ネガティブな印象は女性編集者と息子の間に残ってしまった。
この背景には、解約などで使われなくなった番号が、番号逼迫ゆえにすぐに使い回されてしまっている問題がある。かつては半年から1年は寝かせてから使い回されていたそうだが、最近は1カ月も経たずに使い回されるようになっているのだとか。これは「090」番号に限った問題ではなく、「080」や「070」番号でも起こっていること。間違い電話ならまだマシなほうで、借金の取り立てやセールスの電話が頻繁にかかってくる「はずれ番号」も少なくない。
数年後から運用開始される「060」番号はそうしたイヤな過去がない、まっさらな番号になるので、むしろこちらの方がありがたみは大きいだろう。これから携帯電話番号を取得する人は、「番号ヒエラルキー」などというアラフィフの呪縛は乗り越えて、誰にも汚されていない新雪の野のような「060」番号を受け入れてほしい。