2023年9月22日に新発売されるiPhone 15は、史上最高価格の12万4800円以上。デジタルガジェットに詳しい山下達也さんは「なんといっても大きな変化は、充電端子が10年以上採用されてきたアップルの独自規格であるLightning(ライトニング)ではなくなったこと。互換性の高いUSB-Cになったのは改良点と言えるが、ユーザーの間では『もっと早く切り換えられなかったのか』という不満の声も少なくない」という――。
(左)iPhone15、(右)iPhone15 Pro(出典=Apple公式サイト)
(左)iPhone 15、(右)iPhone 15 Pro(出典=Apple公式サイト

13年使い続けてきたLightning(ライトニング)とお別れ?

2023年9月13日未明、アップルの新製品発表イベントにおいて次世代iPhoneの充電・通信用インターフェースが「Lightning」(ライトニング)から、「USB Type-C(以下、アップル表記にならってUSB-C)」に刷新されることが発表された。Lightningは2012年発売の『iPhone 5』に初めて搭載され、以降、Mac向けキーボードやマウス、ワイヤレスイヤホンなどさまざまな周辺機器で採用されてきたアップルによるアップルのための独自インターフェースだ。

発表当時主流だった「USB 2.0 Micro-B(Micro USB)」と比べてスリムで表裏がなく挿入しやすいこと、より多くの電力を供給できること、コネクタ部分の耐久性に優れることなどが強みだった。

しかし近年はそれと同じメリットを供え、通信速度や給電能力ではLightningをさらに大きく上回る業界標準規格USB-Cが普及。こうなるとiPhoneだけが独自規格に固執することはトータルでの利用感を損ねることになるため、市場からは早急なUSB-C対応を求める声が多く上がるようになっていた。

さすがにアップルも国家連合の命令には逆らえなかったか

ところがアップルは、2015年に発売した『MacBook』や、2018年に発売した『iPad Pro』でUSB-Cを採用したにもかかわらず、iPhoneだけはかたくなにLightning搭載を堅持し続けた。この理由については、アップルが周辺機器メーカーから徴収する「MFi(Made for iPhone)認証」ライセンス料を失いたくなかったのではないかという“邪推”から、ある程度詳しい人でも混乱するUSB-Cケーブルの複雑怪奇さ(後述)を嫌ったというものまでさまざまなものが考えられるが、ともあれ、事実としてアップルはこの足かけ13年間、業界標準に背を向け独自のLightningを採用し続けてきた。

そこにノーを突き付けたのがEU(欧州連合)だ。

EUは個人情報保護に関する強力な規制を導入したり、ユーザーによるバッテリー交換義務化を含む「修理する権利」法案を発表したりするなど、デジタル社会に向けて一歩踏み込んだ取り組みで注目を集めており、2022年10月には、スマートフォンなどの充電用端子にUSB-Cを義務付ける法案を可決。その期限が2024年末となっていることから、今回、ついにアップルがLightningを断念することになったと言われている。時価総額世界一のアップルも、国家連合には逆らえないということか。

「ケーブルだらけの毎日」に「お前が言うな」の声

この際、世界中のガジェット愛好家を失笑させたのが、新モデル『iPhone 15』のUSB-C採用に関するセールスコピーだ。

「みんなうれしいUSB-C」「これで、ケーブルだらけの毎日とはお別れです」。従来も既存技術をまるで独自の発明かのように喧伝してきた、いかにもアップルらしい言葉選びとも言えるが、さすがにこれには筆者のようなアップルファンも唖然としてしまった。

そもそもLightningにこだわり、iPhoneのためだけに充電ケーブルを用意しなければならなくしていたのは誰なのか? しかもLightningケーブルにはMFi認証のライセンス料が上乗せされるから、同等のUSB-Cと比べて割高だ。また、この方針転換によって、これまで使っていたLightning接続のイヤホンや周辺機器を使い続けるには4780円もする変換アダプタを購入せねばならないことも腹立たしい(なお、接続するものが純正イヤホン『EarPods』だけなら、そちらを買い換えた方が2000円安い)。そんな積年の不満が爆発したのか、日本のSNSでは「おまいう(おまえが言うな)」など、散々な言われようとなってしまった。

なお、USB-C移行に際し、一部で指摘されていた、アップルがUSB-C環境下でもMFi認証を用いたライセンスビジネスを継続し、高価な公式ケーブルでしか高速な通信や充電を利用できなくなるのではないかという懸念は杞憂きゆうに終わった。アップルはやるつもりだったと言われていたが、先んじてEUが「そうした機能制限は認めない」と通達したことで、無事、iPhoneでは全てのケーブルが同等に性能を発揮できることに。これはEUの超ファインプレーと言えるだろう。

USB-Cの恩恵を受けるには多くの注意が必要

さて、こうした背景でいよいよ導入されたUSB-Cだが、それによって具体的にはどのようなメリットあるいはデメリットが生まれるのだろうか?

まず、アップルが言うように「ケーブルだらけの毎日とお別れ」できる効果はありそうだ。特にiPhone以外、身の回りのガジェットを全てUSB-C対応のものでそろえている人は、ケーブル1本で全ての周辺機器を充電・接続できるようになる。これは出張などでノートPC、タブレット、カメラ、ワイヤレスイヤホンなどを持ち歩く人には大きなメリットと言える。

もっとも、Lightning対応機器はiPhone以外にも多数存在するため、それらを使っている人には「一本化」のメリットはまだない。アップルは新型iPhoneと合わせて、ワイヤレスイヤホン『AirPods Pro』をUSB-C対応としたが、一部のiPadやMac向けのキーボードやマウスなどはLightningのまま。アップル製品のUSB-C全面移行にはもう少しかかりそうだし、買い換えられるのはもっと先になるだろう。

一番気になる「充電の速さ」はUSB-Cで向上するか

では、充電速度はどうか? 本記事執筆時点ではまだ製品が発売されていないため断言はできないのだが、こちらも従来よりも向上しそうだ。

発表されているスペックでは「別売の20Wアダプタを利用することで約30〜35分で最大50%の充電が可能」とされているが、実は先代モデル『iPhone 14 Pro』は27Wまでの入力に対応しており、対応電源アダプタを利用することでより高速な充電ができた。先んじてUSB-Cを対応しているAndroidスマートフォンには最大45Wでの充電に対応する製品も存在するため、新しい『iPhone 15 Pro』もそれか、それに次ぐ高速充電対応が期待できるのではと期待されている。なんにせよ、高速充電にはそれに対応する電源アダプタが必要なので注意するようにしたい(近年のiPhoneには電源アダプタが付属しないため、自分で購入する必要があることにも注意)。

新しいAirPods Pro(第2世代)もUSB-C充電
新しいAirPods Pro(第2世代)もUSB-C充電(出典=Apple公式サイト

付属ケーブルでは『iPhone 15 Pro』の実力を引き出せない

また、USB-C採用によってもっとも大きな性能向上が見込める通信速度の向上についても注意が必要だ。今回、ハイエンドの『iPhone 15 Pro』および『iPhone 15 Pro Max』は、これまでの20倍にもなる最大10Gbpsでの高速データ通信が可能になったのだが、この恩恵を受けるには別売の高速データ通信対応ケーブルを購入する必要がある。付属のケーブルでは、見た目は同じでも従来通り最大480Mbpsでの通信しか行えないことを覚えておいてほしい(スタンダードな『iPhone 15』はそもそも高速データ通信に対応していないため、付属ケーブルで問題ない)。

なお、USB-Cケーブルは先にも述べたように、USBの仕様が「複雑怪奇」な発展を遂げた結果、見た目は同じでも性能の異なるケーブルが存在するという困った状況になってしまっている。何Wまでの充電に対応するか、どこまでの通信速度に対応するかが見た目からパッと識別できないのだ。

ざっくり言うと高性能なケーブルほど太く、硬く、取り回しが悪くなるため、自分の利用スタイルに合ったケーブルを選ぶようにしたい。高速データ通信対応ケーブルは太く、高価なので、撮影した4K動画をPCへ大量に取り込むといった用途がないのであれば、低速なケーブルで十分だろう。『iPhone 15 Pro』に高速データ通信対応ケーブルが付属しないのもそのためだ。最も安いモデルでも15万円以上するのだから両方付けてくれても罰は当たらないと思わなくもないのだが……。

2023年のUSB-C移行はベストタイミングだったのかも?

そして、もう一つ、USB-C対応によってiPhoneが「リバース充電」に対応したことも紹介しておきたい。これは、従来とは逆にiPhoneからさまざまな周辺機器に電力を供給できるようにするという新機能。これにより、出先で『AirPods Pro』や『Apple Watch』などを充電できるようになるという。詳細な対応機器などは現時点ではまだ不明だが、iPhoneをモバイルバッテリー的に使えるのは便利そうだ。

今回のiPhoneを皮切りに、今後、段階的に廃止されることになるであろうLightning。SNSなどでは「だったら最初からUSB-Cを採用しておくべきだった」という声も見かけるが、それは的確な指摘とは言えない。USB-Cがスマートフォンに初採用されたのはLightning登場から約3年後の2015年(規格自体はその前年に策定)で、それを待つべきだったというのはどう考えても無理がある。ただし、「引っ張りすぎ」というのは筆者としても同感で、『iPad Pro』がUSB-Cを採用したタイミング(2018年)で切り換えるべきだった。

iPhoneとライトニングケーブルとUSB-Cケーブル
写真=iStock.com/Bucsa Nicolae
※写真はイメージです

と言いつつも、散々引っ張った挙げ句、EUからの圧力で移行せざるを得なくなったというのは結果的には良かったのではないだろうか? もし、アップルが2018年のタイミングで自発的にUSB-Cへ切り換えていたら、悪名高いMFi認証のビジネスモデル(当初はケーブルを含む周辺機器の品質確保という点で一定の意義はあった)を継続させていた可能性もあったのだから。

そう考えると、結果論に過ぎないが、今回のUSB-C移行はユーザーにとって最も良い結果に落ち着いたのではないだろうか? より自由で開かれた世界の中で、今後、さらにiPhoneが、ひいてはスマートフォンがより便利に進化していくことを期待したい。