人はなぜ、いくら稼いでもお金の不安から解放されないのか。31歳のミニマリスト・なにおれさんは「多くの人が持つお金の不安は、普通の生活ができなくなるかもしれないという漠然とした不安です。そこから解放されるには、漠然とした恐怖の姿が目に見えるまで、徹底的に浮き彫りにする作業が必要になります」という――。

※本稿は、なにおれ『31歳、夫婦2人、月13万円で、自分らしく暮らす。』(大和出版)の一部を再編集したものです。

生計を考えるカップル
写真=iStock.com/kazuma seki
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やりたくない仕事を辞められない

いまの仕事は自分には合っておらず、やりたくない仕事だと自覚していても、辞められずにいる方が多いと思います。

その背景には、「お金の不安」があるはずです。

お金の不安があるからこそ、やりたくないけど収入の高い仕事を手放せずにいたり、辛いと思っていても無理して働き続けてしまったりします。僕もそうでした。

いまでも僕は、お金の不安を完全に克服したわけではありません。というより、そんな日は訪れないような気がしています。

とはいえ、「まあ、なんとかなるだろう」と思えるくらいには、お金の不安を自分の中で消化できています。ですので、僕がこれまでに考えてきたことややってきたことを整理して、順番にお話ししていきます。

第一に、お金の不安をなくすには、「お金の不安の正体」を知ることからはじめなければいけません。

見えない敵にいくら戦いを挑んだところで、見えなければパンチは当たりません。闇雲にパンチを繰り出し続けていては、いずれは自分のほうが消耗してしまいます。

僕の知るかぎり、多くの人はこの状態に陥っています。

「お金の不安」の正体

それでは、お金の不安の正体とは一体なんなのか。

「普通の生活すらできなくなるという漠然とした恐怖」

これがお金の不安の正体だと、僕は結論づけています。

これから話すことを、一緒に頭の中で想像してみてください。

……いまあなたは、月20万円のお金を使って生活しています。大満足とはいえなくても、それなりに欲しいものを買って、それなりに行きたい場所に出かけることができています。そんなある日、政府が公式発表をします。「今月から一律10万円を毎月、全国民に支給します」と。

どうでしょうか。贅沢するだけのお金はもらえないけど、最低限生きていけるくらいのお金が働かなくてももらえる。もしそうであれば、お金の不安はほとんど消えるのではないでしょうか。

もちろん、そんな制度が何十年と続けられるのか、また、病気やケガをしたときはどうするのかなどの不安は残るかもしれません。

ただ、少なくとも目の前のお金の不安からは解放され、もっと純粋に自分が望む働き方を選択できるのではないでしょうか。収入が低く、安定しないからと諦めていた「昔から憧れた仕事」にも、挑戦する勇気が湧いてこないでしょうか。

つまり、お金の不安の正体とは、もしお金を稼げなくなったとき、普通の家に住み、普通に食事をする……といった、普通の暮らしですらできなくなるという漠然とした恐怖なわけです。

そして、最大のポイントになるのが、「漠然とした」という点です。

そうです。この不安はあくまで、漠然としていることが最大の問題になります。

「やばいんじゃないの……。いまの仕事を辞めたらやばいんじゃないの……」と、なんとなくの恐怖が不安を助長させています。

仮に来月仕事を失ったとして、具体的にどのような事態が待っているのかをリアルに想像できていません。なんとなく漠然と普通の生活すらできなくなると思っています。これがお金の不安の正体です。

だからこそ、お金の不安をなくす上で避けては通れないことが、圧倒的なリアリティーです。

できるだけ少ないお金で楽しく暮らせる力

漠然とした恐怖が不安の正体なのであれば、漠然とした恐怖の姿が目に見えるまで、徹底的に浮き彫りにする作業が必要になります。

お金の不安というのは、考え方を変えるだけではどうにもならないと思います。というより、僕はどうにもなりませんでした。

僕はこれまでに何十冊と、人生哲学や心理学の本を読んできました。それで一時的に気分が落ち着くことはあっても、翌日布団から起き上がる頃にはまた不安を感じる。

図書館の机の上の本をクローズアップします。
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そんな日々の繰り返しでした。

だからこそ、お金の不安から解放され、やりたくない仕事を辞めるためには、圧倒的なリアリティー、つまりは安心できるだけの事実を手に入れる必要があります。

そして、その手に入れるべき事実とは、「できるだけ少ないお金でも楽しく暮らせるようになること」です。

自分の「生命維持コスト」はいくらか

普通の生活すらできなくなるという漠然とした恐怖を克服するには、最低限生きるためにいくらお金が必要なのかを見える化すること。これが最も重要になります。

ここでいっている「最低限」とは、本当に最低限です。

「娯楽がないとつまらない」とか、「コンビニでアイスくらいは食べたい」といった娯楽的な要素を一切排除し、最低限いくらあれば文化的な暮らしができるのかということです。

もっと具体的にいえば、次のような生活になります(図表1)。

「最低限の生活」の具体的イメージ

これらの支出を合算した金額が、最低限生きるために必要なコストになります。僕はこのコストを、「生命維持コスト」と呼んでいます。

この生命維持コストをえるだけのお金さえ稼げれば、本当に最低限ではありますが、「普通に」生きていくことはできます。この金額を自分の中で腹落ちさせることこそが、お金の不安から解放される大きな一歩になります。

おそらく、この金額をパッと即答できる人は1%もいません。

生活に不自由ないくらい稼いでいてもお金の不安が消えないのは、自分の生命維持コストを把握できていないからです。

これは言い換えれば、目の前の崖の下が真っ暗な状態のようなものです。底が真っ暗でなにも見えないからこそ、落ちたときに大怪我をする恐怖に怯えてしまいます。

そのため、お金はいくらでも必要だと感じてしまうわけです。

夫婦2人分の「生命維持コスト」は月10万円

僕は少ないお金でも楽しく暮らせるように努める中で、自分の生命維持コストが自然とわかるようになっていました。その金額は独身時代であれば月5万円、結婚した現在では妻と2人で月10万円です。毎月これだけのお金さえ用意できれば、贅沢はできませんが、普通に生きていくことはできます。

コストの水準
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この金額がはっきりと数字で目に見えたとき、僕は深い安心感を得ました。

独身時代でいえば、「とにかく月5万円さえどうにかできれば、普通に生きていくことはできるんだ」と思えたからです。

現実的に月5万円くらいであれば、自分で事業をやっても大成功する必要がなく、単発のアルバイトを月に数回こなしても生きていくことができます。

もちろん、低収入の仕事をすることやアルバイトで生計を立てることが理想の生き方ではありません。

ただ、自分がそれほど苦しくない方法で普通に生きていくことができる。それがわかったという事実(リアリティー)が重要なのです。

家賃2万円の部屋でも普通に暮らせる

生命維持コストを把握することがお金の不安をなくす大きな一歩とはいったものの、いきなりこれをやるのは現実的には難しいです。

なぜなら、最低限の生活をそもそも想像できないからです。

今現在の僕でいえば、世の中には家賃2万円でもきれいな1Kの部屋が借りられることを知っています。そして、そんな格安の部屋でも、『31歳、夫婦2人、月13万円で、自分らしく暮らす。』で詳しく説明している必要な要素さえ満たしていれば、十分に楽しく暮らせることを体験として知っています。

ですが、ほとんどの人はその知識も経験もありません。そのため、いまの時点で払っている家賃を基準にしか最低限を考えられません。「いまの部屋の家賃が月8万円だから、最低限は月4万円くらいかな?」という思考回路のイメージです。

ただ実際には、家賃3万円の部屋でも、家賃2万円の部屋でも、普通に暮らせる可能性は高いです。もっといえば、築古の家を買って自分で修理して暮らせば、住居にかかるコストはさらに抑えられるかもしれません。ですが、その選択肢を想像することがそもそもできません。

家賃8万円→6万円→4万円と下げると見えてくる景色

だからこそ、いくらで暮らせるかという基準を、日々の暮らしの中でどんどん引き下げていく。この作業が必要になります。

たとえば、現在は家賃が月8万円する部屋を借りているのなら、とりあえず家賃が月6万円の部屋に引っ越してみる。そして、その暮らしの中で持ち物を減らすなどして、その翌年には家賃4万円の部屋に引っ越してみる。

すると、「いまの職場で働き続けるかぎりはこれ以上家賃を下げられないけど、勤務地を変えればもっと安くすませることもできそう」など、見える景色が変わってきます。

他にも、現在は食費に月5万円かかっているのなら、料理の勉強をして自炊する日を増やすなど、食費を月3万円ですむように努力してみる。「料理の腕が上達すれば、もっと食費を下げても生活の満足度は下がらない」と気がつくかもしれません。

そうやって、「いくらで暮らすのか?」を目標に日々を過ごす。すると次第に、暮らしにかかるお金が減っていきます。同時に、最低限いくらあれば生きていけるのかという生命維持コストも、自分の中で腹落ちするようになっていきます。

やりたくない仕事を続けると、浪費も続く

お金の不安をなくすには、お金を稼ぐことも欠かせません。

なにおれ『31歳、夫婦2人、月13万円で、自分らしく暮らす。』(大和出版)
なにおれ『31歳、夫婦2人、月13万円で、自分らしく暮らす。』(大和出版)

どれだけ生命維持コストを下げたとしても、完全にゼロにすることはできないからです。巨額の金融資産でもないかぎり、いくらかのお金を稼ぐ必要はあります。

ですが、お金を稼ぐことには大きな落とし穴があります。

この落とし穴の存在を知らないと、お金をどれだけ稼いでも、それほど安心感は得られません。

その落とし穴とは、「やりたくない仕事でお金を稼ごうとすること」です。

お金の不安があるからとお金を稼ごうと頑張ったとしても、それがやりたくない仕事であればむしろ逆効果になります。

なぜなら、やりたくない仕事をしている時間が長くなればなるほど、浪費も増えるからです。

やりたくないことに時間を費やした分だけ苦痛を感じます。そして、その苦痛を和らげるには手軽に快楽を得られる浪費が必要になるものです。すると、生命維持コストが高くなり、お金の不安がずっと付きまとうことになります。

逆をいえば、やりたくない仕事をやらないというだけで、生活にかかるお金はいまよりもずっと少なくなります。毎日お酒を飲んだり、服の買い物をしたりするのも、それは自分が本当に求めている欲望ではなく、ただやりたくない仕事をやることで感じた苦痛を和らげるためのものかもしれません。ですが、やりたくない仕事を続けていたら、そのことに気がつくことすらできません。

だからこそ、やりたくない仕事に費やす時間を極力減らし、その代わりに、やりたくないこと以外でお金を稼げるように努力すること。これが、少ないお金でも楽しく暮らす上では欠かせない要素のひとつになります。