国は出産一時金の50万円への引き上げを発表。しかし、産後ケアへの補助金は自治体によって異なる。2022年に出産したエコノミストの崔真淑さんは「どの自治体で補助があるという情報も行き届いていない。自治体ガチャが起きないように、国に産後施策の拡充や家庭平和に繋がる施策を要望したい」という――。
赤ちゃんを抱いて頭を抱える母親
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出産と育児を巡る漠然とした不安

統一地方選を前にしてか、各党が少子化対策としての子育て支援策の拡充を訴えている。政策提案が矢継ぎ早に出てくるのは本当にありがたいことだ。しかし、巷ではポイントがズレている、それではもう一人産みたいとはならない……という厳しい声も出ている。今回は、経済学における先行研究を参考にしつつ、私自身の出産・育児経験を通して、どんな政策が必要かを考察する。

昨夏に出産をしたのだが、主に2種類の不安を抱えていた。1つ目は、産後のボロボロの身体で、3時間おきの授乳など育児ができるのかという、産後直後への不安。2つ目は、この先続く、子育てに関するお金への不安だ。特に、私の働き方は不安定ということもあり、出産とともに収入が無くなったらどうしようかと不安でしかたなかった。今は、なんとか少しずつ仕事も再開できており、ご縁に感謝する日々だ。ここでは、それぞれの不安に対して私自身がありがたいと感じた政策も紹介する。

産後は少しでも寝たいし家事もできない

出産を通して痛感したのは、遠い親戚・身内よりも、パートナーはもちろん、社会や他人に頼ることの方が多く、社会との繋がりを維持する努力は育児には必須だということだ。というのも、私たち夫婦は諸事情から、お互いの両親を頼ることができなかった。高齢出産が増える昨今においては、自分の両親が相当な高齢で育児支援を頼ることができないという人も多いと思う。

出産で入院するのは1週間ほどしかないが、産後の身体はまだまだ傷んだままであり、家に帰ってからはボロボロの身体で3時間おきの授乳が始まる(各人の難産度合いにもよるが、私においては、もう一生自転車には乗れないかも……と本気で感じるような痛みが続いた)。少しでも寝たいし、家事もしたくない。

自治体による産後の補助金に助けられた

そんな環境で助かったのは、自治体が補助を出してくれる「産後ケア入院補助」と「産後ドゥーラ補助」である。前者は、産後ケアのための入院について一定金額の補助を受けられる制度。病院では、夜間は赤ちゃんを預かってくれて(希望すれば昼も預かってくれ、授乳のタイミングだけ赤ちゃんの世話をするということも可能)、3食昼寝付きで、しっかり身体を休められる。しかも、赤ちゃんの状況を医師に相談でき、助産師に母乳や母親自身の身体についても相談できて、心も体も休まる。

病院のベッドで赤ちゃんを抱き、看護師の手を握る母親
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ただ、この「産後ケア入院」は保険対象外であり、全額自己負担なので、1日3万円ほどかかる。1週間も過ごせば21万円(!)にもなる。となると、身体を休めたくても、金銭的ハードルもあり享受しにくいサービスになる。私が住んでいた自治体では、7日間までは約9割を補助してくれたのは本当に助かった。

産後ドゥーラは料理を作り置きしてくれる

後者は、赤ちゃんのお世話と家事をしてくれる産後ドゥーラに、格安で仕事の依頼をお願いできる制度だ。ベビーシッターとの違いは、同時並行で家事支援もしてくれることや、産まれてまもない赤ちゃんのお世話をするには資格が必要なのだ。彼女たちが家に来てくれて、料理の作り置きをしてくれるのは本当に助かった。もちろん、産後ドゥーラとの相性もあるが、信頼できる方とのご縁に巡りあえたのも本当にありがたかった。そして、こうした政策は女性だけでなく育児参画中の男性にもありがたい施策であり、家庭平和に貢献してくれる。

ただ、こうした自治体の施策を知らずに享受できない人がいることも事実だ。私は出産前に通っていたマタニティースイミングの友人たちに制度を教えてもらい、どの病院、どのドゥーラさんがオススメなど、積極的に情報交換した。産前から社会とのつながりの重要性を痛感した。この施策だけで、さあもう一人産もうと背中を押されるかは定かではないが、少なくとも産後を巡る不安が解消され、育児への恐怖はかなり和らいだ。

自治体ガチャにならないよう国の施策を

一方で、国が行おうとしている産前・産後施策としては、出産一時金50万円への増額が挙げられる。たしかに、物価高が続く環境においてはありがたい。しかし、この施策だけでは、産後直後の不安解消には直結しないだろうし、病院側の値上げも心配である。できれば、自治体ガチャが起きないように、上述したような産後施策の拡充や、家庭平和に繋がる施策を要望したい。もちろん、国としてもベビーシッター補助券を出すなどしてくれているのだが、自治体の政策に比べると制限が多くて使いやすさが劣るところもある(1日にチケットが2枚までしか使えないなど)。ぜひ更に前向きな改善をお願いしたい(お願いばかりで恐縮だが、納税という形で恩返しできるよう、私も頑張りたいところだ)。

女性は出産後年収が20%も下がる

ただ、当然だが子育ては産後だけでなく、ずっと続く。そして、お金の不安もずっと続く。私は不安定な仕事をしていることもあり、不安解消のために産後3カ月で復帰したものの、今も不安と戦っている。この不安をもう少し分解してみようと思う。

女性の賃金が男性よりも低い傾向なのは、世界中で確認されている。実はこれ、経済学研究では「Child Penalty」(チャイルド・ペナルティー)で賃金減少の大部分の説明ができるとの報告もある。「Child Penalty」とは、子供のいる女性が、育児時間捻出のために時短労働や退職をする必要性に迫られて、女性の就業率や収入が長期的に低下し続ける現象を指す。

因果関係に配慮した近年の研究(*1)では、出産前に比べて女性は長期にわたって20%も年収が下がり続けている状況が確認されている。このような状況では、収入減を回避するために出産を諦める女性が存在していても不思議ではなく、少子化の直接的な原因にもなりうる。

産後復帰には0歳児保育の拡充が有効か

では、どうしたら良いのか?

日本のデータを使った研究(*2)では、認可保育所の入りやすさが「Child Penalty」の緩和に繋がりやすいことが報告されており、特に0歳児保育を享受できると効果が大きい可能性が報告されている。

保育園でハイハイする赤ちゃん
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でも、私はそれだけでは「Child Penalty」の緩和には不十分だと思う。そもそも、女性に家事育児が偏ってしまっている状況を打破しない限り難しいと思うのだ。男性が育休を取得して、育児と家事がいかに大変かを少しでも知って、家庭内労働の負担をシェアすることが必須だろう。さらには、男性が専業主夫という選択や一時的に家事育児に専念するなど、男性に対して女性のような多様な生き方を認める風土構築も重要だ。

なので、是非とも国や自治体に訴えたいのは、お金のバラマキ政策だけでなく、将来収入が期待できる政策はもちろん、男性のための育児・家事学級を作ってほしい。家事・育児に参画したいお父さんのケアまでする余裕がないと諦めて、ワンオペになっている女性は少なくないだろう。

産後3カ月で仕事を再開できた“5点セット”

私自身は、今のところ、育児・仕事・大学院でのリスキリングと三足の草鞋を履いている。これができるのは、奇跡に近いと感じる。この奇跡があるのは、大学に保育園があること、夫が仕事を犠牲にして超積極的に育児参画していること、社会の繋がり、自治体の補助、保育園の一時保育を嫌がらない我が子の5点セットがあるからこそ、ギリギリ回る。奇跡に終わらないためにも、更なる施策改善に期待したいし、私も頑張りたい!

参考文献
(*1)Kleven, H., Landais, C., Posch, J., Steinhauer, A. and Zweimuller, J. (2019) “Child Penalties Across Countries: Evidence and Explanations,” NBER Working Paper, 25524
(*2)『経済セミナー 2023年2・3月号 NO.730号』(日本評論社)掲載、近藤絢子著「行政データと実証経済学 東京大学CREPE自治体税務データ活用プロジェクトの実践 vol.4 自治体税務データの可能性ーライフサイクルを通じた働き方の選択を探る」