世界中の人に日本茶の素晴らしさを知ってほしい
2023年7月26日。19:00からスタートした第3回「プレジデント ウーマン リーダーズサロン」イベントは、かねてより要望の多かったオンライン開催となった。日本各地はもとより、海外からも参加してくれたサロンメンバーもいたほどだ。
今回のイベントのテーマは、「女性管理職のダブルキャリアを考える」。昨今、企業に属しながら、他社の社外取締役などの役職に就いたり、社内ベンチャーを興したりするなど、“副業”のあり方にキャリア女性たちの関心が高まってきている。
そこで、副業=ダブルキャリアを実践している、脇奈津子さんをゲストスピーカーに迎え、「ダブルキャリア」の考え方、本業との並走方法などを、脇さんの経験を交えながら、参加メンバーとともにディスカッションした。
現在、脇さんは、大手飲料メーカーのマネジャーとして、新規事業を起ち上げるなどの業務を行っている。そんな脇さんが副業として2019年に起ち上げたのが、日本茶の新たなカルチャーの創造をめざすことをミッションに掲げて、オリジナルのティーバッグを製造販売する「一坪茶園」。
「2001年に入社し、長年営業を担当してきました。その後は、緑茶ペットボトル飲料の原料茶葉調達部門やミネラルウオーターのブランドマネジャーを担当。新商品を開発し、ブランドを育てる経験を積み重ねる中、日本茶の未来を考える機会がありました。『世界中の人に日本茶の素晴らしさを知ってほしい、新たな飲み方のスタイルを提案したい』そんな思いが強くなり、副業として『一坪茶園』という会社を興しました」(脇奈津子さん)
本業と並走するには、体力と強靱なメンタルが必須
副業を認める企業も増えてきてはいるが、企業の副業規定はおおむね「本業業務と競合しないもの」「本業に支障をきたさない範囲での働き方」が定められている。だからこそ、夜間や土日の休日を利用しながら、例えば、ヨガや塾講師、メディア制作発信、趣味をカタチにしたものなどを副業とする人が多い。本業と競合せず、本業務を十分にやり遂げることが第一条件だからだ。
脇さんの場合、「急須で入れて飲む日本茶の文化を今の時代に合った形でアップデートしたい」という思いから事業を考えて興し、自身が携わってきた茶葉調達での経験が副業にも生かされている。こうしたことからも一見、本業と競合しているようで、「本業で得た知見を、自らの会社で昇華させるのは、本業の知的財産やテクノロジーの流出ではないか、会社への裏切りではないか言われることもありましたが、まったく違います。ティーバッグでおいしく出せるお茶の研究・開発、販売は、本業の枠外でその知見のある人たちと組むことで実現したこと、本業の競合にはないのです」と脇さん。
起業1年目の2020年。コロナ禍でテレワークという働き方が一気に浸透したのをきっかけに、朝晩やランチタイムの1時間を利用して、副業事業の拡大を模索したという。それまで会員制サービスだったものを新たな事業モデルへと修正。2021年4月にクラウドファンディングでテストマーケティングを実施し、同年7月にサービスをローンチして法人化。「当初は、個人事業主として起業しましたが、販売先が増えたのを機に法人化しました」(脇さん)
副業起業から4年、事業を見事に成功させている脇さんだが、ダブルキャリアを成功させるには、時間の生み出し方と体力、強靱なメンタル力が必要だとも熱く語った。
「私自身は、時間のことを忘れて仕事にのめり込んでしまうところがありますが、早朝や夜間、土日の休日などを副業の仕事に充てています。今は海外とのミーティングも多いので昼夜逆転になることも。でも、本業に絶対に影響しないようにしています。また、副業をするなら社内の人間関係を良好にしておくことも大切なこと。やはり、社内にはダブルキャリアをよく思わない人は一定数いるはずですから。先手必勝、周囲を敵に回さないようなマインドセットは絶対に必要ですね。私は喧嘩っ早くて若い頃は周囲との軋轢が多かったんですが、今は大分丸くなっています(笑)」
本業に最大限還元し、羽ばたきを模索
自分のやりたい事業をやるには、退職して自身の会社を興すか、転職なども考えられるが、脇さんの場合、法人化してやりたい方向性が決まった後は、(一坪茶園の事業への)投資家たちのアドバイスもあり、退職・転職は一切考えなかったという。
「一時期退職の意向も伝えたこともありました。けれど、私自身は、今の会社以外では役に立てないのではと不安を抱え続け、正直、転職して何かできるとも思えず悩んでいました。そのとき上司に『大企業でしかできないこと、大企業だからこそリスクを取らずにできることもある』と言われたんです。それで新規事業やCVCの起ち上げに関わらせてもらったことで、自分自身の事業立ち上げへの自信がつきました。今は、経営の体力をつけるために副業というカタチを選んでいます」
ある意味うらやましい環境で副業起業への道を歩んで来たともいえそうだが、4年を経た今は「副業の動きが活発になるにつれ、後ろの扉(大企業の社員であること)はきちんと閉めないといけないと考えています。最大限、今の会社に還元しながら羽ばたく時期も模索しています」(脇さん)。
プカリと浮き上がることで見えた世界
起業を考えた裏には、ブランドマネジャー時代に感じた開発から販売に至る中での無力感もあるという。
「例えば、開発した商品を世に送り出す場合、いかに世間に知ってもらうかが勝負です。でもニッチな商品であればあるほど、既存のやり方ではなく、別の方法を考えなければいけないのに、会社の既存ルートから外れることはできない。コンビニが扱ってくれないと『失敗』の烙印を押されてしまう。自分たちが開発したブランドや商品を新たな方法で育成するには、サラリーマンでは限界があると感じたんです。もちろん社内での刺激はたくさんありますが、外部の人たちからの刺激はさらに刺激的で『すごい!』って感じました。モヤモヤしている暇はない、やろう! と決心しました」
大きい組織の中では埋もれることの多いアイデアなど、会社のCEOという立場なら、リスクさえ覚悟すれば、自身で決定し、遂行できるのが起業の強みだと脇さん。
「大企業という海の中で、海面にプカプカ浮いてみると世界は広いことがわかるんです。じっと海中に潜っている人から見れば『あいつは何をしているんだ』となることも。浮いていると足を引っ張られて海中に引き戻されそうになることも多いけれど、外を見渡してみて、私は自分の人生に後悔なくやるべきだと思ったのです」
CANからWILLへ。一歩踏み出すことで世界は開ける
組織にいながらにして自由に働くキャリアスタイルは、脇さんの生き方そのものだとも言う。
こうした生き方は、さまざまな人との出会いがもたらした。
「私の人生は、まさに『コネクティングロッド』。仕事で出会った外部の人たちから刺激を受けて、『できること』をまずやってみました。そこからまた新たなつながりが生まれて。自分の今の能力でできること、なおかつ、何かちょっと楽しいと思うことって何かと、立ち止まって考えることを大切にしてきました」
「CAN」を考え、すぐに小さな行動を起こす。それが自分自身の「WILL」につながったという。
「今、新たなアイデアをカタチにしたい、副業にしたいと考えているなら、一歩踏み出すことで、必ず開ける世界があります。『やってみなはれ』という、勤務する会社の創業者の言葉があるのですが、その言葉どおり、一歩踏み出し、やってみることで、見えてくることはたくさんあると思っています」
ブランドマネジャー時代に出会った人、そして、ダブルキャリアを考え始めてから退社後や休日を利用してさまざまな場所へ出向き、そこで出会った人とのつながりが起業へとつながったという。こうした脇さんの副業スタイルはまるで「夢物語」のように感じた参加者も。起業にはたくさんのリスクが伴うが、そこまでの勇気がないとの声も上がった。「退社せずにダブルキャリアとなるタネの見つけ方・育て方があれば」との質問には、
「『一歩踏み出す』をもう少し掘り下げると、Facebookや副業セミナーなどで、自分の好きなこと、気になることでフィルターをかけて、積極的にSNS上で交流したり、リアルで参加したりしてみてはどうでしょうか。人のつながりって芋づる式にどんどんつながり、大きな力になるんですね。だからこそ、行動を起こすことがタネを見つける最大のポイント」とのアドバイスに、参加者一同大きくうなずいた。
第4回イベントは、9月27日(水)にオンラインで開催!
積極的な質問や意見が飛び交った今回のオンラインイベント。画面越しではあったが笑顔にあふれ、時間もオーバーするほど熱いディスカッションとなった。地方在住や海外在住のメンバーも参加できるとあり、次回もオンライン開催を望む声も挙がった。
そこで、第4回となる次回は、来る9月27日(水)19:00〜20:30にウェビナーを実施することが決定。「トップリーダーをめざすためのキャリア形成と学び」をテーマに、世界最大級のビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」日本代表の田中若菜代表をお招きし、講演とディスカッションを行う予定だ。
『プレジデント ウーマン』は、今後も、女性リーダーたちとともに女性のキャリア構築はもちろん、女性の目線をビジネスや社会に生かす活動を続けていく。
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