日常生活に潜む厄介な噂や嘘から自分を守るにはどうすればいいか。問題解決コンサルタントの岡佐紀子氏は「害がある噂話をやりすごすのは得策ではない。『どこで聞いたの?』『他に誰が言っていた?』と出所を確かめ、『それって本当?』と追究する姿勢も必要だ」という――。

※本稿は、岡佐紀子『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

噂話
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日常に潜む噂を検証する方法

噂にはさまざまなものがあります。「今日会議があるらしいよ」「課長が降格するらしいよ」、といったものも噂の1つですし、「あの芸能人、あのアナウンサーとつき合っているらしいよ」というのも噂です。私たちの日常生活において、噂はどこにでも存在しています。

噂を鵜呑みにしてしまうと、判断を誤ったり振り回されたりしてしまいます。見切り発車で不適切な行動に出てしまい、人に迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。

「明日の会議はなくなったらしい」という噂を鵜呑みにしてしまい、絶対に出席しなければならない会議を欠席してしまったとしたら、どうでしょうか。間違った情報を流した人の責任にしたいところですが、「噂を信じた方が悪い」と言われてしまうでしょう。

噂を信じず、正しく疑うことは、自分の身を守るためにも重要なことなのです。

では、噂を検証して正しく疑うためには、どうすればいいのでしょうか?

害があることは蓋をせずに追究する

職場でも噂話が横行することがあります。

例えば、「うちの業績が悪化していて、もう立て直せないレベルらしい」「ライバル会社のA社に身売りするらしい」という噂が流れたとします。そこにいたある社員が「そういえば、先日A社の人が社長に会いに来てたよ」と言い出したことで「やっぱり身売りの話は本当なのかも?」という雰囲気になり、あたかも身売りが事実かのように噂話が加速してしまう。こういったことはよくあります。

また、「取引先のBさんは、部下に対してすごく厳しい」という印象を持ったことが、「Bさんは部下に対してパワハラをしている」という話に発展してしまい、それが噂として広まるといったことも起こり得ることです。

噂話というのは真偽が曖昧で、確実に嘘とも言えないし、真実とも言えません。だからこそ収拾がつきにくいのです。

すべての噂話について真偽をはっきりさせる必要はありませんが、「業績が悪化している」「パワハラをしている」など、自分や自分の周囲にとって害がある噂話については、「いつか収まるだろう」と蓋をしてやりすごすのは得策ではありません。その場合は、発言者に対して「どこで聞いたの?」「他に誰が言っていた?」と出所を確かめ、「それって本当?」と追究する姿勢も必要です。

噂話に限ったことではありませんが、真偽が不明な話の多くは、具体性に欠けて曖昧であることも多いもの。よくあるのが、「みんなが言っていたから」という言葉です。

この言葉は、よく考えてみると非常に曖昧ですね。そもそも「みんな」が誰を指しているのかがはっきりしません。

ですが、「みんな言っていた」と言われてしまうと、「そうか、だったら正しいのかな?」とバイアスがかかったり、「だったら私も従わなければいけないのかな?」と同調圧力を感じたりしやすいのです。

私たちも、誰かを説得したいときや自分の要求を通したいときに、つい使ってしまいがちな「みんな言ってます」という言葉。気をつけたいですね。

嘘を見逃さないテクニック

明らかに嘘であることを自覚している人の話は、ボロが出やすいもの。

就職活動のとき、履歴書の内容を多少盛ったことがあるという人もいると思います。多少であれば突っ込まれても切り抜けられそうですが、例えば「3日で辞めたサークルだけど、4年間続けたことにした」とか、「ほとんど講義に出席してないけど、皆勤したことにした」というように、明らかに嘘とわかる盛り方をしてしまうと、突っ込まれたときに答えられず、ボロが出てしまいます。

このように、「それが偽である」ということを本人が認識した上で嘘をついているケースは、疑う思考を高めることによってその情報の真偽を確かめることができるようになります。

しかし問題は、その人自身が情報を真実だと信じ込んでいる場合です。本人に嘘をついているという自覚がないため、聞いている側の「この人は怪しい」というセンサーが働きにくいのです。根拠となるデータが正しいと信じ込んでいる人からプレゼンを受けるときには、疑う思考を最大限に駆使しなければなりません。

では、情報を鵜呑みにせず、疑う思考を役立てるためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか。

「私は大丈夫」が一番危ない

得た情報の真偽を確かめずに、「これは正しいに違いない」と鵜呑みにしてしまう人の特徴として、「私が騙されるはずがない」と過信してしまっていることがあります。

最初のうちは「騙されるかもしれない」と警戒して情報の真偽について慎重に判断しようとしていても、その状況に慣れてくると、徐々に「大丈夫だろう」という油断が生まれます。特に、本書に書いてあるような情報の扱い方や認知の偏りなどの知識を得ていると、かえって油断を増長させてしまうことがあるのです。

オレオレ詐欺などの詐欺被害も同じです。警視庁が2018年に行った調査によれば、オレオレ詐欺の被害に遭った人のうち、「自分は被害に遭わないと思っていた」と答えた方の割合は78.2%。オレオレ詐欺に騙されなかった人がそのように答えた割合は56.8%でした(警察庁「オレオレ詐欺被害者等調査の概要について」)。

バイアスを完全に避けることはできない

情報を鵜呑みにしないようにするあまり、バイアスをできるだけ排除しようと試みる人もいます。

確かにバイアスがかかっていればいるほど、騙される危険性は高まってしまいます。しかし、私たちは多かれ少なかれ主観的に物事を考える性質を持っていて、100%客観的思考ができる人は存在しません。つまり、多かれ少なかれ、誰しもバイアスがかかっているのです。

「自分はバイアスがかかっている」という認識を持って情報に触れれば、それだけで視点が増えることになります。

パソコンを見ながら眉をひそめる女性
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疑ってみる(※写真はイメージです)

違う角度からの情報を重点的に集めてみる

「自分だけは大丈夫ということはあり得ない」「バイアスを完全に避けることはできない」ということがわかっていると、「これは正しいのだろうか?」という視点が出きてきます。

ポイントは、自分の視点を知ること。そして、自分の視点とは違う角度から情報を集めてみることです。

例えば、「睡眠時間は8時間が最適だ」という意見があったとします。ショートスリーパーで平均睡眠時間が4時間の人からすれば、「8時間が最適だ」という意見には賛成できません。つまり、この意見には反対という立場に立っていることになります。

そこで今度は、「8時間」という意見に賛成の立場の意見を集めてみるのです。そうすると、その意見を肯定する根拠となる情報がたくさん集まってきます。ネットやSNSで情報を集めるときには、フィルターバブル(※第2回参照)によって、その情報を肯定するものがより多く集まる傾向があります。

岡佐紀子『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)
岡佐紀子『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)

そこで、自分の立場とは反対の意見を集めるときには、あえて自分の今の立ち位置や考えとは違う人をフォローしてみます。さらに、SNSを使い分けることで多様な意見を集めます。

こうした工夫をすることによって、多種多様な情報を集めることができるのです。

情報を集めて判断するとき、どれくらいの量の情報を集めれば十分検証ができるのでしょうか? 「このくらい情報があれば、現時点での最適解を導き出せる」という目安はあるのでしょうか?

これについては、残念ながら答えはありません。なぜなら、やはり時代によっても立場によっても、最適解は常に変化するからです。

そう考えると、「ここまで集めた情報で考えよう」という判断は、どの時点で行ってもいいとも言えます。「今の判断はこうだけど、3年後、もう一度見たときには判断が違うかもしれない」。このような視点を持つことの方が重要です。