誰もが知らず知らずのうちに偏ったものの見方をしたり、思い込みで相手を評価したりすることがある。それを「無意識に潜む思い込み=アンコンシャス・バイアス」と呼ぶ。どう気づき、どう対処すべきか、日本のアンコンシャス・バイアス啓発の第一人者、守屋智敬さんに教えてもらった。
外観によって判断される偏った見解の概念。
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無意識の思い込みアンコンシャス・バイアスは、日常にあふれていて「誰にでもある」”

私たちが何かを見たり、聞いたりしたとき、無意識に“こうだ!”と思うこと。これが「アンコンシャス・バイアス」です。過去のさまざまな経験や見聞きしてきたことなどにより、自然と脳にすり込まれ、培われていくものです。

アンコンシャス・バイアスは、誰もが持っており、他人に対してだけではなく、自分に対するものもあります。そのため、私はあえて「偏見」ではなく「思い込み」と意訳しています。無意識がゆえに完全になくすことはできないものの、「アンコンシャス・バイアスに気づこう」と意識することで、モノの見方や捉え方が変わったりなど、自分自身にさまざまな変化がおとずれます。

自分の中にある思い込みを洗い出そう

表をチェックしてみてください。「こんなふうに思うことがあるな」というものはありませんか。これらはアンコンシャス・バイアスのほんの一例です。チェックが多いから悪い、少ないからいいと、結果を評価するものではありません。これらの例題から「自分にもアンコンシャス・バイアスがある」と、気づくきっかけとなるものです。

自分に当てはまるものに、チェックを入れてみよう!

思い込みに気づかないと、自分自身を過大または過小評価したり、仕事では人間関係が悪化したり、さまざまな悪影響を及ぼすことも。

たとえば、「単身赴任は、普通は男性がするもの(女性は普通、そういう働き方は選択しないものだ)」というアンコンシャス・バイアスに気づかずにいると、「私は女性だから、この打診は受けないほうがいい」と、じっくり検討する前に断ってしまうかもしれません。頭ごなしの決めつけは、キャリアに影響することもありうるのです。

また、たとえば、あなたが上司として誰かに何かを任せようとしている状況を想像してみてください。「介護中は大変だから、リーダーは任せないほうがいい」と、配慮のつもりでそう判断したとします。「介護=大変=リーダーにしないほうが本人も喜ぶはず」という“配慮に潜む”アンコンシャス・バイアスがそこにはあるかもしれません。よかれと思ってのことが、相手にとってもいいことかどうかは、対話による確認が必要です。「きっとこうだ」という根拠のない無意識の思い込みが、個人や組織の成長機会を奪ってしまうことにもなりかねないのです。

アンコンシャス・バイアスは、日常にあふれています。一人一人の多様性が生かされるかどうかは、あなたの中にあるアンコンシャス・バイアスに気づくか否かがカギかもしれません。まずは「これは思い込みかもしれない」と自分の中に潜むアンコンシャス・バイアスに意識を向けることからはじめましょう。

アンコンシャス・バイアスの影響

未来のためにバイアスがあらわれやすい言葉を知る

こんなこと言っていない? 無意識に言ってしまいがちな言葉に、あなた自身の「バイアス」が潜んでいる──。

「アンコンシャス・バイアス」は言葉どおり「無意識」なので、自分では気づきにくいもの。知らず知らずのうちに、自分の都合を優先したり、自分の要望をかなえようとしたりするときに、「決めつけ」や「押しつけ」といった表現となってあらわれやすいのです。

とくに相手を属性や特質で決めつける言葉はハラスメントにもつながるので注意が必要です。また、「普通は○○」という“価値観”や、「できっこない」といった“能力”の決めつけも同様です。価値観も能力も人によって違って当たり前。自分を基準に相手も「こうだ」と決めつけると、思いがけず相手を傷つけてしまうこともあるので気をつけたいものです。

また、自分の“解釈”や“理想”を押しつけるニュアンスの言葉も、信頼関係に影響します。自分自身のふだんの言動に意識を向けてみることも大切です。

バイアスは“決めつけ”&“押しつけ”の2つの表現にあらわれる

アンコンシャス・バイアスへの対処法

バイアスの影響は多岐にわたる。だからこそ、自分自身に潜むバイアスへの対処法を知ろう。

たとえば、上司から昇進を打診された際「私には無理です」と言う。また、部下に対して「あの人には無理だ」と考えるなど。前者は、自分のキャリア形成の芽を自ら摘んでしまい、後者では、部下の新たな能力を開発できなくなります。「よかれと思って」配慮したことでも、相手が本当に「ありがたい」と思うかどうかは別。一人一人受け止め方は違います。組織でいえば、評価、昇格への影響や、風通しのいい対話ができなくなる、新しい商品やサービスが生まれないなど、個人では、キャリア開発・成長の機会を失うなどの弊害が生まれます。アンコンシャス・バイアスによるこうした影響を防ぐための対処法は3つあります。

まずは、アンコンシャス・バイアスに気づこうとすること。“私にはアンコンシャス・バイアスはない”という声も聞きますが、それ自体が思い込みかもしれません。だから、常に自分にも「あるかもしれない」と意識すること。次に「これは決めつけや押しつけではないか?」と自分自身の言動を振り返り、相手が発するサインに目を向け、見逃さずに対応すること。

最後は、とっさにこうだと思ったことでも、確認したり、対話したりすることで「実際は違った」と思い込みを「上書き」すること。アンコンシャス・バイアスは決してなくすことはできませんが、上書きして更新できます。過去の経験から培われたバイアスだからこそ、新たな経験で意識を変えていくのです。アンコンシャス・バイアスは気づかないことでネガティブな影響をもたらしますが、気づき、上書きすることで、未来へと一歩を踏み出せます。

“意識することからはじめれば、未来が変わる”

あなたの未来に影響するアンコンシャス・バイアス10

無意識であるがゆえ、自分では気づきにくい「アンコンシャス・バイアス」。あなたの“気づき”を促すよう代表的な10の傾向を挙げた。

アンコンシャス・バイアスの用語は、現在200以上あるともいわれています。ここで紹介したものだけにとらわれず、ぜひ「これって、私の思い込みかな」と自身を振り返ってみてほしいのです。

また、これを「Aさんは、いつも、集団同調性バイアスに陥っている!」「あの会社は権威バイアス傾向が強い」などと、人に当てはめることは避けましょう。誰かを「○○だ」と決めつけることは、言われた相手の心の後味を濁す可能性があるため注意が必要です。ここに挙げた10の傾向は、あくまでも自分自身にどんなバイアスがあるかを知るためのきっかけにしてください。

たとえば、自分に「確証バイアス」がありそうだと気づいたなら、「ほかのデータも検証しておこう」「これってホントかな? これ以外の情報も念のため見ておいたほうがいいな」と、自分の行動の変化につなげてほしいのです。

アンコンシャス・バイアスは、あくまでも「自分」が気づき、気づこうとすることが大切。まず、自分の中にあるバイアスを知ることで、意識し、改善につなげていく。ものの見方が変われば、見える世界が変わり、結果として未来が変わります。ぜひ、自分の“思い込み”を振り返ってみてください。

職場や仕事に影響する6
キャリアに影響する4

※上の10の傾向は、『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない』をもとに、編集部作成。