2024年5月に発生した「新宿タワマン刺殺事件」。加害者である男性は、事実に反し、被害者女性と付き合っているつもりだったことが報じられた。婚活・恋愛カウンセラーの川崎貴子さんは「多くの女性にとってストーカー被害はひとごとではない。特に交際相手に別れを切り出したとたん、相手が一線を越えてストーカー化することがあり、私もその経験者。警察に相談しつつ、自衛も十分にしてほしい」という――。
夜道を怖がりながら歩く女性
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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発生からひと月、ショックが薄れない悲惨な殺人事件

私がここ最近の事件で最も気になり、事実関係をいまだにチェックしているのは2024年5月8日に発生した「西新宿タワマン殺人事件」だ。ガールズバー経営者の女性が、かつて客だった男から自宅のタワマン前でメッタ刺しにされたこの事件は、加害男性(51歳)と被害女性(25歳)の年齢差や、被害者が加害者から1000万円近く受け取ったことなどが事件当初大きく取り上げられ話題になった。

くしくも「頂き女子りりちゃん」という疑似恋愛を釣りに詐欺を働いていた女性の実刑判決が出たのと時期が重なったこともあり、「殺した方が悪いが、貢がせてポイ捨てされたらストーカーにもなる」「加害者は結婚できると思って大切にしていた車を売ってお金を捻出したらしい」など、被害者にも非があるようなコメントがSNSで散見された。被害者はメッタ刺しで殺されたのに、だ。

もちろん、「50代の男が20代の女性と結婚できると思っていたこと自体、その男はおかしい」「水商売をやってるとストーカーに狙われやすいので危険」「それでも殺される理由にならん!」というコメントもたくさんあったのだが、果たしてこの事件を「水商売の女性がモンスター客に目をつけられた悲運」で片づけて良いのかと筆者は思っている。

1999年の桶川事件をきっかけにストーカー規制法が作られた

今回、ストーカー殺人事件と聞いて私が一番に思い出したのは1999年(平成11)の「桶川ストーカー殺人事件」である。

被害者の女性(女子大生)は、交際していた男がストーカー化し、縁を切るために再三警察に相談したにもかかわらず警察が動かず、家族中が嫌がらせを受けた上、被害女性は加害者グループに殺されてしまう。

主犯の加害者は自殺で不起訴。被害女性は亡くなった後も「ブランド狂いだった」「水商売をやっていたから殺された」など事実無根の報道をされ、このときも「軽率で自業自得な女子大生と特殊なモンスターの痴情のもつれ」と我々は思わされた。当時、ご遺族は2重にも3重にも苦しめられたに違いない。

結局、被害者はどこにでもいる普通の女子大生だったことが明らかになり、マスコミは報道姿勢が問われることとなる。そして、実行犯たちだけじゃなく被害相談を杜撰ずさんに扱った警察職員も執行猶予付きの有罪判決を受け、この事件をきっかけにストーカー規制法が成立することとなるのだった。

警察に相談できるようになったが、元カレによる殺害はなくならない

2000年(平成12)にストーカー規制法が施行され、警察に気軽に相談できるようになったこと自体は大きな前進であったと言える。言えるのだが、ストーカーによる殺人は相変わらずなくなることがなく、例えば2012年の逗子ストーカー殺人事件(2006年に別れた元カレに度重なるストーカー被害に遭った後、殺害されてしまう。加害者は自殺)や、2013年の三鷹ストーカー殺人事件(SNSで出会った優秀な女子高生と、大学生と偽って交際したトラック運転手が、彼女の留学を機に別れることとなりストーカー化し殺害。この事件をきっかけにリベンジポルノ被害防止法が成立。懲役22年求刑)、2023年に横浜市の自宅マンションで18歳の女子大生が元交際相手に殺された事件などの衝撃は記憶に新しい。

今回の「西新宿タワマンストーカー殺人事件」は、被害者女性と加害者男性は交際していなかったのだが、男性は彼女を恋人だと思い込んでいた。そして、今回の事件も、逗子や三鷹や横浜の事件も、被害者は事前に、警察に相談していたのだ。2023年、博多駅路上で女性会社員が元交際相手に刺殺された事件も被害女性は県警に相談しており、元交際相手には「禁止命令」が出され、彼女は緊急通報装置を持って生活していた。しかし、博多駅近くで加害者に出くわし刺殺されてしまったのだ。

送検のため、警視庁新宿署を出る和久井学容疑者=2024年5月9日
写真提供=共同通信社
送検のため、警視庁新宿署を出る和久井学容疑者=2024年5月9日

警察庁の統計によると、この12年間、ストーカー事案の相談等件数は年間2万件前後と高い水準で推移しているという(図表1)。実際問題、警察がその全員を何年にもわたって完全警護するというのも難しい話だ。ただ、被害者の9割近くが女性であることを鑑みると(図表2)、最悪、力でかなわない相手に狙われたら成すすべがない。だとしたらストーカーに狙われた女性たちはいかにして自衛すればよいのだろうか?

恐怖だった「彼氏だった男がストーカーになる」という実体験

私の所にもストーカー被害に遭っている女性からの相談は定期的に来る。

警察に相談したり、引っ越ししたり、周囲の人に相談し協力を仰いだり、要は「ちゃんと怖がっている女性たち」においては多少安心なのだが、正常性バイアス(人間が予期しない事態に対峙した時に「そんなことありえない」という先入観が働き、正常の範囲内だと認識しようとする心の働き)がかかっている女性から軽い感じで相談を受けた時、心の中のエマージェンシーコールが過剰に鳴り響いてしまう。

相談者からは「心配し過ぎです。そこまでじゃないんで」と言われるが、実は私も若かりし頃、付き合っていた人に別れ話を切り出したところ、納得してもらえず、「彼氏だった男がストーカーになる」という経験者だ。

最初はすぐに収まると思っていた。思っていたのだが電話やメール攻撃、待ち伏せは続いた。結局、避難のため1カ月程ビジネスホテルで過ごし、ほとぼりが冷めただろうと高をくくって自宅に戻ったら張り込んでいた元カレに首を絞められた。警察を呼んで事なきを得たが、当時の私だってそこまで大事になるなんて思ってやしなかったのだ。

もしストーカー被害に遭ったら、どうすればいいのか?

ストーカー被害に遭ったら、まずは警察に相談、周囲の人に協力を仰ぐこと。被害に応じてだが引っ越しも必須とした上で、以下のことに気をつけたい。

① メールでの脅し、つきまとい等も立派なストーカー被害だと、まずは本人がしっかり認識すること

② きっぱりと拒否の姿勢を見せる(郵便物、電話や手紙に対応しない、あいまいな態度をとらない)

② SNSでキラキラした生活をアップしない(新宿の事件の犯行動機と言われている)

③ SNSに住所や会社やよく行く場所をアップしない(逗子の事件は警察の不手際で住所を特定されている)

④ できる限り一人で出歩かない(タクシーや公共機関を使ったり、迎えに来てもらったり、同じルートで帰宅しないなど)

⑤ 催涙スプレーや痴漢ブザー、緊急通報装置を忘れずに携帯

⑥ 携帯は110番を押せるように。スマホは「緊急通報機能」(iPhoneAndroid)を設定しておく

⑦ 証拠になるようなものは残しておく(LINEの履歴など。警察がすぐに動いてくれる可能性が高い)

以上が「ストーカーされているかも?」と相談に来た人には必ず伝えていることだが、これだって十分ではない。

こちとらストーカー被害者だというのに、手間も出費もストレスも相当である。

だから本来、お付き合いする前、関わる前にストーカーになるかどうかを見極めることができればよいのだが、それもなかなか難しい。

スマートフォンを見つめ怯えている女性
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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ストーカー化しやすい男性に見られがちな10の傾向

それでも、ストーカー化しやすい男性には傾向はあり、まとめてみたので参考になれば幸いである。

恋愛経験がない。もしくは少ない(フったりフラれたりする経験が乏しいため、傷ついたというインパクトが強く攻撃性が増す。「この人を逃したら後はない」と考えがち)

自己愛が強い(自分のことが大好きで、自分は素晴らしいので、そんな自分を選ばないという選択肢はないと相手に押し付ける)

友人が少なく、狭いコミュニティで生きている(自分の周りにいる少ない人に執着しがちになり、狭い世界で生きているので自分を正当化しやすい傾向がある)

全ては他責思考(物事が上手く行かないのは自分のせいではなく、社会や会社や彼女だけが悪いという考えに行きつく)

LINEや電話の連絡頻度が異様に多い(コントロール欲が強く、常に相手の状態を把握したいため)

「察する」ことができない(相手の心が冷めていることに態度で示されても気づかない。より執着心を持って接触頻度を上げようとしてくる)

ネガティブ志向(自己愛は強いが根本的に自信がないため、深層心理では彼女がいつか離れていくのではないかと常に思っている。不安症)

高額のプレゼントをしたり自己犠牲的な態度を取る(自分が愛情を与えた分、愛情を返されると信じて疑わないため)

突然キレる(彼自身のルール「彼女とはこうあるべき」というルールがいっぱいあるため、それにそぐわない行動に突然怒り出す)

思い込みが激しい(多様な価値観を受け入れてきていないため、「人類は敵と味方だけ」で、多様な価値観を許容できず、自分の価値観に固執する)

「ストーカーになりやすい男性」は増えつつあるのでは

ほとんどの人にとって、殺人者になることも自殺することも「人間が一番越えられない一線」だと思っている。どんなに怒りを感じても、実行したら人生が破滅するがゆえに選択できないことが殺人であり自殺だと、われわれは無意識レベルで認識している。

だからそのハードルを「痴情のもつれ」「恋人との別れ」程度で飛び越えてしまうのは、自分の近くにいる「普通の人間」ではなく、どこか別のところに居るモンスターだと思いがちなのだ。ストーカー殺人事件の被害者たちも、最初はそう思っていたに違いない。かつての私がそうであったように。

そして、大変残念なことに、「ストーカーになりやすい男性の特徴」の保持者は近年増えつつある。恋愛離れ、狭いコミュニティー、閉塞感のある社会で活躍の場が少ない現代において、自己愛ばかりが肥大して人間関係を学ばない人を量産してしまっているように思えてならない。おまけに、SNSやマッチングアプリの台頭でバックグラウンドや本人の性質が分からない相手と簡単に出会えてしまう世の中でもある。

女性たち(一部男性たち)に置かれましては、どうか「ストーカー殺人事件」を対岸の火事と思わず、刑事並みの嗅覚きゅうかくを鍛え、できる限りの自衛に励んでほしいと筆者は願っている。