2010年に真っ先に1000万円のテスラを買ったお金持ち
私は、富裕層税務コンサルタント・税理士として、富裕層の領収書1000万枚を見てきました。アーサーアンダーセンなど世界4大会計事務所を経て、2003年に現在の会計事務所を創業しました。日本有数の富裕層の領収書や申告書を約30年分析し、共通するお金の使い方と価値観を発見しました。
ただ、富裕層にも「幸せなお金持ち」と「幸せでないお金持ち」がいます。お金持ちの中にも資金繰りや新しい投資で、常にお金に困っている人もいるのです。幸せなお金持ちと幸せでないお金持ちの違いは、「見えない価値」を大切にしているかどうかです。
そのことを、富裕層に人気のあるテスラを例に説明しましょう。
なぜお金持ちはテスラを買うのでしょうか?
テスラ(現Tesla Japan合同会社・Tesla, Inc.)の日本進出は、2010年に始まりました。国内で唯一、東京・青山にショールーム*を設け、電気自動車を展示して試乗を開始したのです。最近では電気自動車も徐々に浸透していますが、2010年といえば、電気自動車はまだまだ身近な存在ではありませんでした。そんな時期に、真っ先に購入したお金持ちを数名知っています。
その一人、Aさんは、私が顧問を務めるお金持ちの一人ですが、当時、こんなやりとりをしたことを記憶しています。
*現在、青山のテスラは閉鎖し、日本の主要都市や地域にいくつかの店舗とギャラリーを持っています。
購入の決め手は最先端の技術とエコロジー
【Aさん】森田さん、最近テスラを購入したんですよ。
【私】青山にショールームがありましたよね。そこで売っているんですか?
【Aさん】はい、青山のショールームで購入しました。実際に試乗もしてみて、すぐに気に入ってしまいました。テクノロジーが本当に先進的で、運転するのが楽しいです。
【私】それは素晴らしいですね! テスラはやはり他の車とは違いますか?
【Aさん】全く違いますね。まず、電気自動車なのでエンジン音がほとんどしなくて、最初はとても静かで驚きました。
【私】それは良いですね。やはり、最先端の技術を感じられるのがテスラの魅力なんでしょうか?
【Aさん】そうですね、それもありますし、エコロジーな点も購入を決めた理由の一つです。ガソリン車を使わないことで、少しでも環境に良い影響を与えられればと思っています。
Aさんは、フェラーリを所有していましたが、スポーツカータイプの「テスラ・ロードスター」を新たに購入しました。日本での販売は12台のみで価格は1000万円を超えていたと記憶しています。その1台をAさんは、迷いもなく手に入れたのです。私はその後、Aさん以外にも数名の購入者と出会いました。
テスラを購入したお金持ちに共通する3つの理由
Aさんをはじめとしてお金持ちの人たちは、なぜ、テスラを購入したのでしょうか。私はその理由を3つの視点から分析してみました。
1.投資
2.市場調査
3.節税
です。
まずは投資の側面です。テスラを実際に体験することで、EV(電気自動車)の性能や価値がわかります。ガソリン車では、エンジンの回転数とギアチェンジが加速に影響を与えますが、EVにはそれがありません。加速が途切れることなく、滑らかな加速感が得られます。
また、電動モーターはガソリンエンジンよりもはるかに静かに動作するため、加速時にエンジン音がほとんどなく、加速感が一層際立ちます。この静けさとともに訪れる強力な加速は、多くのドライバーにとって新鮮で刺激的な体験です。
優れたビジネスモデルに直接触れる
近年、中国の電気自動車メーカーBYDがテスラを猛追していますが、テスラが引き続き市場をリードしていることは変わりません。カウンターポイント・リサーチの「Global Passenger Electric Vehicle Model Sales Tracker: Q1 2024」によると、2024年の第1四半期において、電気自動車市場のシェアは、テスラが1位(19%)でBYDは2位(15%)。2023年の世界販売台数を見ても、テスラが約181万台であるのに対しBYDは約157万台です。
BYDはコスト面やバッテリーの安全性で競争力を持っていますが、テスラは完全自動運転技術や高いエネルギー効率で1回の充電で長距離を走行できること、「オーバー・ザ・エア(OTA)アップデート」で、車両のソフトウエアや機能を遠隔で更新することが可能です。
これにより新しい機能や改善が迅速に提供され、車両の性能が継続的に向上します。現在のテスラは単なる車というより、まるでコンピュータのようです。
新しい技術やトレンドに敏感なお金持ちは、テスラを購入することで最先端の技術を体験しています。また、テスラの優れたビジネスモデルに触れることで、自身のビジネスにも生かすことが可能です。
テスラはハードウエアではなくソフトウエアを提供する
テスラはディーラーを通さずに車を直接販売するビジネスモデルを採用しています。これにより、販売プロセスの透明性が向上し、消費者にとってより魅力的な価格設定が可能となっています。従来の自動車業界とは異なるこのビジネスモデルは、他の産業にも応用可能な手法です。
また、テスラは車両を単なるハードウエアとして提供する企業ではなく、ソフトウエアを通じて継続的に価値を提供するプラットフォームと言えます。前述のOTAアップデートは、その象徴です。このアプローチは、テクノロジー企業におけるSaaS(Software as a Service)モデルと似ています。
また、テスラのブランドは、持続可能なエネルギーの推進者として認識されています。お金持ちは、環境への配慮と持続可能性をビジネスの中核に据えることで、顧客ロイヤルティと長期的なブランド価値を築くことができる点を学んでいます。これにより、他のビジネスや投資戦略にも同様の価値観を取り入れることが可能となります。
お金持ちは次世代への責任意識が高い
さらにテスラは世界中で急速に市場を拡大しましたが、とくに中国やヨーロッパでの成功が顕著でした。お金持ちは、テスラがどのようにして異なる市場に適応し、競合他社と戦っているのか、その戦略から学ぶことができます。例えば、現地生産の迅速な立ち上げや、現地市場向けの製品調整などは、他のグローバル企業にとっても有益な学びとなります。
こうした要素を総合すると、テスラを購入することは、単なる高級車の所有に留まらず、現代のビジネスの成功要因や未来のトレンドを学び取ることができる機会と捉えられているのです。
また、お金持ちは持続可能なライフスタイルを追求する傾向があります。その理由は、お金持ちは、次世代に対する責任感が強く、子どもや孫たちに持続可能で良い環境を残したいという思いがあるからです。お金持ちのご自宅に伺うと、長く家具を愛用している方が多くいます。テスラのEVは環境に優しい選択肢として注目しているのです。
最新技術を自ら体験し消費者心理を理解する
2つめは市場調査です。
テスラは自動運転技術やエネルギー管理システムなどの分野で先駆的な開発を行っています。例えば、家庭用蓄電池の「Powerwall」は、太陽光発電システムで発電した余剰電力を蓄え、停電時にも電力を利用できる環境を整えています。
お金持ちがテスラを選ぶ理由の一つは、これらの技術革新を早期に体験し、市場の将来性を感じ取るためです。
企業経営者として消費者心理を理解するためでもあるのではないでしょうか。とくに最近の消費トレンドである「持続可能性」に合致したテスラの戦略は、これからのビジネスの参考になります。テスラは単なる車ではなく、テクノロジーとライフスタイルの象徴として位置づけられているのです。
節税を意識すればテスラが3割引で買える
3つ目は節税です。お金持ちにとって、テスラは目に見えない「経験」「投資価値」「社会的責任」「ブランド」という価値を高めることができるお得な買い物ですが、さらに自社の経費になり節税になるのであれば理にかなっています。
30万円*を超える資産は、購入時に全額を一度に経費として計上するのではなく、その資産が使用される期間にわたって段階的に費用を計上します。使用される期間(耐用年数)は、普通乗用車の新車の場合、6年と決められています。6年をかけて徐々に経費に計上していくのです。これを減価償却といいます。
減価償却には定率法と定額法がありますが、法人の場合は原則として定率法で計算します。たとえば1000万円で購入した車は、初年度333万円(定率法償却率0.333)を経費に計上することができるのです。
*企業の規模や選択した会計基準、取得時期により異なる。
企業の法定実効税率(実質的な税負担率)を約30%とすると、テスラを購入することで30%分の税負担が軽減されるので、実質的に700万円で購入したことになります。個人事業の方の場合は、最高税率は55%(所得税+住民税)ですから、その場合には、実質450万円で購入できたことになります。
お金持ちは1枚の領収書を大事にする
いかがでしたでしょうか。
人口減少、上がらない賃金、停滞する経済……東南アジアの新興国が次々と物価が上昇し発展していく半面、円安は加速し、日本は後れをとるばかりです。日本で賃金だけを頼りにお金を増やすのはほぼ不可能と言えます。お金だけが人生ではないのですが、お金を抜きに豊かさは語れません。
そして、領収書1枚1枚の見方、扱い方を真剣に取り組むからこそ、お金持ちになっているのです。
Aさんが以前所有されていたフェラーリのような高価な車も、一般的には単なる贅沢品として捉えられがちですが、お金持ちがどのような視点でお金を使っているのか、その背後にある戦略を理解していただけたでしょうか?
幸せなお金持ちは「見えない価値」を重視
冒頭で幸せなお金持ちは「見えない価値」を重視していると書きました。見えない価値はさまざまですが、今回の事例でいえば、「経験」「投資価値」「社会的責任」「ブランド」「持続可能性」などです。
ほかにも幸せなお金持ちが大事にしている代表的な「見えない価値」に「信用」があります。レピュテーションリスクという言葉を聞いたことがある人も多いと思います。ネガティブな評価が広まった結果、信用やブランド価値が低下し損失を被るリスクのことです。SNSの普及によって、悪評が広がらないためのリスク管理が重要になっています。
「信用」はコツコツと積み上げていく必要がありますが、失うときは一瞬です。お金持ちは、それをよく知っています。一度、失われた信用を回復することの難しさもビジネスを通じて知っています。
そのため、信頼を維持するための支出は必要コストだと考えています。その一つが私たち専門家への報酬です。そして、専門家の法律根拠や税務調査での経験、判例による判断に価値を置いているのです。お金持ちは1枚のレシートにもこだわります。領収書の1枚1枚を判断し、経費になるものは記帳して申告します。小さなことを大切にしているからこそお金持ちになったともいえるのです。