※本稿は、大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
億万長者の思考と行動習慣
今から30年近く前にアメリカで出された『となりの億万長者』(トマス・J・スタンリー&ウィリアム・D・ダンコ著、邦訳は早川書房)という本があります。この本はよくありがちな「お金持ちになる方法」やノウハウの類が書いてあるものではありません。この本が面白いのは、全米の100万ドル以上の純金融資産を持つ人々、俗に言う億万長者の人たちが、一体どんな思考や行動習慣を持っているかということについて、長年にわたるフィールドワークで明らかにしたという点にあります。
私は証券会社に勤めていましたから、長年にわたって多くの投資家や資産家と言われる人たちを見てきました。そんな私の経験から言っても、この本に書いてあることの多くは全くそのとおりだとうなずけることが多いです。そこで私も今までの経験とインタビューをまとめて、数年前に『となりの億り人』(朝日新書)という本を出しました。日本とアメリカでは社会構造や人々の考え方は必ずしも同じではないものの、共通する部分が非常に多いというのが私の実感です。
高収入なのに貯金がほとんどない人たちは多い
『となりの億万長者』で読んだ、私の印象に強く残っている言葉があります。それは「高収入を得ている人が必ずしも資産家ではない」ということです。
世間一般では高収入の人=お金持ちと考えられていますから、メディアなどに登場して活躍する有名人などを見ると、きっと彼らはたくさんお金を持っているに違いないと思いがちです。しかし、この本には必ずしもそうとは限らないと書かれています。
たしかに著名な芸能人が多額の借金を抱えて破産するといった事例は昔からよく聞きますよね。我々はそういう例を見て「ああ、中にはこういう馬鹿な人もいるんだ」ぐらいにしか考えません。
ところが、多額の収入がありながら貯金がほとんどない、あるいは金融資産をあまり持っていない人は意外に多いのです。その理由をひと言で言えば、ごく単純な話で、「お金を使いすぎるから」です。どれだけ収入が多くてもそれを上回る支出があれば、お金は決して貯まらないというのは当たり前の話です。ところが、収入の多い人に限って、そういう傾向のある人が意外と多いのです。
収入も支出も変動が大きい
例えば企業オーナーや医師、タレントといった人たちは世間的には高収入と思われているでしょうし、恐らく彼らの多くにとって、それは事実でしょう。ただ、彼らの収入はサラリーマンと違って変動が大きいのです。すなわち、儲かる時とそうでない時の落差が大きいということです。
さらに支出も、同様に変化率が大きいと言えるでしょう。例えば自営業やオーナーで言えば、状況を見て大量の商品仕入れが発生したり設備投資をしたりといった想定外の支出が出てくることがありますし、タレントなどは自分のイメージを維持しようとして生活にそれなりのお金をかけるでしょうから、結果として意図せざる支出が発生することが多くなります。
その点ではむしろサラリーマンの方が資産作りに成功する可能性が高いと言えます。なぜなら、収入は安定しているし、それなりに計画的に管理していれば、予定外の支出などはそうそう出てくるものではないからです。実際に私が今まで見てきた資産家と言われる人の多くは、実は普通のサラリーマンだったというケースも多いのです。
庭の草刈りをしながらコークを飲む億万長者の地味な生活
『となりの億万長者』にも、いわゆる億万長者と言われる人はとても地味な生活をしているということが書かれています。イタリア製の高級スーツを着て車はフェラーリ、毎晩パーティーに出かけてシャンパンを楽しむというのがお金持ちのイメージですが、実際はそんな生活とはほど遠く、通販で買った背広を着て車はフォードの中古、パーティーでシャンパンではなく、毎日庭の草刈りをしながらコークを飲んでいるというのが多くの億万長者の実際のライフスタイルだと言うのです。
これは考えてみれば当たり前の話です。いくら収入が多くても、フェラーリに乗って毎夜パーティーに出かけるような生活をしていたのでは、お金なんか貯まるはずがありません。
結局、1万人を超えるアンケートと500人に及ぶインタビューの結果わかった、全ての億万長者に共通するたった一つのこと、それは「収入以上に使わない」というごくシンプルで当たり前すぎるぐらい当たり前な話だったということです。
社内的地位が高い人ほどお金が貯まっていない
多くの企業では、人事部門が主催して、毎年「セカンドライフセミナー」といったようなタイトルで50代の社員たちに対する定年後の準備に向けたセミナーがおこなわれています。私も年間十数回は、そういうセミナーで講師を務めています。
そんなセミナーで面白いのは、参加者がグループに分かれて自分たちで定年後の生活に向けて意見を交換するというセッションです。私も自分の講演が終わった後は、そういうグループセッションに参加させてもらい、みなさんのお話を聞かせてもらうようにしています。
この場合、大体立場の似た人が同じグループにまとめられることが多いです。同じ年次でも部長、課長、無役社員と職位に差があるためで、同じ程度のクラスでないと話が弾まないだろうという配慮から、そうすることが多いようです。
そこで気がついたことは、社内的な地位の高い人ほど実は資産があまり多くなく、逆に、立場は無役でもしっかりと資産形成をしている人が多いということです。
これは意外です。本来であれば職位の高い人ほど給料も多いはずなのに、実際は必ずしも地位と資産がパラレルにはなっていない。一体どうしてなのか、考えてみました。
答えは前述したことと同様で、収入に比べて支出が多いからです。でも、そうなってしまう理由はそれほど単純ではないようです。
支出が多くなる元凶
支出には固定費と変動費がありますが、昨今、固定費の見直し、具体的に言えば保険の見直しや無駄な会費の支払いといった項目については改善すべきだという考え方が浸透しつつあります。事実、色んな数字を見る限り、着実に改善されつつあるようです。
ところが変動費については、まさに人によってさまざまなので一概には言えません。一般的にサラリーマンで変動費の支出が多い人の特徴は何かと言うと、どうやら付き合いや飲食による支出が多いようです。
社内的に高い地位にいる立場の人は、部下も多いし、外部との交流機会も多いわけです。結果として飲食の機会が増えるのが普通です。無論、そのために交際費というものがあるわけですが、それにも限度があります。付き合いの機会が多い人にとっては、やはり自分のお金を使う頻度も高くなることでしょう。
さらに、地位の高い低いとは関係なく、外での飲食が好きな人であれば、飲んだり食べたりすることでストレスが解消されるでしょうから、そういう機会が多くなります。
結局、支出が多くなる元凶は、仕事に対する熱心さがもたらす付き合いの多さと、ストレス解消のために増える飲食機会ということになるのでしょう。
収入をコントロールできると思う勘違い
これはサラリーマンに限りませんが、一般的に多くの人は収入を増やすことばかりに熱心になる傾向があります。出世街道をひた走るエリートサラリーマンも同様で、仕事で成果をあげて何とか高い地位に就き、権力も収入も増やしたいと思うのは当然です。結果として前述のような支出が増えることになるのです。
でも、多くの人が誤解しているのですが、収入をコントロールすることはほぼ不可能です。自営業やフリーランスであれば収入が不安定ですから当然ですが、収入が安定していると思われるサラリーマンでも収入のコントロールは不可能です。なぜなら昇給や昇格は自分が決めるのではなく、上司や人事部が決めるからです。ところが多くの人が、努力すれば収入をコントロールできると勘違いしています。だからこそ、無理をしてストレスを生じさせることになってしまうのです。でもしょせん、それは無理だと思った方がいいのです。
では、コントロールできるものは何かと言えば、支出です。
どうすれば支出をコントロールすることができるのでしょう。
これは、結論から言えば、“見える化”することに尽きると思います。さらに言えば、漠然とした老後の不安も“見える化”することでかなりの部分は解決すると思った方がいいでしょう。これについては『50歳からやってはいけないお金のこと』で詳しく解説しています。