フリーランスとして働く場合に悩ましいのが個人事業主のままがいいのか、法人化したほうが得なのかの判断。社会保険労務士の井戸美枝さんは「課税所得金額が900万円を超えると、適用される税率は法人のほうが低くなるから、法人成りを考えたほうがいい」という――。

※本稿は、井戸美枝『フリーランス大全』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。

個人事業主が法人成りするベストタイミングとは

フリーランスとして、一定金額以上の売上げを継続的にあげられるようになったら、株式会社などの法人を設立する法人化(法人成り)を検討したほうがいい場合もあります。例えば、売上高が1000万円を超えそうな時や、個人事業主として開業して2年が経過した時がそのタイミングです。

というのは、2年前の年間売上げが1000万円を超えると、消費税の納税義務が生まれるからです。しかし、個人事業主が法人化した場合、法人には2年前の売上げが存在しないため、消費税の納税義務が原則として免除されます。つまり、課税事業者になるタイミングを2年間遅らせられるのです。

また、課税所得金額が900万円を超えると、個人事業主は所得税率が33%ですが、法人税は23.2%です。課税所得金額が800万円を超えた頃あたりから、法人成りの準備を始めるといいかもしれません。

【図表】法人成りとは

個人事業主にはない法人のメリット10

個人事業主が法人を設立して「法人成り」した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。

法人成りすると、法人の資産と個人の資産は別のものとして扱われ、経営者は給料(役員報酬)を受け取れるうえ、給与所得控除を受けられるので節税にもつながります。フリーランスの場合には本人への退職金は経費として認められませんが、法人なら退職金制度を設けることもできます。

カレンダーを確認する女性の手元
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです

法人から出張手当を受け取ることも可能です。契約者と受取人を法人とした法人契約で生命保険に加入すると、保険の種類にもよるものの、保険料の一部を経費にすることもできます。

その年の収支が赤字になった場合には、赤字額を翌年以降10年間繰り越すことも可能です。そして何より、法人化には登記が不可欠で、かつ会社法に基づいた運営が行われるため、社会的な信用が高まるというメリットがあります。

【図表】法人成りのメリットとは

法人のデメリット

個人事業主が法人を設立する「法人成り」には、デメリットもあります。

井戸美枝『フリーランス大全』(エクスナレッジ)
井戸美枝『フリーランス大全』(エクスナレッジ)

法人を設立する際には、資本金や、法律で定められた「法定費用」、その他の費用が必要になります。現在では、資本金1円から株式会社を設立できますが、法定費用やその他の費用を合計すると、株式会社を設立する場合には25万円くらいの費用がかかります。

また、法人税は、均等割と法人税割で構成され、均等割は法人の規模で税額が決まるため、赤字の時でも税金の支払いがあります。従業員の人数に関わりなく、社会保険への加入が義務になり、保険料を従業員と折半するため、その負担もすることになります。

会社と個人のお金が明確に分けられ、役員報酬(給与)は毎月一定額のみが支払われます。個人事業主の時に比べて、経理や総務などの事務処理が煩雑になるというデメリットもあります。

【図表】法人成りのデメリットとは
【図表】有限責任事業組合(LLP)の特徴
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