小学校の夏休みがスタートしたと同時に、中学受験生は塾での夏期講習が始まる。せっかくの40日間の学びを効率的なものにするために、親にできることとは。プロ家庭教師の西村則康さんいわく「前日に子供と約束した勉強内容ができていなくても、親は怒らないこと。怒ると子供はやったふりできたふりをするようになる。親の役割は勉強を教えることではなく他にある」という――。

本稿は、『プレジデントFamily2024夏号』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

勉強する子供
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なぜ、夏期講習が重要なのか?

そもそも、夏期講習の役割とは? なぜ行く必要があるのか。学年別に説明します。

【小学4・5年生】学ぶことが急増する一カ月!

一昔前までは、小4・小5の夏期講習は復習中心でした。ところが今は、日能研をのぞき、ほとんどの塾では新単元を夏期講習期間で習います。夏期講習に参加しないと、その後の授業についていけないカリキュラムとなっているわけです。

例えば小5であれば、夏期講習で「比」を使う計算問題や図形問題がはじまります。これは、入試問題にも必ず出てくる重要な単元です。この「比」を理解するには、これまでに習った「分数計算」や「割合の考え方」を理解しておくことが必要不可欠です。

また小4は、以前と比べてカリキュラムが半年ほど早くなっています。夏期講習までに「小数」「分数」は理解している前提で、夏には「異分母分数の足し算・引き算」、「分数同士のかけ割り算」まで習います。小4の夏で、受験に必要な計算単元をすべて終えるスケジュールとなっているのです。

小4、5共に、難易度の上がった新しい単元が入ってくる夏期講習は、頭が大混乱に陥りやすい期間ともいえるでしょう。
【小学6年生】アウトプットのシャワーで、一問一問に食らいつく練習を

半年後に受験を控える6年生にとって、夏期講習は「アウトプット」の練習期。夏期講習後は、これまで蓄積してきた知識を、実際にテストの得点につなげていく必要があります。その練習をするのが、ひたすらに演習問題を解く夏期講習の一カ月というわけです。これまでのように、授業で習ったことは復習で理解すればいいや……というのんびりとした姿勢はNG。出された問題の一問一問に「今、この場で絶対に正解する!」という姿勢で取り組みましょう。受験当日と同じ心意気で挑むことで、スムーズに、本番への第一歩を踏み出すことができるのです。

学年別! 後伸びにつながる「勉強スケジュール」の立て方

(ポイント1)親子でつくろう
(ポイント2)目標を決めよう!
(ポイント3)毎日30分の会話を!

ここからは夏期講習がスタートしてから、実際にどのようなスケジュールで一カ月自習をすればいいのか。後伸びにつながるスケジュールの立て方についてアドバイスします。

まず全学年共通の3つのポイントから。

親のメンタルを安定させる効果も

①親子でつくろう

ひとつめのポイントは、親子でつくること。スケジュールをつくるメリットのひとつは、親のメンタルが安定することです。塾で授業を受けてきていることはわかっていても、いざ夏休みに家で子供がゲームをしたり、だらだらしたりしているのを見ると、親としては焦ったり、腹が立ったりするもの。それで親がイライラすることは子供にとってプラスになりません。

「この時間は勉強」「この時間は自由時間」と事前にスケジュールで決めておくことで、子供が遊んでいても「今は自由時間だから」とおだやかな気持ちでいることができるでしょう。

ちなみに子供にとって、夏期講習期間に「遊びの時間」をしっかり組み込むことは重要です。長時間机に向かうばかりでは子供も疲れてしまいます。そして「やらされている」と感じるようになってしまいます。親も休息があってはじめて、月曜日から心機一転働くことができると思いますが、それと同じことです。子供が自分から勉強したくなるゆとりもつくってあげることが成長につながります。

②目標を決めよう!

2つ目のポイントは、夏期講習後に子供がどんな姿になっていたらいいのか? ゴールをイメージすること。おすすめは以下です。

【小4・5】全ての単元を完璧にこなそうとするよりも、今後の核となる得意単元を1〜2個つくる。
【小6】志望校の入試試験によく出る「単元」を得意にすること(例えば、図形がよく出る学校であれば、図形問題に多く触れる夏の勉強計画を立てる)

得意ができることで自信が生まれ、勉強への苦手意識が薄れ、ほかの単元や教科にもいい影響を与えます。

③毎日30分の会話を!

3つめは、毎日30分の会話をしてスケジュールを微調整すること。共働きで子供の勉強の様子など逐一見ることが難しくとも、1日30分話すことで、子供の理解度が見えてくるはずです。「今日は何を習ったの?」「先生は何を言っていた?」「その時どう感じた?」「先生が伝えたかったことってなんだろうね?」などと子供に質問してください。

会話の中で、理解不足を感じたら、「明日先生に質問しておいで」とアドバイスしたり、スケジュールにその単元を組み込んだりできます。

最初に完璧な計画表をつくりこむわけではなく、毎日の会話を通して、微調整したり、書き足したりしていって夏休みが終わった段階で完璧な計画表が完成するイメージです。あとで見ると「これだけ勉強してきたんだ」という自信にもつながるので、ぜひこまめに書き込んで“やったこと”、“やれたこと”を可視化しましょう。

それでは実際の「勉強スケジュール」表の例を学年別に紹介します。学年によって「ポイント」が異なるので、要チェックです。

【小学4年生】スケジュール例

●ポイント
・遊びの時間をしっかり確保!
・7月中に学校の宿題を全て終えるように決めて、書き込む
・講習の合間に塾の宿題をこなし、帰宅後はその日の授業の復習を
・8月の休みもスケジュールを立てる。少数や分数の計算練習を多めにとる。

【小学5年生】スケジュール例

●ポイント
・算数は「比の計算」を重点的に自習に組み込む
・帰宅後は遊ぶ前に、宿題と授業を振り返ろう
・休みの期間は、夏期講習で学んだ算数の解き直しを。夜は後回しにしがちな理科と社会の暗記を強化

【小学6年生】スケジュール例

●ポイント
・帰宅後は休憩時間とし、しっかり睡眠を確保。勉強は朝型に!
・講習前に大まかなスケジュールを確認し「得意にしたい単元」をピックアップ
・朝のうちに、前日の復習+宿題を
・最後の1週間は理科・社会・国語の語句の暗記に集中! 演習は「一発正解」を目指そう

さらに、学年共通で、スケジュールに組み込んでほしいものが2つあります。ひとつは、朝15~20分の計算と漢字です。計算は1日欠かすと正確性が落ちますし、語彙力は中学入試の読解に欠かせない要素です。朝の勉強を習慣化することは、生活リズムを安定させることにもつながります。

もうひとつは当日の振り返りや、翌日への意気込みを記入するスペースを設けること。日中は忙しくて子供に声掛けできない親御さんも、出勤前に、付箋などで子供にポジティブな言葉をかけコミュニケーションを深めましょう。毎日の一言は、親が思う以上に子供の力になるはずです。

夏期講習後に成績が伸びる子、落ちる子…決定的な違い

夏休み明けにグンと力を伸ばしたA君。彼は不思議なことに夏の間ずっと元気だったんですよね。実は、これがとても大切なことです。逆に成績の下がった子は、勉強を詰め込み過ぎてか、睡眠不足か、どんどん元気がなくなっていくように見えます。

A君はしっかり遊んでいました。そのため、その日の分の勉強がやりきれない日もありました。しかし、取り組んだ分に関しては1つずつ丁寧に理解して進めたようです。

さらに、毎朝学習の時間をちょっと増やし、暗記に当てていました。後回しにしがちな暗記分野ですが、ここを夏に強化できると大きいです。

彼の場合「今日は理科10分、明日は社会10分」と予定を決めて確実に覚えるようにしていました。勉強と遊び、しっかりとメリハリをつけることが、子供を疲れさせず伸ばすコツです。

共働きで忙しい…子供にできるサポートは?

夏期講習期間に保護者から多く受ける2つの質問について、回答します。

Q.親が気を付けるNG行動は?

A.小4、5のご両親に気をつけてもらいたいのが、同じ単元、同じ問題の復習時間をむやみに設けないことです。どうせ何回も復習できる……と子供が思うと集中力がなくなり、理解が浅くなります。多くて復習は期間をあけて2〜3回にとどめ、その分遊び時間を確保した方が結果につながります。

また、「覚えなさい」といった言い方は避けてください。子供は親や先生に怒られないようにやり方だけをそのまま覚えて、その場を乗り切ろうとします。この学習方法だと小6での応用問題に立ち向かえなくなります。「これ、どうやって解いたの? 教えて」と原理原則の理解を意識させるスタンスが良いでしょう。

小6の子を持つご両親は、決して否定的な言い方をしないように気をつけてください。マイナスな言葉は、そのまま子供の心に入り、「どうせできない……」というマインドをつくります。「勉強しないと合格できない」ではなく、「すればきっといい結果が待っているよ」とポジティブな言い換えを心がけてください。

Q.共働き夫婦ができることは?

A.一番大切なのは子供を信じ、子供の努力を認め、励まし続けることです。朝、勉強していたらその頑張る姿を褒めてやってください。そして夜は学習してきたことを聞き「そんな難しいことをやっているんだね。ちゃんと理解できてえらいね」と認めること。

また、前日に約束した勉強内容ができていなくても怒らないでください。怒ると子供はやったふりできたふりをするようになります。できなかったことは親子で相談して翌日以降のスケジュールに組み込みましょう。子供が約束を果たせたら、大いに評価してください。

このように平日はコミュニケーションをとりながら応援し、休みを一緒にスケジュールをつくる日にするなど工夫すれば、共働きでも十分に、子供をサポートできます。

親の役割は「勉強を教えること」ではない

最後に、私からお子様へ、そして保護者のみなさんにメッセージをお送りしたいと思います。これから始まる夏期講習、“子供が疲れていないか”に目を配りながら、有意義なものにしてください。

【小4、5の中学受験生へ】
塾であったことやその日勉強したことを、どんどんお父さんやお母さんに話しましょう。うまく説明できなくても大丈夫です。難しかったことも、話して、相談することで自分の頭が整理されますよ。
【小4、5の親御さんへ】
「子供が勉強嫌いになっていないこと」が大切です。そのためにも勉強計画にはメリハリをつけ、毎日会話する習慣をつくってください。また点数ばかりが気になってしまうかもしれませんが、学習プロセスに目を向ける夏にしましょう。子供のいい点や、彼らなりに頑張っている部分を見つけてください。子供の話を聞いたり、塾でやってきたプリントを見たりすることで、きっと褒めポイントが見えてくるはずです。
【小6の中学受験生へ】
「とりあえず解いてみる」勉強法から、「確実に正解する!」姿勢に意識を変えていきましょう。目の前に出された問題に、受験当日だと思って取り組んでください。はじめて見る問題もあるでしょうが、絶対に解いて見せると強い気持ちを持つことが大切です。
【小6の親御さんへ】
親も気持ちを切り替えて、誰よりも心強いわが子の応援団長として最後まで走り抜ける覚悟を決める夏休みにしてください。もし子供の成績が思うように伸びなくても「今からの頑張り次第でなんとかなるはず」と、まずは自分が子供を信じた上で「まだ間に合うよ!」と本番当日まで伝え続けてください。

すべてのご家庭が幸せな中学受験を経験できるように、心から応援しています。