※本稿は、藤本茂『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え 資産18億円を築いた「投資術」』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
全部見せます! ある日の取引
では実際に、ある日の私の取引履歴を時系列で追ってみることにしましょう。あまりよくできても、逆に悪くてもみなさんの参考にはならないでしょうから、「可もなく不可もない」普通の一日の動きを選んでみました。
注文回数が27回、うち当日に約定したのが17回、別の日に注文したものが約定したのが2回です。
この日の実現益は47万円超。負けてはいませんが勝ちすぎもせず、平均的な一日ですね。実現益が1000万円以上の日もあります。
ただし、この日は評価損益でいうとマイナス247万円でした。運用資金が18億円ともなると、自分が何もしなくても評価額が1%動くだけで1800万円の増減となります。この日の前の日もマイナス370万円、その前の日はプラス2600万円でした。
前日比は、毎日プラスマイナス数百万円〜数千万円の間で移行しています。
では、この表にもとづき、私のデイトレードについて、そのポイントを解説していきましょう。
成行注文ではなく指値注文
私はほとんどの場合、株を指値で注文します。板の厚さや値動きを見て、「ここまでは上がるだろう」「ここまでは下がるだろう」と予測するわけです。
どうしても「すぐほしい」と思うとき以外、成行注文はしません。もちろん、読みを外すこともありますよ。
9時7分に売ったプライム・ストラテジーのケースを見てください(図表1)。売り注文を出したとき、同社の株価は2897円でした。そこで私は、「2960円」の指値で売り注文を出しました。若干強気な数字でしたが、約定するかどうかは五分五分だとみていました。
この銘柄の場合、おそらく翌週には2960円まで上がると想定できたので、週内に上がればよし、上がらなくてもまぁよしと思っていました。
そして約定したのは……午後2時59分。引けの1分前です。読みがばっちり当たりました。投資家のなかには、15時の大引けで強制決済させる「不成注文」(指値で成行注文したものの約定しなかった場合、前場と後場の取引時間最後の「引け」に成行注文となる注文)を出しているトレーダーも少なくありません。
とくにこの日は金曜だったので、「土日を挟むのは避けたい」と考えるトレーダーが増えたと考えられ、大引けギリギリでの決済となりました。
これだけで6万円以上の儲けですから、普通のサラリーマンの一日分より稼いでいるでしょう。こんなふうに、読みがバチッとはまったときは嬉しいですね。
究極の認知症予防
この日の取引を見ると、朝の5時台から注文を出していることがわかると思います。
市場が開くのは午前9時ですが、注文自体は24時間可能です。
まず朝起きてニュースやADR(米国預託証券)を確認し、よさそうな銘柄についてチャートで確認します。チャートを見たうえで「買い」または「売り」だと判断すれば、そこで注文を出すというわけです。
前場と後場の間にも、日経225先物の数字は動いているので、昼休み中もその動きを確認。絶えず材料となる情報をチェックして、そこから自分の頭で考えることを重視しています。これぞ究極の認知症防止、“脳トレ”かもしれません。
また書籍で詳しく説明していますが、ニュースで好材料が出たからといって、私が考える適正価格以上に株価が上がってしまったものは買いません。それは「買われすぎ」であって、大きく下落する可能性が高いからです。
株というのは、買ったときの値段からどう動くかによって、損益が生じるものです。その銘柄の適正価格を自分なりに判断することが肝になります。
一番の勝負は午前9時台
ぜひ注文した時刻に注目してみてください。注文・約定は午前9時台に集中しています。午前10時をすぎれば、一日の半分は終わったようなものです。この日は次いで午前10時台が多かったですね。
続いて取引が集中する時間が、後場の寄り付き直後と大引け直前です。昼休みの間になにか材料が出てくることはそう多くないですが、昼休みに注文を出す会社員などの個人投資家が一定数いることも影響しているとみられます。
そしてまたラスト30分になると、持ち越したい人の買いと持ち越したくない人の買いの動きが活発になります。とくにデイトレーダーに多い考え方ですが、希望していた価格まで上がらない、または下がらない場合でも、日をまたぐのを防ぐために注文が増える傾向があります。週末はさらにその傾向が強いです。
逆に13時台は、どうしても取引が落ち着く傾向にあります。この日も1回しか注文していません。デイトレーダーなら、ずっと取引画面を見ている必要はありますが、取引が活発な時間とそうでない時間を理解しておくことで、市場が開いている時間のなかでもより力を入れるべきときと抜いてもいいときがわかるようになります。
決算に期待して購入
この日買った銘柄のうち、「信越化学工業」「ジーテクト」は翌週・翌々週に発表される決算に向けて購入した株です。このように、決算が近くなってくると「決算で上がるだろう株」が安くなるタイミングを計って、購入することが重要です。
週単位での売買なので、厳密にはデイトレードではありませんが、決算で勝負するにはあらかじめの仕込みが欠かせません。
大手化学メーカーの信越化学工業は、時価総額が約9兆1600億円という大型株で、私が得意とする小型株ではありませんが、塩化ビニル樹脂やシリコンウエハーなどで世界的に高いシェアを有しており、投資家からの人気がとても高い銘柄です。
同社の株は2023年6月に入り上場来高値を更新。第1四半期の決算は減益予想でしたが、2023年3月期の連結決算では純利益が過去最高であり、中長期的には業績の拡大が期待できることから、仮に前年同期比マイナスだったとしても、すでに市場はそれを織り込み済みで、決算で上がるはずだと考えました。
決算自体は市場の予想どおり減益。しかし、同時に1000億円もの自社株買いを発表しました。自社株買いは、株価上昇の好材料となります。
ただ、決算翌日に折悪く日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正を表明したことも相まって、この日は全体的に株価が下がる傾向にあり、期待どおりの上げ幅にはなりませんでした。
自信をもって買える銘柄
ジーテクトも同様に、決算で高くなることを見越して購入した株です。ホンダ系の車体プレスメーカーであるジーテクトは2023年6月、今後の事業戦略にかかる新たな経営指標の目標値や株主還元方針などを公表しました。
そこでは新たに株主資本に対する配当総額の割合である株主資本配当率(DOE)を指標として導入し、数値目標として2023年3月期は1.6%、2026年3月期に2.0%、2031年3月期に3.0%を目指す方針を明らかにしました。
これを受けて、同社の株は年初来高値を更新。この株を持っていれば、今後2030年にかけて伸びていくはずです。私は94歳になる2030年まで売買しながら、この株を持っているつもりです。
この2社とも、仮に次回の決算で上がらなくても、「いつか必ず上がる株」だということも重要です。だからこそ自信を持って買えるんです。「決算で上がるかもしれない。だけど今後の見通しは暗い」ような株に手を出すべきじゃありません。
取引履歴のすべてをノートに記録する理由
大引けしたらその日の反省取引と同じくらい重要なのが、取引後の反省です。たまたま勝てたからといって喜んでいたのでは、投資家として成長しません。
「なぜ勝てたのか?」「なぜ負けたのか?」「もう少しいい買い場(売り場)があったのではないか?」と考えることで、少しずつ成長することができるのです。
1つの取引の終わりは、次の取引の始まりです。長く取引をしていると、その銘柄に特有のクセのようなものがわかってきます。経験を重ねるほど、それがわかってくるので、判断もより早く、精度が高まります。
私は取引履歴のすべてを逐一ノートに記録しています。一行にいつ買った、いつ売った、どれだけのプラスになった、などの情報を、前場分は前場引け後に、後場分は大引け後に記入するのです。これは昔から続けている習慣です。
ノートは日経平均や資産総額の推移を記したノートと、個別銘柄の取引履歴を記したノートに分けており、個別銘柄を記したノートはすでに50冊近くにのぼります。大体5カ月ごとに1冊新しいノートになるペースです。
常時80銘柄を保有していると、ノートのどのページに記入したかを覚えることも難しいので、「どのページに記入したか」を記入したメモもあります。
取引で絶対やってはいけないこと
「最高のタイミングで買う(売る)」というのは、いまでも難しいものです。というより、天井で売り、底値で買うことを目指してはいけません。そこをゴールにしてしまうと、まだ底が見えていない時点で「いまが底だ」と買ってしまい、損失を被ることがあります。
それよりは「いかに天井、底値付近で売買することができたか」を指標にすべきでしょう。
自分が売買したタイミングとチャートの動きがあっていれば、まず間違っていなかったとみることができます。しかし、外れた場合には、それがチャートと異なる動きをしたからなのか、チャートを読み間違えたのか、何か材料が出たのか、といったことを考察していきます。
また、多くの銘柄を保有しているので、取引時間中にすべての銘柄の値動きを確認することはできません。とくに材料もないのに、値が動いているケースは珍しくありませんから、そのような銘柄を確認し、翌日に売買する候補とします。
あとは地味な作業ですが、ノートに書いた取引履歴と口座の銘柄情報を突き合わせ、持ち株数が一致しているかの確認も日々行っています。いったんここがズレてしまうと、今後の取引すべてがズレてくるわけですからね。
地味な作業だからこそ重要なのです。
常時80銘柄ほどをトレード
私の取引銘柄は、その時々によって変化します。値上がりすれば売ってしまうわけですから、いま手元にない銘柄もたくさんあります。売ったり買ったりを繰り返しながら、常に80銘柄ほどは保有しています。
2023年3月末時点において短期売買目的で保有している銘柄は、図表2のようになっています。
あくまで2023年3月時点のものなので、この時点では利確してしまっているけれど新たに買い直したもの、新たに購入した銘柄も複数あります。これはすべて岩井コスモ証券の口座で保有しているもので、この口座には運用資産が14億円程度入っています。
また保有銘柄としては、別の証券口座で管理している長期保有銘柄も20銘柄ほど加わります。長期で保有する銘柄は、トヨタ自動車、本田技研工業、三井物産、丸紅など、安定的な収益を上げている大型銘柄が中心です。
毎日引け後に自分が持っている口座すべての資産総額を足し合わせており、合計で18億円ほどというわけです。
デイトレード目的で保有している銘柄は有名な企業もありますが、みなさんが知らないような企業が多いかもしれません。業種も特定の分野に偏っていないことがわかってもらえるかと思います。とはいえ、もともと私は、自動車や半導体といった銘柄が好きなので、そのような銘柄が多いですね。
不良在庫をたくさん抱えている
私の保有銘柄を紹介しましたが、「この銘柄を買えばいい」とか「この銘柄がオススメ」という意味で紹介したわけではありません。株価が上がってしまったので利確して手を離れた株も多いですし、基本的にあまり損切りしないので、長期的に塩漬けされている銘柄も複数あるからです。
運用資産は18億円ありますが、利益の出た株はすぐに売り、そうでない株はそのままなので、評価損益はマイナス2億円以上あります。なので「この株を買えば儲かるんだな」とは安易に思わないでください。儲かったら売ってしまうので、不良在庫をいっぱい抱えているんです(苦笑)。
ちなみに、投資信託はまったくやりません。投資信託は手数料も管理費も取られますから、下手したら月々にかかる諸費用で運用益がなくなります。
投資信託に回す費用があるなら個別銘柄で取引したほうがよっぽどいいですね。