「近くで家を建てている」という業者が「お宅の屋根が壊れています。ちょっと見てみましょうか」と訪問してくることがある。ファイナンシャルプランナーの髙橋庸夫さんは「リフォームトラブルの中でも屋根工事のトラブル事例の割合は多く、詐欺まがいの悪徳業者の存在が問題視されている。彼らをやすやすと屋根に上げてはいけない」という――。
屋根にかけられたはしご
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相談件数は増加傾向

住宅のリフォーム工事に関するトラブルは大きく2タイプあります。突然、訪問してきてリフォーム工事の契約を迫る「訪問販売」のケースと、点検業者を名乗り「早急に工事をしないと危険」などと危機感を煽ることで契約を迫る「点検商法」のケースです。

国民生活センターや全国の消費生活センターに寄せられた相談件数の推移は以下の通りです。

【図表1】住宅リフォームの相談件数推移
独立行政法人国民生活センター PIO-NETに登録された相談件数の推移より筆者作成

図表1の通り、相談件数は年々増加しており、2022年度には訪問販売によるリフォーム工事の相談件数が年間1万件を超えています。

さらに、手口が多種多様化、巧妙化している

訪問販売の場合は、突然自宅を訪問し、今すぐ修理しないと大変なことになるなどと不安や危機感を煽り、その場で契約を結ばせてしまうスタイルがほとんどです。国民生活センターからもさまざまな事例が情報提供されており、消費者に注意喚起されています。

最近の事例

・「近所で工事をしているのであいさつに来た」と飛び込みで訪問してきた業者に、屋根の瓦が傾いていて隣の家に落ちそうなので、ついでに千円で直してあげると言われたため、修理をお願いした。作業が終わると屋根全体の修理が必要とのことで、このままにしておくと雨漏りすると言われ、約20万円の修繕工事をその場で契約した。

・「台風による被害調査をドローンで行っている」との業者から調査写真を見せられ、瓦が割れているので修繕工事が必要と言われた。台風による被害なので、損害保険の保険金の申請を業者がサポートすると言われ、申請代行の契約を結んだ。契約書を確認してみると、「損害保険金の35%の手数料を業者に支払う」と記載されていることに後で気づいた。

・「近所で別の工事をしている」と訪問してきた業者から、「お宅の屋根がめくれているのが見えたので、屋根に上って点検させてほしい」と言われ、お願いした。点検後、屋根が浮いている写真を見せられ、そのままにしておけないので約30万円の修繕工事の契約をその場で結んだ。

訪問販売によるリフォーム工事を行う悪徳業者の営業マンは、訪問時のセールストークなどをマニュアル化している場合もあるそうです。偶然を装って「近所で工事している」、無料でできることをアピールするため「火災保険を使える」、とにかく屋根に上って点検したいため「点検調査は無料」、その場で契約を迫るため「今ならモニター価格、キャンペーン価格」などが常套句となっています。

極めて悪質な業者の場合は、屋根に上って点検している際に、点検箇所をわざと壊した上で写真を撮り、早急な修繕工事の必要性を煽るケースもあるそうです。

※相談事例の出典=独立行政法人国民生活センター「消費生活相談データベース

トラブルを避けるために必要な姿勢4つ

台風や水害などの大規模な災害の被害に遭われたときには、不安が先に立ち、冷静な判断をすることが困難な場合も多いでしょう。ただし、そのような人の弱みに付け込む悪徳な業者も存在することを認識し、トラブルに巻き込まれないように強い心構えで対処することが重要です。

1.突然訪問(飛び込み営業)してくる業者を疑う

通常の商慣習の中で、自宅に突然訪問してくる営業スタイルは、現代においてはほぼ存在しません。

そのため、訪問してくる業者を疑い「インターホンに反応しない(居留守)」「玄関ドアを開けない(取り合わない)」など毅然きぜんとした態度を示すことが重要となります。家の中に入れることはもちろん避けるべきですが、玄関先だけでもとドアを開けてしまうと、相手は騙しのプロですので、セールストークに乗せられたり、居座られて根負けしてしまうこともあり得ます。

2.絶対に、屋根の上には登らせない。点検させない

前述の通り、極めて悪徳な業者は点検で一人になったときに、点検箇所をわざと壊すなどの行為をする場合があります。損傷箇所をアップで撮影した写真を見せられると、人間の心理として過剰な危機感に結びつくことがあります。

「NO」と書かれた手のひら
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3.その場では申し込みや契約をしない。

悪徳業者は、「モニター価格」や「キャンペーン価格」などの常套句を使い、巧みにその場での契約を促してきます。たとえ、修繕工事が本当に必要なケースであっても、日頃から「その場では申し込みや契約は行わない」との心構えを持っておきましょう。相談できる家族や親族などがいれば、相談した上で後日こちらから連絡することを業者に伝えましょう。

4.必ず、相見積もりを他社から取得する。

住宅のリフォーム工事や設備の更新工事などは、必ず、1社ではなく、他社からも相見積もりを取得し、価格などを比較検討した上で申し込みするとの心構えを決めておきましょう。訪問してきた業者に対しても、相見積もりを取得した上で検討することをしっかりと伝えましょう。

怪しい業者を退散させる「撃退フレーズ」2つ

「家族に同業者がいる」

「嘘も方便」と言いますが、予見されるトラブルを回避するために嘘をつくのも手段の一つです。「家族や親族にリフォーム業者に勤めている者がいるので、相談する」とはっきり伝えましょう。

「保険代理店と相談します」

元来、保険というものは日頃から頻繁に使うものではなく、突発的な事由で使用することが多いものです。保険に加入しているとの安心感を得ることで、いざとなったときの対応方法が分からない方も多いのではないでしょうか? 常日頃から保険に加入した際の保険代理店などの連絡先を把握しておくことを意識してみましょう。保険にそれほど詳しくない場合でも、「餅は餅屋」でいつでも専門家に相談できる体制があればよいのです。業者には、「保険代理店と相談する」とはっきりと伝えましょう。

これらの対応以前に、契約行為などの重要な事項は家族や親族間で相談してからとのルールを決めておくようにしましょう。また、警察への通報や被害届などが必要となるケースもあるでしょう。

契約を勧めるビジネスマンと断る顧客
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覚えておきたいクーリング・オフ

いったん契約の申し込みや契約の締結をしてしまった場合でも、訪問販売については、一定の期間であれば契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできるクーリング・オフが適用できます。

クーリング・オフできる期間は、申込書面または契約書面のいずれか早いほうを受け取った日から起算して8日間となります。仮に、月曜日に書面を受け取った場合、その日を含めた8日間ですので、翌週の月曜日まで適用できます。

クーリング・オフの手続きは、電話では行うことができず、必ず書面または電磁的記録で行います。書面には、はがきが使用されることが多いですが、必要な情報を漏れなく記載し、発信した日付を記載します(発信日を起算日として8日以内かを判断する)。必要な情報の記載例については、独立行政法人国民生活センターのサイトなどをご参考としてください。

困ったときの相談先

お困りの場合や少し怪しいのではと思った場合には、一人で抱え込むことなく、まずは相談してみましょう。主な相談先には以下のものがあります。

1.消費者ホットライン188(局番なし、通称「いやや」)

屋根修理などの契約トラブルに関する相談先として、全国共通で使える電話番号です。ここから日本全国のお近くの消費生活相談窓口が紹介されます。

土日祝日は、都道府県等の消費生活センター等が開所していない場合、国民生活センターに電話がつながります。また、国民生活センターでは、最寄りの相談窓口に電話がつながらない場合の平日バックアップ相談として「03-3446-1623」(土日祝日、年末年始を除く10時~12時、13時~16時)が開設されています。

2.全国の消費生活センター

お住まいの地域で最寄りの消費生活センターに直接ご相談することもできます。消費生活センターは、各都道府県や各市区町村に設置されているため、以下のサイトなどをご参照ください。

独立行政法人国民生活センター

3.住まいるダイヤル

住まいるダイヤル「0570-016-100」は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターによる電話相談窓口です。国土交通大臣指定の相談窓口で、一級建築士が無料で専門的な見地から相談に対応するものです。受付時間は、土日祝日、年末年始を除く、平日10時~17時となります。

その他にも相談先として、市区町村の消費生活相談窓口や民間の業界団体による相談窓口、弁護士などの士業団体ごとの相談窓口、ADR(裁判外紛争解決手続)などがあります。

電話対応をするコールセンターのオペレーター
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契約する際のルールを家族で決めておく

屋根修理に関するトラブルについても、他の消費者トラブルと同様に、高齢者をターゲットにするケースが多くなっています。できる限り、家族や親族の間での連絡や相談を密にすることや、契約行為などを行う場合に必ず守るべき最低限のルールを決めておくことが重要です。

また少しでも不安を感じたら、絶対に一人で抱え込むことなく、相談窓口などを利用して契約をする前に相談することを習慣としましょう。