資産価値が変わりにくい“いい家”の条件とはどんなのもなのか。金融・投資コンサルタントの永田雄三さんは「資産価値の下がらない『いい家』の条件には、立地、管理、価格の3つのポイントがある」という――。

※本稿は、永田 雄三『1000万円を貯めた女子100人がやったこと、やめたことリスト』(日経BP)の一部を再編集したものです。

持家と賃貸はどちらがお得なのか

家を買うのは本当にお得なのか。それを比較していただくために、家を買うとついてくるかもしれない3大特典も考慮して、「①家賃15万円の賃貸物件に35年住んだ場合」と、「②フルローン(物件の全額をローンで借りること)を組んで5000万円の物件を購入した場合」とで、お金の流れを比べたのが次の表です。①は、団信程度の保障内容の保険に入ることを想定しています。

① 家賃15万円の賃貸物件
家賃 15万円×12カ月×35年=6300万円
更新料 15万円×17回(2年に1回更新)=255万円
住宅ローンの返済 0円
保険料(死亡保障) 3000万円※65歳まで 毎月保険料 8775円×12カ月×30年=315万円※保険はほとんどが30年満期のため、ここでも30年で計算
保険料(ガン・疾病保障)入院日額1万円 約5000円×12カ月×35年=210万円
住宅ローン控除 0円(適用外)
住宅資産 0円
修繕費・固定資産税 なし

かかるお金の合計7080万円 手元に残るものはなし
*65歳以降も家賃は発生。毎年180万円、2年に1回さらに15万円かかる。

モダンな外観の一軒家
写真=iStock.com/onurdongel
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持家の方がかかるお金は多くなるが…

② 持家(5000万円の家をフルローンで購入)

家賃 0円
住宅ローンの返済 フラット35 11疾病保障付(0.2%)、35年固定金利(1.8%)プラン
毎月返済額 17万1362円×12カ月×35年=7197万円
保険料(死亡保障) 0円(住宅ローンの付帯保険に含まれる)
保険料(ガン・疾病保障) 0円(住宅ローンの付帯保険に含まれる)
住宅ローン控除 年収800万円 夫・妻・子2人の場合、10年間で約350万円が控除される
住宅資産 いい物件を選べば35年後でも8割ぐらいはあり得る。その場合は4000万円
修繕費・固定資産税 1200万円(内訳:修繕費 10年ごとに200万円、35年で500万円。固定資産税 毎年20万円、35年で700万円)

かかるお金の合計8047万円 手元には「家(この場合の資産価値は4000万円)」が残る
*65歳以降、家賃に該当するような費用は発生しない。

このシミュレーションでは、家を買ったほうが、かかるお金は多くなりました。しかし、家の資産価値、そして65歳以降も住み続けられる家があることを考えると、私は、②のほうがお得だし豊かだと思うのです。みなさんはどう思われますか?

今の自分にぴったりの家を買うのは正解?

「今、自分が欲しい家」より「未来で誰かが欲しくなる家」を買う

【相談者A】家を買ったほうがお得かも……と思っていたら、ちょうど近所の不動産屋さんに、こんな物件情報が貼ってありました。駅から徒歩15分なのはちょっと遠いけど、世田谷の閑静な住宅街の中にあって新築、1K、30平米、4000万円! 今の職場にも通いやすいし、まさにぴったりかなと思ったのですが、どうでしょう?

家を買ってみてもいいかも、と思ってくれたのは前進ですが、それはダメ! あなた向けの家ではありません!

家は不動産である以上、「どこにどんな家を買うか」が最も重要です。

そこでここからは、具体的にどこにどんな家を買えばいいのかをお伝えします。相談にきた女子たちが、単身者用のマンションで1R~2LDKを購入するときに、実際にアドバイスしている内容です。

2023年の今からずっと未来に伸びている道路
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よくやってしまう「間違った家選び」

まず、先ほどの女子をはじめ、みなさんがよくやってしまう「間違った家選び」から話します。

それは、「今」の自分のライフスタイルで家を選んでしまうことです。

繰り返しになりますが、大前提として、家は不動産です。何があっても、「動かない」資産です。

一方、ライフスタイルは、将来、いろいろな事情で自分の意志にかかわらず変化します。たとえば、転職・倒産・リストラ等で職場が変わったり、結婚・離婚したり、家族の人数が増えたり減ったり……。

私が家選びをお手伝いした女子たちも、ほとんどが購入時点から、転職、結婚、出産等でライフスタイルが変化しています。

ですので、人生の変動要因を加味せずに、「今」の自分のライフスタイルで家を選ぶのは極めて危険です。もし、「今」の自分のライフスタイルに合わせて家を購入すると、

勤務先が変わって、家と職場の距離がめちゃめちゃ遠くなった
独身でいるつもりが結婚することになった
一緒に住み始めたら、狭いだけじゃなく、とにかく2人だと住みにくい家だった
離婚をしたいが、家のローン問題で離婚がスムーズにできない
テレワークになって、昼間家にいると、音が気になる

などの問題が後々起こりやすくなります。そしていざ、そういう事態になり「家を売らなければ」となっても、そこは「あなたの今のライフスタイル基準の家」。

「売ろう」「貸そう」と思っても、立地や間取りの関係でなかなかできない可能性があるのです。

購入した金額より下がらない家

こうしたリスク回避のためにも不動産購入時に守るべきポイントが2つあります。

不動産購入時のポイント
ルール1 購入した金額より、金額が下がらない家を買う。
ルール2 賃貸に出したときに、支払っているローンよりも家賃が上回る家を買う。
ルール1 購入した金額より、金額が下がらない家を買う

家に限らずほとんどのものは、「買った瞬間、値段が下がる」ようにできています。

たとえば最新のスマートフォンを買ったとします。そのまま開封しなくても、買い取り価格はどんなに高くても1~2割は安くなります。

そう、「誰かが所有した」瞬間、価値が下がるものはとても多いのです。

「新築物件」も同じです。

新築の物件を購入して、住むことなくそのまままた売りに出したとします。するとやっぱり、ほとんどの物件は1~2割近くは価格が下落する(希少性の高い立地の不動産は別。新築で購入しても価値が上がる物件もあります)。

さらに、新築の不動産の価格には、ゼネコン・販売会社の手数料が必ず上乗せされています。

一方、中古不動産は、木造でもない限り、極端に価格が下がることはあまりありません。

積み上げたコインの上に載っているミニチュアハウス
写真=iStock.com/malerapaso
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買ったときと同じ価格で売れる家は損

ちなみに、不動産の売買には、仲介業者に払う手数料、融資の手数料、契約にともなう印紙代などの高額の経費(物件価格の7~8%程度が一般的)がかかります。ですから、「買ったときと同じ価格で売れる家」では、実は損。

買ったときよりも安くしか売れない物件では、大幅な損失になり、結果として、住宅ローンで購入した家を売却しても、ローンだけが残るという最悪の事態になる可能性もあります。

というわけで、「新築物件は買ってはいけない(ごくひと握りの希少物件は除く)」が、家選びのルール1です。その理由は、いざ売りたいときに価格(これを「リセールバリュー」といいます)が下がってしまうから。

ごくひと握りの希少物件を見分ける実力と経験のない方は、新築か、中古か、どちらかでいえば、中古がおすすめです。

賃貸に出した時に家賃がローンを上回る家

ルール2 賃貸に出したときに、支払っているローンよりも家賃が上回る家を買う

マイホームを購入してから、不測の事態で収入が下がり、ローンが支払えない状況になる可能性は誰しもあります。

その際、「家を売る」前に考えてほしいのが、買った家を一時的に人に貸して自分たちはぐっと安い家賃の家に暮らしたり、実家にしばらく住まわせてもらう、という選択です。

つまり、買った家を賃貸に出すそのときに、

支払っているローンの金額<家賃として得る金額

となる家を選ぶこと。これが2つめのルールです。

多くの人は不動産の購入を「自分が住むための家を買うこと」と考えてしまいがちですが、お伝えしてきたように、私は本来、不動産は資産形成の1つだと思っています。資産形成という言葉を聞くと、貯金・株・投資信託・金投資等を想像しますが、「持っている家を人に貸す」も立派な資産形成の手段。

しかも、不動産価格は株や債券などと比べても長らく安定していますし、5年後、10年後の家賃もよほどの天災や経済変化が起きなければ、変動しません(実際、いま賃貸に住んでいる方は、コロナ禍で家賃が変わりましたか?)。

その意味で、投資を仕事にしていない女性であれば、不動産投資(マイホーム購入)は、実は最も着実で効果的な資産形成なのです。

というわけで、「家を買うのはリスクだ」と思っている方こそ、「賃貸に出したときに、ローン支払い額より高く貸せる家」を選ぶことが大切です。

積み上げたコインとつり合いがとれているミニチュアハウス
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資産価値が変わりにくい「いい家」のポイント3つ

では、「購入した金額より、価格が下がらない家」「賃貸に出したときに、支払っているローンよりも家賃が上回る家」とはどのような物件か。ここでは3つのポイントをお話しします。

ポイント1 東京5区の駅近物件

1つめのポイントは、立地です。

東京都の港区・中央区・千代田区・渋谷区・新宿区の5区で、駅から徒歩5分以内がベストです(駅自体は、どの路線でもOKです)。

なぜこの5区か、というと、それは過去の地価を見れば明らかです。

みなさんご存じの通り、今、日本は人口が減り始めています。つまり、これから先は、家が余っていく時代がやってくるということ。

不動産がリスクとなるのは、そんな人口が減っている地域や、これから減るであろう地域で買う場合です。

渋谷か新宿に出やすいか

一方、先ほどの5区は、再開発が進み、今後も東京の中でも有数の人気エリアであり続けるでしょう。特に、渋谷駅や新宿駅を通る路線はいいですね。理由は、地方から出てきた人は、だいたい「渋谷」か「新宿」に出てきて家を探すためです。

渋谷駅や新宿駅を通る路線沿いなら、将来、売ったり貸したりしやすい、また価値も大幅に変わらない可能性が高いということです。

【相談者B】品川区とか杉並区とかはどうですか? 中野区も、最近人気と聞きますが

はい、当然の疑問ですよね。先ほどの5区以外でも、今後も人気(=地価が下がらない)が続きそうなところは、検討していいと思います。実際、私が購入をサポートした女性たちは、品川区だったり目黒区だったり、それぞれの便のいいところに物件を見つけていました。

ただし、先ほどの5区以外の立地は、大きな駅の近くはいいかもしれませんが、それ以外ではすでに地価が下がり始めているところ、高齢化が深刻な地域も多くあります。5区以外から選ぶ際には、より入念に検討することをおすすめします。

新宿駅南口
写真=iStock.com/bennymarty
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東京以外の大都市は買ってもいい?

【相談者C】東京以外はどうですか? 大阪在住なんですけど……

東京以外については、ターミナル駅の近く、たとえば横浜・名古屋・京都・大阪・博多のような大都市ならば、駅近物件は考えてもいいと思います。それ以外の地域なら県庁所在地や大きなターミナル駅の駅近となりますが、

東京<それ以外の大都市<地方都市

という具合に、物件の価格低下のリスクは上がります。

ですから、リスクがより高いエリアを選ぶ場合には、「将来的にその街がどうなるかを予想して検討」していただきたいと思います。

たとえば、名古屋であれば、リニア中央新幹線の計画が進んでいて、今後ますます便利になることが予想されます。

また、2023年4月には大阪のIR(カジノを含む統合型リゾート)計画を国が認定しましたから、この周辺はすでに、新たな価値が生まれ始めているはずです。

こうした、今後、街としての魅力がさらに上がっていきそうなところは購入を検討してOK。

それ以外は賃貸を選んだほうがまず正解だと思います。

住みたい地域があって、どこにしたらいいのか迷ったら、たとえば、都市計画を確認してから、価値が上がりそうな場所を探してみてはどうでしょうか。

自治体の役所に問い合わせれば、計画について教えてくれます。場所によっては、都市計画の模型が役所内に置かれていることもあるので、役所には一度行ってみるといいと思います。

もちろん、都市計画は変わることもありますから、100%価値が上がるとは限りません。それでも、調べる意味はあります。家は何千万円が普通という超高額の買い物。ぜひ、単なるイメージだけではなく、「資産価値」としての側面、「将来的に価値が上がりそうかどうか」という視点を持って選んでください。

駅距離は不動産価値に直結する

【相談者D】駅から徒歩5分は狭すぎませんか? もう少し探せるエリアを広げたいのですが

そうですね、「駅近」は、実際に歩いてみて駅から5分以内が理想だと私は思っています。

なぜなら、不動産の広告等で「駅から徒歩○○分」との表示がありますが、実際に歩くと表示とは2分くらいの相違があるからです。つまり、5分と書いてあれば、実際は7分程度かかるということ。8分以内なら駅近物件といえますが、より付加価値を考えるなら5分以内がベストでしょう。

駅からの距離は、不動産の価格に直結します。妥協してはいけないポイントです。

駅の改札を歩く人たち
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管理がいいマンションか

ポイント2 管理のいいマンション

ポイントの2つめは、「管理のいいマンション」を選ぶこと。20代、30代で都心の駅近物件を買おうとすると、現実的には、どうしても「中古マンション」になります。

しかも、自分の年齢と同じくらいか、それより古いマンションを検討しなければいけないでしょう。

だからこそ必ずチェックすべきは「管理」です。

きちんと管理されているマンションであれば、築30年でもきれいだし、管理が行き届いていない場合は、築15年でもボロボロだったりします。今の段階で管理が悪く、ボロボロであれば、行く末が案じられますね。

管理がしっかりしているかどうかをきちんと見極めるポイントは次の3つです。

① エントランスやエレベーターなど共用部分がきれいかどうか。
② 修繕計画があるか。
③ 管理費・修繕積立金がちゃんと集められているか。

管理費は世帯数が多いほど安くなります。もし、同じ価格のマンションで迷ったら、管理費が安くおさえられる世帯数の多いほうを選びましょう。

購入する部屋のタイプにもよりますが、50戸ある築年数の経ったマンションであれば、だいたい管理費は1万円くらいではないでしょうか。

3000万円台の物件を35年ローンで

ポイント3 自分が買える最高価格のマンション

立地と駅からの距離、管理以外に見るべきは、「価格」です。高すぎる家はローンが組めません。

価格はみなさんの資産状況や年収によって払える範囲が変わってくるので一概にはいえませんが、独身時代に買うのであれば、2000万~3000万円台のマンションがいいと思います。

理由は「住宅ローン」です。

まず住宅ローンが借りやすいのは、年収の5~6倍だといわれています。年収300万円なら1800万円くらい、年収400万円なら2400万円くらい、というわけです。

さらに、床面積がだいたい40m2以上じゃないと、住宅ローンは組めません。狭すぎるワンルームマンションではダメ、ということです。

40m2以上の中古マンションだと、最低でも2000万円くらいでしょう。こうした理由から、私が直接指導している女子たちは、3000万円台の物件を購入して、35年ローンで組んでいます。

永田 雄三『1000万円を貯めた女子100人がやったこと、やめたことリスト』(日経BP)
永田 雄三『1000万円を貯めた女子100人がやったこと、やめたことリスト』(日経BP)

ちなみに、独身女性のローン事情ですが、ある程度の年収があり、正規雇用であれば、銀行はたいていフルローン(物件価格の全額をローンでまかなうこと)で貸してくれます。

しかし、年収が低い場合や非正規雇用の場合、ローンの審査が通らないこともあります。その際、もし金融機関から、「頭金(ローンを組む際に、その一部を最初にまとめて支払うお金)を払ってほしい」と条件を出された場合に限っては、最小限の頭金を入れましょう。

また、不動産売買の手数料などの経費(物件価格の7~8%程度が一般的)は、銀行で貸してくれないケースが多いので、現金で用意しておきましょう。