親ガチャが話題になったが、同じ親から生まれた兄弟間でも不公平は存在する。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「日本では長男の学歴や年収が高くなる『長男プレミアム』が根強く、海外でも出生順プレミアムがあります。しかもそれは、本人だけでなくその子どもにまで影響します」という――。
リビングで遊ぶきょうだい三人
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

親は長男をどれほど優遇するのか

筆者は仕事の合間に女性の悩みに関する記事を読むことがあるのですが、その中で「長男との結婚」についての記事を見かけることがあります。

「長男の夫は親の期待が大きい反面、さまざまな負担も大きく、しんどい」という流れの記事が多いのですが、気になるのが「長男への親の期待」という部分です。

「親が長男の将来に期待をかけ、さまざまな面で優遇し、教育面でも積極的に投資を行う」ということを意味するのだと思われるのですが、これは本当なのでしょうか。

今回は「長男が本当に優遇されてきたのか」という点を学歴や年収の視点から検証した研究について紹介したいと思います。

なお、結論を先取りすれば、日本では長男ほど学歴や年収が高くなる「長男プレミアム」が存在すると言えるでしょう。

以下で詳しく背景や分析結果を説明してきたいと思います。

儒教や旧民法の影響によって長男は優遇されてきた

日本、中国、韓国、台湾といった儒教の影響が強い東アジア諸国では、出生順位(何番目に生まれたのか)に大きな関心が寄せられてきました。これは、出生順位が親からの教育投資だけでなく、住む場所や仕事にも影響を及ぼすと考えられたためです。

また、東アジア地域では家庭内で女の子よりも男の子が重視される傾向があります。

これまでの日本の「イエ」制度では、一般的に長男のみに家業や財産を相続させる傾向が見られました。これが制度化されたのが第2次世界大戦前の旧民法であり、もし一家の主が亡くなった場合、原則として長男が遺産のすべてを相続するという制度が採用されていました。この場合、次男や長女等の長男以外の子は遺産を相続できませんでした。

この民法は第2次世界大戦後に改正されたのですが、長男を重視するという傾向は依然として農村部を中心に存続しているのではないかと指摘されています。もちろん、令和になった現在では長男重視の傾向はだいぶ弱まってきていると考えられますが、昭和や平成初期の生まれの方には生活の中で実感してきた部分があるのではないでしょうか。

以上の点を総合して考えると、男の子の中でも長男に大きな期待が寄せられたことは想像に難くありません。おそらく、教育面でも長男には手厚い投資がなされた可能性があります。これは所得にプラスの影響を及ぼすでしょう。ただし、長男には家の相続という責任も伴うため、家の周辺地域で働かなければならず、良い所得の仕事があったとしても移動制約のために就職できない恐れもあります。これは所得にマイナスの影響を及ぼすでしょう。

このように日本で長男として生まれることは、学歴や所得にプラスとマイナスの両方の影響を及ぼします。はたして、どちらの影響が強いのでしょうか。

学歴における「長男プレミアム」

長男の学歴や年収に関して、政策研究大学院大学の藤本淳一准教授らが研究を行っています(*1)。この研究では2000年から2012年までの日本版総合的社会調査(JGSS)というデータを使用しており、比較的近年の状況を示しています。

研究では学歴に関する興味深い2つの分析結果が示されています。

1つ目は学歴における「長男プレミアム」の存在です。第1子目の男の子の場合、教育年数が延びる傾向がありました。都市部と農村部で違いがあるのかという点も検証されていましたが、明確な違いは確認できませんでした。

やや意外ですが、日本では地域に関係なく学歴面での「長男プレミアム」が存在していると言えるでしょう。

(*1)Fujimoto, J., Meng, X., 2019. Curse or blessing: Investigating the education and income of firstborns and only boys, Journal of the Japanese and International Economies, 53, 1-20.

帽子を投げる卒業生たち
写真=iStock.com/somethingway
※写真はイメージです

きょうだいの数が多いほど、子どもの学歴は低下する

2つ目はきょうだいの数が多いほど、子どもの教育年数が低下するという点です。性別にかかわらず、きょうだいの数が多いほど、一人ひとりにかけられる教育費用は低下していきます。この結果として、きょうだいの数が多いと子どもの学歴が低下する傾向が確認されました。

この結果の重要なポイントは、平均的に見て子どもの学歴を高めたければ、子どもの数を制限する必要があるという点です。子どもの数を制限し、一人あたりの教育投資量を増やし、子どもの学歴を高めるという戦略をとる必要があることを示唆しています。

また、この結果から、子どもに必要となる教育費が増加した場合、子どもの数を減らさざるを得なくなることも考えられます。現在、日本では都市部を中心に中学受験をする子どもが増えており、教育費の増加につながっています。これは子どもの数の減少に関連があると予想されます。

長男は年収が4.4%高くなる

年収に関しては、長男は年収が約4.4%高くなることが明らかにされています。学歴と同じく、都市部と農村部で違いは見られませんでした。

年収面においても「長男プレミアム」が存在していると言えるでしょう。

階段の側面には円マークがついている
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

さて、これまで見てきたとおり、日本では長男として生まれることが学歴や年収面でプラスに働きます。それでは海外ではどうなのでしょうか。

海外に関する研究を見ると、「長男であるかどうか」という点よりも「何番目に生まれたのか」という点に興味・関心が集まっています。

分析結果をまとめると、アメリカ、イギリス、ノルウェー、スウェーデンといった先進国において、子どもの出生順位が遅くなるほど、学歴が低下する傾向が明らかにされています(*2)。これは、出生順位が早いほど親と共に過ごす時間が多く、教育投資がある程度確保できるためだと考えられています。

さらに、ヨーロッパ14カ国のデータを用いた研究によれば、出生順位の影響は世代を通じて子どもの学歴にも影響することが明らかにされています(*3)。生まれが第1子目である場合、本人の学歴が高くなるだけでなく、その子どもの学歴も高くなる傾向があったのです。なお、この影響は男性よりも女性で強く、第1子目の母親から生まれた女の子ほど、第2子目以降の母親から生まれた女の子よりも学歴が高くなっていました。

「何番目に生まれたのか」という自分でコントロールできない要因が子の世代にまで影響するという結果は、非常に興味深いものです。

(*2)アメリカ: Kantarevic, J., & Mechoulan, S. (2006). Birth Order, Educational Attainment, and Earnings: An Investigation Using the PSID. The Journal of Human Resources, 41(4), 755–777. 
イギリス:Booth, A.L., & Kee, H.J. (2009). Birth order matters: the effect of family size and birth order on educational attainment. Journal of Population Economics, 22, 367–397. 
ノルウェー:Black, S. E., Devereux, P, J., & Salvanes, K, G. (2005). The More the Merrier? The Effect of Family Size and Birth Order on Children's Education, The Quarterly Journal of Economics, 120 (2), 669–700. 
スウェーデン:Barclay, K, L., (2015). Birth order and educational attainment: evidence from fully adopted sibling groups, Intelligence, 48, 109-122.
(*3) Havari, E., & Savegnago, M. (2020). The intergenerational effects of birth order on education. Journal of Population Economics, 35, 349–377.

「ガチャ」による不公平を解消するために

これまでの分析結果が示すように、生まれる順番という本人にはどうしようもない要因で学歴や所得に差が生じてきます。この背景には、家庭内の限られた教育資源を配分する際、どうしても最初に生まれた子どもに多く配分してしまう親心も影響しているでしょう。

この問題を解決するのは家庭内だけでは難しい側面があるため、政策的な介入が手段として考えられます。

具体的には教育費用の無償化等による家庭の教育負担の軽減です。

これが実現されれば、例えば「上の子どもは私立に行ったから、下の子どもは公立に行ってもらわないと困る」といった選択肢を狭める事例も少なくなるでしょう。