品薄が続き「ロレックスマラソン」という言葉まで生まれた高級腕時計の世界。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「ロレックスの値上がりで気をよくして、さまざまな時計に投資してみましたが、暗号資産やNFTへの投資と共通点があることに気づきました」という――。
2019年7月、夜の上海のROLEXストア
写真=iStock.com/Robert Way
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もはや数十万円では買えない「ロレックス」

たまたま買ったロレックスの値上がりに気を良くして、「次に値上がりするブランドを」「まだ誰も目を付けていないブランドを」と、腕時計の王道である(すでに値上がりしてしまった)ロレックスではなく、あえて手頃な中堅ブランドを買いあさった結果は……。

今回は、そんな腕時計投資がテーマです。

ここ数年、ロレックスの価格が高騰していることは、腕時計好きでなくてもご存じかもしれません。

とくに人気のデイトナやサブマリーナなど、10年程前なら数十万円からせいぜい100万円台でも買えたものが、今や数百万円からモデルによっては1000万円超に跳ね上がっています。

そんな定価を大幅に上回る実勢価格は、ロレックスバブルとして社会現象にもなりました。

今年の春に大きな調整があったとはいえ、まだまだ入手すら困難な状況は続いており、ロレックスを求めて正規店をひたすら駆け回る「ロレックスマラソン」という言葉も話題となりました(完走は困難で、リタイア続出らしいですが)。

そんな中、実は私、高騰直前の10年程前に、ロレックスを購入していたのです。

もっとも、今の値上がりを見込んで買ったわけでなく、ちょうど臨時収入が入ったことから、「せっかくなんで、いい時計でも買おうかな」程度の気持ちでしたが。

56万円が、10年後には200万円に

購入したのはデイトジャストIIという、オーソドックスなドレスウォッチ。

とある並行輸入店にて56万円で買いました。さまざまなモデルがショーケースに並び、選びたい放題の中、定価より2割程安い価格で買えたのは、今となっては考えられないことです。

デイトナやサブマリーナといったスポーツモデルに比べ、ドレスウォッチタイプの値上がり幅は鈍いのですが、それでも先日、その後継モデル(デイトジャスト41)が200万円で店頭に並んでいるのを見かけ、心の中で小躍りです。腕につけているそのロレックスを、何度も確認せずにはおられませんでした。でも実は、購入してから数年後には、すでにじわじわ値上がりはしており、店頭での販売価格が100万円近くになった頃には、「腕時計は、投資になるのでは?」と、投資マニアの血がうずうずと騒ぎ始めていたのでした。

手頃な中堅ブランドを、次々と買い漁る

ロレックスを買ったことで、腕時計に興味を持ち始め、それなりに勉強していた私は、「まだ値上がりしていない、目を付けられていないブランドを探してやろう(そして、儲けたい)」と意気込むのでした。もちろん、購入したロレックスの値上がりですっかり調子づいていたことも、否定はいたしません。

そして購入したブランドは、「オリス」「フレデリック・コンスタント」「ハミルトン」といった中堅ブランドで、いずれも定評のあるブランドです。その中でも10万~20万円程度と手頃な価格帯のものを、次々に買いあさるのでした。

ロレックスがこれだけ値上がりしているのだから、(私が厳選した)これらのブランドも、いずれ、つられて値上がりするだろう、とワクワクする思いでもありました。ロレックスに比べて手頃な価格であったこと、そしてロレックスの値上がりで気が大きくなっていたことも、短期間に腕時計を複数購入する大きな後押しとなりました。

2012年3月31日、ベルリンのディーラーのショーケースに展示されているロレックスの時計
写真=iStock.com/pelucco
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ただ、気が大きくなり過ぎたせいか、「ガガミラノ」という、気が付けばちょっと旬を過ぎたブランドにまで手を出していたことは、今考えれば余計だったかもしれません。

10万円がブランド買取店で1万円に……

で、その結果はというと、惨憺さんたんたるものでした。

いずれも1~3年程度使用して、ブランド買取店に持ち込んだのですが、オリス(購入価格18万円)は4万円、フレデリック・コンスタント(購入価格15万円)は3万円、ハミルトン(購入価格14万円)は3万円と、買取価格はいずれも購入価格の2割程度と、期待外れもいいところ。

いずれも定価よりもかなり安く買うことができていただけに、あわよくば数万円くらい値上がりしているのでは……と淡い期待を抱いていただけに残念でした。

ガガミラノ(購入価格10万円)にいたっては買取価格わずか1万円で、それ以来、そんなガガミラノを腕に付けるたびに、「1万円程度の時計なのか……」とテンションは下がり、査定に行ったことを後悔すらするのでした。ただ、ロレックス相場は相変わらず高騰を続けており、これは腕時計相場全体が暴落したからかというと、決してそういうわけではありません。

欲しい人がいるのか、いないのか?

ではなぜ、私が買った中堅ブランドはダメだったのか――。それはズバリ、「需要」の問題でした。

すなわち、ロレックスが値上がりするのは「欲しい人が圧倒的に多い」からであって、私が買った中堅ブランドが高く売れないのは「欲しい人はそれほど多くない、というか少ない、というかほとんどいない」からです。

そして、その需要のもとになるのは知名度・ブランド力だということに、後になってから気付くのでした。

冷静に考えれば、10万~20万程度の中途半端な価格帯のブランド腕時計を、少し安いからといって、中古で買うような人はそれほど多くはないということでした。そんな販売見込みの薄い(いつ売れるか分からないような)商品は、買取価格も渋くなるのも当然ですよね。

それに対して、知名度抜群、誰もが憧れるロレックスであれば、中古であっても欲しい人はたくさんいるわけです。すなわち需要が多く、即販売が見込めるので、高い価格で買い取ってくれるわけです。

しかし当時の私は、すでに値上がりして手が出しにくい価格となってしまっているロレックスに比べ、まだ手頃な価格の中堅ブランドにこそ、値上がりの余地があると、魅力的に感じてしまったのでした。

今思えば、中途半端に手頃な中堅ブランドをいくつも買うのであれば、価格は高くても、思い切ってロレックスをもう1本買うべきだったと後悔しております。

バリュー投資の感覚では、失敗する?

実は、ロレックスではなく、中堅ブランドを選んだ理由は、「手頃な価格」「値上がり余地あり」以外にも、もう1つありました。

それは、中堅ブランドは、圧倒的にコスパが良いこと。

とくにオリスやフレデリック・コンスタントは、その品質に対して、価格が非常に抑えられているブランドとして定評がありました。

もちろん、ロレックスも非常に高品質ですが、価格とのバランスで言えば、(中堅ブランドと比べて)コスパは決して良くはありません。言い換えれば、価格に占めるブランドの割合が大きく、どうしても割高感は否めないのです。

しかし、そのブランドこそ需要のもとになることは、前述のとおりです。

それを私は、株式投資、とりわけバリュー投資(*)の感覚で、腕時計の価値そのもの(実質価値)を値踏みして判断していたことが、失敗の要因だったと分析しております。

*現在の株価が、会社の利益水準や資産価値などから、割安か割高かを判断する投資手法

暗号資産(仮想通貨)やNFT投資にも応用が利く?

ちなみにロレックス以外にも、パテックフィリップやオーデマ・ピゲといったブランドも、定価を大幅に上回る高騰を見せております。

これらはロレックスを上回る超名門ブランドで、普通に数千万円レベルの商品も珍しくありません。

このレベルになれば、コスパ(品質と価格のバランス)の要素は極めて低く、ほとんどが「需要と供給」の兼ね合いで価格が決まります。すなわち、ブランド価値(そして、その先行き)を判断しての投資となるわけですね。

ただ、ブランドは目に見えない(実体のない)ものなので、その見極めは非常に難しく、ましてやその先行きの予想など困難極まりません。そしてその判断には、データといった数字よりも、感覚・経験的な要素がものをいうわけです。

株式投資でも、企業のブランド価値を考慮することもありますが、基本的には、腕時計投資ほど、その比重は大きくはないでしょう。腕時計投資には、株式や債券といった伝統的な投資とは、また違った要素があるのです。

もっとも、ほとんどの人にとっては、腕時計投資は趣味の領域でしょう。

でも、そこで培った感覚は、今はやりの暗号資産(仮想通貨)やNFTといった(実体のない)ものへの投資に役立つかもしれません。もし腕時計に少しでも興味があるのなら、これからの時代、投資の幅を広げるためにも、投資家の視点も少し意識しておいて損はないかもしれませんね。