PTA役員辞退は断り方一つで心証が変わる
仕事や家庭の事情で忙しい人にとって、PTAの役員決めは頭が痛い問題ではないでしょうか。PTAの役員は、ひと昔前なら仕事を理由に免除されることが一般的でしたが、最近は共働き世帯が増えて、仕事を理由に断るのも周囲の納得を得にくくなりました。また、そもそも専業主婦だからと役員を押し付けられるのは不平等です。
子どもの通う学校行事や地域活動に積極的に参加したいと考える人もいる反面、PTAの役員を引き受けると、人間関係のストレスや、時間を取られて仕事や家庭に支障をきたすことへの懸念から、できることならPTA役員は避けたいという声が多いのも事実です。
PTAに限らず、誰でも一度や二度はお願いごとを断らなくてはならない場面があり、うまい断り方を身に付けておきたいと思う人は多いようです。そこで、今回はPTA役員を断るケースを取り上げて、役員選出で指名されたらどう断れば穏便に済むのか、心証の良い断り方について考えていきましょう。
“断る”とは“逆説得”と心得るべし
「断る」とは相手の申し出に対して拒絶すること、辞退することです。つまり、相手の期待や望みを真っ向から裏切ることなので、断り方次第で、人間関係がこじれてしまう恐れがあります。コミュニケーションの観点からすると、うまい断り方は、相手があなたの話を受け入れて納得して気持ちや期待を翻してもらえるように仕向けることなので、「逆説得」とも言われています。
上手な断り方の条件として、まず一つ目は、最初から拒否的態度に出ないこと。嫌な頼まれごとをすると、不意に頼まれたのだから断るのはこちらの勝手とばかりに、つい自分本位になりやすく、相手に対する配慮を忘れてしまいがちです。
しかし、断るときこそ、相手の気持ちをないがしろにしてはいけません。「無理無理」「できません」と頭ごなしに拒否をしては、さすがに「随分な言い方だな」「もっとほかに言いようがあるでしょう」と気分を害してしまい、人間関係にひびが入りかねません。PTA役員を辞退するにしても、これから学校や地域で共に過ごすことを考えれば、このような態度は避けたいところです。
次に、忘れてはいけないのが誠実さです。例えば、「親の介護で……」「仕事が忙しくて……」等の辞退理由が本当のことならいいのですが、その場しのぎの嘘やごまかしは、子ども同士が同じ学校に通っていたり、同じ地域で生活をしていれば、いずればれてしまいます。そうなった時に、あなたの不誠実さが浮き彫りになって悪評判が立ってしまうので、相手が納得するまで誠実に対応しましょう。
もう一つ、断る最中に相手に与える印象も大切です。断るにしても、好意的に受け止めてもらえたほうが、「これ以上困らせては申し訳ない」「あまり強く頼めない」とあきらめてもらえますので、きつい言い方にならないように、言葉や表現を選んで上手に断りましょう。それでは、こうした条件を満たした、PTA役員を断るフレーズを具体的に見ていきます。
推薦された役員依頼を感じよく断る6つのポイント
最近のPTA役員の選出方法には、事前に推薦された人に電話を掛けて役員の打診をするところが多いようです。電話がかかってきた際に、感じよく断る6つのポイントを紹介しましょう。
① まずは、最後まで話を聴く
突然のPTA役員の依頼に動揺してしまうのも分かりますが「ダメです! 無理無理」とよく話を聞きもしないで断ると、相手は反発感情を引き起こして不愉快になります。まずは、慌てずに自分の主張をするのをグッと我慢し、相手の言い分を最後までしっかり聞く態勢をとりましょう。こうした傾聴姿勢を見せることで誠実さが伝わります。
② 労をねぎらい、声をかけてくれたことに感謝
次に、自分を認めて声をかけてくれたことに対して感謝やねぎらいのことばを述べて、相手の気持ちに配慮をすると、ネガティブな印象が緩和されます。
③ クッション言葉で心理的な反発を和らげる
多くの保護者の皆さんが犯している失敗として多いのが「私、(仕事が忙しいので/介護があるので)できません!」と言い切ってしまう断り方。しかしこれは最もやってはいけない反感を買いやすいNGワードです。
そこで、心理的な反発を和らげるために、相手の気持ちを察するクッション言葉を入れるといいでしょう。
例えば、「ご期待に沿えず申し訳ございません」「せっかくお電話いただいたのにお力になれず申し訳ございません」「恐縮ですが、どうしても来年は責任を持ってお引き受けできない事情がありまして」という類の言葉を挟むことで、断るにしても、相手の意向を無下にせず、「できることなら協力したいが、どうにもならない」というニュアンスが伝わりやすくなります。ぜひ感情的にならず冷静な話し方で納得をしてもらいましょう。
④ 事情を伝える時には“代替案”を示す
断る時には、とにかく役員は無理だ、としっかりと意思表示することが必要ですが、その際に、「できません!」ではなく「私は今、○○なので役員をするのは難しいのですが、何か他のことでご協力ができればと思います」といった、断る理由+代替案にすると感じがよくなります。
重要なのは、「無理」と切り捨てるのではなく、協力したいのはやまやまだけど、今期はどうしても難しいと伝えることです。例えば、仕事を理由にする場合は、「来期大きなプロジェクトを抱えているので、どうしても時間が取れないんです」「今の職場、月の半分以上、出張で、正直体力的に自信がありません」など具体的に伝えて納得してもらうまで誠実に断り続けてみましょう。
⑤ 力量が無いと伝える
忙しい、時間がないと自分の事情ばかり主張するよりは、力不足だから「自分には役をこなす自信がありません」とお断りをするほうが柔らかい印象で断ることができそうです。
「大勢の前でお話しするのは苦手で、皆さんのご迷惑になるので、遠慮させてもらいたいんです」
⑥ 曖昧な返事はしない
断る意思は曖昧な表現にせず、はっきり伝えることです。例えば、「考えておきます」「ちょっと検討します」「家族に相談してみます」という曖昧な返事をしてしまうと、相手に期待を持たせてしまい断りにくくなります。
断る時には、最初に相談を持ち掛けられた時に「申し訳ありませんが、それは私ではいたしかねます」「残念ですがお引き受けできません」「ご期待に沿えず申し訳ありません」と依頼は受けられないとはっきり伝えましょう。
役員決めの会議で感じよく断るには
次に、保護者会での役員決めの場面での断り方のポイントについてです。役員決め当日の断り方で最もやってはいけないのが、やはり「○○で忙しいので/時間が取れないので、できません!」と、自分ができない理由を単に並べるだけの断り方。「忙しいのはあなただけじゃない」と反感をかってしまい周囲を敵に回しかねません。
役員を免除しても仕方ないかと思わせる雰囲気をつくるには、先程の推薦された時の電話対応と同様に、「私は○○なので、役員をするのは難しいですが、別の形でなら協力はできます」と、お断り+代替案を提示して無責任な印象をなるべく与えないように伝えることです。
「PTA役員活動はできないけど、PC作業ならできるので、何か手伝えることがあったら言ってください」
◆辞退理由を伝えるタイミングも大事
そして、役員を引き受ける人がいないと、だいたい、居たたまれない沈黙が続いた後、くじ引きで決めるという流れになります。ここで、気を付けたいのが役員辞退の理由を伝えるタイミングです。
もし、役員をくじで引き当てた後に、「実は介護があって……」など事情を説明しても、「今さら何を……」という雰囲気で、ちょっとやそっとのお断り文句では納得してもらえません。それに、辞退の理由にプライベートな内容が含まれる場合、全員の前で伝えるのは精神的にきついですよね。
もし、どうしても責任を持てない事情があるのなら、早めに内々に学校や会長に「こういう事情で、今はどうしてもできないが、どうしたらよいのか」と、役員免除の相談をしておく方法もあるようです。理由は内緒にしておいてほしいと伝えれば、うまく取り計らってくれる場合が多いようです。くじ引きで決まってから断るのとでは心証が違います。
◆役員を引き当てても、取り乱さない
人は不測の事態に見舞われると、とっさの態度に人間性が表れるものです。くじ引きで役員を引き当ててしまった場合、ショックは隠せないのですが、「え、なんで私が。無理です……」とつい本音がポロリと出たり、取り乱してしまうのは避けましょう。
今後も地域や学校での人間関係を良好に保ちたいなら、大きく深呼吸をして、「微力ですが、よろしくお願いします」「初めての経験なので、至らない点が多々あるかと思いますが、どうぞ温かい目で見てください」と、ご挨拶をしたほうが、あなたの株が上がります。
役員免除の主な理由について、お断りフレーズ例
クッション言葉や代替案などを追加してアレンジしてお使いください。
◆未就学児がいる場合(妊娠中の場合も免除理由)
「子どもに手がかかり預ける人がいないので、今年は参加が難しくて。お役に立てなくて申し訳ございません」
◆求職中である場合
「家庭の事情で、今、求職中なんです。どんな職場になるか分からなくて、両立できる自信がありません。もう少し落ち着いた時にまたご協力させていただけないでしょうか」
◆主たる生計者である場合
「私が主たる生計を立てているので平日会社の休みを取れません。違う形でお手伝いさせてもらえませんか」
◆介護がある場合
「現在家族の介護があって、PTAに参加できる状態ではありません/ヘルパーさんにお願いしているのですが、まかせっきりにもいかないので、私も日中は介護に通っています。気が休まらなくて、申し訳ありませんが、今回は見送らせてください」
◆持病など体調に不安を抱えている場合
「体調を崩す日が多く、外に出られず、みなさんにご迷惑をかけてしまうことになりますので、今回は遠慮させてください」
◆他で役員をやっている場合
「自治会の役員/マンションの管理組合の理事を先に頼まれてしまって、PTAとの掛け持ちはさすがに大変なので、今回はお引き受けしかねます」
◆仕事を理由にする場合
「ぜひ、お役に立ちたいとは思いますが、今、仕事で重要なプロジェクトを任されており、どうしてもPTA活動に時間を費やせる余裕がありません。無責任になり迷惑をかけてしまうかと思いますので、せっかくですが今年は遠慮させてください」
「申し訳ありません。引き受けたいのは、やまやまですが、仕事の都合で学校へ来られるか分からないので役員は難しいです。別の形で協力したいと思います」
できること・できないことを明示する
役員をどうしても断れない状況の場合、途中で役員の仕事ができなくなったり、平日の集まりに参加できなくなったりしても構わないか等、自分にとってできること・できないことを明確に提示し、それを条件にしてもらえるなら引き受けるとトラブルを回避しやすくなります。PTAに時間を取られて仕事や家庭にしわ寄せが来ないように、相談という形で了解をとりましょう。
◆転勤の可能性
「今年あたり転勤する可能性があって、もしかしたら任期満了ができないかもしれませんが、それでもよろしいでしょうか?」
◆出張や残業の多い職場
「残業になることが1週間に数回ありますので、会合に遅れるかもしれませんが構いませんか?」
基本的に嘘はつかない
適当な嘘がばれると近所付き合いも難しくなるので、断るときに安易に嘘をつくのは危険です。役員を断っておいて日中頻繁にママ友とランチや趣味をしていたり、外出をしていたりするようでは嘘をついたと誤解されますので気を付けましょう。
陰口をたたかれて、子どもにまで悪影響が及ぶような事態は避けたいものです。本当の事情の範囲内で状況を説明し、PTA役員を上手に回避していくようにしましょう。
今回は、お願いごとをうまく断ってしこりを残さないコミュニケーション術のヒントとして、PTA役員の依頼を断る場面を事例に取り上げました。
PTAはそもそも任意加入ですが、学校によっては実質的に強制加入に近い中、さまざまな意見を持っている保護者がいるのも事実です。PTA役員を引き受けると時間を取られることや、メンバーによっては人間関係による悩みを抱えてしまうかもしれません。
その反面、メリットとしては地域とのつながりができて情報が得られたり、子どもの安全を守る活動や、一緒に楽しめる活動に直接携わったり、子どもの学校生活の様子が分かって、楽しい面もあります。最近は働くママにも負担がかからないように平日の活動を減らす、また、誰もが必ず1回ずつ役員をやるなど公平な役割分担をしているところもあります。
職場同様、地域やプライベートな付き合いでも円滑なコミュニケーションは大切です。ご自身の仕事のペースや家庭の事情に合わせて、地域や子どもの学校関係の人たちともうまく付き合っていきましょう。