2023年の出生数は過去最少に
日本では少子化が深刻になっています。国の存亡にかかわる極めて重大な問題なのですが、海外に目を向ければ解決策が見えてくるかもしれません。
厚生労働省のデータによると、2023年の出生数は過去最少の75万8631人となりました。国立社会保障・人口問題研究所は2023年の出生数を76.2万人と推定していましたが、想定よりも早く少子化が進んでいることになります。
加えて結婚適齢期の人口が急減する「2030年の崖」まで5年強しかありません。2030年を越えてしまうと、出生数を増やすことは難しくなると言われています。出生数を回復させるには、ここ数年が勝負ということになります。
日本の少子化対策は婚姻が前提になっている
民間有識者でつくる「人口戦略会議」は1月に「経済を成長させながら2100年時点で人口8000万人規模を維持するための提言」を公表しています。その対策を見ると、①男性の育児参加の促進、②教育への投資支援、③子どもの人数に応じた優遇の強化、④最低賃金の引き上げ、⑤時短の正規社員など非正規社員からの転換などが挙げられています。ただ、前提として「婚姻数の回復が重要」としています。
ところが、海外を見ると、出生率が高い国ほど婚外子の割合が高くなっています(図表1)。日本では婚外子の割合は2.4%に過ぎませんが、デンマークは54.2%です(図表2)。子どもの半数以上が婚外子なのです。
ちなみにデンマークでは家族形態が多様化しています。大きく分けると7タイプあり、そのうち法律婚(異性)、法律婚(同性)を除いた5タイプの人たちが育てている子どもが婚外子となります。
養育費は国が立て替えて、取り立てもしてくれる
シングルマザーも多いので「ひとり親で子育ては大丈夫か」と心配する人も多いでしょう。しかし、デンマークでは、仮に離婚しても生物学上の両親が養育に関して最終責任者であることが法律で明確に定められています。
養育費は税金の控除の対象となりますし、行政機関が養育費を前払いして、後で親に請求する仕組みもあります。また、養育費を支払っていない場合には、国の福祉サービスを受けられないなど、重いペナルティが課されます。
海外では1960年代から急激に婚外子が増えています。そのおかげで人口ピラミッドは出生率の低い日本や韓国のように逆ピラミッドにはなっていません。いま世界中の先進国で高齢化が進んでいるといわれていますが、その中でも日本の状況が深刻なのです。他国を見習って、シングルマザーやシングルファザーでも安心して子育てができる環境をつくる必要があるのではないでしょうか。
共同親権の導入で日本でも婚外子が増える⁉
その一歩を踏み出したと思える動きもあります。共同親権です。共同親権の導入を柱とした民法の改正案が4月16日の衆議院本会議で可決されました。今国会で成立し、2026年までに施行される見通しです。
現在は離婚すると、父親か母親のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」になっており、約9割は母親に親権が与えられています。子どもがいると、ほとんどの場合はシングルマザーの状態になっているのです。反対に親権を得られなかった父親は、へそを曲げて「養育費は払わない」となるケースも後を絶ちません。
「共同親権」が導入されれば、離婚する際に父親と母親の協議によって「共同親権」か「単独親権」かを決めます。合意できない場合は家庭裁判所が判断します。
海外では昔から共同親権が一般的です。離婚するかどうかは親の勝手ですから、子どもの人権を尊重すべきだと考えられているのです。
アメリカから共同親権契約書を取り寄せ元妻と契約
私は離婚して8年ほどシングルファザーをしていたことがあります。日本では共同親権が認められていませんでしたが、私自身が帰国子女であることもあり、周囲に米国での離婚経験がある友人が多数いました。彼らの話を聞くにつれ、自分たちも子どものためには共同親権的な立場を築いた方が良いと考え、アメリカから英語の共同親権契約書を取り寄せ、元妻と契約を結びました。もちろん、これは日本では全く法的拘束力はなく弁護士も猛反対していましたが、法律よりも前に、私たち自身が最善だと思う選択をすることの方が重要でした。
共同親権では離婚したあとも、親としての権利と義務が発生します。親同士の仲が仮に良好でなかったとしても、子どもの前では親としての役目を果たさねばなりません。いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)等の暴力的な問題等、極端な状況がない限りにおいては、親同士は大抵の場合、子どもの前では大人の対応ができるものです。
また、共同親権では、離婚した親同士が離れて暮らしていても、子どもに親を合わせなければなりません。遠くに住んでいれば、そこまで連れて行って会わせる義務がありますから、結果的に離婚後も近くに住むケースが多くなります。
日本も婚外子を育てやすい政策を打ち出す可能性大
私たちの場合も、単独親権の状況となっていれば、元妻は経済的事情から実家に戻らざるを得なくなるところでした。そうなれば、私は東京、元妻は千葉、と遠距離となり、子どもは私たちのどちらかの親と簡単に会うことができなくなります。また、当時子どもは小学生でしたが、学校も転校しなければならなくなり、その精神的負担は甚大となることが予想できました。
そこで、私たちの場合は、疑似的共同親権を軸に、元々住んでいた学区内のアパートの上下の階に別れて住むことにしました。そうすれば、お互いの私生活ではプライバシーが保たれ、他方、外の階段にはなりますが、子どもは自由に上下を行き来できるようになります。
この方法は、意外とうまくいったと思います。離婚当初はアパートの上下とはいえ、精神的には非常に距離感があり、ほとんどコミュニケーションも希薄でしたが、ときが経つとともに、子育てという共通のライフワークを通じて少しずつ対話も増え、10年近くかかりましたがいまでは「わが子の父母」という結婚とはまったく異なる、不思議な家族的連帯と信頼関係が生まれていると思います。
共同親権は婚外子が増えるひとつのきっかけになると思いますし、出生数の低下が止まらない日本では、海外の状況を参考にして婚外子を育てやすい政策を本格的に打ち出す日も近いと思います。
それによって働きながら子育てする人を応援する商品やサービスを提供する企業も増えるでしょう。
「国策に売りなし」政府の少子化対策に投資のチャンスも
さて、「国策に売りなし」とは投資格言ですが、もし日本が国の存亡をかけて少子高齢化に取り組み、そしてそれがたとえば海外の事例を参考に、たとえシングル家庭になったとしても、両親がしっかり子育てをできるような環境整備を前提にするものだと想定したら、どうでしょう。この国策の方向性の先に、さまざまな投資アイデアも出てくると思います。
とくに、日本においては女性が経済的に自立することについて社会がまだまだ冷淡であり、それが女性が子どもを育てていくことのリスクを高めています。女性たちが、本音では子どもが欲しいのに出産を躊躇し迷ってしまうのは、日本の男子も日本の社会全体も、総じて子育てのあらゆるリスクを女性に押し付けていることが背景にあるように思います。
デンマークのように、男性諸君にも社会全体にも子育てに対して極めて重い責任を負わせるような世の中に生まれ変わっていければ、女性も安心して出産を決断できるかもしれません(ちなみに、男性の育休促進などというものは、単なる男性の育児参加のポーズに過ぎず、日々の日常生活に命がけの子育てを組み込む重さとは比べようもありません)。
働くシングルマザーを応援する富士製薬工業
このような視点で考えるとき、女性がもっと自立して活躍できる社会基盤を作ることは、国の至上命題であると共に、その国策に関連するビジネスが少しずつ芽を出し始めていることに気づきます。実際に『会社四季報』2024年2集春号で探してみると、働きながら子育てする女性を応援するビジネスを展開している業界がいくつか見つかります。
その1つは、女性医療に関連する業界です。たとえば、富士製薬工業(4554)は、女性向けに特化した医薬品会社です。同社は、主に不妊治療薬や更年期障害など、女性向けに特化した薬を専門につくっています。
とくに最近は少子高齢化対策の国策の恩恵を受けてビジネス的にも好調です。まず、2022年4月から不妊治療が保険適用になりました。この追い風を受け、富士製薬工業の不妊治療薬の需要が一気に高まっています。また、子宮内膜症治療薬、更年期障害治療剤、月経困難症治療薬など、女性の生活を基盤から支える治療薬を多数販売しています。
たとえば、子育てをしながら仕事をする女性たちが、毎月のように襲われる生理痛から少しでも開放されることは、結果的に社会全体の生産性を向上することに間接的に結びつくのではないでしょうか。女性に特化した医薬品上場会社はほとんどありませんので、分かりやすさの面からも応援しがいがある1社ではないでしょうか。
ミールキットで料理の手間を軽減するデリカフーズ
2つ目は、日々の家事、特に料理をサポートする業界です。これに関連する企業としては、デリカフーズ(3392)とオイシックス・ラ・大地(3182)を紹介したいと思います。
デリカフーズは、元々はファミレスや外食業界のカット野菜等を展開してきた会社で、国内外の契約農家から直接仕入れた野菜を加工し、全国3万店舗へデリバリーを行っています。また、ここ最近はミールキットに力を入れています。とくに、ミールキット等を通じて毎晩の料理の手間を軽減することは、子育てと仕事の両立に貢献するでしょう。
オイシックス・ラ・大地は、「オイシックス」や「らでぃっしゅぼーや」など、有機栽培野菜や無添加食品等を中心に健康的な食材を宅配する大手です。いわゆる「ナチュラル系」の食材に強みを持っていますが、子どもの健康に人一倍気を使う子育て世代に人気です。とくに直近は「働く女性向けの献立キット」が好調で、こちらも日々の料理の重労働から女性たちを開放してくれるビジネスを展開していると言えるでしょう。
女性の活躍推進を支援するビジネスコーチ
3つ目は、女性たちの就労環境を変えるサポートをしている業界です。ここでご紹介したいのは、インソース(6200)とビジネスコーチ(9562)です。
インソースは、社会人向けの教育・研修事業を展開するコンサルティング会社です。大手民間企業や自治体向けに、コミュニケーションスキルやITスキルなどのスキル別研修を手掛けていますが、最近は女性活躍推進やハラスメント研修などが伸びています。インソースが事業を進めることで、そのクライアント企業における女性活躍の場が拡がっていく効果が期待できると思われます。
ビジネスコーチ(9562)は、社員育成・指導のビジネスコーチングを行う、企業向け人材開発サービス会社で、特に直近は女性の活躍推進を支援するメニューに力を入れています。この2社に限らずコンサルティング業界では女性の活躍をサポートするビジネスが注目を集めています。
これまで男性がビジネスの中心を占めていた日本の会社では、どうすれば女性たちが能力を発揮できるようになるのか、その方法がまったく分からない会社が予想以上に多くあります。女性特有の健康リズムを会社全体が理解し、また子育てとの両立に必要なサポートのための研修やコンサル導入を進め、より多くの職場が女性フレンドリーに変わっていくことで、少子高齢化の解決の土台が築かれていく可能性があるでしょう。
約1500名の育児期職員を約720名のスタッフが支える資生堂
そして最後に、会社自身が女性活躍を意識して職場改革を率先している資生堂(4911)を紹介したいと思います。
資生堂グループは、社員の80%が女性の会社です。女性管理職比率は58.1%を占め、2030年までにあらゆる階層における男女比率を50:50にする、と宣言しています。子育て支援に対しても極めて先進的かつ積極的で、事業所内保育所を先駆的に展開しているほか、育児による短時間勤務制度をいち早く導入、しかも育児期間の代替要員体制を敷いており、約1500名の育児期職員に対して、約720名のサポートスタッフが両立を支えるという徹底ぶりです。これらの取り組みが評価され、世界経済フォーラムとマッキンゼー・アンド・カンパニーによる「The Global Parity Alliance」において、2022年度のDE&I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)における最先進企業として日本企業で唯一選定されています。
資生堂のCEO魚谷雅彦氏は「世界トップになろう」を合言葉に、老舗病ともいうべき硬直的な状況に陥っていた資生堂をグローバルトップ企業に短期間で育て上げた異色のリーダーですが、まさに女性活躍の職場作りでも世界のトップをめざすこの資生堂をモデルに、一つでも多くの日本の会社が意識改革できれば、日本もまだまだ捨てたものではない、と思える気がします。
これらの、女性活躍を縁の下から支える企業に投資し、その投資資金が活かされ、社会全体が女性フレンドリーに変革していく先に、日本の明るい未来が見えて来ると私は思います。