フランス人の5割以上がオリンピックに期待してない
パリ五輪が7月下旬から始まります。
このフランスのオリンピックに興味があるフランス人は少数派です。
「日本でも東京オリンピックに興味が無い人もいたよ」と言う人もいると思いますが、東京オリンピック開催の2年前にNHKがした調査では、東京オリンピックに関心がある人は78%でした。関心のない人が22%。コロナ禍以前の調査ではありますが、8割近くの日本人が東京オリンピックに関心を持っていたのです。
フランスのトルーナ社(Toluna)が2023年4月に世界8カ国で実施したオンライン調査によると、2024年にパリオリンピックを「視聴する意向の人」の割合は、フランス64%、日本69%、ヨーロッパ諸国75%、アメリカ62%でした。
開催国のフランスの人たちよりも、日本人のほうがパリオリンピックを見たいと思ってるんですよね……。日本人のオリンピック好きはまだまだ健在です。
フランス人に「パリオリンピックに期待してますか?」と聞いた先月の調査では、37%が「とても期待している」「まぁまぁ期待している」でした。
とはいえ「全く期待してない」が36%で一番多く、「あまり期待してない」の21%と合わせると、57%の人は、パリオリンピックに期待してないようです。
期待してない人のほうがすでに多いのです。6割に及ぶ勢いです。
「オリンピックに興味ある?」「ううん、ない」。正直に答えていいんです。なにしろ多数派ですから。
「フランスじゃなくて、パリジャンのオリンピックだよね」
そして、6月9日。欧州議会議員選挙で極右政党が議席を大幅に増やしたので、マクロン大統領が議会下院の解散を発表しました。
今回、躍進した極右政党の支持者は、「グローバルとかどうでもいいよね。フランス第一だよね」という考えなので、オリンピックに消極的な人が多い。そのうえ「夏のオリンピックは、フランスのオリンピックじゃなくて、パリジャンのオリンピックだよね」とか、地方の人からはどうでもいい感さえ出ちゃってる感じです。
フランスの選挙は2回に分けて行われるのですが、6月30日と7月7日になります。
パリのオリンピックは7月24日から競技が始まり、開会式は26日ですが、フランスとしては「オリンピックどころじゃないよね……」というのが7月まで続くので、パリオリンピックに対する興味はますます失われていくと思います。
実際、街の様子は変わりません。
パリ市内の中心部は工事規制が非常に強く、外壁を変えることさえ法律で禁じられていますから、オリンピック用の敷設工事は見られません。せいぜい観光名所のエッフェル棟に五輪のシンボルがかけられたくらいです。
肝いりの水上開会式「プランA」
選手の宿泊施設となるいわゆる「選手村」は、パリ北部のサン・ドニ、サン・トゥアン・シュル・セーヌ、リル・サン・ドニに接するセーヌ川の河岸につくられましたが、外観はおよそパリのイメージではありません。オリンピック後は、住宅とオフィスに改装されるとのこと、東京五輪の元選手村「晴海フラッグ」の3割以上に居住実態がない、というニュースの二の舞いにならないといいのですが。ただしそうですね、フランス流といえば、育児室がこの選手村には開設されるらしい。オリンピック史上初だそうです。
そしてこれも史上初と言われるのが、セーヌ川での水上開会式です。
感染症対策からうまれたアイデアでありながら、無料の観覧ゾーン(チケット制)も設けられ、約30万人の“大規模”開会式としてそれなりに個性を見せるでしょう。約6キロにわたる川下りを選手たちがするなかで、ちょっとしたハプニングもプラスの味わいになる。パリ五輪の公式スローガンである「Games wide open」(広く開かれた大会)は、開会式が成功すればほぼ完遂となるはずです。
だからこそ警備システムには注目が集まるわけですが、そこは肝いりの「プランA」。開幕前から約4万5000人の警察と憲兵隊に加え、民間警備員約2万人などの動員があるらしい。昨年末には、マクロン大統領が「プランBやプランCなども当然ある」と述べることで、たとえ水上から地上になったとしても盤石な体制であることを強調しています。
セーヌ川の大掃除はコスパが悪すぎる
ですが、この水上での開催こそ、世紀の「上司は思いつきでモノを言う」系のプランではないか。
なにしろプログラムで期待される“サプライズ”が水回りになるので、ふつうの発想だと「泳ぐ」か「飛び込む」かの二択と言っても過言ではありません。お家芸のファッションセンスの見せ場としては難しく、飛び込む水場も「道頓堀より数倍汚い」と言われるセーヌ川です。スポーツ競技の本懐である健康をリスクにかけた、命がけのサプライズになってしまう。
今も付け焼き刃いえ急ピッチで下水工事が進められているようですが、セーヌ川をどこまで大掃除するか。これはプラン時当初には思いもしなかったタスクでしょう。なにしろコスパが悪すぎる。どこまでやっても成果を示せるとは思えません。事実、市当局も「オリンピックで水泳競技をするには、セーヌ川は汚すぎる」と明かしています。先日の「ル・モンド」によると、6月10日から16日の水質検査では、「4カ所の異なる場所で、大腸菌の数値が推奨される基準値を超えていた」そうです。
要するに、「水上開会式」がいかにイメージ先行で決定されたか、ということですね。
五輪となるとパフォーマンス先行型になってしまうのは、どの国も大差ないのかもしれません。「健康よりスポーツを優先させた」と叩かれた東京五輪が何かしらのクスリになってないことだけは確かです。
オリンピックを冷ましたオンラインの大衆化
懐かしいものです。たった12年前のロンドンオリンピックの開会式では、エリザベス女王自らがユニオンジャックのパラシュートで式場に降り立つというサプライズが演出されました。2012年から2024年。コロナ禍をはさむとはいえ、4年に一度の祭典がこれだけ冷えてしまった原因は、ひとえにオンラインの大衆化です。思えばこれも、コロナ禍の産物、でしたね。
オリンピック鑑賞の醍醐味は何か。競技のライブ性か、結果の即時性か、それとも筋書のない衝撃性か。いずれにしても、オンラインが非常に得意とする領域です。
いまや、オリンピック報道で真っ先に重要視されるのはカメラのアングルではなく、Wi-Fi環境が整っているか、です。
万人が待ち望む速報は、誰の手によるものかではなく、どれだけ速く、詳しく、正しいかということが求められ、通信手段さえととのっていれば誰もが等しく情報強者になれる。
セーヌ川の開会式にいたっても、さまざまなライブがオンラインにあげられることでしょう。いわば、ライブのオープンセールというわけで、公式スローガンの「Games wide open」もこうした事実をそっと言い当てているのかもしれません。
そうであれば、特に足を運んでパリに行かなくても、いつもの場所で手のひらで見るのが安上がりです。コスパ感覚とオンラインは相性がいい。そのうちテレビも要らなくなり、かつては競技時間をアメリカのテレビ放送に合わせていたというのが、ノスタルジックなエピソードになるでしょう。
浮世の風にさらされるオリンピックの宿命
今回のパリオリンピックは、「第33回夏季オリンピック競技大会」だそうです。
オリンピックが今後何回まで続くか知りませんが、ロサンゼルスで開催予定の第34回、オーストラリア・ブリスベンで予定されている第35回と、ますますオンライン上でオープンエンドに共有されていくでしょうから、開催地のコスト意識はこれまでの前例が意味を成さなくなります。IOC会長の接待費なんて、私たちが知る以上に浮世の風にさらされていくでしょう。それがオリンピックの宿命です。
はたして2032年の第35回夏季オリンピックのときには、日本人の何パーセントが興味を示すでしょう。なんだかんだいって70%ぐらいはいくかもしれません。日本人はお祭り好きなので。もちろん、この数字が当たっても外れても僕は気にしませんが。