2023年1月末、片づけのカリスマ「こんまり」こと近藤麻理恵さんが「片づけをあきらめた。大切なのは子どもたちと楽しく過ごすこと」と発言し、欧米メディアで大きくとり上げられた。しかし、Homeport代表・お片づけ習慣化コンサルタントの西崎 彩智さんは「子どもができたからといって、片づけをあきらめるのはもったいない」という――。

片づけは「家族みんな」でやるもの

こんまりさんが「子どもが生まれて片づけをあきらめた」「ちょっと散らかっている」とおっしゃるのは、私も育児をしていたのでよくわかります。それがどの程度の散らかりようかはわかりませんが、私がふと感じたのは、せっかくこんまりさんは片づけのできる人だから、家族を巻き込んで、みんなで片づければいいのに残念だなぁということでした。

お片づけ習慣化コンサルタント Homeport代表 西崎 彩智さん
お片づけ習慣化コンサルタント Homeport代表 西崎 彩智(にしざき・さち)さん(写真=筆者提供)

私は、そもそも片づけというのは、自分一人でやるものではなく、家族みんなでやるものだと思っています。なぜなら自分一人で頑張るよりも、家族みんなでやれば時短でできるし、苦手なことも得意な人に任せられるから。片づけは、夫や子どもを巻き込むことが大切なのです。

とはいえ、家族を巻き込むには順番があります。それは次の順です。

1 自分(妻)
2 子ども
3 夫

怒りではなく「お願い」するが吉

1.自分(妻)

まずは、自分から片づけ始めること。やっていない人から「片づけて」と言われることほど、イラっとすることはありませんから、絶対に自分から始める。そのうえで家族に助けを求めるときは口に出すことが大切です。

常に気を張って頑張っている女性ほど、わざわざ口に出さなくても察してよ、わかってよという気持ちがあるでしょうが、そこはたとえ家族であっても、「苦手だから助けてほしい」「一緒にやってほしい」と、はっきり言ったほうがいいですね。また怒りではなく「お願い」という形で伝えるのが理想です。

2.子ども

保育園や幼稚園の子でも、立派な片づけの戦力になります。園で必要なものは自分でバッグに詰めることができますし、脱いだものはフックにかけることも。それは園でやっていますから、家でもできるはず。食事のあとに皿をシンクまで運んだり、洗濯物を洗濯機まで持って行ったり、といったこともできるでしょうね。

子どもの片づけのポイントは2つ。ひとつは、子どもの手の届くところに物を配置しておくこと。洋服やハンカチ、コップ、皿などが、子どもの手の届くところにおいてあれば、自分で取り出せるし片づけられます。置き場所は、お母さんが勝手に決めないで「ここなら取れる?」「ここでいい?」と子どもに確認しながら、一緒に決めましょう。

洗濯物を折りたたんで家事をしている母親
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです

2つ目のポイントは、子どもができたら褒めること。できて当たり前ではなく「すごいね」「助かったよ」というと、子どものモチベーションはアップします。特に幼児期の子どもは、むしろママの役に立ちたいと思っているので「大変だから手伝って」と助けを求めると、喜んでやってくれると思います。

思春期の子は、素直に動いてくれないかもしれないですが、頼んだことをやってくれたら「ありがとう」「嬉しい」と、ちゃんと感謝を示すと次につながります。

片づけない夫への対処法

3.夫

片づけをよくやる旦那さんもいますが、やらない夫に関しては「いつか自分のタイミングで片づけてね」「手は出さないよ」と、夫のものはよけておきましょう。そうすると片づかないものが可視化されるので、片づけを促すことになりますし、「なんでパパはやらないの?」と子どもが言ってくれることもあります。

片づけない夫に妻がイライラするのはよくあることで、それは“課題の分離”ができていないからです。ここが片づかないのは、夫の問題であり、妻である自分の問題ではないので、いったん放っておきましょう。それを目障りと感じるなら、それは自分の問題ですから、解決したいなら夫に「片づけてもいい?」と聞いて片づけましょう。勝手に片づけようとするから、イライラするのです。

家が全体的に片づいて、夫が少しでも片づける様子を見せるようになったら、段ボールをまとめてもらったり、一緒にゴミ出ししてもらったり、夫ができそうなことから頼むとよいでしょう。空間が広がってくれば、それが気持ちいいとわかり自ら協力するようになる旦那さんは実際に多いのです。

「横」と「縦」の動きを意識する

家族みんなで片づける前には、楽しい家族会議を開いてください。

家族全員でキッチンで準備中
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです

たとえば「リビングで何をしたい?」「キッチンはどうしたい?」「洗面所はどうだったら快適?」など、一つひとつのスポットについて話し合うのです。

収納もみんなで「ここがいいよね」というところを決めて、その情報を共有する。そのうえでラベリングして一目瞭然にしておけば、家族みんながそれぞれ自分で出して、自分でしまうことができます。いちいち「靴下はどこ?」と聞かれることもなくなるのです。

片づけには、導線上の“横の動き”と、時間軸という“縦の動き”の両方があることを、家族みんなが知っておくことが大切です。前者は、例えば、洗面所に行くついでに洗濯機に脱いだ靴下を入れる、といった動きのこと。後者は、おふろに入るタイミングで洗濯機に靴下を入れるといった動きのことです。

特に時間軸の縦の動きを意識すると、片づけビギナーは、どんどん片づけがうまくなりますから意識してみてください。

たとえば、家を出る前に朝から散らかしたものを片づける、夕飯前には食卓を片づける、寝る前に夜出したものを片づける、と一日の中で何回か家をリセットするタイミングをつくっておけば、そう大きく散らかることはありません。小さい区切りをたくさんつけて、必ずゼロに戻すという習慣をつけるのです。そうすれば定期的に大掛かりな掃除をしなくとも、いつでも気持ちよく片づいた家になります。

片づかない家には「地雷」がいっぱい

こんまりさんの「片づけをあきらめた」という発言を聞いて、ほっとした人は多かったのではないでしょうか。やはり育児をしながら片づけるのは大変ですから、小さい子のいるママは共感しますよね。こんまりさんができないなら、私ができなくてもしょうがないかなって。でも、こんまりさんは、もともとできる人です。もともとできる人がやめたというのと、できない私がやめたというのとでは、意味合いが全く違うのではないでしょうか。

片づけのできない人が片づけをやめてしまったら、いつやるのでしょうか。家の中に埋まっている地雷は、いつ除去するんですかと思うのです。

爆発
写真=iStock.com/dzika_mrowka
※写真はイメージです

そう、片づかない家には、地雷が埋まっているのです。散らかっている家は物が見つかりませんから、たとえば夫が「あれどこに行った? ここに置いたはずなのに」ってイライラし始めたら、家族に対して怒っているわけでなくても、そのイライラのエネルギーが家族に伝染します。妻は責められている気持ちになって「はあ? 知らないし」と防御体制に入り、よくない言葉が次々に出てきて、ついには喧嘩が始まります。

そういうときに夫婦というのは、とかくこの探し物の話だけでなく「お前はいつも片づけないから」「あなたがだらしないから」と、過去のことまで持ち出して責めて、最後は互いに人格を否定し合う。本当によくないですよね。家がいつも片づいていないと、それがいつ勃発するかわからない。だから片づけは、家庭内の地雷除去ともいえるわけです。

10分の片づけで驚くほど変わる

当社のお片づけプロジェクトの受講生も、家族がギスギスしている人は多いですよ。3分の1ぐらいの人は片づかないことで、夫ともめています。妻がイライラしている家には、夫も帰りたくなくなるんですよね。

ソファで横になっている夫に怒りを抱いている妻
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

実際、受講生さんの中に「お前はかわいいと思って結婚したのに、部屋が片づかなくてずっとしかめ面をして、子どもを怒鳴っているから顔も見たくない」って言われた人がいました。「だったらあなたがやりなさいよ」と言いたくなりますが(笑)。仕事から疲れて帰ってくるたびに怒鳴っている妻を見たくない気持ちもわかる気もします。

先日、当プロジェクトに参加された方に、小学校入学、保育園入学、生後2カ月の3人のお子さんを持つAさんという女性がいらっしゃいました。Aさんいわく「人生の中でもいちばん大変な時期トップ3」という時期に参加されたのです。

当プロジェクトは日々10分の積み重ねで片づけていくプログラムですが、彼女はこの日々10分の片づけで、家が片づくだけでなく、飛躍的に時間の使い方がうまくなりました。時間に追われて押しつぶされそうになっていた気持ちが解消されて、子どもを怒鳴ることも、夫との喧嘩もなくなったそうです。A子さんは「もう一人産んでもいけるんじゃない?」と思うぐらい余裕ができたそうです。

家を片づけて「人生」を取り戻そう

私は片づかない家に暮らすのは、片づけだけでなく、自分の人生まであきらめている気がするのです。どうせ私は片づけられないから、夫もやってくれないし、子どももできないし、といろいろなあきらめが家の中にあり、仕事やキャリア、人生そのものがあきらめの色に覆われていく。

こんまりさんは子育てが一段落されたら、またこんまりさん流の片づけをなさると思います。なぜなら、もともと片づけのスキルを持っている人だから。

こんまりさんはこんまりさん。自分は自分です。こんまりさんが片づけをあきらめたからといって、私もしなくていいかって、あきらめないでほしいのです。