値上がりが期待できる不動産物件を選ぶポイントは何か。経済ジャーナリストの山下努さんは「良い物件を買っておけば誰もが3000万円儲かる時代に入った。儲かる物件を見つけるには、親の世代の価値観や常識にとらわれない判断ができることが重要だ」という――。

※本稿は、山下努『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

集合住宅とチェックリスト
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「マイホームは一生持ち続けるもの」という考えを捨てよ

これまで、マイホームは「一生持ち続けること」が前提だった。

しかし、これからはそれが大きな間違いだ。

マイホームは次に売るための「商品」で、マイホーム購入とは、それを仕入れたにすぎない。

商品などといえば、家族のためのマイホームを冒涜していると感じるかもしれない。

しかし実際には、ローンを払い切るまではお金を貸してくれた銀行の担保物件にすぎない。まさしく借り物の物件ではないか。

とりあえず、頭のなかから「男の城」「女の幸せ」などの一般的な商品価値のない発想は駆逐してほしい。

そして「一生持ち続ける」という選択肢は排除してほしい。

「最近は男の城とか思う男性はいません」と女性は言うかもしれない。しかし、マイホームを一生ものと考えると、一生の大部分支払い続けるローンを背負い込む「男の監獄」であったことは一端の真実を物語る。

住宅は典型的な「金融商品」であることを肝に銘じよ

人生でマイホームは2回以上買い、その間は賃貸に住む方法がある。賃貸主義者のほうが新しいマイホームの買い方にすんなり入っていけるかもしれない。

不動産価格は日銀の金融政策と連動し、今後は日銀政策の深掘りがマイホーム投資の決め手になる。

つまり、住宅を「金融商品」ととらえることが何より大事だ。

住宅ローンは残高が20兆円もある巨大な商品であるため、減税など国の政策が大きく影響するのはご存じのとおりだ。

ほかの商品と同じように、相場の高いときに売り、相場の安いときに買うのは当たり前だ。

これまでは、売ったら、またすぐに買うということが無意識のなかにあったはずだ。それでは高いときに売って高いときに買うことになるので意味がない。状況に応じて「賃貸住宅に移る」という選択肢を忘れないでほしい。

そのときの家族数など、家庭状況に合わせた賃貸住宅を借りるのだ。「自宅はどうするのか。空き家になってしまう」と思うだろうが、賃貸に出せばいいだけだ。

住宅売却の含み益で賃貸に住み、安くなったらまた買う

また、最近では大規模な分譲物件には、必ず賃貸に出されるマンションがある。自分のマンションを売って、同じマンション内の賃貸物件があればそちらに移転する。家族状況に合わせることもできる。売却で利益確定した「含み益」部分は賃貸住宅の家賃に使える。

高く売って含み益を確定し、それを家賃に回し、住宅価格が安くなったら、賃貸生活をやめ、売却して得た資金を元手にまた持ち家に住めばいいのだ。

「そんなの面倒くさい」と思う人も多いだろう。確かに、十分な資産がある人、副業で稼げる人、本業がもうかっている人はそこまでしなくてもよい。「そんな芸当はない、私は普通のサラリーマンです」というならば、少しは考えたほうがよい。サラリーマンが普通に家を買っていたら、大変な時代が始まる。

賃貸か所有か
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また、買うよりも大事なのは住宅の売りのタイミングだ。相場が高いときは、売却により利益確定ができる。

ある意味で、不動産とはうまくお金を借りることだ。住宅ローンなどレジデンス投資には独特の癖や利点がある。

「訴訟になっている物件」こそ、じつは狙い目

再開発による訴訟は、思っているより多いものだ。

まず思い浮かぶのは、再開発にともないそこを追い出された住人だろう。しかし、この手の訴訟は第三者にはあまり関係ない。

興味深いのは、住民側が行政を訴え、再開発を告発している訴訟だ。

過密都市東京で、これだけ再開発があるのには深い理由がある。

10年ほど前から、民間のノウハウや民間の資金力などに依存するため、容積率の思い切ったボーナス(追加付与)を行政が大手デベロッパーにプレゼントする開発事例が目立っている。

自治体は財政不足を理由にそれまでやっていた土木・箱物事業で民間の力を借りることが多い。時には「丸投げ」に近い事業もある。

本書で触れた東京五輪選手村が晴海フラッグに化けた事業は代表的だ。神宮外苑関係の再開発もそうだ。また、公園や学校など低層利用の公有地に目をつけ、そこを民有地に変換する事業も盛んだ。

良い物件を買えば誰でも3000万円儲けられる時代の必須スキル

そうした開発事業は、自治体が破格で用地を提供することも少なくなく、完成後の物件はお買い得になる場合が目立つ。

住民訴訟をした側から見ると、その自治体の住民の財産がお安く民間物件に変換されるわけだから、「けしからん物件」か「罪深い物件」となるわけだ。

「青空」(容積率)がプレゼントされるという、新しい払い下げの形に近いかもしれない。

産業革命が起こった英国では、繊維の原料の羊を育てるために、牧草地を囲い込むエンクロージャーが行われたが、現代日本ではタワマンなどをつくるために、行政とデベロッパーによる「公有地囲い込み運動」が盛んになりつつある。

どうすればそれがわかるかというと、早い段階から役所や企業を回り、住民運動の動きを見ておくことだ。「そんな記者みたいなことはできない」「市民運動は政治的で偏っている」と一般市民は腰が引けるだろうが、これは一度やったらやめられないほど面白い社会観察だ。

もう市民記者の時代は始まっている。記者でなくてもできるし、実益にもつながるかもしれない。一般人がそれを酒場で話すと「運動家」か「インテリ」(もしくは変人)に誤解されることもあるかもしれないが。

不動産がからむ訴訟やトラブルを、社会面的に訴訟や事件としてだけとらえてはいけない。「不動産の新しい方程式かもしれない」と考え、経済・経営・金融的にアプローチすることが必要だ。

「よい不動産を買っておけば誰でも3000万円もうけられる時代」の実現は、こうした開発最前線をリサーチする意欲のいかんにかかっている。

解決すべき多くの課題
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部屋は「かなり狭い」くらいがベスト

子育て中など、マイホームを買うタイミングは家族数が多いときが多い。

しかし、子どもは学校を卒業すれば独立するし、夫婦も別居や離婚という可能性がある。

幸い、マンションでは部屋があまりすぎるという事例はないが、中古住宅では家族数が減って2階部分を取り除く減築リフォームも実際に行われている。

高齢化すると、2階に上がる階段が大きなリスクとなる。高齢で階段を転げ落ちると骨折など大ケガにつながり、病院で動けなくなって認知症が進む場合も少なくない。体を動かさなくなると筋肉が落ち、歩けなくなるリスクもある。

したがって、分譲住宅は「ちょっと狭い」くらいがベターで、「かなり狭い」感じがベストといえるかもしれない。

家族の構成人数は右肩下がりが前提だから、そのトレンドに合わせるのだ。

「家族数に合わせた部屋数」「標準的な間取り」に惑わされるな

「住宅に家族数を合わせようとは何事か!」という反論もいただく。そういう考えが少子化を促進し、家庭の団らんや家族の幸せを奪うという主張だろう。

しかし、社会全体では、「住宅に家族数を合わせる」ということが無意識で進んでいる。

これだけ少子化が進めば、標準的な家族の構成員数は2~3人までだろう。

間取りの常識も変わりつつある。

固定電話はそれぞれの携帯電話となり、テレビを観ない家庭も急増している。

そうなると、居間の機能も変わっていく。

ひと昔前は、家族が集まってテレビや新聞を見ながら団らんというのが居間のイメージだったが、テレビや新聞がなくなれば、食事が団らんのメインイベントとなる。

働き方の多様化など、さまざまな事情で家族が同じ時間に集まれないケースも多く、居間機能の空洞化も指摘される。共働きの両親を気遣って、子どものほうから「休みの日ぐらい家族一緒に外食しようよ」ということもある。

日本料理店で夕食を食べる家族
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家族の団らんはレストランでしてもいい

一方、コロナ禍による在宅勤務の流れで、居間を仕事場に有効活用する動きが出てきた。マンション1億円時代に対処するには、居間の機能を複合化し、居間を隠れた空き部屋(不良資産)にしないことだ。

もし共働きで忙しいなら、キッチンもつぶすという検討もできる。コンビニやスーパーの前の物件に住めば、そこにキッチン機能を丸投げできるし、マンションに洗面所があれば水は使える。

居間の団らん機能は、近くのレストランなどに機能移管できるかもしれない。立派なキッチンがなくても、都心には疑似キャンプやバーベキューができる施設もあるので、「家族で一緒に料理」もマイホームの枠を超えて実現可能だ。

閑静な住宅街では難しいが、都市部の駅徒歩10分圏内なら、分解した自宅の機能を自宅外で賄うことができる。そもそも外で働くこと、子どもが幼稚園や学校に通うこと、衣服のクリーニングなどのさまざまな行為も、自宅機能の外出しといえるのだ。

「そんなことをしたら、食育を含め育児そのものが崩壊する」と批判もあるだろうが、臨機応変に考えることで工夫の余地も生まれるだろう。

マイホームを取り巻く常識や思い込みは、そこに購入者を引きずり込む蟻地獄のようだ。

常識に惑わされて無駄な間取りをつかまされないよう、警戒してほしい。

自身と家族のライフスタイルによって、ベストな間取りは変わる。自宅はビジネスホテルと割り切って使うのもよいのではないだろうか。

コロナで大規模オフィスよりシェアオフィスが注目されたように、マイホームを部屋の集合体と考えると、面白い使い方ができるかもしれない。

旧態依然とした間取りが多い

しかし、この点において不動産業界はまったく冒険的な提案をしてこなかったので、間取りは旧態依然としたものが多い。

昔の間取りに家族を合わせているだけでは面白くない。ペットが完全に家族の一員となったのだから、ペットの視点も不可欠である。

一部の海外では一般的になっているスケルトン販売方式で、内装は買い手がするという方法なら部屋の改造はやりやすい。

ただ、日本では中古市場に出す場合も「標準的な間取り」が好まれ、個性的な間取りになりにくい。貸すにしても借りるにしても、賃貸借契約終了後は原状の回復が求められることがほとんどだ。

間取り
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一戸建てなら4階建て

最近は、売買の流動性に欠ける一戸建ての人気がないが、それは土地の選び方や使い方がいまひとつだからだ。

筆者が一戸建てを持つなら、4階建てにしたい。

車を持たず、1、2階とも、できれば3階まで貸家や店舗にしてテナントを入れるのだ。

「大家はそんなに楽じゃないよ」「狭い家には誰も入居しないよ」という意見もあるが、立地については住宅街を避ければそれは可能だ。

空き家にしないためには、4階建ての建築に制限がかかり得る第一種住宅専用地域など、住宅系の用途地域を候補から外すことだ。

おすすめは商業系地域の土地で、準工業地域でもよい。

そして、戸建ての住宅ローンはできる限りテナントに払わせるべきだ。私はこれを「自宅大家作戦」と呼んでいる。賃貸需要がある都市部では、一戸建ても高層化し、平屋低層の時代は終わる可能性もある。

4階建て分野は住宅構造や機能も進化しており、パナソニックなどが力を入れている。

「戸建ては4階建て」という新時代の常識を頭に叩き込んでほしい。

「閑静な住宅地でないとうるさくて住んでいられない」という人は、自分で住宅ローンを払い続けるしかない。

商業地域は「防犯上よくありません」などと業者が言うかもしれないが、住宅街こそ、防犯面でも不安が出てくる空き家が増えることは間違いない。

住宅街に土地ばかりか建物もセットで投資してしまうことは、おすすめできない。

10年後に「値上がりしないマンション」は不動産ではない

土地が下がり続ける時代が続いている。

山下努『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)
山下努『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)

「インフレ時代だから違うでしょう」と反論されるかもしれないが、そんなことはない。

人口減少と過疎化で全国の土地のほとんどが値下がりしている。地方にあっては公示地価よりずっと安くないと売れないところは無数にある。土地や家屋(多くの場合は空き家)の相続で登記や測量をすれば、それだけで赤字になる場合は少なくない。

そんな時代に「10年後に値上がりしないマンションは不動産ではない」と言うと、上から目線で非常識ではないかと思われるかもしれない。

しかし、東京など大都市の土地のごく一部は、値下がりせず、調整局面を除けば上がり続ける時代に入っている。

それゆえ、税務評価と実質価値(時価)の乖離が見られるタワマンは優位な商品で、税務署対策を考えても中短期投資の視点で買える。

お得な穴場エリアを探そう

「埋め立て地の湾岸に住む人の気が知れない」という声(ほとんどは山の手族の遠吠え)もあるが、津波や地震のリスクを限定するには短期売買が適している。そのほうがもうかる確率は高い。

「住宅は一生もの」という前提で、首都直下地震等のリスクも織り込めば、何も買えない。

それは、過去10年を見れば如実にわかることだ。デフレだからマンションが値上がりしないということはない。そもそも不動産は、家賃以外は物価統計に入っていない点などから、常識を疑うことから考えてみよう。

日本経済と人口が減少し、経済が縮小していても、今後も人口が増えて、経済が拡大する地域は数多く存在する。

できれば、本書中にあるたくさんのヒントを参考に、まだあまり注目されていない、お得な穴場エリアを探し出してほしい。