配当利回り3%、高級和牛肉もプレゼント
1990年代から2000年代にかけて、和牛オーナー投資がちょっとしたブームでした。
ただ、私が興味を持った2000年代半ばには、多くの和牛オーナー制度はすでに破綻しており、世間では「和牛オーナー投資は怪しい」とのイメージがまとわりついておりました。
しかし私は果敢にも、そんな和牛オーナー投資に約100万円もの投資をしたのでした。
なぜ、果敢にも投資ができたのか? してしまったのか? ……それは、やっかいな「心のクセ」によるものでした。
和牛オーナーになって配当利回り3%、契約特典として高級和牛肉もプレゼント。
ふと見たマネー雑誌にて、そんな魅力的な広告が大きく掲載されていました。
当時、投資系ファイナンシャル・プランナー(以下、FP)として独立間もなく、さまざまな投資案件にアンテナを高く張っていた私は、「和牛オーナー、何それ? 面白そう!」と、和牛オーナー投資という聞きなれない投資に大いに興味をそそられるのでした。
もちろん、3%もの配当利回りや、契約特典の高級和牛肉も大いに魅力的でしたが、「和牛オーナー投資」との響きに、直観でビビッときたのでした。和牛オーナーになるなんて、なんて面白い投資なのだろう、とワクワクするのでした。
もちろん、そんな直観のまま、何も考えずに投資をしたわけではなく、FPとして、そして投資のプロとして、それなりにリサーチはしました。当時、和牛オーナー投資ブームにはすでに陰りが見えており、というか、冒頭でも書いたように、すでに「怪しい投資」とのイメージも強く、当然、不安も大きかったわけですから。
情報収集するも詐欺情報は脳に届かず
ただ、私の気持ちはすでに「前のめり」となっており、心の中はとっくに、「和牛オーナーになりたい(投資をしたい)」との思いで溢れておりました。なので、いろいろリサーチしたとはいえ、それは、「自分の背中を押してくれるような情報」ばかりを取りに行っている状態だったのでした。
リサーチは基本的に、インターネット中心に行いました。
当時、和牛オーナー投資はすでに「怪しい投資」認定されているような状態でしたから、当然、「和牛オーナーはすべて詐欺ですよ」「もうすぐ破綻しますよ」といったネガティブな情報もたくさんヒットしました。しかし、そんな情報は、すでに前のめりとなっている私にとって、目には入ってはきても、脳には届かず(というかシャットアウト)の状態だったのでした。
ちなみに、私が投資を検討していたのは、和牛オーナー最大手の「安愚楽牧場」でした。
私は、その安愚楽牧場に好意的な情報ばかりを集めていたのでした。
あの手この手で、安愚楽牧場への投資を正当化
ただ、安愚楽牧場に好意的な情報の発信源のほとんどは広告・宣伝絡み、もしくは、安愚楽牧場に実際に投資している人たちのコメントでした。すなわち、好意的な情報の多くは、明らかにポジショントークだったわけです。
そして、それには私も薄々気づいてはおり、好意的な情報に心地よく浸るも、そこには若干の後ろめたさも感じてはおりました。
そんな中、「26年間無事故(配当等の遅延等なし)」という客観的な情報を見つけたときは、宝物を発見した気分にもなり、大いに勇気づけられました。そして、安愚楽牧場は和牛オーナー制度「最大手」という、客観的情報にも大いに勇気づけられました。
また、すでに多くの和牛オーナー制度が破綻していたことには、「多くの和牛オーナー制度が淘汰されてきた中、今、安愚楽牧場が生き残っているということは、きちんとしたところだという証しだ」と、好意的に解釈するのでした。
さらに言えば、某有名マネー雑誌に広告が掲載されていたことには、「大手メディアの独自情報網を使って、相当厳密に調査しているはずだ」と、都合よく判断しました(実際のところは不明)。
すなわち、(安愚楽牧場に)都合の良い情報を集めるだけでなく、その状況を都合良く解釈するなど、とにかく、安愚楽牧場への投資を正当化するのに必死だったわけです。
直観で引かれてしまう、やっかいな「心のクセ」とは?
今回テーマの「心のクセ」とは、まさにこのことです。
すなわち、直観で引かれてしまうと(投資したいと思ってしまうと)、どうしても都合の良い情報ばかり目に入ってくるわけで、また、その状況を都合良く解釈してしまうわけです。逆に言えば、都合の悪い情報(解釈)はシャットアウトしてしまう、とも言えるでしょう。
無意識に、その投資を徹底的に正当化しようとするわけですね。
もっとも、それは今回の和牛オーナー投資(安愚楽牧場)に限らず、投資全般に言えることです。
とくに、直観で引かれた(ビビッときた)場合であれば、なおさらです。
なので、個別株式投資にこそ、この「心のクセ」には気をつけるべきかもしれません。
なぜなら、個別株式投資の場合、実際に当該銘柄(企業)の店舗や商品を実感・体感できるので、「このお店大好き」「この商品大好き」と、直観で惹かれやすい(ビビッときやすい)と言えます。
銘柄に惚れるな、との格言があるのも、うなずけるわけです。
直観に対抗するには「ヤバい直観」を得るしかない
では、そんな「心のクセ」に対抗するには、どうすれば良いのでしょうか?
月並みな結論を言えば、冷静に、フラットな気持ちで情報を収集して、客観的に判断することです。
すなわち、都合の良い情報だけを見るのではなく、都合の悪い情報にも目をつぶらずに、しっかり対峙することです。
でも、それが簡単にできれば苦労しませんよね。
実は、(安愚楽牧場の情報をリサーチしていた)当時の私は、自身が、都合の悪い情報から目を背けていたことは、薄々と分かってはいました。しかし、分かってはいても、すでに和牛オーナー投資に前のめりだった私は、安愚楽牧場への投資を正当化するため、どうしても目を背けてしまうのでした。
それくらい、直観での魅了は抗いがたいものでして、そんな前のめりな状態で、都合の悪い情報と対峙することは、本能に抗うことであると言っても過言ではありません。
なので、直観には直観で対抗するしかありません。
それはすなわち、これは都合の悪い情報も見ておかねばマズいかも……と思えるくらいに「これはヤバいとの直観」を得ることです。
特典がドンドン豪華になってきたことに“ヤバいとの直観”
私の場合、安愚楽牧場に投資してから数年経った頃、幸い、「これはヤバいとの直観」を得ることができました。
それは、新規(継続)契約特典がドンドン豪華になってきたことでした。
特典が豪華になることは嬉しいのですが、直観でヤバいと思ったのが、メロンやギフトカード、演歌歌手のコンサートチケットなど、お肉とは関係ない特典が増えてきたことでした。
これはどう考えても、牧場側にとっては大きな負担です。
お肉以外の特典がドンドン出てきたことに、そこまでして(豪華な特典で釣ってまで)、新たな契約を取らないと、また、今の契約をつなぎ留めないといけないのか、そんなに切羽詰まった状況なのかと、急に不安になってきたのでした。
そう思い始めると、居ても立っても居られませんでした。
そして、これは「都合の悪い情報」も見ておかねばマズいと思い、おのずと、それまで目を背けていた都合の悪い情報も、しっかり確認するようになったのでした。
すると、「口蹄疫の隠蔽工作」「管理上の法令違反」等といったネガティブな情報(事実)が次から次へと出てくるわで、さらには「自転車操業の疑い」についても、かなり信憑性の高い情報が出回っているのでした(後日、自転車操業も事実であると判明)。
そして、これまで目を背けていた、それらネガティブな情報の圧倒的な質・量と対峙した結果、さすがにこれはダメだと思い、契約更新はせず、全資金を引き揚げました。
そしてその後すぐ、安愚楽牧場は破綻し、幸いにも、ギリギリのところで助かったのでした。
もし、都合の悪い情報に目をつむり続けていたら、そのまま契約は続けており、大きな損害を被ったことでしょう。
都合の悪い情報と真に対峙できなければ投資はしない
私の場合、「これはヤバいとの直観」は、契約特典がドンドン豪華になってきたこと(お肉以外の特典がドンドン出てきたこと)」でしたが、その直観は、人それぞれです。
それは、たまたま目にした「ネット上での、自転車操業の疑い」かもしれませんし、ふと耳にした「業界内での、肉の品質の悪さについての酷評」かもしれません。
いずれにせよ、「これはヤバいとの直観」、すなわち「都合の悪い情報に向き合う、強烈な動機付け」がないと、都合の悪い情報はスルーするものです。
とりあえずは目に(耳に)入っても、心にまでは届きません。
しかし、都合の悪い情報としっかり対峙しないと、最悪の結果になる可能性もあります。実際、前述の通り、安愚楽牧場は破綻したわけです。
私の場合、運よく、「これはヤバいとの直観」を得ることができ、都合の悪い情報にしっかりと対峙することができました(投資をしてしまってからではありますが)。
しかし、そんな「ヤバいとの直観」が得られず、都合の悪い情報にしっかり向き合うことができていない場合は、それがどれほど魅力的な投資であっても、その投資は避けた方が賢明かもしれません。