怪しいビジネス案件をどう見抜くか
フリーのファイナンシャル・プランナー(FP)を長年やっていると、投資話だけでなく、ビジネス案件の勧誘を受けることも少なくありません。
ただ残念ながら、「こいつを上手く利用してやろう」との魂胆が見え透いているものや、「これはほぼ詐欺だろう」というものも少なくありません。それらを見抜けるようになったのは、これまでさまざまなビジネス案件に乗って、失敗してきたからに他なりません。
そんな経験から、怪しいビジネス案件の勧誘の際、彼らがよく使う言葉があることに気付きました。
先日、かつて仕事でお世話になった知人から、「久々に会わないか」との連絡があり、数年振りに再開しました。
プロテイン販売を、「一緒にやらないか?」
大きな紙袋を持って現れた彼は、近況報告もそこそこに、「新しいビジネスを始めたんだよ」と、その紙袋からおもむろに大きなボトルを取り出し、「このプロテインが、いいんだよ」と。私は内心、「おお、(やはり)そうきたか」と思いつつも、お世話になった人だし、プロテインは嫌いではないし、ご祝儀として、ちょっとくらいなら買ってあげてもいいかな、とは思いました。
しかし、彼が次に発した言葉は、「(プロテイン販売ビジネスを)一緒にやらないか?」でした。
そして矢継ぎ早に、コミッションだのボーナスだの、その報酬体系について滔々と語り、「お互いに、ウィンウィンの関係だよ」とのこと。ただ、この「一緒にやらないか」「ウィンウィンの関係」との言葉に、私のテンションはサーと下がり、そして、一気に警戒感を高めるのでした。
“上手く利用された” 記憶が蘇る
というのは、これらの言葉に、苦い記憶が蘇るからでした。
かつて、私がFPとして独立したてのころ、若くて血気盛んだったこともあり、とにかく、いろいろな人と一緒に、さまざまなビジネスをしてきました。ただ、当時の私には何の実績も経験もなかったことから、相手が提案してきた企画に乗っかるケースがほとんどでした。
そして今思えば、「上手く利用されたなぁ(というか、騙された?)」と思うようなケースも少なくなかったのです。そのときに、提案してきた相手が必ずと言っていいほど使ってきた言葉が、「一緒にやろう」「ウィンウィンの関係」だったのです。
ちなみに、上手く利用されたなぁ、と思われるケースは、以下のとおり。
●セミナーを一緒にやりましょう
某カルチャーセンターからの提案で、マネーセミナーを共同実施。
ただ、「集客のため、セミナー参加者には、藤原さんの著書を1冊プレゼントしてあげてください」とのこと(著書は無償提供)。ただ、受講料2000円(私の取り分は1000円)の設定だったので、集客するほど私は赤字となった。
●協会を一緒に立ち上げよう
マネー知識の普及を目的とした某協会を立ち上げ、提案してきた相手は会長、私は事務局長の肩書を得るも、私は協会の電話番として終日、会長の事務所(兼協会事務所)に待機。
電話がかかってくるのは、(なぜか)ほとんどが会長の取引先のため、結果として、無給の事務スタッフと化す。
●お互い、人脈が増えるので、ウィンウィンですね
お互いの人脈を紹介し合おうと異業種交流会開催を提案されるも、提案してきた人が連れてきた人数はごくわずか。しかも、私の連れてきた人達には、交流そっちのけで、自らの商材を売り込むばかり。交流会に招待した知人・友人達からはブーイングの嵐。
今振り返れば、金銭的な損害よりも、時間・労力・人脈をいいように利用されてしまったケースが多かったように思えます。もちろん、それは私の自己責任ではありますが、そんなことから、この「一緒にやろう」「ウィンウィンの関係」といった言葉には、今でも、非常に敏感になっております。
ビジネス案件の多くは、ネットワークビジネス?
その後、FPとして経験を積んでいく中で、より多くの人と会うようになり、より本格的なビジネス案件の勧誘も受けるようになります。
ただ、そのほとんどは化粧品・健康食品などの代理店ビジネス、投資や自己啓発などの情報商材販売ビジネスといった「ネットワークビジネス」でした。「藤原さんの知識や人脈があれば、このビジネスで絶対に成功しますよ」「藤原さんにビジネスパートナーになっていただければ、お互いにメリットがありますよね」と、ネットワークビジネスの勧誘では、皆、やたらヨイショしながらも、「一緒にやろう」「ウィンウィンの関係」を迫ってくるのでした。
もちろん、ネットワークビジネス自体がダメとは言っておりません。
ただ、ネットワークビジネスには強引な勧誘が多く、また、怪しい案件が多いのも否定できません。実際、私が受けた勧誘も、そのようなものが少なくありませんでした。そして、そんなネットワークビジネスの勧誘ではとくに、「一緒にやろう」系の言葉を使う人が多かったのです。
怪しいビジネス案件の、共通点
さて、もうお気付きかと思いますが、この「一緒にやろう」系の言葉こそが、怪しい(もしくは魅力的ではない)ビジネス案件の勧誘の際、よく使われる言葉です。
もっとも、これは様々な勧誘において少なからず使われる言葉なので、この言葉が出てきたら絶対にアウトとは言いませんが、この言葉をやたらと強調してくる場合は要注意です。
勧めてくるビジネス(商品・サービス)の魅力が薄かったり、勧誘してくる人にのみ大きなメリットがあったり、場合によっては法律に触れるようなビジネスだったりと、他にもなにか後ろめたい、もしくは突っ込まれたくない事情がある場合、それらを覆い隠す、この「一緒にやろう」ほど、都合の良い言葉はありませんからね。勧誘を受ける側にとっても、耳障りの良い言葉ですから。
ちなみに、この「一緒にやろう」を多用してくるような、怪しい(もしくは魅力的ではない)ビジネス案件の共通点として、他にも以下のような特徴が挙げられます。
・商品やサービスの説明よりも、報酬体系の説明に力を入れてくる
商品販売時よりも、新たな会員(ビジネスパートナー)獲得時の報酬が大きい。
・勧誘してくる本人が、とくに成功しているわけではない
成功しているどころか、成績が低迷しているケースも少なくない(もちろん本人は、口には出さないが)。
勧誘してくる本人が、最近、そのビジネスを始めたばかりというケースも多い。
・勧誘の場に、先輩や上司を連れてきたり、セミナーに誘ってくる
成功している(ほんの一部の)人の体験談を聞かせてくる(勧誘してくる本人は成功していない)。
・勧誘してくる本人が、そもそも、そのビジネスのしくみがよく分かっていない
明らかに、何らかの「勧誘マニュアル」そのままの表現が見受けられたりもする。
・さも、楽して儲かる投資話のように、勧誘してくる
「契約料と商品で100万円かかりますが、すぐに回収できます」といった具合に、お金を出せば、確実に儲かるような言い回しをしてくる。
・さほど親しくない人、疎遠になっている人からの勧誘である
「○○さんからの紹介でご連絡差し上げました」のように、まったく面識のない人からの勧誘も少なくない。
ビジネス案件で失うのは「お金」だけではない
投資の失敗は基本的に「お金」だけで済みますが、怪しいビジネス案件に手を出しての失敗は、「お金」以外にも「信用」を失う可能性もあります。この場合、人生におけるダメージは計り知れません。実際、私の周りでもネットワークビジネスに手を出し、周りに迷惑を振り撒き、音信不通になっている人もいます。
それを思えば私の場合、若い頃に、致命的な傷を負わない程度に、「一緒にやろう」の洗礼(?)を受け、失敗経験を積めたことは良かったと思っています。もし、経験の浅い段階で、「一緒にやろう」との耳障りの良い言葉に乗せられ、質の悪いビジネス案件に手を出していれば、今では、(悪い意味で)別の人生を歩んでいたかもしれません――。
ちなみに現在、私のもとにやってくる、さほど親しくない(疎遠な)人からの一方的なビジネス案件に関しては、ほぼすべてが怪しい(もしくは魅力的ではない)案件と言っても過言ではありません。
もちろん、それらはすべて断っておりまして、前述のプロテインビジネスも丁重にお断りしました。
一方で、それなりに親しい(普段からよく会っている)人からのビジネス案件には、それなりに魅力的な話もあり、中にはご一緒しているものもあります(そして、それなりに成果は上げている)。
その意味では、普段から付き合う人をしっかり選ぶことも、怪しい案件に引っかからないための、大きな予防策にもなるわけですね。
もっとも、それも非常に難しいことではありますが。