2023年12月31日放送の「第74回NHK紅白歌合戦」に出場する韓国発のアイドルグループは7組で史上最多。ライターの村瀬まりもさんは「世界的な人気を誇るBTS(ビーティーエス)だけ知っていればいいという時代は終わった。BTSは兵役で活動休止し、K-POPの主流はもはやStray KidsやSEVENTEEN、NewJeansが属する第3世代、第4世代に移りつつある」という――。
韓国の男性アイドルグループ・ストレイ・キッズが10月10日、韓国・仁川で開催された「2023 The Fact Music Awards」のレッドカーペットに登場(2023年10月10日、韓国・仁川)
写真=Sipa USA/時事通信フォト
韓国の男性アイドルグループ・ストレイキッズが「2023 The Fact Music Awards」のレッドカーペットに登場(2023年10月10日、韓国・仁川)。左から4人目がフィリックス

「スキズを知らないなんて、おばさん」と高校生に言われた

長年、エンターテインメント業界を取材してきた筆者だが、2023年、高校生になった息子から「スキズを知らないの? だから“おばさん”って言われるんだよ」と言われたのはショックだった。K-POPのボーイズグループでStray Kids(ストレイキッズ)が人気ということは知っていたが、「スキズ」という愛称は寡聞にして知らず……。「このイケメンのフィリックスという人が、めちゃくちゃ声が低くて、顔とのギャップがやばい」と教えてくれた息子。特にスキズのファンというわけではないが、高校の80人もいる軽音楽部では「スキズ」を知らない生徒はいないらしい。

11月、都内の大学の学園祭に行くと、センターステージでは複数のダンスサークルが代わる代わるパフォーマンスを披露していたが、そのほとんどがK-POPグループのカバー。今年、飛ぶ鳥を落とす勢いで、韓国のMMA2023で大賞を取ったガールズグループ、New Jeans(ニュージーンズ)の曲が多かった。見ている学生たちもいちいち「これはなんというグループの曲?」と確認したりはしない。もはやK-POPのヒット曲は、元ジャニーズ事務所のアイドルやAKB48、坂道シリーズよりも若い世代に浸透し、共通言語となっているのだ。

12月、20代の大学生でにぎわう居酒屋で忘年会をしたときも、周囲の女子たちの会話には普通に「ミューバン(韓国KBS局の音楽番組『ミュージックバンク』)、見た?」「見た見た」という会話が差し込まれていた。彼女たちは、12月31日の大晦日もNHK紅白歌合戦ではなく、韓国から日本に生中継される「2023 MBC歌謡大祭典」を見るのかもしれない。

作成=プレジデントオンライン編集部
B=ボーイズグループ、G=ガールズグループ。※デビュー年は日韓で早い方の年

NHKはミリオンヒットを飛ばした人気グループをそろえた

しかし、NHKもK-POPファンへの対策は怠っておらず、今年も7グループが出場する。昨年の時点で既に5組出場していたのだが、今年は前回6組出た元ジャニーズ事務所のアイドルが一斉に姿を消した影響もあり、さらに2組、加えることにしたようだ。

特に集客力の高いボーイズグループ、スキズことStray Kids、セブチことSEVENTEEN(セブンティーン)、さらにいきなりグローバル市場でブレイクし、日本のファンには飢餓感があるNewJeansという3組が初めて出場することによって、視聴率アップも期待できる。

この7組はK-POP第3世代、第4世代と呼ばれるグループ。2023年、グローバル市場で史上最高の売り上げをたたき出した現在のK-POP人気は、アメリカなどで活躍する防弾少年団ことBTS(ビーティーエス)、BLACKPINK(ブラックピンク)という第3世代と、2020年以降にデビューした実力派ぞろいの第4世代の勢いが生み出していると言われる。

BTSメンバー全員が兵役に入り、その空白期に躍進する若手

しかし、2023年の大ニュースとなったように、BTSメンバー7人全員が兵役に入り、活動休止してしまったので、もはやK-POPファンの関心はその後続のグループへと移りつつあるようだ。紅白に出場する7組を、ひとつずつ紹介しよう。

Stray Kidsは文字通り「さまよう子どもたち」という意味で、同名のオーディション番組をきっかけに結成された8人組だ(デビュー時は9人)。前述した重低音ボイスの持ち主フィリックス、ダンスの天才と言われるヒョンジンがイケメンとして知られ、顔面偏差値も高いが、グループ全体をまとめているのはリーダーにして最年長のバンチャン(26歳)だ。

2023年はまさにスキズ大躍進の年で、ミニアルバム『ROCK-STAR』は初動370万枚を売り上げ、「Billboard 200」で1位を獲得。日本のオリコンランキングでも初登場1位になった。10月には初の東京ドーム公演も成功させている。

Stray Kids "CASE 143" M/V ※JYP EntertainmentのYouTubeチャンネルより

紅白でパフォーマンスする「CASE 143 -Japanese ver.-」は、2022年に発表した最大のヒット曲(YouTubeでのミュージックビデオ再生回数は1億4000万回)を日本語で歌ったもの。「初めての感情により混乱した心を“事件発生”と例え、“I LOVE YOU”を意味する暗号“143”を使って愛を表現」(ソニー・ミュージック公式サイトより)したという。

スキズのすごさは、「CASE 143」もそうだが、作詞・作曲を自分たちでしているところ。3RACHA(スリーラチャ)と呼ばれるバンチャン、チャンビン、ハンの3人が楽曲制作や編曲を手がける。ダンスの振り付けもメンバーがすることが多い。それが第2世代までのアイドルグループと大きく違うポイントだ(作詞作曲をしていたBIGBANGの例もあるが)。

「セブチ」は楽曲から公演まで自主制作する

そんなセルフプロデュース力があるということは、同じ第3世代に属するSEVENTEENにも言える。セブチは13人という大所帯だが、その中にボーカルチーム、ヒップホップチーム、パフォーマンスチームがあり、楽曲制作からダンスの振り付け、コンサートの構成に至るまでメンバーが手がけ、「自主制作ドル」とも呼ばれている。

もし、自分の子どもや会社の後輩がスキズやセブチのファンなら、「彼らは自分たちで曲を作っているんだってね。アイドルなのにすごいね」とほめると、ちょっと「わかっている感」が出せるかもしれない。

SEVENTEEN「舞い落ちる花びら(Fallin' Flower)」 ※SEVENTEEN Japan official Youtubeより

グループ名がなぜSEVENTEENなのかというと、もともとは「平均17歳の17人組」というコンセプトで始まったから。しかし、長い選考期間を経てデビュー時は13人になり、そこから8年をかけて紅白出場を果たした苦労人たちだ。2023年の売り上げはStray Kidsを超え、1年間でアルバムを1600万枚販売という前人未踏の記録を出し、韓国では「千万アーティスト」とも呼ばれている。

日本人メンバーで結成された韓国プロデュースのJO1とNiziU

SEVENTEENが紅白で歌う『舞い落ちる花びら(Fallin' Flower)』は2020年にリリースした日本での2枚目のシングル。メンバーのウジ(WOOZI)たちが作詞作曲したオリジナル曲で、メロディラインの美しいラブソングになっている。顔面偏差値はそれほど高くないが、ウジたち5人がボーカルグループとして歌い、その歌唱力がアイドルとは思えないほど高いのもセブチの魅力だ。

作成=プレジデントオンライン編集部
★=NHK紅白歌合戦出場 ※デビュー年は日韓で早い方の年
男性グループの3組目はJO1(ジェイオーワン)で、紅白は昨年に続き2回目。メンバー全員が日本人ではあるものの、韓国の芸能事務所と提携し、韓国語でも歌い、韓国の歌番組にも出演している。他にも中国やインドネシアなどでコンサートを行っており、グローバル展開に成功しつつある。

紅白で歌う「NEWSmile」は2023年リリースで、メンバーが作詞をするなど、セルフプロデュースにも乗り出した。

海外展開に長けた韓国の芸能事務所が日本でメンバーを募って結成したグループを韓国に逆輸入する、というのも第4世代の巧みな戦略だ。ガールズグループのNiziU(ニジュー)は9人チームだが8人が日本人(残る1人のニナはアメリカ国籍)。2020年にデビューして以来、日本での活動は今回で4年連続紅白に出場するほど順調だが、韓国でのデビューはコロナ禍の影響もあって実現できず、「なんちゃってK-POPグループなのでは」とも言われてきた。

韓国でデビューした人気トップグループにも日本人がいる

しかし、NiziUは満を持して2023年10月に韓国でのデビュー曲「HEARTRIS」をリリース。もちろん韓国語の歌で、音楽ランキング番組で韓国人メンバーが含まれていないグループとしては史上初の1位を獲得した。この流れにJO1なども続けるのかが注目されている。「HEARTRIS」のMVには同じ事務所に所属するStray Kidsのフィリックスも特別出演するという力の入れようだった。それなのにNiziUが今回の紅白で歌うのは、その韓国デビュー曲ではなく、2020年に出した日本語の曲「Make you happy」。「縄跳びダンス」でバズった曲ではあるのだが、なぜ選ばれたのかは謎だ。

NiziU「HEARTRIS」※JYP EntertainmentのYouTubeチャンネルより

そして、スキズ、セブチにはいないが、韓国で結成されたグループにも日本人メンバーがいるのも第3、第4世代の特徴。2015年にデビューし紅白出場4回を誇るTWICE(トゥワイス)には、モモ(平井もも)、サナ(湊﨑紗夏)、ミナ(名井南)の3人がいて、彼女たちはその名前の頭文字をつなげたMISAMO(ミサモ)というユニット名で、2023年に日本デビューした。

そのデビューシングルであり紅白でも歌う「Do not touch」は、半年足らずでYouTubeでの再生回数が1億に迫る勢いだ。日本のアイドルは紅白に出るようなレベルでも1億回にはなかなか届かず、ガールズグループの場合、1000万回も難しいことを考えると、K-POPとの圧倒的な市場規模差を感じさせられる。

MISAMO「Do not touch」※JYP EntertainmentのYouTubeチャンネルより

もともとTWICEは、YouTubeにおいて17曲のミュージックビデオの再生回数が1億回を超えており、英語のシングル曲を合わせると計23曲が再生回数1億回超え。これは世界のガールズグループの中でも最高記録で、人気は盤石でファンの裾野も広い。

「ぶんぶんダンス」がTikTokで大流行したLE SSERAFIM

また、紅白出場2回目の「ルセラ」ことLE SSERAFIM(ルセラフィム)は5人中2人が日本人。昨年の本番では、もともとはHKT48のメンバーだったサクラ(宮脇咲良)がトークを担当し、司会の櫻井翔と軽快に話していた。

2023年は「Eve, Psyche & The Bluebeard's Wife」という長いタイトルの曲でBoom boom boom boomと激しく踊るキャッチーな「ぶんぶんダンス」を披露し、TikTokなどで大流行した。紅白で歌う「UNFORGIVEN(feat. Nile Rodgers)」もYouTube再生回数が1億回を超えている。

LE SSERAFIM 「UNFORGIVEN (feat. Nile Rodgers)」※HYBE LABELSのYouTubeチャンネルより

これから日本でもブレイクしそうな他の第4世代、2023年にデビューした新人、ボーイズグループのRIIZE(ライズ)や、BLACKPINKの妹分であるBABYMONSTER(ベイビーモンスター)に日本人メンバーがいる。「近ごろの韓国のアイドルグループには日本人が入っている」ということも、ひとつの「わかっている」ポイントとして憶えておこう。

直前の12月29日に出演が発表されたNewJeansには日本人はいないが、メンバー5人は韓国、オーストラリア、ベトナムと多国籍。2023年7月にリリースしたアルバム『Get Up』は、アメリカの「ビルボード200」で初登場1位を獲得した。日本語の楽曲はなく、日本での活動は考えていないとも言われているが、日本の夏フェスに参加しており、今回、紅白にも出るということは、日本も重要なマーケットだと考えているからだろう。

紅白では生パフォーマンスをするのではなく、収録映像になるが、それはNHKとしては、それでも出てほしいほどの存在だということ。曲目は「OMG」「ETA」「Ditto」のメドレーで、始まりと終わりで5人がくっついてひと塊になる「Ditto」が特に人気だ。

NewJeansは歌のレベルもダンスのシンクロ率も高いし、美少女そろいで、ガールズグループでの随一の顔面偏差値の高さを誇る。K-POPでは歌の終わりにクローズアップでカメラに抜かれる人のことを「エンディング妖精」と呼ぶが、NewJeansメンバーは本当に妖精のようだと評判だ。

K-POPの知識が第2世代で止まっていないか?

韓国のアイドルグループで日本人が活躍するという現象は、日本のアイドル業界、音楽業界が韓国に後れを取り、優秀な才能が流出してしまっているということでもある。アイドルからすれば、韓国語を習得しなければいけないという言語の壁はあるにしても、ジャニーズ問題などで旧態依然としたイメージのある日本の芸能界より、韓国のグループに入った方が音楽性や芸術性の高い活動ができ、世界じゅうに顔と名前を知ってもらえる。当然、収入も桁違いとなれば、K-POPシーンを選ぶのは当然だろう。

第1世代、第2世代のグループは東方神起(トウホウシンキ)や少女時代(ショウジョジダイ)、BIGBANG(ビッグバン)がそうだったように、韓国から「輸出」されてきた。彼らは日本で活動して稼ぐために日本で合宿生活を送り、日本でしかリリースしない日本語の曲を歌っていたが、その展開は維持されながらも、いまやNiziUやJO1のように日本から「輸出」するという逆の動きが加速しているのだ。

日本の若者の熱狂を見ながら、そんな厳しい現実をも感じさせられる大晦日になりそうだ。

※YouTubeでのミュージックビデオ再生回数はすべて2023年12月27日現在の数字