AIやロボットの登場で失われる職業は少なくない。そんな時代でも一生お金に困らない力を子どもに身に付けさせるためにはどうすればいいか。お笑い芸人で資産運用にも詳しいパックンことパトリック・ハーランさんとエコノミストのエミン・ユルマズさんの対談をお届けする――。
エコノミストのエミン・ユルマズさん(右)とお笑い芸人のパックンさん
撮影=市来朋久
エコノミストのエミン・ユルマズさん(右)とお笑い芸人のパックンさん

必要なのは節約の方法と投資の方法を学ぶこと

【パトリック・ハーラン(以下パックン)】子どもの金銭教育をどうするか。私は子どもには堅い金銭感覚を植え付けようとしているけれど、どうかな。大人になれば「わー、スポーツカーってかっこいい」「パパが言っていた貯蓄は全然楽しくない」といってお金を使ってしまうかもしれない。

【エミン・ユルマルズ(以下エミン)】そうだね。パパの貯蓄は楽しくないから、ギャンブラーのエミンおじさんのところに行って悪いこと教えてもらおう、ってなるかもしれないね(笑)。

【パックン】だから、将来のことはわからない。エミンさんはポーカーが好きだからギャンブラーですけど、老後の資金までは使っていないでしょ。

【エミン】もちろん。でもポーカーは100歳までやりたいと思っているよ。

【パックン】余裕を持った上でポーカーをしている。

【エミン】そう。エンターテインメントとしてね。

【パックン】どんな頑張っても一生お金に困らない生活が手に入る保証はないけれど、確率を上げることはできる。ポイントは2つあると思う。1つは稼ぐ力を身に付けること。前回の対談で話題になったヒューマンキャピタル(人的資本)、お金を稼ぐ能力を持った人になること。そしてもう一つは節約の仕方や投資の仕方などを身に付ける。

【エミン】それは大事だと思う。

稼げる子どもを育てるには「頭の柔軟性」が重要

【パックン】これからの世界で、どんな人が人的資本の価値が高いと思いますか。

【エミン】自分からものを言える人が強いと思うよ。簡単であまり頭を使わない仕事はどんどんAIやロボットに置き換わっていくからね。そうなると自分で何かを発信して、少し面白い発想をしたり、誰も知らないような知識を持っていたり、人よりもプラスαがないと生きにくい時代になるんじゃないかな。それは特定の資格ではなく、「頭の柔軟性」だと思うよ。それはある程度、親が教えることはできるんじゃないかな。

【パックン】その通りだと思う。私は昔から日本の受験制度に疑問を持っています。日本の受験は、スマホを持ち込んでウィキペディアで調べれば、ほとんどの答えは出せるでしょ。つまり、知識ベースの試験になっている。エミンさんがおっしゃるように頭の柔軟性やクリエーティビティを測る試験に切り替えたほうがいいと思います。そういう人材がこれから必要になる。ウィキペディアの情報は、誰でも手に入りますからね。

【エミン】そうね。

学校では部活で学べることが多い

【パックン】ほとんど同等の知識を持った人が集まったときに、どうやってその中で抜きんでるか。そのためには発想力やコミュニケーション力が必要。それが優れている子どもをどう育てるか。それがポイントだと思うけど。私が子どもに勧めているのは、いろいろな部活動に参加することや多くの人に会うこと。それによって芸術やスポーツに触れて、知識だけでなく感性も鍛える。加えてチームワーク、リーダーシップ、妥協とわがままを身に付ける。それらはすべて部活の中でできます。教室の中ではあまり身に付かないでしょ。

「学校の教室では学べないものも多い」とパックンさん。それらは部活で学べる。
撮影=市来朋久
「学校の教室では学べないものも多い」とパックンさん。それらは部活で学べる。

【エミン】そうね。

【パックン】日本では先生が黒板に書いたものをメモって、試験で吐き出す。その過程には、チームワークもリーダーシップも何もない。コミュニケーション能力もほとんど関係ない。であれば、部活で経験を豊富にすることだと思う。

もう1つは、子どもに教え込むのではなく、引き出すことが大事だと思う。私が子どもと触れ会うときも「これは何だと思う?」「なぜだと思う?」という質問をたくさんぶつけて、考える機会を増やしています。

インドに留学させれば世界が変わる

【エミン】あとは海外に留学させたほうがいいね。

【パックン】お薦めの留学先は?

【エミン】たとえば東南アジアやインドに行くといいんじゃないかな。まったく違う世界だからショックを受けると思う。

【パックン】私はコロナの直前にインドを旅行したけど、すごかった。車線が分かれている道路であっても、車線がないかのように車が走っているし。

【エミン】そうだよね。

【パックン】リヤカーが走っているし、牛もいる。自転車もバイクも車も走っている。そして大勢が歩いている。その状況で活動できる人、活躍できる人はやはり強いと思ったね。

【エミン】そう。私に子どもがいたら、絶対インドに1年か、2年留学させると思う。あのカオスの中で生きるすべを覚えてほしい。インド人には優秀なソフトウエアエンジニアが多いけど、頭が柔軟で問題解決能力が高いからだろうね。

【パックン】日常生活の中で鍛えられますよね。

円安のいまこそ「ワーホリ」を活用する

【エミン】そう。日本人の若者は日本に引きこもり気味だから、政策として留学の機会を増やしたほうがいいと思う。日本に来る留学生の数を増やす政策は実行しているけれど、それも悪くない。さまざまな人に触れることで、日本人の頭の柔軟性が増すと思うな。

【パックン】ただ、短期留学は反対です。数十万円の費用をかけて、1週間だけどこかに行くような。

【エミン】それは単なるツアー旅行だよね。

【パックン】そう。ほとんど地元の人とも触れ合わないから、ツーリズムで終わってしまう。国がお金をかけるのであれば、現地でホームステイして、日本人から離れて、海外の生活にどっぷり浸るような留学がいいんじゃないかな。18歳以上だったら普通に働きに行くのもいいよね。

【エミン】私もそう思う。

【パックン】せっかくワーホリ(ワーキングホリデー)の制度があるんだから、稼ぎながら行くのもいいよね。

【エミン】いまは円安だから海外で稼ぐのはいいと思うよ(笑)。

【パックン】留学の何千倍もの学びになると思う。

【エミン】面白いと思う。

【パックン】私もエミンさんも日本で稼ぎながら一種の留学経験をしていますよね。

【エミン】その通り。

エミンさんは「円安のいまこそ、ワーホリを利用して海外へ行くのもいい」という。
撮影=市来朋久
エミンさんは「円安のいまこそ、ワーホリを利用して海外へ行くのもいい」という。

英語を本格的に学ぶのは留学してからでいい

【パックン】日本に来る前に日本語を勉強しましたか。

【エミン】日本に来てからですね。

【パックン】私もそう。それでも十分できますよ。とくに日本人は義務教育で英語のベースはできているから、英語が通じる国であればどこでも行ける。

それと、お金の使い方も重要ですね。頭が柔軟な子どもが育って稼げる力が身に付いたのに、お金の使い方が悪いと全部台無しになってしまうかもしれない。どうすればいいですか。

【エミン】基本的に自分で稼いだお金は大事にすると思うよ。親から与えられたものと自分が稼いだものでは価値観が違うからね。

【パックン】私の身内にも自己破産した人がいます。普通に稼いでいたけれど、クレジットカードを使いすぎて。

【エミン】米国で?

【パックン】そう。日本では少ないけれど、ギャンブルでお金を失う人もいますからね。

若い人は給与の3割を投資に回す

【エミン】投資家にもいますよ。非常にリスキーなレバレッジ取引をして、せっかく貯めたお金をすべて失ったり、退職金を失ったり。ただそれは一部の人で、普通は自分が稼いだお金は大事にしますよ。逆に大事にし過ぎるところが日本の問題。投資しないで貯蓄ばかりしている。米国は正反対ですね。その意味では米国人は少し日本人化する、反対に日本人は少し米国人に近付いたほうがいいかもしれない。

【パックン】私は自ら稼いでお金の価値を理解するのがすごく大事だと思う。無駄遣いしないで節約する。収入と支出の差をつくって浮いた分を投資に回す。そのためには、給与から貯蓄もしくは投資に回すお金を省いてから予算を考える。

【エミン】そうね。

【パックン】収入の1割なら1割、2割なら2割。若い人は3割でもいいと思う。毎月の給与の3割を投資に回して、残り7割でどう生活するか、ゲーム感覚でやりくりしてほしいと思う。

【エミン】それはいい考えだね。

【パックン】それでお金が貯まったら、エマージェンシー資金、つまり何かあったときのために半年程度の生活費を確保した上で、残りは長期的な分散型投資にしてほしいと思いますね。エミンさんはプロの投資家として個別銘柄などを徹底的に調べた上で投資しているわけですけど、私の場合は30、40年寝かしても問題ない堅いファンドに入れたままにしています。そして老後生活に入ったときに「20歳代に頑張った俺は偉いなと」と喜びたい。

【エミン】いいね。