上手に叱る極意は、部下と仲良くなること
「新人を強く叱ったら翌日会社に来なくなった」と、管理職から相談を受けることがありますが、簡単に訴えられてしまう世の中、パワーハラスメントを危ぶみ部下をきちんと叱れないと悩む上司は少なくありません。とはいえ、仕事をしていれば叱らなくてはならない局面は必ずあるものです。部署としての高い目標があり、そのために部下を育てたいと考えている優秀な管理職ほど、大事な部下には間違いに気づいてほしいと思い、成長を願うものではないでしょうか。そのためにも管理職になったら、パワハラにならずに言いたいことが伝わり、むしろ部下をやる気にさせる「上手な叱り方」は必須スキル。コツを知っておいて損はありません。
叱る技術の向上は日頃の人間関係づくりから始まります。トップセールスの営業員が上司としても優秀だとは限りません。管理職は面倒見の良さが第一。評価されるチームのリーダーは部下に人間的な関心を持ち、よく見ているもの。部下を持ったら「この人たちは自分の仕事を支えてくれる大事な存在。一人一人を尊重しよう、仲良くしよう」という心持ちで行動することで、関係性は良くなるはずです。
リモートワークではどうしても目的のない雑談が少なくなりますが、朝礼や夕礼をもうけたり、定例会議の前に仕事と関係ない近況報告をしたりするなど、部下とコミュニケーションをとる工夫をしましょう。単純に接触回数を増やすだけで、お互いに親しみが増します。特に多くの職場で少数派の女性リーダーは反発されることも多々あります。なるべく早い時期に自己開示を心がけ、仲良くなる努力をしましょう。
やがて「この人は部下をよく見ている、理解がある」という安心感が部下の間に広がると、のびのびと働ける主体性が生まれ、誤解や行き違いが減ってきます。
上司のほうでも日々のコミュニケーションによって、部下の考え方や悩み、将来の夢などを把握でき、部署の目標と合わせて具体的な人材育成を考えることができるようになります。そんな上司が「部下のために」必要があって叱るのですから、叱られた部下もパワハラだとは考えず「自分の成長のために叱ってくれている」「期待されている」とむしろ奮起して前向きに働いてくれるでしょう。普段からミスが多く、間違いに気づいてほしい部下に対してこそ、叱責する前に、お互いに人間的な信頼関係があるか、ないならどう築くかを考える必要があるのです。
また、攻略の最難関である年上部下の場合でも同じです。ただでさえ対応が難しいのに、叱らなくてはならないとなると気が重いもの。しかし、普段から敬称・敬語を使い、上司であってもあくまで立場上だけであり、社会人としては先輩として尊重しているという姿勢を示しておくことで、いざというときに厳しく意見しても相手の納得感が高まります。
いざ「叱る」その前に確認したい対人マナー
多くの上司が誤解しているのが「叱る」と「怒る」の違いです。叱るのは相手のためですが、怒るのは自己都合。「怒っている」と部下に思われたらアウトだと思いましょう。叱るときは感情的にならず、必要なことだけロジカルに伝え、冷静にサラリと叱ること。
また叱る内容が本当に部下のためかどうか根拠を検証することも大事です。自分の保身のために叱ろうとしていないか、立ち止まって考えてみましょう。上役の顔色ばかり見ている上司ではせっかく築いた信頼関係がくずれてしまいます。
リモートでも対面でも叱るときは当事者と1対1が基本。また、言葉選びは慎重に。相手の立場に立った言い方かどうか、ひと呼吸おいてから口を開くこと。部下の努力に理解を示し、決して暴言を吐かないようにしましょう。仕事で失敗したからといって人格まで否定してはいけません。部下相手であっても侮辱的な発言は立派なパワハラです。
言うべきことを言ってしまったら、上司は水に流しがちですが、叱られたほうの部下は意気消沈しているはず。叱りっぱなしでケアをしないと、その後の関係がギクシャクしてしまうことが多々あります。いつまでも気まずい空気を引きずらないように、叱るときの3倍のエネルギーでアフターケアをしましょう。自分でフォローしても、ほかの人に頼んでもいいですが、気使う言葉は口頭よりもメールなどで文字に残すと、何回も見直すことができてより深く気持ちが伝わります。
管理職の仕事のほとんどは目配りと気配り。部下の成長のために、エレガントな叱り方上手になりましょう。
エレガントな「叱り方」レッスン
パワハラを回避し、部下を動かす叱り方にはコツがある。ついついやりがちな「ダメな叱り方」をチェック&ブラッシュアップ。言いたいことは同じでも、エレガントな言葉選びで、指示待ちで動かなかった部下の仕事ぶりが変わる。
「叱る」は指示ではなくコーチングのひとつ
パワハラにならず伝えるべきことは伝え、むしろ叱られた部下がやる気になる。ここで紹介した8つの例にあるようなエレガントな叱り方の根幹にあるのは、組織をフラットに捉える横の関係を重視したマネジメントの考え方です。トップダウンのピラミッド型では、リーダーの意見がもっとも尊重されますが、フラットな組織では一人一人の価値が上がり、誰もが自由に発言できる場や、自立的に仕事をする機会が求められます。
上司の役割は、各自が実力を発揮できるようにサポートすること。上司が部下を「叱る」目的も、一方的に自分の意見に従わせるのではなく、部下がそれぞれの仕事を進めて成果を出せるように、助言しつつ育てるコーチングの一環だと捉えることで、おのずと部下の主体性を尊重した伝え方になるのです。
じんわりひと言 ガツンと一発! 忘れられないあの上司の「叱り方」名言集
(プレジデント ウーマン編集部)
ビジネスの世界に飛び込んではやウン年。時に落ち込むほどの大失敗をしたこともあっただろう。そんなとき、あの上司がかけてくれた言葉に助けられ……。アンケートに寄せられた上司の「叱り方」名言集を大公開!
心にじんわり染みたひと言
「平生ではもっとできるはずなのに」という意味合いのこの言葉をかけられたとき、上司への反感は感じず、ただただ反省の気持ちになった。(金融・30代)
部下の失敗は、すべて上司の責任だというスタンス。だからこそ、上司に迷惑をかけないよう、細心の注意を払って業務を進められる。(IT・30代)
俺が1人で仕事を回している、と少々てんぐになっていた時期の上司からのひと言。それからは周囲との協調を心がけた。(マスコミ・40代)
「こんなの無理です」と言った私に、上司のひと言。確かに上司から聞いたことがない。だからこそ周囲からの信頼があつい。(金融・20代)
ミスした新人を感情任せに怒鳴りつけた後、上司に言われたひと言。大いに反省し、それからは、ひと呼吸置いて叱るようにしている。(アパレル・40代)
入社5年目、大口取引先へのミス発覚。「辞めたい」と考えていたときの上司の言葉。逃げることばかり考えていた自分を大いに反省した。(商社・40代)
若き頃、上司に言われてびっくりした言葉。調べてみたら山本五十六の名言でしたが、なるほどなと思い、今でも実践している。(保険・50代)
心にガツンと響いた一発!
後輩の業務実績と比較してのひと言。目が覚めて、それからは奮起した。(商社・30代)
ものすごく怒られた後、間を空けて聞かれた。上司の人間的やさしさが染みた。(電機・30代)
編集者になりたての私に上司のひと言。小さなミスが大事になるのを目の当たりにするたび、あらためて肝に銘じている。(出版・40代)
なぜ自分にだけ厳しいのかと聞いたときのひと言。私に期待してのことだと知り、それから奮起している。(人材・20代)
10年前に営業で大失敗。今ならパワハラとされがちだが、この人は本気だと感じ、しっかりやらねばと身が引き締まった。(精密・40代)
まとめ
数々の上司たちの名言、いかがだっただろうか。誰の心にもきっと染み入る名言があるはず。今度はあなた自身の言葉を部下に渡そう!