年収は十分あるのに、払うのは家賃と水道光熱費だけで、食費や子どもにかかる費用はまったく払わない夫……。離婚・男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「最近、『夫が、お金がないわけではないのに子どもの費用、特に教育関係のお金を一切出してくれない』という妻からの相談が増えている。こうした夫は、住む家の費用を払うが、それ以外の食費や日用品は妻が何とかするものだと考えていることが多い」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。
家計簿
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

「子どものお金を払ってくれないので離婚したい」

私の法律事務所に、会社員のA子さん(40歳)が相談にいらっしゃいました。

A子さんには、12年前に知人の紹介で結婚した会社員の夫と、小学4年生の長男、2歳になる長女がいます。フルタイムで働いていた時は年収350万円でしたが、現在は時短勤務中で年収200万円です。

A子さんの相談内容は、「夫が子どものお金を全く払ってくれないので離婚したい」というものでした。

聞くと、夫は家賃9万円と水道光熱費約3万円、自分のスマホ代を払うだけで、それ以外の家族全員の食費、日用品、長男の習い事の費用などは全てA子さんが負担しているそうです。

もちろん時短勤務になった今の収入ではとても足りず、最初は自分の独身時代の貯金から払っていたのですが、それも底をついたため、今は実家の両親に援助してもらっているということでした。

しかし、夫は収入が少ないというわけではありません。A子さんが持参した資料を見ると、年収は1000万円あります。

なぜこうなってしまったのでしょうか。

家賃と水道光熱費以外はすべて妻が負担

A子さんは、「結婚当初、家賃と水道光熱費は夫が、それ以外の食費や日用品は私が出すことになったんです。でも、子どもが生まれても、家賃と水道光熱費『以外は』私が払うというルールは絶対に変えてもらえなかったんです」とおっしゃいました。

その結果、長男が小学校に上がった後も、「給食費だけでも払ってほしい」と言っても無視。長男が夫に「上靴を新しくしてほしい」と言っても、「君が買うんでしょ」とA子さんに頼んでくるようになっているそうです。

習い事や学童の費用も「必要ない」と言って払ってくれないため、A子さんの両親が夫に頼んだところ、「必要ないと言っているでしょう。そんなに言うならあなたたちが払ってくださいよ」と言われ、結局A子さんの両親が払うようになったということでした。

私がここまで話を聞いて気になったのは、夫が家賃と水道光熱費以外にお金を使わず、一体何にお金を使っているのかということでした。

A子さんに聞いてみると、「夫は浪費をしているわけでもなく、飲み歩いたりもしません。ただ、スマホゲームにかなり課金をしているようです」という答えが返ってきました。

「受験も塾も必要ない。俺は絶対に出さない」

A子さんが離婚を強く考えるようになったのは、長男の進路がきっかけでした。

長男が中学受験をしたい、塾に通いたいというので、A子さんから夫に、塾代を出してもらえないかと聞くと、「受験も塾も必要ない。俺は絶対に出さない」と言われたそうです。

さらに長男の目の前で、近隣の塾に電話をかけ始めて、「うちの子どもが申し込んでも絶対に通わせないでください」と言ったのです。A子さんが「そんなひどいことしないで」と言うと、夫は「二度とこんなことを言わないように、お仕置きで電話をかけたふりをしただけだ」と笑いながら言いましたが、塾に通うことを強く反対されて、長男はショックを受けました。

この分だと中学の学費ももちろん出してもらえない、高校や大学の学費も、長女の学費も……と考えると、夫と結婚生活を続けられる気がしなくなってしまったということでした。

「子どものお金は無駄遣い」

私はA子さんから、離婚に向けた手続きの依頼を受けることになり、その後A子さんと子どもたちは実家に帰って別居生活を始めました。

私から夫に、離婚したいこと、離婚までの間の婚姻費用(生活費)を払ってほしいと連絡をすると、夫はどちらも拒否しました。

交渉の余地がなさそうなので、離婚調停と婚姻費用分担調停を申し立てると、夫は弁護士を立てず、一人で調停にやってきました。

夫は婚姻費用を払っていないので、まずは婚姻費用の額を決めることになります。婚姻費用は夫婦の収入と子どもの人数で決まり、A子さん夫妻の場合、夫が約21万円を支払うことになります。

……ということを告げられると、夫は激しく抵抗しました。「家賃と水道光熱費以外は払わないというルールでやってきたのに、出て行った妻子の生活費を払うのはおかしい」というのです。そして、これまでに払った家賃や水道光熱費を表にして提出してきたのですが、「そういう話ではありませんよ」と調停委員に説得されて、夫はしぶしぶ21万円を払うようになりました。

次は離婚についての話し合いに移り、こちらが「夫は子どもたちに関する費用を全く払ってくれなかった」と主張すると、夫は再度、家賃と水道光熱費の表を提出して、「自分はこんなに払ってきた」「子どものお金は無駄遣いだ」「妻の言い分は身勝手でおかしいから家に帰ってくるべき」と言いました。

しかし夫は、子どもたちの費用を払っていないことを認めていますし、表を見ると、収入に比べて明らかに出費が少ないことがわかります。

なにより、「子どもたちのお金を今後も一切払わないという姿勢のままでは、奥さんが帰ってくるのは難しいですよ」と調停委員に言われると、夫は離婚に応じると言い出しました。

離婚届
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

夫との離婚が成立

離婚する場合、養育費の他に、将来の子どもの学費を夫婦の収入に応じて負担することになります。夫はこの点にも激しく抵抗しましたが、結局は受け入れることになりました。

夫は生活費を出してこなかっただけあって、しっかり貯金をしていたので、結婚中に増えた貯金を財産分与で分けてもらうことができました。

こうしてA子さんと夫の離婚が成立しました。

増えている「教育費を払わない夫」

A子さんのような相談は近年増えています。

共通点は、お金がないわけではないのに夫が子どもの費用を一切出してくれない、特に教育関係のお金を出さないという点です。

夫たちの本心を聞く機会がないので、その裏にどういう心理があるかは私にもわかりません。

夫婦の収入に応じて負担するというわけではなく、夫が全く払わないので、妻や妻の両親が負担するようになるという特徴があります。

また、夫自身がきちんと塾に通って大学を出ているケースも少なくないので、単に「教育の必要性がわからないから払いたくない」というわけではないようです。

理由として考えられるのは、結婚して家族を作ることと家族を養うこと、そして子どもの人生のためにお金をかけるということが、結びついていないのかもしれません。

自分が払うお金と妻が払うお金に、独自の線引きをしていることも特徴で、「自分は男だから家賃やローンや水道光熱費を払う。それ以外の金は女が出すものだ」と言っている夫もいました。自分は住む家の費用を払い、それ以外の食費や日用品は妻が何とかするものだ、というのです。

子どもがいない時であればまだしも、子どもが生まれて成長してもこのルールを続けると、妻の出費の方が多くなっていきます。それでも頑なにルールを変えず、子どもにお金を出さない、塾や学費という大きな金額でも絶対に出さないという夫が一定数いるのです。

共働きの夫婦だけでなく、妻が専業主婦になった家庭でも、「塾は必要ないから払わない。塾に通わせたいなら自分で払え」と言われて、妻がパートを始めたというケースもありました。

子どもは「君が全部やるならいいよ」

A子さんに、そもそも出産の時はどうだったのかと聞くと、夫は子どもを持つことに反対はしないものの乗り気ではなかったそうです。「君が全部やるならいいよ」と言われて子どもを作り、出産が近づいて収入が減り、A子さんの負担が大きくなっても、夫は出産費用も全く出してくれなかったということでした。

夫の言う「全部やるなら」は金銭面を含めた全ての負担という意味だったのです。

そして、ベビー服、おむつ代、ミルク代も妻が出すものという線引きが続いた結果、成長した子どもの食費、果ては学童や塾の費用も妻の負担になってしまったのです。もちろん子育てにも全く協力してくれず、2人目が生まれれば何か変わるかもと思ったものの、何も負担してくれないのはやはり同じだったそうです。

他人のためにお金がつかえる人か

「なんて他人行儀な考え方だろう」と思った方もいるかもしれません。彼らの心理の根底にあるのは、まさにその「他人のように思っている」という点なのかもしれません。

交際経験や友人関係の乏しさから、結婚前も、他人のためにお金を使ったことがなく、「自分の稼いだお金は自分のもの」という認識が強いのだと思います。

その一方で、妻に食費や日用品代を出してもらうことには抵抗がないので、妻の稼いだお金は家のものだと思っている面が見られます。

人間関係が希薄なのも特徴で、家族になっても妻は他人、妻が生んだ子どもも他人と思っているのかもしれません。

その結果、子どもの成長に自分のお金を使うという認識がなく、塾代も学費も何も払いたくない……という気持ちになってしまうのではないでしょうか。

こういったタイプの人は、他人のためにお金を使うことができないという点では一貫しているので、結婚前からデート代も細かく割り勘にしています。

事前に見抜くことはある程度は可能だと思いますので、自分以外のために出費を全くしないタイプだと気が付いたら、結婚を考え直すことをおすすめします。