不登校の増加は親が忙しすぎるのが原因?
文部科学省の調査によると、小学生・中学生の不登校は、2015年から上昇傾向に変わり、コロナ禍の2021年に跳ね上がっている状況です。
子どもたちの不登校の原因がコロナ禍だけでなく、その前から長く続いてきたのは、何か日本の社会構造や子育て環境などの変化の影響があり、それが2016年ごろから子どもにはっきりあらわれてきたということでしょう。その影響が何かははっきりわかりませんが、一つは「親たちが忙しすぎる」ことが考えられます。
そもそも子どもは、幼児期を通して自分をつくり、親から離れる準備をしています。この幼児期に最も重要なのが、親との関係性、あるいは親の代わりに育んでくれる環境です。この時期に親子の結びつきがしっかりとセットできれば、学校という本格的な「社会の始まり」にスムーズに入ることができます。
しかしながら小学校低学年は、まだ幼児期の延長のような時期です。親への依存度が高いため、本格的な社会である学校に入るには、親なしでは不安で仕方ない。いわゆる「分離不安」です。この年代の子にとって、分離不安はごく当たり前の感情ですが、そこにいろいろな事情がからみ、子どもにとって耐えられなくなると登校しぶりが始まるのです。
登校しぶりが起きるのは、保育園や幼稚園ではさして問題もなく、むしろいい子とされて過ごしてきた子です。そういう子が早ければ小学校に上がったころから揺らぎ始めます。コロナ禍はそのような揺らぎを大きくするとともに,早目にあらわれる原因になりました。
本格的な親離れは10歳から
本格的な親離れが始まるのは10歳すぎ、思春期の入り口からです。そこで子どもは自分一人で生きることができるのかと迫る親離れの本能的なプレッシャーに圧倒され、ときには強い不安に襲われたり、抑うつ状態や強迫症状があらわれたり、不登校も生じがちになります。この年代は神経性やせ症をはじめ摂食障害もあらわれることで知られています。
なぜ、いい子が学校に行けなくなるのか。それは幼児期に背伸びして家庭環境に適応し、親御さんが仕事に行けなくなるほど、ダダをこねることをしなかったからという見方もできるのです。乳幼児は動物的な生存本能が優先しており、自分が親から見放されないために無意識にブレーキをかけ、親が音をあげるほどダダをこねなかったという見方です。
子どもが「学校に行きたくない」と言ったら
昨日まで凛々しく「行ってきます」と言っていた子が、今朝は「おなかがいたい」「だるい」と学校に行くのをしぶり始めたら、親としては背中を押すべきか押さざるべきか、本当に迷うところでしょう。正直言うと「こうすべき」という正解はありません。子どもの性格や親の性格、学校の特徴など、ケース・バイ・ケースで対応は違うからです。
ただし子どもが「学校に行きたくない」と言ったときに大事なことは、親がいったん立ち止まることですね。そこでちゃんと対処できれば、不登校の手前で立ち止まれるかもしれませんし、そこから親子で信頼関係を立て直していくこともできるででしょう。
しかし、そこで親がパニックに陥り、親の価値観を振りかざして子どもを振り回すと、親子関係はかなりの危機に陥ります。
「行かない」と子どもが言い出したら、親は子どもの姿をしっかり見なおし、子どもの気持ちを想像してみることから始めなければなりません。
そのうえで最初にやるべきことは、「どうして今日は学校に行きたくないだろう」と子ども自身が考えられる言葉がけです。「なぜ行かないんだ」と叱ってしまったら、心を開くどころか、ただ泣くか、元気な子だったら反抗するだけです。
また原因を探ろうと、しつこく尋問するのもよくありません。子どもが気持ちを言える空気をつくったうえで、答えを迫るのではなく「疲れちゃったのかな」「おなかがキューってなっちゃうくらい心配な気持ちかな」とちょっと問いかけてみる。それで子どもが「んー」と考える感じになったらそれでいい、答えが出なくてもいいのです。気持ちを聞いているうちに、だんだんと原因らしきものが見えてくることも、こないこともありますが、親なりにこういうことなのかなと手探りで感じとれるような対話ができればよいのです。
親も自分の内面を見つめる必要がある
そのとき同時に、親御さんも「この子は今、何を感じていると私は思っているの」「今なぜ私はうろたえているの」と、自分の内面も見つめてください。それなしに答えは出てきません。一般論ではなく、この子と私という具体的な場で、親として子どもの気持ちをわかりたいという自分の気持ちを素直に表現できるとよいでしょうね。
子どもの話を聞いて、何となく今日は心細いんだな、元気が出ないんだな、と思ったら、「じゃあ、今日は休もう。それで明日か明後日、元気になって行けそうなら行こうね。そのときは手伝ってあげるからね」と言って、いったん休ませるのも、かなり有力な選択肢です。大切なのは、子どもの中に登校の足をストップさせる気持ちがあることを理解すること。頭ごなしに学校に行かせるモードにならないように気をつけましょう。
学校に行っている間にママが死んじゃう⁉
分離不安というのは一見、子どもが親から離れられないほど弱いように見えますが、実は子どもが自分の身を案じる不安はそれほど大きくありません。むしろ子どもは親の安全を心配し不安になることが多いのです。自分が学校に行っている間に、お母さんが病気やケガで死んでしまうんじゃないか、いなくなってしまうんじゃないか、そんな心配が分離不安の正体なのです。
もちろん子どもは子どもなりに新しい世界で緊張が高まり、不安の感度が上がっています。だからこそ、お母さんに何か起きていないか、お父さんとお母さんは本当に仲がいいのだろうか、とこまかいことをいろいろと心配しています。たとえば、あのときお母さんがちょっと顔をしかめたのは、本当は重い病気なんじゃないかと。
ですから分離不安の強い子どもで立て直すべきは、子どもの心以上に家族の安定性なのです。子どもが後ろ髪ひかれずに家を離れることのできるくらいわが家は安定しているかどうか。親御さんはそこを考えるために、立ち止まってほしいのです。
不登校は普通の子どもにも起こる
我々、児童精神科医が診るときは、学校に行けなくなって何ヵ月か経った子どもたちですが、大雑把にいって全体の3分の1の子が発達障害、3分の1が虐待など逆境的な養育環境にある子、残りの3分の1がどちらも全くない子だと感じています。
発達障害や逆境的な環境で育つことがリスクファクターであることは間違いありませんが、以前からそのようなハンディキャップが何もなくても不登校の子はあらわれてきます。何か友人関係などでいじめのような偶発的な出来事が起きて、その子が社会に留まる意欲や動機が崩れてしまう。まさに誰でも不登校になりうるということです。
コロナ禍によって社会全体の不安量が大きく増えました。新型コロナに感染するかもしれないという不安を感じとるたびに敏感性が増したことは、大人の世界も子どもの世界も同じです。忘れてはいけないのは、実際に新型コロナに感染した子どもは多いということ。そして、その後遺症が出る可能性もあるということです。
新型コロナの後遺症は、子どもの登校の足を引っ張るほど、倦怠感が強く出る場合があります。気力も奪われますから、その体調で学校に行かせるのは非常に酷です。そのあたりはかかりつけの小児科医と、よく相談しながら考えるべきですね。
単に子どもがだるい、気持ち悪いといって登校をしぶる背景には、さまざまな社会的な要因があることを大人は忘れてはいけないと思います。
有力な相談相手は地域の教育相談機関
親にとって最初の相談相手は、学校の先生になります。子どもが欠席するときは学校に連絡し、担任の先生とやりとりすることになるからです。親御さんは、そこで先生がパートナーに足りうるかどうか感じとってほしいですね。教師がみんなよきパートナーになるかどうかはわかりませんので。
登校しぶりが何日か続き、親としてはお手上げかなと思ったら、学校は学校で考えていただきながら、親御さんは学校から一歩距離をおいた、地域の教育相談機関に相談するのがおすすめです。教育相談機関では、教育相談はもちろん、子どものカウンセリングやプレイセラピーもしてくれます。学校のこともよく知っていますし、学校と横並びの機関ですから連携をとりやすいのもメリットです。
まず子どものケアに手を貸してくれるところでやってみて、長引いてきたら児童精神科など医療の手を借りるというステップがよいでしょうね。いきなり児童精神科に行って薬を出されるのは考えもの。その前に環境を整えることが大事になります。