歩きスマホなど、公共の場で周りの人の迷惑になるマナー違反の行為をしている人に出会ったとき、どんな風に対応すればいいのか。漫画家の田房永子さんは「自分の進路を妨害していたり、明らかに事故につながりそうな危険な場面以外は、気にしないようにしている。注意する時には、なるべく相手を刺激しないような言動で『私はとても迷惑している』と、主語を自分にした“アイ(I)メッセージ”で伝えるといいのではないか」という――。
渋谷のスクランブル交差点
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです

渋谷で出会った「チョップおじさん」

まだコロナ禍になる前、渋谷駅の雑踏で、人のスマホをチョップで叩き落としているおじさんを目撃しました。

縦横無尽に人々が行き交う中、歩きスマホをしている20代前半くらいの女性。その真正面にいたおじさんが女性をしっかりと見下ろしながら、女性の持っているスマホに自分の手を振り下ろす形で当て、パーンとスマホが下に落ちていました。

人混みの中で、手が当たってしまうことはあると思います。でもおじさんはキッチリと女性を見ていたので違和感がありました。頭に当てた手を下ろしたテイを“装ってる”感じがしました。

あのチョップはやはり「わざと」だったのだろう。そう確信したのは、歩きスマホの若い女性に同じことをしている別のおじさんを、同じく渋谷の雑踏で見たからです。

目の前にいる若い女の子をじっと見ながら、ちょうどいいタイミングで手を下ろしてそのスマホをチョップで落としていました。

女の子のほうは、人に当たってしまって落ちてしまった、すみません、という感じで慌てて拾っていました。一瞬の出来事だけど、横から見ていた私には、おじさんが狙いを定めているのが分かり、えええ~~と思いました。

チョップおじさんは、「制裁」とか「注意喚起」としてチョップをしているのではないか?

おじさんがわざとやっているかどうかなんて私にはなんの証拠もない。ですけども、おじさんが「無」のまま立ち去るのが不自然でした。

もし自分の手が他人の持ち物に当たって落としてしまったら、「すみません!」と当たった側が拾おうと動いてもおかしくない。だけどおじさんたちは2人とも、慌ててスマホを拾う女の子を見ながらも無表情、無動作、無言でした。

チョップおじさんは、「制裁」とか「注意喚起」としてチョップをしているのではないか?
イラスト=田房永子

歩きスマホは迷惑だし危険だが…

歩きスマホは本当に迷惑だし危険だし、絶対にやっちゃダメなこと。

画面を見たければ、道の邪魔にならないところで立ち止まるべきです。

「歩きスマホをやめてください」と見知らぬ相手に突然言うのは勇気がいる。相手に気づかせるために、おじさんはチョップをしたのではないか。そう仮定して話を進めたいと思います。

歩きスマホをしている人は、誰かに注意されても仕方ないとは思います。しかしその注意の方法として「チョップ」は不適切ではないでしょうか。

スマホがもし壊れてしまったりしたら一体どうするんだろう。めちゃくちゃ面倒くさいことになりそう。それにチョップした時点でおじさん側の「0%だった非」が跳ね上がってしまう。

それに最も気になるのは、歩きスマホをしているのがもしムキムキマッチョマンであっても、おじさんはチョップしてスマホを落とすのだろうか、ということ。相手が若くて自分より身長の低い人だからなんじゃないのか……という疑念は拭えません。

“自転車スマホ”に抱いたイライラ

街でマナー違反している人に出くわしたとき、それをやめてほしいとき、一体どうやって伝えるのがいいのでしょうか。そもそも伝えてもいいものなのでしょうか。

私も一時期、歩きスマホをしている人に出くわすと、腹が立つことがありました。

道を歩く時はみんなで協力し合ってお互いの安全を確保しているのに、なぜそれを勝手に免除してスマホをいじってるんですか、というイライラです。

“自転車乗りながらスマホ”には、さらに腹が立っていました。いますぐ死ぬつもりですか? というほど危ない。子どもを乗せた状態で走りながら片手で電話をしているパパママも見たことがあります。「危ないからやめてほしい」と声をかけたくなるけど、一度も言ったことはありません。

でも、ある時期から怒りが湧かなくなりました。自転車スマホをしている人があまりにも多くていちいちイラッとするのがバカらしい、と思った時からです。進路を妨害しているとか、明らかに事故につながるという現場に遭遇したときは注意しよう、それ以外は一切気にするのをやめる、と基準を設けました。

それからは、自転車スマホの人に遭遇しても、気を取られすぎないようになりました。

「ダメですよ」自分が言われて気付いた

それでは、もし注意することになったらどうするのが一番良いでしょうか。

私は自分が注意された時のことを参考に、一応のラインがあります。

一度、スポーツジム内の、靴で歩いてはいけないゾーンで間違えて靴を履いてしまったことがありました。

私が履き終わった瞬間に、すぐ横にいた見知らぬ女性が「ここで履いちゃダメですよ」と教えてくれました。

私が100%間違えてるし、教えてもらえてありがたいんだけど、その「ダメですよ」の言い方が「は? 何してんの? バカなの?(イラッ)」的なイントネーションでした。「ダ」が一番強く発音する「ダメですよ」でした。

「ダメですよ」の言い方にもいろいろあると思います。「おばあちゃーん、ダメですよ〜」のゆっくりバージョンとか。

その人の「ダメですよ」に私は心臓がシュンッと縮んで、「そ、そうですね」と小さく言ってすぐに靴を脱いで手に持って小走りで去りました。

その人も別に私に強く言おうと思ったわけじゃなくて、とっさだったからちょっとキツめの言い方になっただけかもしれない。

でもそれを機に、もし自分が注意する時は「あ、ここ、土足ダメみたいですー^o^」とかの言い方をしよう、と決めました。

この靴の話でスマホチョップを例えてみると、土足禁止ゾーンでいま片方の靴を履き終わった人のかたわらに置いてあるもう一方の靴を、偶然を装って無言で蹴り飛ばす、みたいな感じ。その後も無言で。やっぱりそれって正しくはない……。

無言で靴を蹴り飛ばす。その後も無言でっていうのもやっぱりよくない
イラスト=田房永子

“逆ギレ”されない伝え方

マナー違反している人に、声をかけて注意するのはかなり勇気がいります。相手がどんな人か分からないし、逆ギレされるかもしれない。街で口喧嘩している人たちはこの、どっちかが注意して相手が逆ギレしている、というパターンが多いと思います。

そしてどんなシーンであっても、自分が「この人には直接的な迷惑はかけてない」と思っている人から強く攻撃的な口調で注意されると、反発心が湧くものではないでしょうか。

「みんなが迷惑してるからやめて」という、自分以外の人を主語にした、他の人の代弁的な言い方はなるべく避けたほうが無難だと思います。「ここにいる、あなた以外の全員があなたに迷惑している」という意味になって、“1対全員”という構図を示すことで相手を必要以上に追い詰めてしまって、激昂される率が高くなってしまう。

明らかに迷惑をかけられている立場であるときに、なるべく相手を刺激しないような言動で「私はとても迷惑している」という、主語を自分にした“アイ(I)メッセージ”で意思を伝えられると、厄介なトラブルに発展する率および、何も言えなかった……とモヤモヤする時間が減るのではないかなと思います。