老後の「資産の取り崩し期」は気持ちのいいものではない
社会人になり定年を迎えるまでは、日々の生活費などで支出をしつつ、将来のライフイベントや老後のために、資産を形成する時期になります。しかし、定年以降は公的年金を受け取りつつ、それまで築いてきた資産を取り崩しながら老後の生活をしていくことになります。
つまり、「資産形成期」から「資産取り崩し期」に変わります。
しかし、いくら老後資金として準備してきたお金だといっても、毎月資産残高が減っていくのを見るのは気持ちのいいものではありません。かといって、やみくもに取り崩しを恐れていては「結局使えなかった」と後悔することになりかねません。
そこで検討したいのが、資産形成期で築いてきた資産の一部を、毎月キャッシュフローがある資産に換えて保有すること。いわゆる「不労所得」があれば、心理的な負担も減るし、何より定年後のお金の大きな味方になります。
その一案として活用したいのが、高配当株投資です。高配当株投資をすれば、配当金の形で不労所得が入ってくるため、定期的にキャッシュフローを得られます。
「高配当株」とは何か
高配当株とは、他の株と比べて、配当金を多く出してくれる銘柄のこと。配当金は、会社の事業が順調なときに、株を持っている株主に支払われる利益の一部です。そして高配当株とは、株価に占める配当金の割合(配当利回り)が高い銘柄のことをいいます。
何をもって「高配当」なのか、明確な基準はありませんが、配当利回りが3〜4%を超えてくると一般的に高配当といわれています。
たとえば、2023年6月14日時点の、日本株と米国株の高配当株上位10銘柄は、次ページの図表1のとおりです。配当利回りは5%を超えています。
配当利回りが8%を超えるものも
企業名になじみのないものもあるかもしれませんので、参考までに業種の情報を入れておきました。トップの銘柄は、日本株はほぼ7%、米国株は8.4%の水準となっています。
配当は通常、日本株であれば年1〜2回、米国株であれば年4回もらえます。銘柄をうまく組み合わせれば、毎月不労所得が入るようにすることもできます。
日本株の高配当株には建設業や輸送用機器、食料品メーカーなどが多くなっています。米国株の高配当株には一般消費財(日用品など)やIT・通信に関わる企業が多くなっています。
また、高配当株だけでなく、増配株にも注目したいところです。増配株とは、配当金の金額を増やしてくれる銘柄のこと。長年にわたって毎年配当金の金額を増やしている銘柄を連続増配株といいます。
毎年増配するには、右肩上がりで成長している、継続的に利益を出し続けている、配当を出せるだけのお金を貯めている、財務が健全であるといった優良企業でないと難しいでしょう。増配によって配当が増えるだけでなく、株価もさらなる上昇が見込めます。また、増配株は、市場全体の暴落にも強いのが特徴です。
「高配当株」と「増配株」は何が違うのか
日本株・米国株の連続増配株上位10銘柄は、図表2のとおりです。
日本の連続増配株として有名なのは花王(4452)で、33年と独走しています。しかし米国株は60年以上も連続増配を続けている銘柄が複数あります。アメリカン・ステイツ・ウォーター(AWR)はなんと69年です。
業種で見ると、日本株は化学、米国株は一般消費財や工業に連続増配株が多くなっています。市場はときどき暴落しますが、ITバブルの崩壊、リーマンショック、コロナショックなどを乗り越えて連続増配しているわけですから、さすがの一言です。
直近は、日本株は株主優待を廃止して、配当に力を入れる企業も増えているようなので、今後は高配当株・増配株はますます人気になっていくかもしれません。
高配当株・増配株はどう選ぶ?
高配当株・増配株の上位10銘柄がわかったら、あとはこれらに投資すればOKというほど、投資は楽勝ではありません。配当金がたくさんもらえたとしても、資産の売却を考えたときに、肝心の株価が下がってしまえば元も子もないからです。
配当利回りは「1株当たりの配当金÷株価×100」で算出されます。
「株価」が計算式に入っているので、配当利回りが高い銘柄の中には、「株価が下がって配当利回りが高くなっている」銘柄が入っている可能性もあります。株価が下がる要因はさまざまですが、個別要因で大きいのは業績悪化でしょう。
配当利回りだけ見て高配当株に飛びつくと、資産を減らしてしまいかねません。また、連続増配もあくまで過去の実績であって、今後も増配を続ける保証はないことに注意です。会社の業績や財務が悪化すれば、増配をしなくなるどころか、配当を減らす減配や、配当をなくす無配を行う可能性もあります。
高配当株・増配株のチェックポイント
高配当株・増配株は「好業績かどうか」「財務は健全か」などを確認する必要があります。具体的には、次のポイントを確認しましょう。
●高配当株・増配株のチェックポイント①:売上高や営業利益が大きいか
売上高は会社の活動で得られた収入の合計額です。年々右肩上がりになっているかをチェックします。また、本業で上げた利益を表す営業利益(売上高から売上原価と販管費を差し引いた残り)も一緒にチェック。過去3〜5年と今後2年間の予測が右肩上がりで伸び続けている会社が有望です。
●高配当株・増配株のチェックポイント②:営業利益率・経常利益率が高い
営業利益率は売上に占める本業で稼いだ利益の割合、経常利益率は営業利益からさらに営業外収益・費用を足し引きした、会社の収益力を測る指標です。同じ業種の他社と比べて高いなら、利益を稼ぎ出す力が強いと判断できます。
●高配当株・増配株のチェックポイント③:1株当たり利益(EPS)が年々増加している
1株当たり利益とは、会社の最終的な利益である当期純利益を発行済み株式数で割ったもの。1株当たり利益が大きく、年々増えている会社は堅実に成長していることを表します。
●高配当株・増配株のチェックポイント④:借金が少ないか
会社の成長には、レバレッジ(借金)が欠かせません。とはいえ、度を超えた借金があると財務的に苦しくなります。会社にあるお金のうち、返さなくていい部分(自己資本)の割合を示す「自己資本比率」をチェック。50%以上だと安全性が高いと判断されます。
また、会社の有利子負債が少ないこと、利益剰余金が多いことも判断材料に。有利子負債は、利子をつけて返さなければならないお金ですので少ないほど健全です。また会社が蓄えている利益剰余金が多いということは、それだけ経営が順調だということを表します。
●高配当株・増配株のチェックポイント⑤:不況に強い業種か
業績や株価が比較的安定している、不況に強い業種の銘柄がいいでしょう。不況に強い業種には、食品、医薬品、電力・ガス、鉄道、通信などが該当します。そうした業種の好業績銘柄に投資しておけば、配当金も安定して得られる期待ができます。
リスクを減らす「業種分散」「銘柄分散」の視点も
リスクを減らす観点で言えば、業種の分散も大切です。同じような業種の銘柄は、値動きが似る傾向にあります。仮にある業種が値下がりしても、他の業種の値上がりでカバーする「分散投資」の効果が得られます。
景気や金利の動向に応じて、注目される業種は変わります。景気が弱いときには、景気に左右されない不況に強い銘柄が好まれます。景気が良くなるときにはハイテク株、金融株、工業株、消費循環株(自動車や宝飾品などの高級品)、素材株などが好まれます。
高配当株・連続増配株に投資する方法は、個別株だけではありません。ETF(上場投資信託)を活用すれば、高配当株・連続増配株にまとめて投資できるものがあります。
ETFは1本で複数の投資先に投資するのと同じ効果が得られるので、リスクの分散に役立ちます。保有している間にかかる手数料(経費率)も安くなっています。
高配当株・増配株投資で人気のあるETFは図表4の通りです。
新NISAをフル活用して、非課税で配当金を受け取ろう
高配当株・増配株に投資する際には、2024年から始まる新NISAをぜひ活用しましょう。NISAは、配当金、分配金、売却益にかかる20.315%の税金がゼロにできる制度です。
2024年から始まる新NISAでは、現行のつみたてNISAと同様の投資ができる「つみたて投資枠」と、一般NISAと同様の投資ができる「成長投資枠」を併用できます。株式投資は成長投資枠でできるようになります。
新NISAでは、非課税期間が無期限になりますので、税金がかからず、配当金や分配金が手に入る状態をつくれます。また、NISAではいつでも換金して自由に引き出せるため、資産の取り崩し運用とも非常に相性がいいです。
ただし、新NISAで米国株や米国ETFに投資しても、米国株・米国ETFの配当金には米国内で10%の税金がかかる点には注意が必要です。
2024年から始まる新NISAは、高配当株投資にぴったりのお得な制度です。「資産形成期」から「資産取り崩し期」に変わるタイミングでぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。