自民党女性局を率いる松川るい参議院議員が女性局のフランス研修で、エッフェル塔ポーズで撮った写真をSNSに投稿して大炎上したのは、2023年8月のこと。その後松川氏は女性局長を辞任した。野田聖子氏は「松川議員の政治活動を知らないで、一枚の写真ですべてを決めてしまわないでほしい。反省の意を示しても叩かれ続け、特に女性に対する世の中の叩き方は執拗だ。これでは議員を目指す人のやる気を削ぐのではないか」という――。
少子化解決のカギは女性こそが握っていると語る野田聖子氏。衆議院議員・自由民主党情報通信戦略調査会長。
撮影=小林久井
少子化解決のカギは女性こそが握っていると語る野田聖子氏。衆議院議員・自由民主党情報通信戦略調査会長。

女性議員がここまで叩かれる理由

まず松川るい議員の炎上問題からお話ししましょう。

炎上したのは、テレビや新聞などのオールドメディアではなくSNSですよね。SNSは炎上するほどフォロワーが増えるという特質がありますから、炎上するのはやむを得ません。私も先日、東京駅の売店で買ったプリンとサンドウィッチをSNSに投稿したら「自分の金で買ったのか」などとすごく叩かれましたから。

SNSのこわいところは、投稿した画像が独り歩きして錯覚させてしまうところ。見る人の目を曇らせてしまうのです。

松川議員を批判した人も、彼女の普段の政治活動や人柄を知ろうともせず、写真一枚で決めてしまうことに違和感を覚えます。反省の意を示しても、これでもかというほど叩かれる。SNSはそういう世界ですから、あまりそこをスタンダードに考えてほしくないですし、それにオールドメディアがのってしまうこともこわいですね。

マイノリティを総攻撃して何が生まれるのか

それにしても、なぜあそこまで炎上したのか。もはや男性の悪事というのは、メディアのほうも「ああ、またか」とある意味での諦めや慣れが生じており、あまりニュースになりません。でも女性は少数だから、ニュースとしてはイレギュラーになる。だから女性に対する叩き方が執拗しつようですよね。そこまでやって何が生まれてくるのかなと思うくらい。

今の女性議員には小さい子どもを持つ人も多く、彼女たちが叩かれて傷つくのは、彼女の子どもたちです。子どもたちが傷つくことは母としては耐えがたい。そこは女性議員同士でも支え合いますが、こういう失敗が許されずに、女性議員のいっときのふるまいを総攻撃することは、その背後にいる子どもたちの心まで攻撃していることになりますし、議員を目指す女性のやる気を削ぐことにもなるのではないでしょうか。

少子化は国防の危機

結局、女性議員が増えないと何が起こるのか。女性国会議員が1割のままだと、この先どうなってしまうのか。それは少子化問題が一向に解決されないということに繋がります。

何となく「今の日本の不安材料は少子化だよね」ということは、多くの人が認識していると思いますが実際、少子化は不安材料どころか「国防の危機」なんです。

30年前は、これほど高齢化でもなかったし、少子化でもなかったし、低成長経済でもなかった。昔はこれだけの人がいて、これだけのことができた、という環境がありました。しかし今は人手不足で、昔できたことができなくなっています。

たとえば、2025年に開催される大阪万博の建設現場では、人手が足りなくて人件費が高騰し、予算建設費を大幅に上回るということが現実的に起きています。また国防についても、本来の危機的なときに前線に立つマンパワーが激減しています。あまり知られていませんが、自衛隊の士の階級の半分近くが約2年~3年を1任期として勤務する任期制自衛官になっているのも事実です。

少子化が国防の危機であるにもかかわらず、男性やいわゆる政策通といわれる人には、その深刻さが伝わっていないのです。

衆議院議員 野田聖子氏
撮影=小林久井
衆議院議員 野田聖子氏

少子化解決のカギを握っているのは女性で、男性ではない

日本の少子化というのは、戦争で人口が減ったわけではなく、端的に「子どもが産まれない」ということです。そこにフォーカスすると、やはりこの日本社会で女性が「子どもを産む」ことができない問題がどこかにある。その問題を探し出し、分析し、対応していかなくてはいけないのに、国政を担う人の9割が男性なので、なかなか対応できない。毎月生理があり、妊娠する可能性があり、更年期を迎える側の知見を有する女性は1割。マイノリティなので、重要なことが伝わりにくいのです。

少子化が、国防や経済産業に思い切りダメージを与えているにもかかわらず、いつまでたっても「女性がどうやったら赤ちゃんを産んでくれるかな」といっているのは、9割の男性がその問題意識を持てないからでしょう。問題意識を持っているのは女性なのに、リソースとしての女性の重要性が全く理解されていない。人口を増やし、国を成長させるには、女性議員を増やし、女性が生きやすい社会をつくることが必要なのに、この国ではそれが認識されていないのです。

立候補はけもの道を歩かされるほどの挑戦

私が30年前に初当選したときは、衆議院自民党に女性議員はゼロでしたから、女性議員自体は増えたといえます。とはいえ、現在の衆議院の女性議員はたった10%ですから、国際的に見てもかなり低い水準です。

なぜ日本社会では、女性議員が増えないのでしょうか。

選挙制度の観点からいうと、1994年に衆議院総選挙が小選挙区比例代表並立制へ移行した時点で、選挙区支部長はほとんど男性だったからです。その状況を今もひっくり返せずにいます。

空く選挙区は、相手候補が強いところで、女性にとっては、けもの道を歩かされるようなもの。その選挙区から出馬する女性は、負荷が重いだけでなく、負けると「女性は無能だから」というイメージが植えつけられてしまう。

また立候補者のほとんどが男性ですから、女性は男性以上に力強いことを言わないと、支援者や有権者に「やっぱり女は」と言われてしまう。そこで女性たちは生き残るために、男勝りなことを言って可愛がられるか、嫌われるか……、そういうことがずっとつづいているのです。男性と同じことを言っていたのでは、少子化社会は変わらないのに。

衆議院議員 野田聖子氏
撮影=小林久井
衆議院議員 野田聖子氏

地方で足場をつくってから国政に

本来の選挙のあり方は、地方支部から推薦された候補者に対し、党が公認という形でお墨つきを与えるものです。

私自身、もともと岐阜県の県議会議員を経て、自民党の公認で議席をとってきた人間です。郵政民営化のときは反対の立場だったため当然、公認はとれませんでしたが、岐阜県連の推薦、公認をいただいたこともあって生き残れました。今の私があるのは、地域支援者の方たちのおかげなのです。

ところが、今の自民党の女性たちは公募の人が多く、その地域の方々との縁が薄いため、一回は勢いで当選するけれど、そのあとがつづきません。やはり選挙は、地方議会で足場をつくり、地域住民との信頼のもとに出るほうが、持続性がある。私の経験上、そう思います。

誰でも政治家になれる可能性がある

そこで私は、岐阜県で女性のための私塾を始めました。政治家になりたい人も、なりたくない人も誰でも参加OK。なぜ私が始めたかというと、私だからできるのではなく、誰でも政治家になれる可能性があることを伝えたかったからです。

私はもともと政治家を目指していたわけでもありませんし、どちらかというと政治に無関心で、投票に行ったこともありませんでした。そんな私がここまでこられたのも、私によい影響を与えてくださった方々と安定的な政党、そして私の正直な政策を伝える舞台となる選挙への出馬機会を与えてくれたこと、そして何より岐阜県でつながった人たちの存在があったからです。他に男性に勝てることは……酒量しかない(笑)。

そんな私自身の思いを伝えたい、心のハードルを下げたいと私塾を始めたわけですが、塾には志の高い女性たちが集まり、議員になる人も出始めました。

こういうささやかな塾からでも、議員や市長になった人が多くいるよ、と当時、自民党の女性局長だった三原じゅん子参議院議員に話したら「わかりました、党でもやってみます」と『女性未来塾』という政治塾をスタートしたのです。そのときどきの女性局長が担当で、私は終身校長という立場です。

衆議院議員 野田聖子氏
撮影=小林久井
衆議院議員 野田聖子氏

女性議員のウエイティングリストを

そこから派生した「女性未来塾特別講座 女性候補者育成コース」は、本気で議員を目指す人に向けたコースで、すでに第3期まで終了。令和5年10月から第4期がスタートしています。これまで多くの卒塾生が選挙にチャレンジし、実際に議員として活躍していますが、同時に私たちのほうでは卒塾生のリストをつくり、各県連の会長や幹事長に届けるといったことも始めました。

リストを届けることで、何らかの事情で議席が空いて「誰か候補者はいないか」となったときに、そのリストから探すことができるからです。これまでは、周りを見渡して「君が出なさい」と、身近な仲間や秘書などの男性が選ばれていましたが、このウエイティングリストがあることで、女性にもチャンスが出てくるのです。

政治塾に応募される方は、いろいろな人がいらっしゃいます。子どもを大切にしたいとか、女性の目線で外交をやりたいとか、そういう志を持って入ってこられます。

冒頭で話した松川議員は、女性局長としてこの政治塾を運営してくれた人でもありますから、やはり彼女の政治活動は総合的に見てあげたいですね。

党の代弁者ではなく有権者の代弁者として

ただし女性が選挙に出るときは、有権者や支援者が候補者にセクハラやパワハラを行う「票ハラスメント」のような、つらい思いをしなくてはいけないというイメージがあります。

これは日本に限ったことではありませんが、正直、女性候補者がハラスメントを受けると、すごく弱体化します。それゆえ、そこは候補者やスタッフ、支援者が毅然きぜんとした対応ができる環境を整備することが必要だと思っています。

もちろん女性だけでなく、男性でもひどい目に遭う人はいます。ですから男女問わず、ハラスメントは犯罪というコンセンサスをつくっていかないといけません。

これまで私も厳しい選挙ばかりでしたが、それでも当選できたのは、私の見ている先が自民党ではなく、選挙区だったから。自民党の代弁者ではなく、私を信じてくれている有権者の代弁者だったので、「こども家庭庁」といったいわゆる自民党のイメージとは違う政策を訴え続けても、我慢強く見守ってもらえたのかなと思っています。

衆議院議員 野田聖子氏
撮影=小林久井
衆議院議員 野田聖子氏

女性が政治活動するのはふつうのこと

私にとって政治は、いわゆる弱い者のために行うもの。これは昔から変わりません。たまたま幼・小・中・高・大とキリスト教の学校に通い、「神のもとに平等」という教えが自然に身に付いたんだと思います。

私は政治家という法律をつくる仕事に大きなやりがいを感じています。

女性が「政治家を目指す」というと、ちょっと変わった人と見られそうですが、同志の集まりに参加すると、一人ではない、ふつうのことという感覚が得られますし、勇気ももらえます。

少しでも政治に興味のある方は、ぜひ一度、政治塾に参加してほしいですね。