衝撃だった2000年の「江角事変」
ここ数年で、女性の芸能人が生理の仕組みについて話したり、自身のマスターベーションに関する話をテレビやラジオやYouTubeで聞けるようになって本当に……時代って変わるんだ! と毎度感動してます。
1990年代、私が中高生の頃は、生理について真面目に話してるテレビなんて見た記憶がありません。
女性芸能人が自分のマスターベーションを語るなんて更にもってのほか。お色気番組の「ギルガメッシュないと」や「トゥナイト」だったらあったかもしれない。あったとしても、男性のためのエロの世界に登場する、“記号としてのエッチな女性”が甘ったるい口調で話す、みたいな感じだと思います。
しかし2000年、事変が起こります。当時、女優としてもバラエティの司会者としても毎日のようにテレビに出ていた江角マキコさんが、フジテレビの番組で「誰でもオナニーをしている」と発言しました。それだけで大騒ぎになりました。
テレビで女性がセックスの話をするのはあった(小森のおばちゃまが「ごきげんよう」で初体験の話をするなど)。だけど「江角マキコがオナニーって言った……自分もオナニーをしていると暗に言った……」と語り継がれるほど、“エッチな雰囲気を演出してない状態の女性”が普通のトーンでテレビでマスターベーションの話をするなんてことは本当にあり得ないことでした。
私が、マスターベーションをしてるしてないの話が友達とできるようになったのは、江角事変の5年後、25歳になってからでした。
なんでも話せる女友達3人組で、誰からともなく「あのさあ……してる……よねぇ……?」と、恐る恐る聞いたのが始まり。話してみると当たり前のことなので特に驚きもなく「へえ~、そのやり方でやってるんだね」「私もそれ一回してみたけど定着しなかったわ」とか、料理や掃除のやり方と同じトーンで話すようになるのでした。
女子に求められる反応3パターン
私は中高6年間女子校に通っていたけど、男性が自分たちのマスターベーションについて話している光景というのは、漫画や小説、先のお色気番組やダウンタウンのトークなどで認知していました。
目の前で男性たちがそういう話をしている現場に初めて居合わせたのは、大学受験の予備校に通うようになってから。
男性講師が真面目な顔をしてポケットティッシュを男子に渡しながら「たくさん使うからいるだろ、やるよ」というギャグを見た時でした。
私はそれを「アッ! 自慰ギャグだ! 面白~い‼」と仲間に入って笑いたいんだけど、なんかそういう雰囲気ではないんですよね。ティッシュギャグに男子たちは静かにクスクス……という感じで、大っぴらなギャグ披露ではないわけです。この感じ、分かります? 「男子同士にしか分からない」というのを前提とした、でもわざわざ女子がいっぱいいる教室の隅っこでヒッソリやるギャグ。
そういう時に許される女子の態度は「気づかない」「キョトンとする」「もうっ! 男ってバカ(むぅ)」の3つです。ハッキリそう言われたわけじゃないけど、それ以外はできない雰囲気がブワッと空間に充満するんですよね。
男子だけの時もやってるのかもしれないけど、きっと女子というオーディエンスがいるのはまた別の面白さがあるのだろう、というのはのちに思ったことです。
なぜ「男だけ」みたいになっているのか
当時の私は、漫画等で読んだ「男子の性や自慰」について、どちらかというと親近感を持っていました。「ええ⁈ 男ってそうなの⁈」というのよりも、エッチなコンテンツにムラムラしたり、賢者タイムなんて女でもあるのに、なんで「男だけ」みたいになってるんだろう? という疑問のほうが強かったです。
中学の時に『エルティーン』等の10代女子向けのエッチな話題が載っている雑誌を読んでいたので、自分と同年代の女子が性的なことに興味があるというのは知っていました。同じ学校の友達とも、マスターベーションの話はしなくても、そういったことに関心を持っていることはお互い普通に分かるし、だから自分が持っている性的興味についても違和感を持ったことはありませんでした。もちろん、そういったことに全く興味がない人もいたし、そういう話が好きじゃないという人もいました。
性欲の強弱や性への探究心や性癖の内容などは、性差というより個人差であると思っていました。男子でも、自慰をぜんぜんしないという友人もいたし、個人差であるっていうのは今もそう思います。
私は、どうして男性だけが大っぴらに性欲や自慰についてを話していいってことになってるんだ、不公平だ、と思っている10代だったのです。
「江角事変」以降の歴史
そんなだったので、令和はテレビで女性のマスターベーションについての話を耳にすることが本当に驚きだし、逆に今までタブーになってたのはなんだったんだよ、という気もします。
でも江角事変から今日まで、22年の歳月を要しています。
2000年の江角事変後、私がテレビで女性のマスターベーションについて話している人を見たのは2010年。その人は湯山玲子さん。湯山さんは当時ブームだった「森ガール」を取り上げ「『森ガール』は草食男子に食べてもらえるように擬態している。でもこれからは肉食女子でもない、性欲を自分で自給自足できる光合成女子」と発言していました。
その時の私はテレビの前で「うわあー! すごいこと言ってる人がいる‼」と思わず手をたたき、喜びが全身からあふれました。
だけど今となると、「これからは」とか「○○女子」とか名前をつけて「新しい時代が来てるんですよ」と表現したり「テレビで言う」というセンセーショナルな光景がないと、女性のマスターべーションという当たり前のことを、当たり前、として受け入れられないということだったんだなと思います。
アイドルが公言する日がやってきた
その後、2016年に日本テレビのゴールデン番組「今夜くらべてみました」で指原莉乃さんが『ふたりエッチ』という性描写がたくさんある漫画をスマホで買って読んでいると言っているのを見て、とうとうこの日が来た、とゆっくり私はうなずきました。
やっと来た。アイドルが公言する日が。指原さんはいろいろな面ですごい女性だと思っていたがここの革命の旗も握ってくれるんかい、と頭が下がる思いでした。
指原さんの話し方が、エロスを演出した感じではもちろんなく、露悪的なやけっぱちでもなく、「スマホには人に見せられないものが入っている」という世間話の流れで言っていて、さらにそれを聞いたフットボールアワーの後藤輝基さんが「アホやなー」という感じで相づちを打っていたのも、私の「性欲があってマスターベーションをするのは男性も女性も同じ、するしないは性差ではなく個人差。なのに女性はしないってことになってるからいちいちそれを『あなたは普通の女性ではなく、エッチが好きな特殊な女性なんですね』と男たちが受け取り勝手に性的興奮オカズ文脈に活用するのなんとかしてくれよ」という長年のモヤモヤを癒やしてくれました。
そして、今年に入って藤田ニコルさんがテレビ朝日の『ロンドンハーツ』で「私もAVを見る」と言っていました。ビックリしている他の男性出演者たちに1人で「女の子用のAVもある」と説明していて感服しました。
翌日以降のニュース記事では「衝撃カミングアウト」とか大騒ぎになっていたけど、日々たくさん発売されている女性向けAVを誰が消費していると思ってるんだろうか。スマホで読む女性向けのエロ漫画の売り上げのすごさ知らんのかい。まあ、にこるんが言った、ということにビックリしているんだろうけども……。
「していない」ことになっていた
ついこの間の『ロンドンハーツ』では、ゆにばーすのはらちゃんとオダウエダの植田さんが自身のマスターベーションのやり方について話していました。他のお笑い芸人の女性たちは話してなくて、そうやって、自分の自慰について話す人と話さない人がいるっていうのは女性も男性も同じ、そんな、1990年代にも2010年代にも絶対に見られなかった光景を見られて感動しました。
例えば、もしこの世の中が、「女性は大便をするが男性はしない」ってことになってたらどうでしょうか。私たちが子どもの頃、男子はトイレの個室に入ったらウンコしてることがバレるという、無駄に過酷な状況がありましたが、ああいうのが大人になってもずっと続いていて、男性同士でも実はウンコしてるという話がしにくくて、「え⁈ 男なのにウンコするの⁈」とかいちいち驚かれてたらウザくないですか?
自慰と排泄を同列に語っても、よく分からない例えだなと自分でも思いますが、当たり前のことなのにしてないフリをしなきゃいけないのが続いたらウンザリしません?
その世界線で、ジャニーズの人とかが「俺ら男も、ウンコしますよ?」ってナチュラルに話してて女性芸能人が「そうなんだ」とかって普通に相づち打ってるのを見たら、「おお~~‼ 時代変わった~~‼」ってテレビの前で感動すると思います。きっと。
「女性って本当にオナニーするの?」の衝撃
以前、仕事先の飲み会に参加した時、セックスなどの話をしていたら、2人の子どもがいる知人の男性が聞いてきたことがありました。
「女性って本当にオナニーするの?」
親になっても「女性は自慰をしない」を前提に令和まで生きてこれた奇跡に驚くけど、そういう男性は珍しくない。
彼らは知らされてないんだから仕方ないんですよね。
ここには、私たちが受けた平成の性教育が大いに影響していると思います。
そして今の、令和の性教育は昔に比べたらかなり進んでいる部分もありますが、変わらない点もあるように思います。
「生理(生殖にまつわること)」と「射精(生殖にまつわることと性欲にまつわることがセットになっていること)」を男女の“対”として教えることで、暗に「女性には性欲がない」かのようになっている部分です。
そのことについては次回、触れていきたいと思います。