8月の株式市場の大暴落と円高によって、「S&P500」「オルカン」など外貨建てインデックスファンドの基準価格が下がっている。このような動きに対して個人投資家はどんな注意をするべきか。資産運用会社の起業家であり実業家の渋澤健さんは「インデックスファンドは分散投資のつもりでも、実はかなり偏っているので要注意」という――。
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写真=©Jaque Silva/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
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圧倒的比率を占める外貨建て投資信託

2024年1月からスタートした新NISAの口座開設が、若手世代を中心に増えています。新規口座開設者の投資先は、「S&P500」「オルカン(オール・カントリー)」など、米株式や世界株式のインデックスファンドの運用が圧倒的比率を占めています。

インデックスファンドとは、「日経平均株価」「TOPIX」など、市場全体の動きを表す指標(インデックス)と連動した運用を目指す投資信託のこと。

「S&P500」は、米国の株式市場の代表的な物価指数です。全世界の株式をまとめて投資できる「オルカン」もインデックスファンドの一つです。

一方、インデックスファンドと対称的な投資信託が、アクティブファンドです。アクティブファンドの特徴は、指数を上回る、もしくは指数にとらわれずにリターンの獲得を目指すところです。

ただ、アクティブファンドと比べて、インデックスファンドのほうが人気がある理由は何でしょうか。

バフェット氏の発言の真意

一つは米著名投資家のウォーレン・バフェット氏の「個人投資家はインデックスファンドで十分」という発言の影響力でしょう。

おそらくバフェット氏の真意は、自分のように誰もがマニュアルレポートを隅から隅まで日々読むような企業分析をできるわけではない。だから投資は、自分の会社のバークシャー・ハザウェイに任せるか、インデックスファンドで十分ではないですか、といったところのように思います。

バフェット氏が「投資はインデックスで十分」と言うのは、確かに正論です。

なぜならアメリカの場合、インデックスの中で新陳代謝が起こるからです。今はS&P500もたった7社がおよそ30%を占めている、といういびつな状態になっていますが、昔はそんなごく一部の会社だけではありませんでした。そういう意味で、今後どうなるかもわかりません。アメリカのインデックスは、どんどん中身が長期的にアクティブに変動しているのです。

しかし、日本の場合はどうでしょう。確かにファーストリテイリングやソフトバンクなど、昔のインデックスでは存在感がなかった会社もありますが、いまだに銀行や旧公社など時価総額の大きい会社が上位で、新陳代謝がさほどありません。ですから米国の経験値をそのまま、日本株式に適応できないと思います。

個人が富めば国も富む「資産運用立国」

新NISAの新規口座開設者が、海外のインデックスファンドに投資していることについて、「日本から、どんどんお金が海外に流れてダメじゃないか」といった批判的な声もあります。ただ、これは明らかに間違っています。

2023年末のことです。岸田政権は「2000兆円の家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する資産運用立国を実現する」と表明しました。

政府が掲げるこの「資産運用立国」とは、日本の家計の金融資産の半分超を占める1100兆円の預貯金を投資にまわし、金融資産からも所得を得られることを目指すこと。

個人が成長によって富めば、国全体が富む。それを日本という国の本来のあり方とする表明です。

ゆえに個人が成長を求めて投資行為を始めるのは、その流れに適っている。多くの人たちが「S&P500」や「オルカン」を買っているということは合理的です。

しかし、ここに一つ、問題があります。それは株を買っている当事者が、実は自分が「何に投資しているのか」理解していないということです。

「オルカンの構成って何ですか?」と個人投資家に訊くと、「世界の株式です」というぐらいで、どういう国に配分されているのか即座に答えられる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。実態は、時価総額が大きい、米国です。

分散させているつもりが偏っている実態

では、米国株式を代表する「S&P500は、どこに投資していますか?」

そう訊かれれば、「アメリカを代表する500社に投資しています」と答えられるでしょう。

しかし、前述の通り、「S&P500」の時価総額30%以上はマグニフィセント・セブンといわれる7社(アルファベット、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフト、テスラ、エヌビディア)が実際に占めていて、非常に偏っています(2024年7月時点)。

要するに、インデックスで分散させているつもりでも、実はかなり偏った投資をしているわけです。

また、インデックスファンドは、買付手数料無料(ノーロード)で、信託報酬(購入者負担の保有残高に加算される年率運用費)が安いのが特徴です。ただ、売り手からすると「つみたてNISA」というのは、販売手数料を稼げません。ゆえに、「みなさまが買っています」という安易な説明に陥りやすいのです。

よくインデックスは「ほったらかしにできるのがいい」なんて言われますが、ほったらかしにしていいのは、むしろ売り手のほう。買い手は何に投資しているのかよくわからないまま、ほったらかしにしておくのは考えものです。

もちろん日々、「今日の動きはどうだろう」と常に気を配るのは現実的ではありません。でも、自分が買っているインデックスファンドに含まれる会社のことに関心を持つのは当たり前ではないでしょうか。

データを見る人
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価値の対価を見失うインデックスのリスク

安いといえば、インデックスファンドは悪いものではありませんが、言ってみれば、お正月の福袋のようなもの。

「その中には何かいいものが入っているかもしれない」「安いから買おう」、そういった福袋の妙味を味わいたい人には向いているかもしれません。ですが、“何かいいもの”も中にはあるかもしれませんが、全く欲しくないものも入っていることでしょう。

もちろんインデックスファンドを積み立てることは、手段として賢いやり方です。しかし株式市場というのは、そもそも上場している企業の「価値創造」を反映したもの。つまり、その企業が良い価値を創れば、その良い影響が世の中に及び、株価が上がるというのが基本的な考え方です。

ですが、インデックスを見ているだけでは、なかなかその価値は見えません。見えるのは、目の前の価格、数字だけなのです。

通常、我々が買い物をするときに、たとえばこのジュースが美味しいよね、「100円なら買おう」となります。でも、ジュースの価格が5000円になれば、どんなに美味しくてもやめておこう、となる。これは常に自分の中に、「その価値の対価」があるからです。ジュースの価格が上昇しているから買おう、というものではありません。

それなのにインデックスファンドを買う人は、価格だけを見て価値を見ていません。価格が上がっているから買おう、という人が圧倒的に多い気がします。

お金の教育は幼少期から必要

そこで求められてくるのが、「お金の教育」です。

コイン
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岸田政権が「資産運用立国」という政策を立ち上げたとき、新NISAと両輪で新しい構想が立ち上がりました。J-FLEC(金融経済教育推進機構)です。

J-FLECとは、金融経済教育の機会を幅広く国民に提供していくことを目的に、金融広報中央委員会、全国銀行協会、日本証券業協会が発起人となって設立されたもの。もともとNISAは、イギリスのISAを見本にしたもので、イギリスにも長期資産のための教育機構のMAPSがあります。

お金の知識のない一般個人が、いきなり投資を始める前に留意すべきポイントがあります。株式市場がなぜ上がるか、なぜ下がるのか。それを理解したうえで行うのは当然であって、そのような知見を中立的に促す機関が2024年4月に正式に設置されたのです。

NISA口座開設は0歳からが理想

金融の世界には、金融経験者と未経験者との情報の格差があります。たとえば自らの健康のことであれば、病院の医師が言うことを、ハイハイとうのみにするのではなく、自らもネットなり本なりで調べながら進めるでしょう。

でも、なぜか金融のジャンルでは、著名人のお勧めや流行が是となってしまう。自ら調べて学ぶモチベーションのないまま、他の人がやっているからとか、儲かっているからというケースが非常に多い。

そうではなく、自分の知識と経験をベースにしながら、主体的に運用していくのが望ましいわけです。

経済や投資こそ、教育が重要です。岸田政権の「新しい資本主義実現会議」の民間構成委員として、つみたてNISAの恒久化を私は訴えてきましたが、同時に、幼少期からのつみたてNISAを通じて生涯の資産形成を促すべきだということも提案していました。これについては、証券業協会などが一緒に推してくれなかったので実現できませんでしたが、新政権で一個人として要求し続けます。成人やシニア世代ばかりでなく、これから資産形成をしなければいけないのは未成年世代です。だからこそ、重要なのです。

当然ながら、積立投資資産形成というのは、0歳からが理想です。この世に生まれたときから、親御さんたちのサポートによって生きていく時間と共に丁寧に積み立てていく。

つみたてNISA口座を0歳から解禁という提言は、これからも続けたいと思っています。