転職で年収を大幅に増やす方法はないか。STEM分野の転職をサポートしてきたSThreeでマーケティングを担当する堀内舞さんは「給与を決める要素は応募先企業の給与水準、職種、業界の三つです。職種を変えることはハードルが高いですが、業界を移ることで大幅な収入アップをかなえた事例は多く出てきています」という――。
握手するビジネスパーソン
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転職で実現できる給与アップは一般的に10%

以前よりもはるかに転職が身近となった今、「転職で年収が数百万円アップしました!」といった転職成功談を目にして、「それなら自分も挑戦してみようかな……」と考えたことのある方も少なくないのではないでしょうか。

転職によって実現できる給与アップは一般的に10%と言われています。つまり、元々年収600万円の方であれば、60万円アップの660万円くらいまでは狙うことができる計算です。しかし、中には転職によって900万円から1200万円といった大幅な年収アップを実現させる方もいらっしゃいます。このような転職の“勝ち組”となる人たちは、どのような職歴を持ち、どのような業界や職種で転職を成功させているのでしょうか。

今回は、日本で10年以上にわたりSTEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野で人材紹介ビジネスを通じて転職サポートを行ってきた経験から、転職で大幅な年収アップを実現させた方の職種や職歴をご紹介します。

就職活動と転職活動は全くの別物

ご存じのように、新卒での就職活動と中途での転職活動は全くの別物であり、求められるものも大きく異なります。端的に言うと、新卒採用では「人柄」「社会性」「ポテンシャル」などが求められることが多いのに対し、中途採用では「専門性」と「実績」が求められます。

そのため新卒採用の場合は、エントリーシートや履歴書でも「学生時代に取り組んだこと」といった取り組みや意欲が評価されるのに対し、中途採用の場合はこれまでの職務経歴や結果、すなわち実績や数字といったものが採用の判断における大部分を担います。

このような違いがあるため、新卒採用で有名企業からの内定を多数勝ち取った人が転職市場でも同じ価値を発揮できるかというと、必ずしもそうではありません。中途採用では新卒採用に比べると学歴も気にされないことが多いため、一発逆転も可能です。

給与アップを実現するには「業界」に注目

給与はご自身の経験や能力に比例して上がるものだとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的な要素となるのは三つであり、「応募先企業の給与水準」「職種」そして「業界」です。職種を変える、例えばこれまで事業開発でのキャリアを築いてきた方がシステムエンジニアになる、または経理部門で長く働いてきた方がマーケターになる、といったキャリアパスのチェンジは簡単ではありませんが、職種を変えずに業界を変える場合、難易度はぐっと下がります。

実際に、当社が2022年9月に採用企業を対象に行った調査では、「業界での経験がない人材でも、募集職種での経験や必要スキルがあれば採用を検討しますか?」という問いに対して「いいえ」と回答した企業はわずか20%であり、他業界からの転職に寛容な企業が多い様子がうかがえます。

また、給与水準については、転職のハードルが比較的低い中小企業の場合、日系企業よりも外資系企業の方が高い傾向があります。そのため、職種を変えずに給与水準の高い業界の外資系企業に転職すれば、大幅な年収アップも夢ではないのです。外資系企業=英語スキルが必須、というイメージを持たれている方も多いかと思いますが、実際には他のスキルや経験の方が重視されるため、英語が得意でなくても転職をかなえることもできるのです。

以下では、実際に給与水準の高い外資系企業に転職して年収を300万円近くアップさせた方3名の職歴をご紹介します。

束になった履歴書
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食品→化学→医療機器と業界を横断する営業パーソン

では、実際に他業界へ転職して大幅な年収アップを実現させた方の実例を見てみましょう。年収950万円から1250万円へと、転職によって年収300万円の大幅アップを実現したAさん(40代・男性)の場合は、「営業」というご自身のスキルを活かし、食品メーカー(5年勤務)から化学メーカー(12年勤務)、そして医療機器メーカーと2回の他業界への転職を経て、年収1250万円の内定を勝ち取っています。

営業職の場合、給与水準が高くなる企業には主に三つの特徴があります。一つは外資系企業であること。二つ目は企業の規模であり、一般的には企業規模が大きくなると年収相場も上がる傾向にあります。そして三つ目は、給与水準の高い業界であることです。医療機器メーカーや診断機器メーカー、医薬品メーカーをはじめとする医療業界は給与水準の高い業界の代表例として挙げられます。

外資系企業に転職したAさんですが、英語が得意というわけではなく、読み書き程度の英語力ですが、過去の営業成績や目標達成の成果などを詳細に職務経歴書に記載し、また他業種への転職でも高い適応力と新しいことを学ぶ姿勢をうまく伝えられたことで、高い年収での内定へとつながりました。

自動車産業→外資系ソフトウエアメーカーへ

医療業界は年収相場が高い傾向にあると先述しましたが、もう一つの代表例としてIT業界が挙げられます。特に外資系IT企業の場合、研究や開発は主に海外にある本社で行われており、日本支社は営業所としての位置づけになる企業も多いため、採用は営業職が中心となり、カントリーマネジャーも営業職出身の方が多いのが特徴です。

年収900万から1200万円への転職を実現させたBさん(40代・男性)は、20年以上にわたって複数の自動車部品メーカー(日系企業が中心)で法人営業に携わった経験を活かし、今後さらに大きな伸びが期待できる外資系ソフトウエアメーカーの営業職へと転身を遂げました。営業職の場合、取引先は日本のお客さんとなるため、外資系企業であっても英語力があまり必要とされない場合が多いです。ただし、日本支社の規模が大きくない場合、社内資料や製品のマニュアル等が英語である可能性が高いため、英語の文章を読んで理解できる程度の英語力があるとベターです。

ソフトウエアメーカーをはじめとするIT業界は日々海外から新たな製品が入ってくることに加えて、人材の流動性の高いマーケットであるため、比較的コンスタントに採用への需要があります。異業種からの転職を狙う場合、検討する価値のある分野です。

成長の階段を上る人
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30代で年収950万円→1300万円へ

デジタルトランスフォーメーションが進み、いわゆるIT業界の企業にとどまらず、どのような業種の企業であっても優秀なIT人材が求められています。

日系企業のネットワークエンジニアから外資系企業のセキュリティーエンジニアへと華麗な転身を遂げ、950万円から1300万円へと大幅な年収アップを実現したCさん(30代・男性)は、実は大学でコンピューターサイエンスなどを専攻したわけではなく、新卒で入社した通信企業での配属によって、社内トレーニングや実務を通じてエンジニアとしてのキャリアを築き始めた経歴を持ちます。

ネットワークエンジニアとして15年以上経験を積み、現状の待遇に大きな不満はないものの、今後ますます主流になるであろうクラウドやサイバーセキュリティー分野へ挑戦してみたいという思いから転職を決意しました。

クラウドやサイバーセキュリティーなどの比較的新しい領域では、当該分野での経験やスキルを持つ人が極めて少ないという現状から、業務未経験での転職に対してもオープンな傾向が見られます。Cさんはネットワークでの豊富な経験を買われて、日本での成長フェーズにある外資系のサイバーセキュリティーソリューションを提供する企業での内定を勝ち取ることができたのです。

転職成功者に共通する事項とは

では、「夢の転職」を実現させるためには何が必要なのでしょうか。すでにご紹介した3名を見てみると、自分が何者であるか、という確固とした軸を持っていることが見て取れます。

すなわちAさんとBさんの場合は営業における優れた経験と実績、Cさんの場合はネットワークへの深い知識と経験です。これらに加えて、これまでの業務や転職経験の中で新しいものに挑戦し、成果を出したことを職務経歴書や面接で正しくアピールできれば、未経験の、そしてより給与水準の高い業界へ飛び込み、大幅な年収アップの実現が可能となるのです。

実際の経験や実績を積むのは一朝一夕で実現できるものではありませんが、職歴やこれまで従事してきたタスクやプロジェクトを振り返り、ご自身の軸を見つけ出して職務経歴書を“まとめる”作業は今すぐにでも可能です。

面接中
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自分の「タグ」は何か

まず試していただきたいこととしては、これまでの職務やタスクを書き出し、それぞれに“タグ”をつけてみることです。例えば、営業の経歴を持つ方であれば「基幹システムの新規顧客獲得」や「製造業の法人営業」「金融機関向けのシステム営業」といったものがあるでしょうし、「人事評価システムの構築」「ウェブサイト管理」「広告運用」「経理」「データ分析」「モバイルアプリ開発」「システム導入支援」「プロジェクトマネジメント」「デジタルトランスフォーメーションの戦略立案」など、これまでの職歴を振り返って、これだ! というタグを見つけましょう。

このタグ付けがしっかりできている場合、おのずとご自身の強みを活かせそうな転職先が見えてくるのも事実です。例えば新規開拓に強みを持つ方であれば立ち上げフェーズにあるベンチャー企業で価値を発揮できるでしょうし、広告運用であればデジタル領域での存在感を高めたい企業で重宝されるでしょう。人事評価システムの構築の実績がある場合は比較的大きな組織での活躍が期待されます。

外資系企業へ転職するリスク

ニュースをにぎわせたMeta(旧Facebook)の大量解雇など、外資系企業=実力主義でクビになりやすい、というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし、外資系企業であっても日本支社の場合は日本の法律を遵守する必要があるため、会社としても実際には簡単にクビにすることはできません。

加えて、給与水準の高い業界の多くで人手不足が深刻であり、人材を確保するのは決して簡単ではありません。そのため、すぐにクビになるというケースは極めてまれだということができます。また、会社としても面接プロセスにリソースを費やして採用に至っているため、せっかく採用したのなら育てていきたいと感じており、成果を上げるためのさまざまなサポートを得ることが可能です。

しかし、実力主義であるという特徴は共通しており、内定時に提示される年収も多くの場合OTE(On Target Earnings、すなわち目標100%達成時のインセンティブを含んだ年収想定額)としての額です。つまり年収アップを実現するには、内定を勝ち取るだけではなく、入社してから与えられた目標を達成する必要があるということを念頭に置いておきましょう。

また、外資系の中小企業の場合、日本からビジネスを撤退することになるというリスクもゼロではありません。基本的に外資系企業へ転職する場合は、その企業でずっと働くというよりは、常に転職情報へとアンテナを張り、その時々のスキルや経験に基づいてキャリアアップを重ねていくようなキャリアパスとなることが多いため、新しい場所で挑戦を続けていくような働き方がご自身に向いているのかどうかも考慮に入れる必要があるでしょう。

リスクのブロックを取り除く人の手元
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転職エージェントを活用した年収アップの三つの裏ワザ

最後に、転職エージェントを活用することで得られる年収アップのための裏技をご紹介します。

1.情報収集を一任する

先述のように、給与は業界によって決まる部分も大きいため、現在どの業界が高い給与水準で採用を行っているのか、またその業界内でも特に給与水準が高い企業はどこなのかなど、事前の情報収集が大きな鍵をにぎります。同じ職種でも他業界の求人を比較してみるなど、ご自身でリサーチできる部分もありますが、これらを専門に行うプロである転職エージェントに相談すると、情報収集にかかる時間を大幅に減らすことができるでしょう。

給与交渉で100万円近く差が出ることも

2.給与に関して決定権を持つ人物を見極める

これは特に給与に関して個人の裁量がそれなりに大きい外資系企業の場合に言えることです。採用プロセスの中で複数回行われる面接で何人もの面接官と話す機会がありますが、どの面接官が自分の給与に関する決定権を持っているかを見極め、その面接官に良い印象を持ってもらえるような面接ができれば、内定の際の給与交渉もスムーズに進む可能性が高まります。

この見極めについても、各組織の体制や内部情報をわかっている必要があるので、プロである転職エージェントに助言を求めるのが吉です。面接官のクセや、企業ごとによく聞かれる項目、すなわち“過去問”を共有してもらえる場合もあります。

3.内定後の給与交渉

新卒採用と中途採用における給与システムの大きな違いに、交渉可能な点があります。この交渉によって、100万円近い年収の差が生まれることも少なくありません。しかし、皆さんの方から提示する額はそれなりの根拠に基づいたものでないと受け入れてもらえないことも事実です。交渉材料の代表的なものとしては、他社からの内定や、カウンターオファーと呼ばれる現在の会社からの引き留め交渉が挙げられます。

茶封筒から取り出した給与明細
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他社の内定を交渉材料として使うには、前提として複数の内定をもらう(そもそも複数の会社を受ける)必要がありますが、面接プロセスや内定のタイミングがずれると思っていたようにいかない場合もあります。物件の内見を想定していただくとわかりやすいかもしれませんが、企業としても内定を出す候補者を複数決めているため、双方のタイミングが合うことで初めて有意義な交渉が可能となるのです。交渉そのものはもちろんのこと、複数の企業との間で進んでいる面接プロセスの管理なども、転職エージェントを活用することの大きなメリットです。

以上、外資系企業に転職して大幅な年収アップを実現した方の職歴とこれらの方に共通する要素、そして転職活動における裏ワザをご紹介しました。実際に転職を検討していなくても、職務経歴書を作成してこれまでのご自身の経歴や実績を振り返ることで、今後のキャリアを見つめ直す良いきっかけとなります。新年度が始まる前にぜひ試してみてください。