「この商品に投資すれば、ほぼ儲かります」といったセールス文句に、「じゃあ、あなたが投資すれば?」とは思ってはいても、なかなか面と向かっては言えないもの。
でも、かつて血気盛んな若手ファイナンシャル・プランナー(FP)の頃、私は言ってみたことがあります。
そのときの、相手の反応は……。
そして、相手の反応から気づいた、セールス側の共通の思惑とは……。
未公開株の勧誘で営業マンが語った内容とは
今からもう10年以上前のことですが、当時は、「未公開株を買いませんか?」とのセールス電話がよくかかってきました。
ほとんどの人は「興味はありません」とスパッと電話を切るのでしょうが、ちょうどそのころ、自称新進気鋭のFPとして「リアルな投資ネタ」を欲していた私は、そんなセールスに対しても、電話を切らず、対応をしておりました。
そんな私に、業者が喜々として勧めてくる銘柄は、特許を持つ医療ベンチャーや最新技術を持ったIT企業など、どれもこれもきらびやかな企業ばかり。地味な製造業や小売業など、まずありませんでした。そして、それらの企業がいかに素晴らしいのか、そして将来有望であるかをまくし立ててくるのでした。
ただ、ハッキリと「必ず儲かる」や「絶対に損はしない」とは言いません。
しかし、いかにその企業が素晴らしいか、そして上場間近であるかを滔々と語るその言いっぷりからは、投資をすれば100%儲かるかのようなにおいを、これでもかと醸し出してくるのでした。
禁断の質問には、どう回答したか
もちろん、FPとして基本的な投資知識や、それなりの投資経験のあった私は、絶対に儲かる投資などないことは分かってはおりました。
なので、最初は「リアルなあやしい投資話ネタ」と割り切って聞いておりました。
しかし、自信満々に、さも「必ず儲かる」かのように話してくるセールスを何度も受けているうちに、FPとしてのプライドが刺激され、禁断の質問をしてしまったのでした。
それがタイトルにもある「じゃぁ、あなたが投資をすれば?」です。
実際には、そんなストレートな聞き方ではなく、「そんなに素晴らしい銘柄なら、あなたは買っているのですか?」と柔らかく聞いてみたのです。
気分を害して怒ってこないかな……とドキドキしながらの質問でしたが、返ってきたのは、「買えるのなら買いたいのですが、社内規定で買えないのです」といった、丁寧かつ、無難な回答でした。
とにかく、企業の素晴らしさを語りたい
そんな丁寧な回答にホッとした私は、調子に乗って、「でも、ほぼ儲かるのなら、なんとかして、ご自身が手に入れたいのではないですか?」と、少々あおるような聞き方もしました。それには、「いや、それができれば、ねぇ……」と言葉を濁し、すぐさま、「でも、この企業の特許は、本当に注目されているのですよ」と、銘柄の有望性を語ります。
さらに私は、「では、友人名義で買ってみるとか?」と、余計なおせっかいを言ってみるも、「さすがに、それは、ねぇ……」と歯切れが悪くなり、すぐさま、「でも、この企業の技術は、学会でも認められているんですよ」と、流暢に切り返してきます。
ただ、なんだか、話がかみ合わず、何とも言えない違和感を覚えたのでした。
こちらが何を言っても、「どうしても社内規定で買えない」といった感じでサラッとやり過ごし、すぐに話を、その企業の特許や技術、社長の経歴などに切り替え、いかにその銘柄が有望なのかを語ってくるのでした。
ちなみに、論点をちょっとズラして、「上場の話はどこまで進んでいるのか」「過去に上場した銘柄を取り扱ったことはあるのか」といった質問をするも、それらについてもサラッと、「そのあたりは守秘義務がありまして……」と深入りさせず、やはり、銘柄の有望性を滔々と語ってくるのでした。
「かわいそうな人」と捨てぜりふを吐いた営業マン
実は当時、未公開株投資だけでなく、「排出権取引」や「FXの自動運用システム」など、他にも、さまざまな投資話のセールスを受けておりました。そして、そんな投資セールスの対応に慣れてきた私は、それらのセールスに対しても積極的に、「じゃぁ、あなたが投資をすれば」的な質問をしてみるのでした。
それに対する対応は、ほとんどの業者は「規定でできない」の一点張り。
中には、「私が投資してしまうと、皆さまへの販売枠が減るので申し訳ない」といった理由もありましたが、いずれにせよ、勧めてくる投資商品を、実際に自分でも投資している営業マンは皆無でした。
そして、彼らは話題をすぐさま切り替え、「排出権取引は地球温暖化を食い止める」「自動運用システムは世界で認められている」など、その投資(商品)の将来性を語り、それらがいかに有望なのかを、再び熱く語ってくるのでした。一度、「それほど素晴らしい投資なら、やっぱり自分で投資していないとおかしいですよ」と、ねちっこく食い下がった時には、「人を信じられないなんて、かわいそうな人ですね!」との捨てぜりふを吐かれ、ガチャリと電話を切られたこともありました。
業者は、自分の「土俵」に引きずり込もうとする
そんな反応を見てきて確信したのが、とにかく業者は、自分の「土俵」に引きずり込もうとするということでした。
その土俵とは、「その投資(商品)が、いかに素晴らしいのか」ということ。
それが未公開株投資であれば、その企業(銘柄)の持つ「有望な特許」や「最新のIT技術」などを語り、さらには社長の華々しい経歴、雑誌等のメディア掲載実績などをアピールしてきます。そのよどみのない説明は、これは相当トレーニングされているな、と感じずにはおられませんでした。
業者とすれば、とにかく、その投資(商品)がスゴイとさえ思わせれば、すなわち、自分の「土俵」にさえ引きずり込めば、あとは相手が勝手に(これは必ず儲かると思って)盛り上がって投資してくれる可能性が高いわけですから、とにかく「土俵」に引きずり込みたいわけですね。
ですから、「じゃぁ、あなたが投資すれば?(なぜ、投資をしないの?)」と、土俵とは違うところに関心を持たれては困るのです。なので、そのような質問が出ても、決して深入りせずにサラッといなして、再び土俵に引きずり込もうとするのです。
土俵にさえ乗せれば、その投資(商品)そのものに関心が集中するので、そのような質問をされる可能性は低いのですから。そして、どうしても土俵に乗ってこない人は、向こうも諦めるわけです。
社長直々のセールスで未公開株に即決投資して大失敗
このように、私は今でこそ冷静に分析をしていますが、かつて、業者の土俵に上がってしまい、損失を被ったことがあります。
それは、某ホテル運営会社の未公開株投資でした。
その勧誘時には、「豪華な施設」だけでなく、「世界の幸せとつながる」といった、他のホテルとは一線を画すコンセプトを熱く語り、やはり、その会社の素晴らしさと滔々と訴えてくるのでした。
ただ、他の未公開株投資セールスと違ったのは、その勧誘が、社長直々だったこと。
とある異業種交流会の場で話が盛り上がり、不意に投資勧誘の話となったのでした。なので、私もまったく身構えてはおらず、ガードが下がっていたことも、相手の土俵に上がってしまった要因でした。
そして、土俵に上がってしまったが最後、滔々と語る世界平和への思いは純粋にスゴイと思い、(一人で勝手に盛り上がって)投資を即決してしまいました。今、冷静に考えれば、理念先行のかなり荒唐無稽な経営理念でしたが、そのときは土俵に上がってしまったがゆえに、視野が極端に狭くなっていたわけです。
現在、その会社は上場していません。
というか、ホテル運営実績などまったくない状態が続いており、年1回の株主総会通知以外、連絡はまったくなし。当然、配当金はなく、未上場株式なので、売るに売れない状態です。10万円程度の投資額でしたが、これは丸損になったと諦めております。土俵に上がってしまってからでは、冷静な判断は難しいことを、今になって実感している次第です。
投資しています、とは、まず答えない
結論として、「あなたが投資すれば?」に対して、「はい、投資しています」と答える業者はいませんでした(少なくとも、唐突に電話セールスしてくるような業者には)。
もし、「投資しています」などと答えれば、「では、その成果は?」と突っ込まれるでしょうから、そこは突っ込まれたくはないのでしょう。業者が関心を持ってほしいのは、その投資(商品)の素晴らしさであって、そこから「儲かる」と思ってほしいわけです。実際に儲かるか否かを検証されることは、絶対に避けたいのだと思われます。
なので、何かと理由をつけて、投資していない(できない)とだけサラッと答えて、すぐに、関心を持ってほしいテーマに話を戻すわけですね。すなわち、業者の土俵〔投資(商品)の素晴らしさ〕に引きずり込もうとするわけです。
そして、投資詐欺等に引っかかる場合は、そんな土俵に乗せられていたとのケースが多いもの。
もっとも、「自分の土俵に引きずり込む」ことは、投資詐欺に限らず、あらゆるセールスの常套手段でもあるので、このことは普段から意識しておきたいところですね。