不安定な相場が続いている。また暴落が起きてもあわてずに済む方法はないか。経済アナリストの森永康平さんは「僕は暴落した日から一貫して同じことを言い続けている。パリ五輪の最中は『オリンピックでも見てなさい』、それが終わった後は『甲子園でも見てなさい』と。相場に振り回されないことが一番大事」という――。

株価より高校野球を見ていればいい

日経平均株価の歴史的な乱高下は、新NISAで投資を始めた初心者の方々にとって大きな衝撃だったようです。その時期、僕もさまざまなメディアに意見を求められたのですが、初心者に向けたアドバイスとしては、暴落した日から一貫して同じことを言い続けていました。

経済アナリストの森永康平さん。8月5日の株価暴落以来、一貫して「オリンピックでも見てなさい」と言い続けてきた
撮影=プレジデントオンライン編集部
経済アナリストの森永康平さん。8月5日の株価暴落以来、一貫して「オリンピックでも見てなさい」と言い続けてきた

パリ五輪の最中は「オリンピックでも見てなさい」、それが終わった後は「甲子園でも見てなさい」です。長期つみたて投資をしている人にとっては、短期的な株価の上下はほとんど関係のないこと。相場なんて見ずに、オリンピックや高校野球を見ていればいいんですよと伝えたかったのです。

そもそも新NISAを活用してつみたて投資をするということは、株価の上下に振り回されずに少しずつお金を増やしていきましょうというものです。最初に額などを設定しさえすれば、後は株価が暴落しようが高騰しようが、すべきことは何もありません。

だから、特に興味がある人でない限り相場を見る必要もないのですが、今回の乱高下に驚いて狼狽売りしてしまったり、新NISAをやめてしまったりした人も少なくありませんでした。

相場を見ないのはサボリではない

日本人は元来まじめなせいか、つみたてでも「投資をする以上は相場を見なきゃいけない」と思い込んでいる人もいるようです。相場を見ないなんてサボっている、怠けていると感じてしまうようです。でも、そんなことはまったくありません。

相場とどう向き合うべきかは、投資スタイルによって大きく変わってきます。乗り物で例えるなら、長期つみたて投資は電車に乗っているようなもの。電車では、乗客が一生懸命前を見ていても運行の役には立ちませんよね。周囲を見て安全に運行するのは運転士の仕事であって、乗客にできることはほとんどありません。同じように、相場を見続けていてもできることは何もないのです。

これと真逆なのが、証券会社からお金や株式を借りて売買する「信用取引」です。こちらは車を自分で運転して高速道路を走っているようなもの。値動きに対してすばやい対応が必要で、株価が暴落すれば最悪のケースでは借金を背負うことになる。よそ見していたら死にますよという投資スタイルなので、相場を見ないなんて論外です。

「休むも相場」

長期つみたて投資なのに相場が気になってしょうがないという人には、「休むも相場」という格言を覚えておいてもらえたらと思います。投資は売る・買うだけでなく意図的に休むことも大事だという意味で、この世界では昔からよく言われています。

日々の相場を気にしていると、ちょっとした値動きにも理由をつけたくなってきます。そこで間違った理由を考えついてしまうと、おかしな行動に出てしまうことも。プロの投資家でもそうなるので、初心者ならなおさらです。

毎日相場を見続けていれば投資がうまくなるように思うかもしれませんが、それは違います。自分が見ていようがいまいが、相場は日々勝手に動いていきます。コントロールできないことに対して一喜一憂しているなと気づいたら、ぜひ「休むも相場」を思い出してください。

投資で勝つには「退場しないこと」が大事

他にも、僕が初心者の方に知っておいてほしいと思う言葉を4つ紹介します。

まずは「相場は明日もある」。以前、資産運用の会社にいたときに上司や先輩からよく言われた言葉です。買いどきや売りどきを1回逃したとしても相場は明日もあさってもある、だからチャンスは必ずまた来るという意味です。

これは、1度のミスで怖くなってやめてしまったりリスクの取り方を誤って一撃で退場を余儀なくされるようだと、次のチャンスを逃すことになりますよという意味でもあります。今回の暴落で投資断ちするのもアリだとは思いますが、今成功している人も負けは何度も経験してきています。それでも現在があるのは、負けても退場しなかったから。僕は、投資で勝つにはこの「退場しない」がとても大事だと思います。

【図表】株価急落に見舞われたときに効く「投資の格言&名言」
※森永康平氏の話を基に編集部作成

「もうはまだなり まだはもうなり」も、よく言われている格言です。株価は、もう下げ止まるだろうと思ったらまだ下がったり、まだ上がるだろうと思ったらもう天井だったりと、投資家の思惑とは逆の方向へ動くものだということです。

どこが下げ止まりでどこが天井かなんて、どんなにすごい投資家でも予測できません。だからこそ初心者にとっては、予測のいらない長期つみたて投資が最適解になるわけです。

ですから、つみたて投資を始めたい、あるいは再挑戦したいと思っているのなら、来るかどうかわからないタイミングを待つのではなく、すぐにでも始めたほうがいいでしょう。とくに今回の暴落で売却してしまった人は、次の底値を待ちたいと考えるかもしれません。その気持ちもわかりますが、つみたて投資は期間が長くなるほど複利の効果がでます。始めた後に底値が来ても、「関係ないよね」と割り切る姿勢が必要です。

人の商い、うらやむべからず

3つ目の格言は「頭と尻尾はくれてやれ」です。投資初心者にありがちなのが、大底で買おう、天井で売ろうと思って下落局面や上昇局面で動かず、結局株価が元に戻って利益がなくなってしまった……というパターン。頭と尻尾、つまり最高値や最低値は狙わずに、ある程度利益が出そうなところで売買するのが得策だと心得ておいてほしいと思います。

「人の商い、うらやむべからず」も有名な格言です。SNSをやっていると投資で大儲けした人の話を目にすると思いますが、悔しいとか自分もそうなりたいとか、そんな感情的な動機で行動すると必ずと言っていいほど失敗します。人のではなく自分の投資にフォーカスして、それ以外の情報はノイズだと思ってください。

儲けた人の話を見聞きしたときに冷静でいられないなら、SNSなんて見ないほうがいいでしょう。僕も経験していますが、冷静ではないときにした判断は後から振り返るとろくでもないことがほとんどです。これは投資だけでなく、ビジネスや人生においても同じだと思います。

複数のチャートの上に、木製ブロックには「NISA」の文字
写真=iStock.com/CreativeJP
※写真はイメージです

「人は人、自分は自分」を貫いて

では、どうすれば「人の商い」に振り回されずに済むのか。自分は成功しているのか、幸せなのかといったことを判断しようとすると、通常は何かと比較して結論を出すことになります。そのときに他人と自分を比べる人も多いと思いますが、僕は基本的に「過去の自分と今の自分」を比べるようにしています。

例えば投資ですごく儲かったとしても、それが自分の予測や考えとは違う形で出た儲けだったら、僕はあまりハッピーじゃない。「ただラッキーだっただけじゃん」と思ってしまいます。

逆に、自分のシナリオ通りにことが進んだときは少額でも儲けが出たらすごくうれしいですし、損失が出ても仕方ないと納得します。僕の場合は、人が儲けたかどうかより自分が以前より成長したかどうかのほうが大事。正直、他人はどうでもいいというか、あまり興味がないんです(笑)。

もちろん、儲かったという話を聞けば「よかったね」とは思いますが、それに対してうらやましいとか、俺もやってやるぞといったことはまったく思いません。人は人、自分は自分。これは投資に限らず、人生全般において強く意識しています。

投資で成功しても幸せになれない人、お金がなくても幸せな人

他人の儲け話もSNSのいいねやフォロワー数もそうですが、自分でコントロールできないことにやきもきしても意味がない。その意味では、評価軸が自分の外にある人は幸せになれないんじゃないかなと思います。僕の周りでも、そうした人は投資で成功したり、事業で成功してお金持ちになっていても幸せそうではありません。でも、自分の中に評価軸を持っている人はお金がなくても幸せそうにしています。

評価軸が自分の外にあるか中にあるかは投資行動にも表れます。新NISAを活用したつみたて投資で言えば、自分の中の軸に照らして自分で「始めよう」と決めた人は、今回の暴落を静観できたのではないでしょうか。

一方、狼狽売りしたりやめてしまったりしたのは、他人の言葉に感化されて見よう見まねで始めた人でしょう。行動の動機が外にあるがゆえに、本来は自分と関係ないはずの情報に振り回されたわけです。そうした人は、もし再挑戦するなら次は自分の投資にフォーカスするようにしましょう。人のまねをして投資行動をしていたら、儲かっても損しても学びにつながりませんから。

無敗はない

最後に、格言ではありませんが「無敗はない」ということも覚えておいてください。株価は上下するものなので、20年、30年と続けていればまた乱高下する日も来ます。そのときに「無敗しか許さない」という完璧主義者のような考え方でいたら、精神的に追い込まれてしまいます。

今投資で成功している人も、失敗を繰り返して自分の投資スタイルをつくってきています。ですから、暴落しても「そりゃ下がることもあるよね」程度の気持ちでいてください。長期つみたて投資ならなおさら、そんな余裕をかませるような、ふてぶてしいぐらいの姿勢がちょうどいいと思います。