エアコンの畳数目安はいったん疑ってみるべき
8月に入り、いよいよエアコンが24時間稼働する時期になりました。故障や買い替えなどで、新しいエアコンの購入を考えている人も多いのではないでしょうか。
そこで家電量販店に行ってみると、たいていの場合、設置する部屋の広さに合致するモデルを勧められます。「おもに8畳、12畳、18畳用」など。日本の家電メーカーのエアコンは、安い下位モデルで5種類ほど、ハイスペックな上位モデルでは11種類ほどのラインナップが用意されています。そして、エアコン売り場でいったん「20畳の部屋につけます」と言ってしまえば、20畳用しか売ってもらえないことが多い。
しかし、実際は、20畳の部屋でも14畳用のエアコンで十分という場合が多いのです。ましてや8畳の部屋なら、ほとんどの場合は6畳用で足ります。それなのに、エアコンの現在の小売価格を見ると、中位モデルの8畳用と6畳用では4万6000円ほどの価格差があるのです(図表1)。
6畳用と8畳用では5万円近い価格差、今までボラれてきた⁉
ただでさえ光熱費を節約したい折、初期費用を抑えられるなら、抑えておきたいですよね。さらに、購入のタイミングや畳数によっては、購入金額が2分の1ぐらいで済む場合もあります。
そもそも、「○畳用」という目安は、今から60年前、1964年にJIS規格で制定されたもの。その際に「この広さで冷暖房が効く」という基準になったのが、無断熱の木造平屋建てでした。あまりにも古い基準で、気密性の高いマンションに住む人が多くなり、木造の一戸建てでも、私たちが設計するエコハウスのように断熱性が高いものが増えている現在には、マッチしなくなっているのです。
簡単に言ってしまえば、畳数表示どおりに買ってしまうと、現在の住宅にはオーバースペック。それを知らないでいると、初期費用を必要以上に出すことになり、冷暖房の効率が下がり、ランニングコストも高くつきかねません。私がYouTubeチャンネルなどで「今まで消費者はボラれてきた?」と指摘してきたのは、そういうからくりが分かっていたからです。
家電量販店で購入するときは、部屋の広さを言ってはいけない
それでメーカーや家電量販店がもうかってきた面はあります。ただ、量販店の売り場に立つ店員さんに悪意があるわけではなく、販売マニュアルとして畳数表示どおりのモデルを紹介するようになっているのです。また、購入した後で「クーラーが効かない」というクレームが来るのも避けたいでしょう。
ですから、購入時のコツは「20畳の部屋につけます」と言うのではなく、あらかじめメーカーのカタログをチェックするなど、下調べをして購入するモデルを決めておき、「このモデルをください」と指定することです。
カタログのスペックを見るときは、畳数を目安としつつ、冷房と暖房の「定格値」ではなく「最大値」に注目しましょう。これが自動車なら1200cc、1500ccというような数値で測られるエンジンのスペック。上位機種と中・下位機種の価格差は、この最大能力の違いです。
11段階のモデルがあっても、暖房のスペックは3段階
冷房最大値と暖房最大値を見てください(図表2)。実は最大暖房能力別で見ると、色分けしたように3つのランクしかないのです。14畳用から29畳用は、広さとしては2倍あるのに、暖房の最大能力はほぼ同じ11.5~11.8kwです(図表3)。
つまり、6畳用と8畳用、10畳用と12畳用、14畳用から29畳用までの暖房能力はほぼ変わらない。それなのに、販売時には畳数に比例して価格差がつけられています。私が10年前から「エアコンは6畳用、10畳用、14畳用以外は買ってはいけない」と発信してきたのは、こういうワケです。
ただし、冷房を考えると、この法則が全ての住居に当てはまるわけではありません。エアコンの最大冷房能力は3段階というより、機種のランクに応じて徐々に上がっていくので、少しでも高い能力を必要とする場合もあるからです。
ただし冷房能力を高めにしておいた方がいい場合も
そもそも電力は「冷やす」より「温める」ときの方がかかるもの。暖房は電力だけでなく、ガスや灯油などを使う家庭も多いので分散されますが、光熱費全体では夏より冬の方が多くかかりますよね。10年ぐらい前までは、暖房対冷房で比較すると「10対1」と言われてきました。それが温暖化の影響などで冷房を使う比率が上がり、現在は「7対1」ぐらいになってきています。
冷房の重要性が増している。全体的にそういう傾向にありますし、個別のケースとしては、屋根に断熱処理をしていない古い一戸建て、マンションの最上階など、照りつける日差しの暑さをもろに受けてしまう住居は、エアコンも畳数どおりのものを購入し、冷房が確実に効くようにしておいたほうがよいでしょう。
特にマンションの最上階ほど、コスパが悪い部屋はありません。マンション販売時は、眺めが良く、ルーフバルコニーなどの広いスペースもあるからと、一番高い価格になっていますが、実は最上階ゆえに、その下の部屋のように屋根からの幅射熱を断絶できませんし、コンクリートは蓄熱効果が高い。夏場には屋根の表面温度が50度を超え、それを蓄熱した厚さ15cm以上の屋根のコンクリートは、なかなか温度が下がりません。夜になっても暑いまま……。
マンション最上階は光熱費がかかるのでコスパが悪すぎる
そんな最上階の暑さ対策をどうするかというと、なかなか難しい。直接日光が入る窓の遮熱をするしかありません。マンションの規定で許可されている範囲で窓の外に日よけ(すだれやタープ)をつけるだけでも、冷房の費用はかなり違ってきます。
戸建て住宅なら最上階の天井、もしくは屋根の断熱を強化すると、だいぶ違う。もちろん、プロに頼まないと難しいですが、屋根の下に発泡ウレタンの断熱材を入れるだけなら30万円ぐらいで可能です。それをやると、ほとんどの人が「なんでもっと早くやらなかったんだろう」と思うぐらい、室内の温度が変わります。
そんなふうに、エアコンの冷房に関しては、ケースバイケース。その住居が日射遮蔽できているか、天井に断熱材が入っているか、外壁は何色かということで大きく変わってくるので、どれぐらいのスペックが必要かは、一概には分かりにくいのです。
ひとつの参考として、エアコン購入前に電力中央研究所が公開しているエアコン選定支援ツール「ASST」で、自分の住む地域や住居の建築年数を入力し、調べてみるという方法もあります。
必要な冷房能力をギリギリ超えている機種でいい
「ASST」では、例えば、東京都の2011年以降に建てられた住居で窓は複層ガラス、最上階ではない8畳の部屋、暖房はほとんど使わない……と入力していくと、普及機なら冷房能力定格値5.6kwの機種を勧められます。
しかし、コストのかからない順番にすると、2.2kwがベストと出るので、それをギリギリ超えるスペックのものを購入すると良いと思います。つまり、この場合は8畳でも6畳用(定格値2.2kw)でいいということになります。
また、意外と知られていませんが、手軽にできる冷房費用の節約方法としては、風量を「自動」にせず、「強」にして固定するということがあります。
エアコンから出てくる風が風量を強に固定し、自分が「暑くない」と思える温度に設定する。例えば同じ27度設定にしても、風量を強くした方が、電気代は目に見えて下がります。
意外に知られていない「風量を強」で固定するという方法
エアコンはコンプレッサー(空気圧縮機)をどのくらいのパワーで動かすか、ファンをどれくらいの力で動かすかという2つのことを制御しているので、風量が「自動」になっていると、コンプレッサーだけではなく同時にファンも能力を上下させているわけです。
しかし、風量(ファン)を「強」で固定すると、コンプレッサーの能力は下げます。
冷房能力は「風量×温度差」で決まるので、風量で稼いでもいいし、温度差で稼いでもいい。そう考えると、風量を「強」にしても、ファンが回って風を送り出すときの消費電力は扇風機と同じで、せいぜい30W程度。
ところがコンプレッサーはそれなりに大きいものを回すと、最大で2000Wほど電力を消費します。だから、風で稼いだ方が省エネになるというわけです。
このようにエアコンを使いこなすには、メーカーのスペック表示や自動運転モードをうのみにしないこと。その仕組みを知って使い方を工夫すると、家計を節約することができます。