秋篠宮さまは11月25日、11月30日の57歳の誕生日を前に記者会見を行った。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「秋篠宮殿下は、記者に問われた『皇位継承者としての教育方針』について、正面からの回答を避けたように見受けられた。ご長男の悠仁親王殿下の皇位継承を“既定の事実”のように語ることは控えたい、という意識をお持ちなのではないか」という――。
57歳の誕生日を前に、記者会見される秋篠宮さま=2022年11月25日、東京都港区の赤坂東邸[代表撮影]
写真=時事通信フォト
57歳の誕生日を前に、記者会見される秋篠宮さま=2022年11月25日、東京都港区の赤坂東邸[代表撮影]

記者会見に込められたメッセージ

去る11月30日は秋篠宮殿下の57歳のお誕生日だった。その際、記者会見でのやり取りが公表された。これを拝見すると、一見、何気ない応答の中に、見逃せないメッセージが秘められていたように思える。それが何かについて、私なりの受け止め方を述べてみたい。

政府が現在、国会に検討を委ねている皇族数の確保策をめぐる有識者会議報告書 には、以下のような一文がある。

今上きんじょう陛下、秋篠宮皇嗣こうし殿下、次世代の皇位継承資格者として悠仁親王殿下がいらっしゃることを前提に、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」(6ページ)

これは、政府として当面、天皇陛下から秋篠宮殿下ヘ、そして次世代の悠仁親王殿下へという現在の皇位の継承順序を変更しない方針であることを示している。

しかし、秋篠宮殿下は天皇陛下よりわずか5歳お若いだけなので、天皇陛下が上皇陛下と同じ85歳で退位された場合、すでに80歳の高齢になっておられる。あってはならない不測の事態でも起こらない限り、秋篠宮殿下のご即位は現実的には想定しにくい。

それに加えて、秋篠宮殿下の今回の記者会見でのご発言を拝見すると、ご長男の悠仁殿下の皇位継承についても、“ためらい”のようなものが感じられる。

あえて避けた「皇位継承者としての教育方針」の表現

そのことを感じさせたのは次のようなやり取りだ。

記者がご長男の悠仁殿下の高校生活の様子と「皇位継承者としての教育方針」を尋ねた。これに対し、秋篠宮殿下は悠仁殿下の高校生活についてお答えになった後、「その次のことにつきましては……」という言及の仕方をされた。これは、微妙ながら「皇位継承者としての教育方針」という真正面からの表現を、あえて避けられたように見受けられた。

もちろん、現在の皇室典範のルールでは先に述べたような皇位継承の順序になる。だから今の制度を前提にする限り、悠仁殿下が「(将来の)皇位継承者」であることに間違いはない。記者の質問もそれを踏まえたものだ。

しかし、ご自身が実際に即位される可能性が低いだけでなく、天皇陛下に女子であっても現にお子様がいらっしゃり、さらに今後、皇室典範の改正という重大な課題が政治日程にのぼっている以上、悠仁殿下の皇位継承を“既定の事実”のように語ることは控えたい、という意識をお持ちなのではないかと思われる。それで故意に曖昧な言い方をされたのではないだろうか。

上皇・上皇后両陛下の答え方との際立った違い

これは、上皇・上皇后両陛下がまだ皇太子・同妃だった昭和時代、天皇陛下が浩宮ひろのみや殿下と呼ばれていた頃の記者会見での答え方と比べると、違いが際立っていることが分かる。

昭和49年(1974年)の上皇后陛下の40歳のお誕生日に際しての記者会見では、「浩宮様の教育方針について」質問された時に以下のようにお答えになっている(当時、天皇陛下は学習院中等科3年)。

「将来、国際的な視野を求められることになるので、この時期に、日本の歴史、文化史のような、そのもといになるものを学ばせたい」

ここで「将来、国際的な視野を求められることになる」とおっしゃっているのは、浩宮殿下が将来「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(憲法第1条)である天皇として即位されることを当然の前提としておられることを示す。

また、昭和51年(1976年)の上皇陛下の43歳のお誕生日に際しての記者会見では次のようなやり取りがあった(当時、天皇陛下は学習院高等科2年)。

「浩宮様にはどういう帝王学をお考えですか」という記者の質問へのお答えは以下のようだった。

「帝王学という言葉が適切かどうかとも思いますが、たとえば、日本の文化、歴史、とくに天皇に関する歴史は学校などで学べないものです。それをこちらでやっていくことはしたい。……『象徴学』は一つの言葉では表せないと思います」

これも、将来、天皇になられることを既定の事実とした上でのご回答だ。

「天皇になるための学び」が感じられない

これらに対して、このたびの秋篠宮殿下のお答えは「皇位継承者としての」という直接的な表現を避けられただけでなく、“天皇になられるための学び”というストレートな内容にもなっていないように感じられる。

「日本には各地にさまざまな文化があります。そういうものを若いうちに実際にその場所を訪ねて、そこでそういうものにじかに触れるということは、将来的にも非常に大事なことなのではないかと思います。……それとともに書籍などを通じて、さまざまなこと、中でも日本の歴史などについて知っておいてほしい」

ここで日本の“文化”や“歴史”を取り上げておられるのは、先に引用した上皇・上皇后両陛下のかつての記者会見でのお答えも念頭においておられるのだろう。だが将来、「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」になられるにふさわしい素養を身につけるための“象徴学”(たとえば、天皇陛下が学校とは別に受けられた教育でとくに重視された「天皇に関する歴史」)という観点は、少なくとも前面に出ていない。

このことは、天皇陛下が“皇太子”になられる前から、将来、天皇になられることを既定の事実として「教育方針」が立てられていたこととは、いささか“温度差”を感じさせる。秋篠宮殿下は、悠仁殿下が即位されることを確実自明な事柄と決めてかかってはおられないように見える。

「ジェンダー平等」へのお考え

この点については、秋篠宮殿下の「ジェンダー平等(人が性別に関わらず平等な機会と権利を持ち得ること)」についてのお考えも、関係しているかもしれない。

先頃、刊行された江森敬治氏の『秋篠宮』第4章には、秋篠宮殿下がジェンダー平等について前向きなお考えを持っておられることが明らかにされていた。

平成18年(2006年)のお誕生日に際しての記者会見でも、秋篠宮殿下は次のように述べておられる。

「(女性皇族も)私たち(男性皇族)と同じで社会の要請を受けてそれが良いものであれば、その務めを果たしていく。……これにつきましては、私は女性皇族、男性皇族という違いは全くないと思います」

あるいは、秋篠宮家のご次女の佳子内親王殿下がこれまでガールスカウトの催しのごあいさつで繰り返し「ジェンダー平等の達成」を唱えておられることにも、秋篠宮殿下のお考えの影響を認めることができるかもしれない。

たとえば今年の10月16日、ガールスカウト日本連盟が開催した「ガールズメッセ2022」にご臨席になられた時のごあいさつの中でも、次のように述べられた。

「ジェンダー平等が達成され、誰もがより幅広い人生の選択肢を持てるようになることを、自らの可能性を最大限に生かす道を選べるようになることを、そしてそれが当たり前の社会になることを切に願います」

秋篠宮殿下は今回の記者会見でも、佳子殿下が公的なご活動としてごあいさつなどをされる時に、あらかじめアドバイスされることがあると述べておられた。だから、もし秋篠宮殿下がジェンダー平等に対してネガティブなお考えをお持ちなら、このようなあいさつに部分的な手直しを求められる可能性もあっただろう。しかし、そのようなことはされなかった。

なお、念のために付け加えておくと、皇室と国民の“区別”は憲法それ自体に根拠をもつ(おもに第1章・第3章)ので、ジェンダー平等の理念と齟齬そごしたり対立することはない。

ジェンダー平等と矛盾する現状の皇位継承

ところが、ジェンダー平等への前向きなお考えは、ご自身の「皇嗣(皇位継承順位が第1位の皇族)」としてのお立場と矛盾をはらみかねない。

なぜなら、ジェンダー平等の理念に即して女性皇族にも皇位継承資格を認めた場合、天皇陛下に敬宮としのみや(愛子内親王)殿下というお健やかでご聡明なお子様がいらっしゃるので、皇位の継承順序は当然、変更されることになる。これまで堅持されてきた、天皇との血縁の近さを重視する「直系(親→子→孫という親子関係でつながる系統)」優先の原則を維持する限り、「傍系(直系から分かれた別の系統)」の秋篠宮殿下、悠仁殿下よりも敬宮殿下の順位が先になるからだ。その時は敬宮殿下が“皇嗣”になられ、「皇嗣たる皇子」なので「皇太子」と呼ばれる(皇室典範の用語法では「皇子」「皇太子」は男女とも含む)。

紙片で表したジェンダー平等の概念
写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです

政府・国会は皇室の方々のお気持ちを無視できない

もちろん、皇室の方々は「国政に関する権能を有しない」(憲法第4条第1項)とされる。だから、どのようなお考えをお持ちでも、皇室典範の改正には直接的に関与できない。しかし、政府・国会としては、当事者でいらっしゃる皇室の方々のご意向にしかるべく配慮する必要がある。当事者のお気持ちをまったく無視しては、制度自体の安定性を期待しがたいからだ。

悠仁さまを待ち受ける過酷な生涯

そもそもジェンダー平等という理念“以前”に、事実として過去の皇位継承に大きな貢献をしてきた、正妻以外の女性(側室)から生まれた非嫡出子、非嫡系子孫による皇位継承の可能性がすでに一切排除された。にもかかわらず、皇位の継承資格を過去の男尊女卑の観念にとらわれて「男系の男子」だけに限定していては、一夫一婦制の下で男子が代々生まれ続けることはありえないので、傍系による多少の支えがあっても、皇位の安定的な継承も、皇室そのものの存続も、望みがたい。

率直に言えば、今の制度のままなら、皇室はやがて悠仁殿下お1人だけになる。しかも、そのご結婚相手は必ず1人以上の男子を生まなければ皇室そのものが滅びる、という想像を絶する重圧から逃れられない。そのことがあらかじめ分かりきっている場合、ご結婚のハードルは絶望的に高くならざるをえない。悠仁殿下は苛酷なご生涯を強いられることになる。

そのことを誰よりも深く理解しておられるのは秋篠宮殿下ご本人だろう。ジェンダー平等という理念に加えて、現実面での至難さを考えると、今の「男系の男子」限定という制度を前提とした悠仁殿下のご即位を、既定の事実と認めることに強い違和感を抱えておられても、決して不思議ではあるまい。

秋篠宮殿下のお誕生日の翌日、12月1日は敬宮殿下の21歳のお誕生日だった。全国から多くの祝意が寄せられた。当日公開された敬宮殿下の動画を拝見すると、心が清められるような気持ちになる。