「ジャニーズ事務所のタレントには罪はない」「番組出演に変更なし」とテレビ各局から横並びのコメントが発表された。テレビ誌の編集部に長く在籍し、ジャニーズタレントのインタビューを多く手掛けてきたライターの村瀬まりもさんは「故・ジャニー喜多川氏が未成年に性加害をしていたという疑惑を、事務所も半ば認めた形で対策を打ち出したが、テレビ局は出演料を事務所に払い続けるという決定でいいのか疑問だ」という――。

4月改編の真っ只中に性加害問題再燃で激震が走った

よりによって1年の中で最も大事な4月改編期とは……。

テレビ局の社長や役員、編成局長たちはきっと頭を抱えたことだろう。3月下旬、イギリスBBCが放送したドキュメンタリーをきっかけとして再燃したジャニー喜多川の性加害疑惑問題。しかし、4月クール(4~6月)の連続ドラマや新番組の制作はもう始まってしまっていた。

TBS本社
TBS本社(筆者撮影)

例えば、4月27日からゴールデンタイムに進出した人気絶頂のグループ、SnowManの冠番組「それSnow Manにやらせて下さい」(TBS)。または木村拓哉主演の月9「風間公親-教場0-」(フジテレビ)。それらを春の改編の目玉として打ち出していた東京キー局5社、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ。都心にある本社エリアにはジャニーズ事務所所属タレントの映ったポスターがでかでかと貼られ、番宣番組も盛んに放送されている。そんな中で「ジャニーズ帝国が崩壊するかもしれない」という激震が走ったのだ。

もともと4月クールは、ジャニーズタレントの出演が多い時期でもある。アイドルの主なファン層は中高生であり、その夏休みに合わせて全国ツアーを組むので、7月クール(7~9月)はあまりテレビに出られず、ドラマの撮影をじっくりしているわけにもいかない。その前の4月クールにどっと露出し、新番組も軌道に乗せておくというのが業界の常識だった。現在はそのルールもだいぶ崩れつつあるが、新規スポンサー確保のためにも、4月改編でジャニーズタレントの主演ドラマやバラエティーを増やすのは既定路線だ。

プライム帯には89%の確率でジャニーズタレントが出演

その4月クールである2023年5月29日~6月4日をサンプルとしてNHKも加え、最も視聴率が高くなるプライム帯(19時~23時)と23時台でジャニーズ所属タレントが出演する番組をピックアップしたものが【図表1】である。

【図表】ジャニーズ事務所所属タレント出演番組 NHK/東京キー局 ・2023年5月29日~6月4日(プライム帯+23時台)
筆者作成

週7日×5枠で全35枠あるところ、わずか4枠を残し31枠が出演番組で埋まったのは、作成して驚いた。つまりテレビをつけてチャンネルをスイッチしていけば、いずれかのチャンネルにジャニーズタレントが映っているという確率が35分の31(89%)だ。

ほぼどの時間帯でも誰かが地上波に出ていることになり、出演人数は延べ100人(68人+4グループ32人)にもなった。1枠に裏番組がある場合も多いので、35枠に対し49番組47枠分(30分番組を換算)。出演率140%という計算にもなる。6局で割ると1局あたりの出演率は約23%ということになる。

ジャニーズがいなくなったらテレビの現場は回らない?

まさに寡占とはこのこと。こんな状態で、もしジャニーズタレントの出演を見合わせるということになったら? 「とても現場が回らない!」というのが、番組プロデューサーをはじめとする制作スタッフの正直な声であろう。最多のTBSは出演番組が13本もあり、全体の約30%を占める。

日本テレビ本社
日本テレビ本社(筆者撮影)

しかし、5月14日にジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が謝罪動画を公開し、各局のニュース番組も、これまで数十年間の沈黙が嘘のようにジャニー喜多川の性加害を告発する元タレントたちの声を報じ始めた。

テレビ局は「出演番組の制作・放送をストップするわけにはいかないが、企業コンプライアンスとして見解は発表しなければならない」という難しい立場に置かれた。そこで5月25日、テレビ東京の定例記者会見で、高野学コンテンツ戦略局長が絶妙な落としどころを示した。

「タレントのみなさんに問題があるわけではないと考えますので、今後も出演していただく方針です」

この会見では石川一郎社長も「タレントに罪や問題などがあるわけではない。さまざまな形で活躍していただきたい」とコメントした。

「所属タレントに罪はない」が落としどころに

続く5月26日、フジテレビの定例会見では大多亮専務が「所属タレントの方々に問題があったわけでございませんので、番組について変えたり、それによって何か変更する予定はない」と説明。さらに、5月30日に定例記者会見を行ったテレビ朝日・篠塚浩社長は「タレント起用に変更はございません」と語った。

【図表】ジャニーズ事務所所属タレント出演番組 5月29日(月)~5月31日(水)
筆者作成

5月31日にはTBSの龍宝正峰取締役が「個人の方が問題を起こしたわけではない。キャスティングを変更することは考えておりません」「事務所さんの対応が発表されておりますので、その状況を見守ってきたい」とコメントした。

つまり、「ジャニー喜多川氏の性加害」という問題を否定するわけではないが、既に故人であるし、番組に出ているアイドルたちは加害者側ではなく被害者側である(当事者であるかは不明)という見解である。性加害問題は取引先であるジャニーズ事務所にきっちり検証をしてもらうとして、所属タレントに罪はないので予定どおりショー・マスト・ゴー・オン。各局が口をそろえてそう言い出したわけだ。

ジャニーズ事務所は稼ぎ続け、既得権益は温存される

たしかに前社長がタレントに性行為を強要していたということで、被害者側であるタレントの仕事が減るというのはおかしい。しかし、所属タレントがテレビ番組に出続ければ、問題があったはずのジャニーズ事務所も稼ぎ続けることになる。

ここで現在、注目されている各局とジャニーズ事務所の関係を見ていこう。

まずNHKは、大河ドラマ「どうする家康」で松本潤が主演を務めている。1年続く長丁場でまだまだ前半戦、松本のみならず、大河主演経験のある岡田准一がサブの信長役で出演しており、ジャニーズ事務所との間に摩擦を避けたいという思惑は一部にあっただろう。

【図表】ジャニーズ事務所所属タレント出演番組 6月1日(木)~6月4日(日)
筆者作成

「クローズアップ現代」が取り上げた

しかし、4月に元ジャニーズJr.の岡本カウアンが日本外国特派員協会で告発会見を行った際には、岡本と同世代だという女性ディレクターがYouTubeで生中継されていることを承知で、テレビがこの問題を報じてこなかった責任に踏み込む質問をした。そこからは「クローズアップ現代」などで独自取材も交え性加害問題を報じている。

NHKはジャニーズを辞めたタレントの起用にも積極的だ。2017年に事務所を退所したSMAPの草彅剛、稲垣吾郎、香取慎吾をいち早く大河ドラマや朝ドラに出演させ、Eテレで「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)を彷彿とさせるコント番組「ワルイコあつまれ」も放送している。

また2022年には、2020年に退所した山下智久の主演ドラマ「正直不動産」を放送した。2019年退所の錦戸亮もテレビから姿を消していたが、この5月から「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(BSプレミアム)に出演している。

一方、民放各局は露骨な忖度そんたくがみえる。日本テレビでは連続ドラマ8本のうち、髙橋海人と森本慎太郎がダブル主演する「だが、情熱はある」など4本にジャニーズタレントが出演中。そもそも、日本テレビは東京キー局の中でも特例でジャニーズだけが主演するドラマ枠「シンドラ」を設定している(関連会社のジェイ・ストーム製作)。現在は「美少年」というグループの4人が主演する「春は短し恋せよ男子。」が放送中だ。

日本テレビのニュースで櫻井翔が「自分の意見」

また4月には、日本テレビの夏のチャリティ企画である「24時間テレビ46」のメインパーソナリティーを「なにわ男子」とすることが発表された。このポジションは長年ジャニーズタレントが起用されている。

「news zero」では月曜のキャスターを嵐の櫻井翔が務めているが、5月29日までの放送で櫻井は性加害問題についてコメントしていなかった。明らかに不自然な対応だったが、日本テレビの石澤顕社長は「現場の判断を支持したい」と述べるにとどめていた。

しかし、6月5日の「news zero」で櫻井は生放送でカメラに向かい、性加害問題について初めて以下のように話した。

「今回の件ですが、私は2つの側面があると考えています。ひとつはこの問題の責任が問われている事務所に所属しているということ。もうひとつは大きな意味では、自分は“被害者側”に見られうる立場に置かれているということです。私にとってこの2つの側面を踏まえますと、コメントすることは難しいと考えていました。今もまだどの立場でどうお話できるのか、難しいのですが……。
お伝えしたいことのひとつは、憶測で傷つく人がいるということです。かつて同じジャニーズJr.として時間を共にしてきた大切な仲間の中には、既にこの世界とはまったく違うところで新しい人生を歩んでいる人たちもたくさんいます。そういう人たちも含めて、あらぬ憶測を呼び、今回の問題の対象となってしまうことは、何よりも避けなければいけない。避けたいと。そこを考える中で私自身発言すること自体が、また憶測を呼び、広げ、無関係な人まで傷つけることにつながるのではないかということを恐れています。
ただ、だからこそ、ジャニーズ事務所は話したくない人の口を無理やり開かせることなく、しっかりとプライバシーを保護した上で、どのようなことが起こっていたのかを調査してほしい。そして、被害を訴える方々ならびに、本日提出された署名をした皆さん(編集部註:岡本カウアンらが国会で児童虐待防止法の改正を求める約4万人分の署名を提出)の思いを重く受けとめ、二度とこのような不祥事が起こらない体制を整えなければならないと思います。
最後にあらゆる性加害は絶対に許してはならないし、絶対に起こしてはならないと考えています」
(6月5日放送・日本テレビ「news zero」)

所属タレントにコメントさせ、社長は隠れたまま

櫻井は、言葉を選びながら、慎重な面持ちで語っていたが、「何よりも避けなければいけない」と気遣うべき対象は、現に「性被害を受けた」と訴えている人たちではなく、「性被害を受けたのでは」という「臆測で傷つく人たち」だったことは残念に思う。

「自分は被害者側に見られうる立場に置かれている」という発言もあり、現在活躍しているジャニーズ事務所のタレントの立場を守ることが念頭にあったのかもしれない。

所属タレントが自社の問題についてニュース番組でコメントを求められるという構図はきわめて異例だ。櫻井のコメントばかりを責めるわけにはいかないだろう。こうした構図になったのは、藤島ジュリー景子社長が「謝罪動画」を公開するだけで、一切の取材に応じていないからだ。タレントを矢面に立たせるばかりで、性加害の当事者の親族である現経営者が隠れたままでは、視聴者の理解は得られないだろう。

これまで櫻井がコメントを見送ってきたのは、ジャニーズ事務所の最年長タレントである東山紀之の影響があったとの指摘もある。東山は自身がMCを務める「サンデーLIVE‼」(5月21日放送、テレビ朝日系)で、「このままジャニーズという名前を存続させるべきなのか」と踏み込んだ発言をする一方、「僕からコメントするまでは後輩たちには待ってもらった」と発言していた。テレビ朝日の会見では、東山がコメントすることは局側からの要請であったことも明かされた。

テレビ朝日のスタジオの向かいに「合宿所」があった

テレビ朝日とジャニーズ事務所の関係も長く深い。4月クールではドラマ枠で井ノ原快彦主演の「特捜9 season6」と横山裕主演の「帰ってきたぞよ!コタローは1人暮らし」を放送し、6月7日からは「特捜9」の後に東山紀之主演の「刑事7人」が始まる。「ミュージックステーション」には毎回いずれかのグループが出演し、司会のタモリと共にひな壇に座って軽快にトークしている。

テレビ朝日本社前
テレビ朝日本社前(筆者撮影)

「ミュージックステーション」などを収録する本社は六本木ヒルズにあり、もうひとつの収録拠点は赤坂寄りのテレビ朝日アーク放送センターにある。

ここで気になるのは、複数の元ジャニーズJr.がここでジャニー喜多川から性的なことをされたと告白した「合宿所」が、一時期、アーク放送センターの向かいにある全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)にあったということだ。同じアークヒルズの敷地内で、あまりにも近すぎる。番組の収録を終えたタレントが、徒歩で向かいのホテルに入っていくという流れが目に浮かぶようだ。テレビ朝日は事務所の検証に任せるのではなく、この点を調査すべきだろう。

ジャニーズでなければ視聴率が稼げないわけではない

出演番組数の多さから、「もはや地上波はジャニーズなしには回らない」という見方もできるが、必ずしもそうとも言えない。なぜなら、ジャニーズタレントの出演で視聴率を稼げている番組は数えるほどしかないからだ。

フジテレビ本社
フジテレビ本社(筆者撮影)

【図表1】で赤線で囲ったのは、彼らの主演ドラマや冠番組、メインMCの番組で、つまり「ジャニーズタレントなしには成立しない」と言ってもいい番組だ。しかし、これらの番組全てが視聴率で上位に入っているわけではない。これは他の事務所にも言えることだが、ひと昔前に木村拓哉などについて言われた「数字を持っている」タレントなど、今は存在しないのである。

ドラマは「教場0」「王様に捧ぐ薬指」「特捜9」「どうする家康」が視聴率トップ10にランクインし、音楽番組では「ミュージックステーション」が上位になっているが、その他の番組に視聴率を稼ぐというメリットがあるとは思えない。

それなのになぜジャニーズタレントはテレビを席巻しているのか。ひとつにはスポンサーとの関係がある。例えば「それSnow Manにやらせて下さい」のCMを見れば、Snow Manが出演している企業ばかりであることがわかる。F1層(20~34歳の女性)にリーチしたいスポンサーとその層にファンが多いアイドルグループ(SnowManのファンクラブ会員は約115万人)のウィンウィンな関係がある。だから世帯視聴率は問題ではないのだ。

タレントにとってテレビは信頼性を担保する「営業」の場

そもそも、ジャニーズのように巨大な芸能事務所から見れば、タレントがテレビ番組に出て稼ぐ出演料の比率は小さい。重要なのはCM出演料である。

もうひとつの収益の柱は、いまだにジャニーズだけは売れると言われるCDセールスやコンサートでの売り上げだ。これはいかに多くのファンを獲得するかにかかっている。

ジャニーズタレントにとってテレビは、いわば「営業の場」なのである。彼らは国の認可事業である地上波テレビ、「みなさまのNHK」「TBSの日曜劇場」「フジテレビの月9」に出ているから、スポンサー企業に信頼される。「ミュージックステーション」など、音楽番組での露出が多いことでファンが増え、CDを買ってもらえてコンサートにも来てもらえる。

つまり、テレビ局は「アイドルに罪なし」と方針を変えないことで、ジャニーズ事務所が引き続き巨額の利益を得ることに加担しているのだ。たび重なる性加害を許した異常な構図が、はたしてこのままでよいのだろうか。