住宅ローンの返済を延滞してしまったら、さまざまなペナルティーが待っている。住宅ジャーナリストの山下和之さんは「最悪の場合、せっかくのマイホームを取り上げられてしまうことになります。そうならないためには、延滞する前に対応することが大切です」という――。
ミニチュアの家とパソコンを使用する人
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延滞すると優遇金利がなくなってしまう

住宅ローンはほとんどの場合、優遇金利が適用されている。たとえば、みずほ銀行の変動金利型の基準金利は2.475%だが、そんな金利で利用している人はまずいない。多くの場合、優遇金利制度が適用されて、0.375%から0.725%程度の金利で利用している。基準金利から最大で金利が2.1%引き下げられているわけだ。

ところが、この金利優遇制度、延滞が発生したら優遇金利の適用が外れることになっている。入金ミスなどの初歩的なトラブルであり、すぐに対応すれば事なきを得ることもあるが、住宅ローンの約款には、一度でも延滞が発生したら、優遇金利がなくなることが盛り込まれており、基準金利が適用されなくなっても文句は言えない。

たとえば借入額が4000万円で、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は、優遇金利の0.375%なら10万1639円だが、返済開始から1年後に優遇金利がなくなって2.475%になると毎月返済額は14万1215円に増えてしまう。4割近く増加する計算だ。

マイホームを失った上に返済だけは続く

ただでさえ延滞するぐらい生活が厳しいのだから、優遇金利がはずれて返済額が4割近くも増えては、いよいよ返済の継続が難しくなる。

通常、延滞が3カ月程度続くと金融機関は保証会社から代位弁済を受けて、債権が保証会社に移ってしまう。保証会社は金融機関ほど甘くないので、やいのやいのと督促が来て、それでも返済できないと、自主的に売却して残債の返済を求められる。いわゆる任意売却ということだ。

その場合、売却価格がローン残高を上回っていればいいが、ローン残高が売却価格を上回っていると、その差額分は自己資金で補うか、売却後も返済を継続しなければならない。つまり、マイホームを失って賃貸住宅などに移動した上で、返済を続けなければならないということだ。

そうした事態が予想されるときには、簡単には任意売却できないので、最終的には競売に付されることになる。競売では、任意売却に比べて安値で落札されるのがふつうで、いっそう傷が深くなってしまう。

万一のときに困らない返済計画を立てておく

そんな事態に陥らないためには、何よりも事前の対策が肝心。決して無理をせずに、年収に占める年間返済額の割合である返済負担率を25%程度に抑えておく、病気やケガ、リストラなどの不測の事態に遭遇しても一定期間は生活できるように、手元に半年か1年程度の生活費を残しておくといった方策をとっておきたい。

売却された住宅
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ただ、それはいまさら言っても始まらない話かもしれない。それだけに、実際に返済に困った場合の対策も知っておきたい。事前に対応策を頭に入れておけば、万一の事態にもあわてずに行動、何とか難を逃れて、返済を継続してマイホームを守ることができるようになるのだ。

まず、返済が厳しくなったら延滞する前に利用している金融機関で相談してみる。延滞してしまうと先に触れたように優遇金利がなくなって、いよいよ返済が難しくなるので、その前に対策をとっておく必要があるわけだ。

条件変更の申し込みが10万件を超えている

2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、住宅ローンの返済に困る人たちが続出したため、金融庁では金融機関に対して、住宅ローン利用者からの申し出があれば、返済条件の変更などによって、返済を継続できるよう柔軟に対応することを求めている。

住宅金融支援機構でも、ホームページで何度も「新型コロナウイルス感染症の影響により機構の住宅ローンのご返済にお困りの方へのお知らせ」を掲載して、救済策を実施していることを告知している。

その結果、2020年から2022年7月末までの間に、全国の銀行に7万3391人が条件変更の申し込みを行っている。信用金庫などを含めると10万人を突破している。

しかも図表1にあるように、銀行に返済条件変更を申し込んだ人のうち、97%近くが返済条件の変更を実現している。当面の返済額を少なくするなどの形によって返済を継続、マイホームを守ることができているわけだ。

【図表1】貸付条件の変更等の状況について
出典=金融庁「金融機関における貸付条件の変更等の状況について」(2020年3月10日~22年7月末までの実績)

返済特例なら毎月の返済額が7割に減少する

返済条件の変更によって、どの程度返済額を減らすことができるのか、民間金融機関ではその内容を公表していないが、住宅金融支援機構では図表2のような3つのパターンがあるとしている。

「返済特例」は、返済期間を10年、15年と延長することによって、毎月の返済額を減らす方法。たとえば、借入額4000万円、金利1.0%、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は11万2914円だが、この人が返済開始から3年後に15年間返済期間を延長すると、毎月返済額は8万2456円に減少する。返済額を7割程度に減らすことができるのだから、それなら返済を継続できるという人もいるのではないだろうか。

ただ、この方法をとった場合、当面の返済額が減少しても、完済までの総返済額は増えることになる点に注意が必要。条件変更しないときの完済までの返済額は11万2914円×32(年)×12(カ月)の4335万8976円だが、条件変更を行うと8万2456円×47(年)×12(カ月)の4650万5184円に増える。300万円以上も総負担額が増えてしまうわけだ。

元金を据え置けば3割程度に減少する

返済特例による期間の延長は、あくまでも困ったときの緊急避難に過ぎない。一時的な猶予策であり、返済を免除されるわけではないので、収入が回復するなど生活にゆとりが出てきたら、返済期間を短縮して元に戻すなどの対応をとるのがいいだろう。

「中ゆとり」は、一定期間だけ返済額を減らす方法。1年、2年などの間には収入の回復が見込める人はこの方法を利用するのがいいだろう。

たとえば、1年間元金を据え置いて利息支払いだけにする方法などがある。利用額が4000万円、35年元利均等・ボーナス返済なしの3年後の残高は3709万2908円だから、この残高を据え置いて利息支払いだけにすれば、3709万2908円×0.01(1.0%)÷12(カ月)で3万0910円になる。

本来の返済額の11万2914円に比べて3割以下の返済額に減少し、先の返済特例より効果が大きくなる。これなら、何とかなるという人が多いのではないだろうか。

ボーナス返済を見直すことも可能になる

この場合もあくまでも緊急避難であり、残高が減ったり、無くなったりするわけではない。一定期間後には、元の返済額に戻さなければならないのは言うまでもない。

そのほか、新型コロナウイルス感染症の影響でボーナスが減ったり、無くなった場合には、ボーナス返済をなくしたり、減らしたりすることが可能。ボーナス返済をなくしたり、減らしたりした分は毎月分に加算されることになるのは言うまでもない。

以上のような条件変更が可能になるケースが多いので、くれぐれも延滞してしまう前に利用している金融機関で相談するようにしたい。

条件変更の相談にはハードルが高いと感じるかもしれないが、いまなら、金融庁の指導もあって柔軟に対応してくれるケースが多いので、延滞が発生する前に実行するようにしたい。