受験シーズンが到来し、子どものために奔走している親も多いことだろう。期待通りの結果にならなかったとき、親は通っていた塾の先生にどのように接するのがよいのだろうか。話し方コンサルタントの阿隅和美さんは「ご縁がなかったときも、お礼を伝えてけじめをつけておきましょう」という――。
勉強している子供の手
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小受・中受を支えてくれた先生だけど…

受験シーズン到来、受験生を持つ親は、正直仕事も手につかないほど気が休まらない日々を送っているのではないでしょうか。小学校や中学校受験は、親が塾選びや学校選びに深く関わることが多いので、親と塾やお教室の先生との関係性も密になるご家庭が多いようです。先生には勉強の指導と共に、精神面で支えてもらったり励ましてもらったりと、親子共々お世話になることも多々あるでしょう。

無事、志望校に合格した暁には、これまでの努力が報われたと感慨もひとしおで、お世話になった先生に、真っ先にお礼を伝えたいという気持ちが自然と湧き上がることでしょう。一方、問題なのはご縁がなかった場合です。残念ながらお受験の結果が期待通りではなかったとき、塾の先生へのお礼のあいさつは、どうすればいいのでしょうか。

今回は、子どものお受験が不本意な結果だったときの塾やお教室の先生へのお礼のあいさつや対応について考えてみましょう。

「お礼のあいさつ」を気持ちの区切りに

残念な結果になってしまった場合のお礼のあいさつについては、結果に関わらず訪問して先生にお礼のあいさつをするという考えと、望む結果が出なかったのだから、わざわざお礼のあいさつに行く必要はないという考え、どちらもあるようです。

まず、ご縁がなかった場合に、訪問をしてお礼のあいさつをするかどうかについては、ご自身の判断でよいのではないでしょうか。というのも、塾やお教室の先生との関係性や、親の価値観の問題だからです。例えば、仮に残念な結果になってしまっても、丁寧に指導をしてもらったことに対して感謝をしていれば、自然と直接お礼の言葉を伝えたいと感じる人もいるでしょうし、最後まで手厚くサポートをしてくれたのに残念な結果で申し訳ない、と感じる方もいるでしょう。

一方で、授業料を払っているのだから、勉強や精神面のサポートは仕事として当然のこと。お礼なんて必要ないと考えている人もいるでしょう。ご縁がなかったのは塾のせいだけではないでしょうが、高い授業料を払ったのに合格できなかったなんて腹が立つという人もいるかもしれません。

また、お世話になったことに感謝はしているが、さすがに落ち込んでしまい、この結果で「お世話になりました。ありがとうございました」とお礼を言いに行く気持ちには、どうしてもなれないという人もいるでしょう。このように、捉え方や考え方の違いで、感謝の気持ちの度合も変わってくるので、それぞれの感謝の気持ちの度合いによってお礼の仕方も変わってくるはずです。

大手塾か個人の先生かにもよりますし、ご縁がなかった場合には、形式にこだわらず、訪問しなくてもお電話やお手紙という形でも良いかと思います。ただ、少しでも感謝の気持ちがあるのなら、気持ちの区切りにもなりますので、親としてお世話になったことに対してお礼を伝えてけじめをつけておきましょう。

お受験のお礼については「こうあらねばならない」「こうすべきである」と言われていることもあるようですが、他の家庭がそうするからうちも同じでなければいけないとか、体裁を気にするよりも、要は、あなたの考え方次第。感謝の度合い、先生との関係性を考慮して判断しましょう。

お礼のあいさつは感謝と簡単な今後の抱負を伝える

もし全落ちした場合は、ショックでお辛いと思いますが、先生もきっと心配されていると思います。まずはお電話で簡単にお礼を伝えるということでもよいでしょう。何を言えばいいのか迷った時には、少なくとも「これまでお世話になりました」という感謝の言葉と「今後も頑張ります」という、簡単な抱負の2つは押さえてください。では訪問や電話など口頭で伝える場合と、手紙で伝える場合の例をみておきましょう。

<口頭でのあいさつの例>

●小学校受験の例

「せっかくご指導いただいたのに、残念な結果になってしまいました。今は、正直落ち込んでいますが、4月までには気持ちを切り替えていこうと思います。小学校でもまた元気に頑張ります。これまで、親子共々お世話になりありがとうございました」

場合によっては、感謝と共にこのような素直な今の気持ちを伝えてもいいと思います。おそらく先生は、これまでも合格・不合格いずれのご家庭も見てきているはずなので、慰めや立ち直るきっかけの言葉をかけてくれることもあるかもしれません。

●中学校受験の例

「これまでご指導いただきましてお世話になりありがとうございました。今回は残念な結果でしたが、おかげさまで(息子は/娘は)塾に通うようになって勉強に対する集中力はついたようです。今度は、高校受験で頑張ります」

ご縁はなかったものの、受験を通じて先生の指導のおかげで子どもが成長したと実感していることがあれば、そのことについて触れてもいいでしょう。

<お手紙の例文>

拝啓 春寒の候(2月)早春の候(3月)

貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。(塾宛ての場合)
○○先生にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。(先生個人の場合)

この度は、○年間にわたり、ご指導いただきましてありがとうございました。
残念ながら志望校からご縁をいただくことは叶いませんでしたが、
いつも熱心にご指導いただき、おかげさまで、子どもの成長を実感しています。
〇〇先生から学んだことを、これからも活かしていけるように親として見守ってまいります。本当にありがとうございました。

末筆ながら、

貴社ますますご繁栄を(塾宛ての場合)
〇〇先生のますますのご活躍を(先生個人の場合)

お祈り申し上げます。敬具

小学校受験でお世話になった先生宛でしたら、お子さんに無理強いは感心しませんが、もし先生に感謝を伝えたいというのであれば、お子さんから先生に宛てた「ありがとうの手紙」を同封しても喜ばれると思います。

ページに手書きの「ありがとう!」
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泰然とした親の態度で子どもに良い影響を

お受験は、可愛い我が子の将来の幸せを願う親心から熱心に取り組むご家庭が多いだけに、万が一、上手くいかないと、こんなに頑張ったのに、何がいけなかったのだろうと悔んだり、自分の不甲斐なさを責めたりと、深く落ち込んでしまいがちです。

しかし、忘れてはならないのは、お受験で一番頑張ったのはお子さんだということです。きっと、小さいながら体力的にも精神的にもギリギリのところまで頑張ってきたのではないでしょうか。親として、残念な結果をすぐには受け止められない気持ちは痛いほど分かりますが、お子さんが、「自分のせいで大好きなママを悲しませてしまった」と自分を責めることがないように、お子さんの前ではあまり落ち込む姿を見せず、気丈に振る舞っておきたいものです。

また、親から先生への愚痴を聞かされると、さらに辛くなってしまうので、お子さんの前では、「なんでうちの子が……」「塾は合格させるのが仕事でしょ!」などといった、塾やお教室の先生への愚痴も慎みましょう。それよりも頑張ってきたお子さんには、結果はどうあれ「よく頑張ったね、お疲れ様、最後まで偉かったね」と、いたわりや承認の言葉で温かく包み込んであげたいですね。そして「ママは○○ちゃんが元気でいつも笑顔でいてくれるだけで幸せよ」と言ってぎゅっと抱きしめて存在を承認してあげましょう。お子さんの人生はまだはじまったばかり。どんな時でも親として泰然とした態度で、子どもの気持ちを優先して考えられる余裕をもっていたいものです。

受験は親子が成長する機会に

私事ですが、数十年前に私自身中学受験をしたのですが、あいにく不本意な結果で落ち込みました。ところが両親はその結果を取り立てて気にする様子でもなく、むしろ結果的に入学することになった学校について、毎日とても楽しそうに話してくれました。そんな親のおかげで、当初落ち込んでいた気持ちも吹っ切れて希望を抱いて入学し、恩師や生涯の親友にも恵まれました。まさに「人間万事塞翁が馬」です。

時が経ち、今は子を持つ親として自分の未熟さを痛感することも多く、子育てをしているつもりが、実は親として子どもに育てられているというのが実感です。

今回は、先生へのお礼のあいさつをどのように伝えるかを取り上げました。相手との関係性などにもよりますので考え方はさまざまですが、どうしようか迷った際に、少しでも参考になれば幸いです。お受験はまさに親子で成長する機会かもしれません。どんな結果であっても、お世話になった方への感謝の気持ちを大切に、そして、お子さんの心に温かい言葉で栄養を与えて、花を咲かせる日が訪れるのを信じて見守りましょう。