オーガニック食品やエコ雑貨の輸入や小売りを展開する「斗々屋」(京都市)は、2021年に全国初の「ゼロ・ウェイスト(ゴミの出ない)スーパーマーケット」をオープンした。遠方から来るファンがいる一方、「丁寧な暮らし系」「意識高い系」と敬遠されがちで、「ズボラな人にこそおすすめなのに……」ともどかしい思いがあったという。ライターの山本奈朱香さんがリポートする――。
斗々屋京都本店
撮影=山本奈朱香
斗々屋京都本店

「イチゴ2粒、大根5センチ」でも買えるスーパー

斗々屋京都本店があるのは、京都市内を流れる鴨川からも京都御苑からも徒歩5分ほどのエリア。大通りに面した店は、スーパーというよりもカフェのようです。商品が木の棚に並べられ、間接照明の優しい明かりが店内を照らしているためでしょうか。奥にはイートインスペースもあります。

野菜も果物も包装されたものはなく、20グラムから購入可。大根やキャベツなどは好きな大きさにカットしてもらえるので、「イチゴ2粒と卵1個、大根5センチくらい」のように、好きな分量だけ買うことができます。

壁際にずらりと並ぶナッツや豆類だけでなく、しょうゆや料理酒、ソースや洗剤も必要な量だけ量って買えます。お客さんは容器を持参するか、デポジット代を払って容器をレンタルし、そこに入れて持ち帰る仕組み。また、レジ横には新聞紙が置いてあり、自由に使えるようになっています。

店頭に並ぶ野菜
撮影=山本奈朱香
店頭に並ぶ野菜。好きなサイズにカットして買うことができる

過剰包装に違和感、量り売りの店をオープン

社長の梅田温子さんはプロの料理人。19歳でフランスに渡って飲食店で働いたのち、オーガニックワインと食材を輸入する会社を立ち上げました。

ただ、日本で「フランスフェア」のようなイベントをすると過剰包装を求められることが多く、違和感を覚えたそうです。「企業からは『小分けでギフトっぽくして』と言われ、生産者さんからは『なんでこんなことするの?』と言われる。私も『なんか違うよな』という思いがたまっていって……」

そこで、フランスで広まりつつあった「量り売りの店」の開店を思い立ちます。容器をなくして量り売りにして、売れ残った食材は調理することで食品ロスもなくすという計画です。複数の企業に提案したものの断られたため、試しに自分で2019年に東京・代々木に量り売りの店「nue by Totoya」をオープンしました。

当初は日本人客は少なく、量り売りに慣れた外国人客が8割ほどを占めていたそうです。その後、国分寺に移転(2023年11月に閉店)。ビジネスとして成立することがわかったため、京都に本格的なスーパーを出しました。

「ご近所さん」の日常使いが少ないことが課題に

仕入れる際は、包装しないで出荷してもらうことへの理解が欠かせません。

一般的なスーパーでは、たとえばほうれん草は包装フィルムに包まれ、きのこ類はプラスチックのトレイに置かれた上で、トレイごと包装フィルムでくるまれています。

全国の46団体がスーパーマーケット136店の店頭で実施した「全国スーパーマーケット環境調査」(取りまとめ=NPO法人環境市民の堀孝弘さん)によると、包装なしで売られている野菜の「はだか売り率」は約2割(棚面積比20.1%、商品点数比17.0%)でした。フランスでは63%がはだか売りだとするデータがあり、それと比べると日本では多くの野菜が包装されていることがわかります。

斗々屋の取引先は、有機農家やオーガニック食品を扱う企業ばかりということもあってか、「包装を減らしたいと思っていた」と理解してくれる生産者が少なくありませんでした。しかし、ほうれん草などは乾燥に弱く、当初は店頭に並べているうちにしおれてしまうこともあったそうです。そこを、陳列方法を工夫するなどして解決していきました。

納豆についても、業者と試行錯誤を重ね、一般的なプラスチックや発泡スチロールなどの小分け容器ではなく、ステンレス容器に入れて作ってもらうことに。ステンレス容器のデポジット代を払ってそのまま購入することも、量り取って少量だけ買うことも可能です。

こうした取り組みがメディアでも紹介され、「ゴミを出さない」「食品ロスを出さない」という方針に共鳴するファンができました。京都旅行にあわせて「来てみたかった」と遠方から来店してくれる人が出てきた一方、日常的に利用してくれる近所の人の来店が少ないのが課題でした。

イワシやサワラ、牡蠣などの魚介類も量り売り
撮影=山本奈朱香
イワシやサワラ、牡蠣などの魚介類も量り売り

ゴミの出ない暮らしは「めっちゃ楽ちん」

そこで2024年1月、同社はインスタグラムにこんな投稿をしました。

#丁寧な暮らし系の人が行く店、めんどくさそう、なんかハードル高い、値段高そう、、と思っていらっしゃる方の割合の方が当然多いということはしっかりと感じています

2024年は斗々屋は、『#丁寧な暮らし』とか『意識高い系』とかのイメージからはかけ離れたところにいることをもっとババン! っと前に出していきたいと思います

実はゴミの出ない暮らしはめっちゃ楽ちんなんです。(中略)

実はズボラな人に向いているということを体験してもらいたい。

梅田さんは言います。「私も本当にズボラなので、ゴミを出すのも面倒なんです。たとえば、納豆を買ったら上にフィルムがついてるから、洗って絞って捨てないといけないですよね。くさいし、誰がゴミを捨てるかで家族でけんかになったりもする。ゼロウェイストなら手を汚さず、ゴミ出しにも行かなくていい。『丁寧な暮らし』と言われるけど、すごくズボラ向きなんですよ」

「ズボラ向け」に店内を改装し売り上げアップ

インスタへの投稿と時を同じくして、店内も改装しました。気軽に入店してさっと買えるように、惣菜売り場を入り口近くに配置。惣菜の種類を増やし、飲み物もテイクアウトできるようにしました。斗々屋で飲み物や弁当を買って、近くの鴨川や京都御苑へ散歩に行くような使い方をイメージしています。

テイクアウト用のお弁当
テイクアウト用のお弁当(写真提供=斗々屋)

カフェスペースも広げました。夜はワインバー兼レストラン「Pas mal」として営業しています。まずはカフェやレストランとして気軽に使ってもらうことから始め、徐々にスーパーとしても認知してもらうことが目的です。

「Pas mal」には時々「しっかりレストランDay」があり、梅田さんがシェフとしてキッチンに立ちます。この日はメニューにないものでも、店頭から好きな食材を選んで調理してもらうことができます。いろいろな食材があるスーパーならではの強みを生かした取り組みです。

改装して広くなったカフェスペース
撮影=山本奈朱香
改装して広くなったカフェスペース。売れ残った生鮮食品はここで料理に生まれ変わる

キッチンでは、売れ残りやすい食材をカレーやスープに調理し、瓶詰めした「はらぺこ」シリーズとして販売もしています。2024年3月からは離乳食シリーズも始めました。

店舗のリニューアルを実施したのが2024年2月。リニューアル前の1月と、リニューアル後の3月を比較すると、惣菜部門の売上高は2.3倍に増えたほか、イートイン部門の売り上げは91%増と、2倍近くに伸びました。青果部門も約20%増え、大きな変化があったそうです。梅田さんも「近隣に住む家族連れや年配の方が来られるようになりました」と話します。

この記事を書いている私も、最近斗々屋を利用するようになりました。ゴミ捨ての回数が大幅に減り、「ゴミが出ない生活ってこんなに楽なのか!」と驚きました。特に豆腐のパックや卵のケースはかさばっていたので、資源ゴミの量が激減。さらに野菜や果物を必要分だけ買えるようになったため、余った野菜を腐らせて冷蔵庫の奥底で残念な状態に……ということもなくなりました。「ズボラな人にこそ向いている」という言葉を実感する日々です。

サラダやカレーなども人気
撮影=山本奈朱香
サラダやカレーなども人気

めざすはコンビニ

斗々屋が次にめざすのは、家の近くにあって気軽に利用できる、コンビニのような存在になることです。遠方のお客さんからの「斗々屋が近くにあれば」との声を受け、全国に広めるためにコンサルティングに力を入れ、オンライン講座を開催。

「早くお店を増やしたいので、直営店にはこだわらず、ノウハウもどんどん渡します」(梅田さん)

斗々屋が商材を卸し、斗々屋のノウハウを使って運営する店を「トトフレさん」(斗々屋フレンズ)と呼んでいます。すでに北海道から沖縄まで全国に110店舗がオープン。中国地方や九州でスーパーを展開する「サンリブ」(北九州市)には、斗々屋京都本店と同じような形態の店舗「フォーアスproduced by 斗々屋」(サンリブ高須)もできました。

「トトフレさん」の店では、調理場を併設できない場合は生鮮食品を扱わない形にしてもらっています。売れ残りが出ると廃棄せざるをえないからです。

最新式の電子秤で「量って買いやすい」工夫も

時間をかけずに買い物ができるように、斗々屋のテクノロジーパートナーとなっているはかり大手の寺岡精工(東京都)から、最新式の電子はかりを導入。たとえば玉ねぎを買いたい場合、はかりに玉ねぎを乗せます。そうすると、AIを搭載したはかりが、玉ねぎが置かれたことを感知し、画面に「玉ねぎ」などいくつかの候補が表示されます。間違いがなければ、該当するボタンを押すと、料金シールが印字される、というシステムです。

ナッツや豆類も種類が豊富
撮影=山本奈朱香
ナッツや豆類も種類が豊富。専用のはかり(右手前)で量って購入する

さらに、あらかじめ計量を済ませてデポジット容器に入れた商品も用意することで、量る手間なしで買えるようにもしています。2023年10月に東京・代官山にオープンした「CIRTY BIOSK by Totoya」では、容器に入れたものを多めに用意し、駅のキオスクのような便利さを前面に出しました。

冷凍のおにぎりの販売も始めました。理想は「明日からゼロウェイストの生活を始めたい人が、生活必需品から食べ物までなんでも揃えられる店」。だから、竹製の歯ブラシや量り売りのシャンプーも売っています。

「京都モデル」をつくりたい

とはいえ、スーパーでの「ゴミを減らしていこう」という取り組みは日本ではまだ浸透していません。もっといろいろな場所で量り売りやゼロ・ウェイストの取り組みに慣れてもらえたらとの願いも込めて、2024年には京都市内にあるオーガニックスーパー「HELP」と連携することにしました。HELPの1店舗で斗々屋が卸す惣菜を販売することからスタート。どちらかの店で借りたデポジット容器を、斗々屋でもHELPでも返却・返金できるようにしました。

梅田さんは「慣れていないことをするのって緊張しますよね。でも、あちこちに量り売りのお店があれば、慣れてもらえる。連携するお店を広げていって、京都モデルとして全国にも展開していきたい」と話します。

“現実離れ”レベルのゴミの量

「HELP」は京都市内で40年以上前からオーガニック食品を扱ってきた老舗です。商品管理部農産部門チーフの田中雅大さんは「横でつながっていって、一過性の“ブーム”じゃなくて多くの人びとの生活に根付いた“ムーブメント”にしていきたい」と話します。

田中さんが驚いたのは、斗々屋京都本店から出るゴミの量だそう。生ゴミは一斗缶1〜2個がいっぱいになるのに1週間程度かかり、プラスチックゴミの回収は月に1度だけ。「めちゃくちゃ少なくて、現実離れしているとしか考えられない量です」。また、食材を包装する容器代が不要になればお客さんにも還元できるため、HELPでは徐々に容器の削減にも取り組んでいきたいと考えているそうです。

利益率は「40%を切ったことがない」

斗々屋では、容器代や梱包するための人件費が不要なことに加え、加工して飲食部門で販売することで商品の廃棄が全くないこともあって、粗利率がオープン以来40%を切ったことがないそうです。全国スーパーマーケット協会などが実施した2023年スーパーマーケット年次統計調査報告書によると、スーパーが目標とする利益率の平均値は一般食品で19.8%、最も高い惣菜で37.8%。この値と比べると、驚異的な高さです。2024年は、さらに目標を高くして利益率47.5%を目指しているとのこと。

梅田さんは「お金をばりばり稼ぎたいという気はないんですが……」と笑いつつ、こう話します。「でも斗々屋が利益を出して実績を作らないと、このスタイルは広がらない。お客さんが斗々屋で商品を買ってくれれば買ってくれるほどゴミが減るので、スタッフにも『うちが儲かったら良いことしかないねんで。だから、とりあえず儲けよ』って言ってます」

牛乳パックやコンポストの回収をするなど「意識高い系」の活動も続けながら、ズボラな人にも使ってもらえる便利なスーパーマーケットをめざす。試行錯誤しながら、斗々屋の挑戦は続きます。