40歳を過ぎて天職に出会える人は何が違うのか。転職と起業の経験のある岡田充弘さんは「40代からの転職は天職に就けるかどうかが大事になってくる。それができる人は若い頃から3つのことを積み重ねてきている人が多い」という――。
会議室で握手
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
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40代で転職を繰り返す人

コロナ禍に突入して以降、労働市場でたくさんの人が動きました。私のまわりでも、会社を辞めて転職したり、思い切って独立をした人など実にさまざまな道を歩み始めています。

一般的には35歳を超えると転職が難しくなると言われていますが、どんな状況でも転職できる人はいつでもできます。実際に35歳どころか40歳を超えて転職を繰り返している人はざらにいます。そんな彼・彼女たちは、他の人と一体何が違うのでしょうか。「見栄えのする学歴や資格のおかげかな?」と思う人もいるかもしれませんが、そういった都合の良い切符は20代でとっくに有効期限が切れています。

40代からは天職に就けるかどうかが大事

とはいえ40代はキャリアの中盤にさしかかっていることは事実なので、ただ転職できればいいというわけではなく、“天職”に就けることが重要になってきます。ここで天職と転職の違いについて説明しておくと、転職は文字通りただ職を変えるのに対して、天職は自分が生涯を懸けてもいい、これをするために生まれてきたと言える職に就くことを指します。

そう聞くと「天職に就ける人なんて一握りの運の良い人でしょ」と思われるかもしれませんが、実は天職に就いている人は自分の特徴や強みを深く理解していることに加えて、次に紹介する3つのストック(積み重ね)を有することが分かってきました。

1.実践で培われたスキルのストックがある

天職を得るには一定のスキルは必要です。採る側からすると新卒と違って即戦力として期待するため当然と言えば当然です。そんな時こそ、それまで積み重ねてきたスキル(一芸)がわが身を助けてくれます。

スキルと言えば、私が日系・外資系両方の会社に勤務した経験からは、日系企業の方がスキルに対する意識や評価がやや低いように感じます。それより日頃の振る舞いや上司への態度が重視されるようです。

現在の私の結論としては、これからの時代はあらためてスキルが大切になると思っています。というのも、ジョブ型雇用に代表されるように職種毎の専門性が求められますし、スキル研鑽の過程でプロ意識を高められ、その分評価も分かりやすくなるからです。

社会で生きていくには、もちろんマナーや礼儀も大切ですが、30代で訪れる幾多の修羅場をくぐりぬけるためにも、できれば20代のうちに生き残るための基礎的なスキルは身に付けておいてほしいと思います。

【図表】スキルのストックがある人、ない人の転職の面接
図表=筆者作成

日々発見や成長を実感できることを

身に付けるべきスキルは知識や技術など人によっても異なるはずですが、だいそれたことでなくていいので、日々発見や成長が実感できるものがいいでしょう。

ちなみに私の20代は、実務を通じて「IT(パソコン操作・システム開発)」「会計」「英語」の大きく3つのスキル習得に時間を費やしてきました。それがその後の企業再生や謎解きゲーム会社の経営の現場で大いに役立っています。もし仮に私が編集者であれば、取材する力や分かりやすく記事を書く力を意識して身に付けてきたと思います。

2.人脈とは異なる信頼関係のストックがある

天職に就くために必要なもう一つの要素は人との信頼関係です。というのも、どういった会社、どんな仕事と出会えるかは、自分だけではどうにもならないことも多く、ご縁の要素が多分にあるからです。

私にも思い当たる経験が2回あります。いずれも人生を左右する重要な出来事です。

1回目はNTT勤務時代にキャリアでいろいろと迷っていた自分に、外資コンサルに転職したO先輩と会ってみてはと促してくれた同僚Hの存在です。仕事を超えていろいろと語り合ってきた仲だからこそ、その時その人しかいないという絶妙なご縁を届けてくれたのかもしれません。結果転職することになって良かったと思いますし、今では彼も大出世しています。

2回目は3社目に勤めた外資コンサル会社の社長です。当時は入社して間もない頃で、既存サービスのデリバリーもまともにできないくせに、周囲を巻き込んでいろいろと新しい提案をしてくる私の存在を面白がってもらえたのか、特命で顧客企業の幹部候補生向けの研修企画という新しい役割を頂きました。それが見事にハマって、“修羅場体感型研修”という新しいジャンルのコンテンツを作り、社内でも一目置かれる存在となりました。この時の特命が無ければ、今の謎解き企画会社クロネコキューブは生まれていなかったかもしれません。

【図表】信頼関係のストックがある人とない人
図表=筆者作成

人脈と信頼関係は何が違うのか

このように、天職に就くには、どうしても人から選んでもらえる、人に導いてもらえる力が必要になってくるのです。信頼のある人と無い人とでは、どちらがそのご縁を引き寄せやすいかは、言うまでもないですよね。

中には人脈とどう違うの? と思われる方もいるかもしれません。人脈と信頼関係は根本的に異なります。分かりやすく言うと、人脈があるとポストに空きがあれば紹介してもらえるかもしれませんが、信頼関係があると自分に合ったポジションを紹介してもらえるようになります。つまり、信頼関係があると、自分の特徴や強みを把握した上で紹介してもらえるため、その結果、転職ではなく天職に就きやすくなるのです。

信頼関係を築くには、十分な時間をかける必要があります。そのためには、なんとなく目先の利益のにおいのする「人脈」という言葉を封印し、普段から小さな約束を守る、自らおせっかいをする、他人の悩みに耳を傾ける、といったことを継続していきましょう。

信頼関係のストックは決してあなたを裏切らないことでしょう。

3.困難に挑んできた人間性のストックがある

いつでも天職デキる人が持っている3つめのストック(積み重ね)が人間性です。

なんだそんなことかと思われるかもしれませんが、ここで言う人間性とは単に優しいとか人柄が良いといった意味ではありません。むしろ、自分には厳しいタイプかもしれません。そもそも一般的な人間性と違って天職を引き寄せるための人間性は、困難に挑むことでしか得ることができません。したがって、身に付くまでにそれなりの時間はかかります。それでも一度身に付ければ、その後の人生を有利に運ぶことができます。

なぜ天職と人間性に関係があるのかと言うと、人は目の前の仕事が仮に天職であったとしても、人間性が未熟な時にはそのことに気づくことができないからです。困難な挑戦を繰り返して自分の弱さや限界を理解し、世の中の酸いも甘いも経験してこそ、自分にとって何が天職であるかにようやく気づけるようになるのです。

【図表】人間性のストックがある人、ない人
図表=筆者作成

逆に言うと、自分が未熟な頃の好きは本当の好きではありません。味覚や恋心と同じで自分の成長とともに好みは変わるのです。

実際私もNTTで新社会人を迎えたばかりの頃はITや通信が好きではありませんでした。またパソコンに触れたこともなく、得意どころか大の苦手分野でした。それが社内レポートや企画書の作成の必要性に迫られて仕方なく対応しているうちに、経験値がたまって徐々にできることが増えていきました。その結果、たまに褒められたり驚かれたりすると、それがモチベーションとなって成長の好循環が出来上がっていったのです。

天職は一つでなくてもいい

また、天職は一つでなくてもいいでしょう。私自身も通信会社の営業職からキャリアが始まり2回の転職を経て4つの会社を作りましたが、その間多くの紆余うよ曲折があった後に行き着いたのが今のイベント企画会社の経営とDXコンサルの仕事で、私にとって天職だと自信をもって言えます。それまでの茨の道を振り返ると今はあまりに幸せすぎて毎朝夢なら覚めないでと思うくらいです。

以上、年齢に関わらず天職が得るための秘訣ひけつをお伝えしてきましたが、お気づきになられたか、あえて「ストック」という言葉を使っているのは、日頃の積み重ねの大切さをより印象づけるためでした。天職は自分の特徴や強みを表す合わせ鏡みたいなものですが、そこにたどり着くには過去でも未来でもなく今どう生きるかが問われているのです。