3カ月ごとに発行される『会社四季報』のキーワードを見ていると、投資やビジネスに役立つ変化がわかる。複眼経済塾の渡部清二さんは「最近気になっているキーワードの一つが『東北』だ。東北に注目して情報収集をしてみれば、投資やビジネスのヒントがみつかるかもしれない」という――。
JR盛岡駅
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政府の建前が「デフレ脱却」を認めない理由

日本経済新聞は当たらない――。投資経験者の中にはそんな話を聞いたことがある人も多いでしょう。しかし、日本経済新聞は「当たる、当たらない」を基準にして読むものではありません。大事なのは「情報を活用する」という姿勢です。これは、投資に生かす場合もビジネスに生かす場合も変わりません。

そこで私が日本経済新聞をどんな視点で読んでいるのか、最近の記事を例に紹介しましょう。

たとえば、8月29日の日本経済新聞には、「物価・賃金上昇に広がり『脱デフレへ転換点』経済財政白書 生産性向上重要に」との記事が掲載されました。この記事によると、29日に内閣府が公表した経済財政白書では、「デフレとの闘いから日本経済が転換点を迎えつつある」としつつも、「現時点ではサービス価格の上昇が鈍いことから脱デフレには『至っていない』」とされているのです。

私はこの記事を見た瞬間、非常に違和感を覚えました。すでにさまざまなモノやサービスが値上げされ、インフレが進んでいると感じているからです。

政府も認める4つの指標はすでにインフレ

その証拠に、8月31日の日本経済新聞には、こんな記事が掲載されました。

ガソリン15年ぶり最高値 店頭185.6円、円安要因が8割 原油上昇分上回る

というのです。8月29日には金の国内価格が初めて1万円を突破しています。

さらに、9月2日の日本経済新聞には「需要不足、15期ぶり解消 脱デフレの4指標プラスに」との記事も掲載されました。

政府はこれまでデフレ脱却の指標として、①消費者物価指数、②GDPデフレーター、③単位労働コスト、④需給ギャップの「4つを重視する」と説明してきました。

実際にはどうでしょうか。

「消費者物価指数」は16カ月連続で2%を超えていますし、物価動向を示す「GDPデフレーター」は3.4%上昇、賃金動向を示す「単位労働コスト」は0.7%の上昇で2期ぶりのプラス、そして「需給ギャップ」が0.4%のプラスになり、15期ぶりの需要超過になっています。これはすごいことですし、これら4つの指標を重視して判断するのではあれば、あきらかにデフレを脱しています。

日銀の金融緩和継続で「ミニバブル」が発生する

にもかかわらず、経済財政白書ではなぜ、脱デフレではないといっているのでしょうか。私の深読みでは、「デフレから脱していないから金融緩和を続ける」というメッセージではないかと考えています。データを見る限り、明らかにインフレになっていますが、政府の建前は、まだデフレなのです。

それを裏付けるような記事も掲載されています。9月1日の日本経済新聞に「日銀緩和継続、日本株戦略は 続く物価高で不動産株妙味 英マン系日本株式運用ヘッド ジェフリー・アサトン氏」との記事が掲載されました。

英マングループは、ヘッジファンドの会社です。日本株式運用ヘッド、ジェフリー・アサトン氏は、記事の中で「日銀が(金利から予想物価上昇率を差し引いた)実質金利をマイナスにする状況は当面続くとみる」と語り、それが「ミニバブル」を生み出し、日本の国内資産に対する関心は再燃する、としたのです。

コロナ禍では日本でもリモートワークが一気に浸透しましたが、すでに戻り始めています。また、住宅価格は上昇していますが、商業用不動産はそれほど動いていません。「今後、日本の不動産はもっと投資妙味が上がるのではないか」とも言っています。

海外投資家は日銀が金融緩和を続けることを前提に動いていることがわかります。

晴天のビル街
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大学10兆円ファンドに東北大学が選ばれた理由

一方で9月1日には「大学10兆円ファンド、東北大が支援第1号に 研究体制評価、半導体・量子を強化」との記事が掲載されました。また、9月2日の記事「10兆円大学ファンド、東北大学はなぜ選ばれた? よくわかる」では、東北大学が選ばれた理由として「スタートアップを8倍の1500社に増やすといった具体的な計画が評価された」とされています。

大学ファンドとは、株式や債券で運用した資産の運用益を「国際卓越研究大学」に分配して研究力の向上を図ろうとする制度です。支援額の上限は全体で3000億円、最長25年間受け取れます。

今回が初回の応募で10校が名乗りを上げたそうです。その中で、東大でも京大でもなく東北大が1号になったのには、意味があると私は思います。

「会社四季報」で「東北」がキーワードとして増加

このところ東北の活躍が続いているからです。

たとえば、全国高校野球では昨年、仙台育英が初優勝し、優勝旗が初めて「白河の関」を超えたと話題になりました。「白河の関」は奈良時代から平安時代頃に機能していた国境の関で、古くから「東北の玄関口」として知られています。

東北に注目が集まり始めているのは、『会社四季報』でも感じていました。

株価が大きく上昇する銘柄を見つけるには、他の人よりも早く、時代を映し出す「キーワード」を見つけることが大事です。『会社四季報』には、コメント欄があります。ここに登場する「キーワード」に注目すると、時代のテーマを知ることができます。今年3月に発売された『会社四季報2023年2集 春号』で、「東北」がキーワードとして増加していることに気づいたのです。

「会社四季報」のキーワードは3段階で成長する

四季報に登場する「キーワード」は、3段階で成長していきます。

この過程はアイドルの成長にたとえるとわかりやすいでしょう。

少数ワードの段階は、アイドルでいえば、デビューしたばかりです。将来、知名度が上がれば、大きく成長する可能性がありますが、そのまま消えていくリスクもある状態です。

『会社四季報』には3800社以上の全上場会社が収録されていますが、少数ワードとは、各社のコメントで数件しか登場しないワードのことを示します。私自身はこれまでに100冊以上の『会社四季報』を読破してきていますから、少数ワードには自然と気づきますが、簡単に見つける方法もあります。

【図表】3段階で成長する「会社四季報」のキーワード
図表作成=渡部清二

有料会員向けではありますが、「会社四季報オンライン」の検索機能を使って、気になるキーワードを検索して、数件しかヒットしなければ、少数ワードといえます。少数ワードはデビューしたばかりの新人ですから、水面下にある「潜在テーマ」ともいえます。

「増加ワード」は、3カ月前に『会社四季報』の前号が発売された時点と比較して、登場回数が増えたキーワードのことです。増加率が高ければ、市場の関心が高まっていることを意味します。つまり、「少数ワード」から「増加ワード」へ移行したキーワードは、投資やビジネスのチャンスにつながる可能性が高いのです。

アイドルであれば、知名度が上がり、ファンの関心が高まっている状態です。「東北」は『会社四季報2023年2集 春号』で、3カ月前と比較して増加率が2倍になっていました。

「多数ワード」は、コメント欄に登場回数の多いキーワードです。すでに誰もが認識している「顕在テーマ」になっています。

盛岡は「2023年に行くべき世界の旅行先」2位

私は、『会社四季報2023年2集 春号』を読破した時点から東北を注視しています。なぜ「増加ワード」になったのか、理由を確かめるために各社のコメント欄をチェックしてみましたが、いまのところ共通点は見つかっていません。

ただ、ワールド・ベースボール・クラッシックで活躍した大谷翔平選手や佐々木朗希選手は岩手県出身ですし、今年1月に米ニューヨーク・タイムズが世界中の記者の情報を基に公表した「2023年に行くべき世界の旅行先」で、1位のロンドンに次いで2位に岩手県盛岡市が選ばれました。

今後は「東北」をキーワードにして情報収集をおこない、投資アイデアやビジネスプランを練ってみるのもいいかもしれません。