女性管理職3割達成を目指すダイバーシティ先進企業で取締役専務を務める木島葉子さん。男女格差の小さい外資系企業で順調にキャリアを積んできたように見えて、前例のないミッションにいくつも挑んでは失敗もしてきたと語る。
アフラック生命保険 取締役専務執行役員 CAO(Chief Administrative Officer)/CDIO(Chief Diversity & Inclusion Officer)兼 アフラック収納サービス 取締役 木島葉子さん
撮影=干川 修
アフラック生命保険 取締役専務執行役員 CAO(Chief Administrative Officer)/CDIO(Chief Diversity & Inclusion Officer)兼 アフラック収納サービス 取締役 木島葉子さん

バブル期にOL気分で入社。管理職は目指していなかった

ごく普通のOLが会社の取締役専務に。そんなテレビドラマのようなキャリアを築いてきたのが、木島葉子さん。1986年、大学を卒業して、当時アメリカ企業の日本支店だったアフラックに入社した。

料金部の同僚たちと河口湖で
料金部の同僚たちと河口湖で

男女雇用機会均等法の第1世代ではあるけれど、バリバリ働くつもりはなかった。当時のアフラックは、ベンチャー企業のような雰囲気。総合職と一般職の区別もなかった。木島さんはそこを「バイトの延長みたいな形で『土日休みのところがいいな』と思って選んだ」というが、実際に保険の契約を扱う料金部で仕事をしてみると、やりがいを感じた。

「契約の書類など、目の前にあるものをどんどん片付け終わらせていくのは、私の性に合っていました」

実務的な仕事が好き。私生活でも「趣味は料理」だが、結婚していて家庭があるから料理をするわけではなく、作ることに集中できるからだという。そんな木島さんは、コールセンターの立ち上げという大きな仕事を経験した後、企画部門に異動。そこで挫折を経験する。任されたのは顧客満足度を上げるために企画を考え現場に提案する仕事だったが、手ごたえを感じられず、「みんなにも響かないだろうなと思いながら推進したので、やはり響きませんでしたね」。成果を出せず、再びコールセンターへ。企画部で学んだ顧客満足度アップに関する理論が、コールセンターの仕事では役立った。

2002年、母と香港旅行
2002年、母と香港旅行

そして、39歳で課長に昇進。

「管理職を目指してはいなかったのでびっくりしましたが、ほかならぬ、私を厳しく育ててくれた女性の上司から昇進を告げられたので、自然な流れで受けることができました」

20年前のことだが、そのときすでに社内には女性管理職のロールモデルがいた。その後も部長、そして執行役員へと昇進していくが、日本企業に勤める同世代の人とは違って「女性初」だったことはない。

「私の1世代上に昇進した女性が何人もいらっしゃるので、私はその後を追いかけるだけ。だから、プレッシャーは感じませんでしたね」

被災地対応と日本法人化。前例のない仕事に苦戦

外資系は男女格差が小さいといわれるが、ダイバーシティで一歩先を行く環境で順調にキャリアを重ねた。最大のピンチは2011年の東日本大震災発生時。被災地で保険金を必要とする人が急増する中、契約管理事務企画部長だった木島さんは、被災地対応のかじ取りを任された。

「被災地に住む約120万人の契約者に一刻も早くお見舞い文書を送りたいと考え、社長に提案したのですが、『これじゃダメ』と却下されました。他の保険会社や金融庁の動向を踏まえず単独で突っ走ってしまったので、私の進め方が悪かったのです」

お見舞い文書と津波の被害を受けた地域の契約者の安否確認。そのミッションが終わるまでには約1年かかった。おにぎり持参で誰よりも早く出社し、夜までぶっ通しで働いた。「やらなければいけないことがあるときはハイテンションで突き進むタイプなので、周りは迷惑していたかも」と当時を振り返る。「どんなに困難な仕事でもきっと終わりは来る」と信じて、危機を乗り越えた。

さらに、会社を18年度に日本法人化するための仕事を任される。これまで上の世代が取り組んでは頓挫してきた改革だった。実現するには日本の会社法に基づき、取締役会を設置し株主総会を開くなどのガバナンス整備をしなければならない。

LIFE CHART

「やってきたこととはまったく異なる領域」ゆえに及び腰だったというが、覚悟を決めた。他部署からの引き抜きは自分のポリシーに反するものの、背に腹は代えられず準備室に人を集めた。「解決すべき課題が次々に出てきて、さすがに今回は“終わり”が来ないのではと弱気になるときもありました」

12人の精鋭とともに1年7カ月で法人化をやり遂げた。打ち上げの場には「木島、半端ないって」という部下の言葉も掲げられていた。いかに木島さんが持ち前の突破力でリーダーシップを発揮したかがわかる。

日本法人化後、社長やメンバーと
日本法人化後、社長やメンバーと

専務となったのはさすがに「女性初」

晴れて日本で取締役会が開かれるようになり、木島さんは取締役上席常務執行役員に。20年に専務となったのはさすがに「女性初」だった。

「最初の取締役会では7人のうち女性が2人。でも、現在は私ひとりになってしまい、遅ればせながら、ちょっと居心地が悪い状態を経験しています。社長からは『木島さんは言いたいことばかり言っているじゃないか』と言われましたが(笑)」

男性の育休を推進するなど働き方改革をし、女性管理職の割合が23%に、25年にはこれを30%とすることを目指している同社。

「昔の私のような働き方をしていると、誰もが長く続けていくのは無理でしょう。コロナ禍でリモートワークになった今、男性も女性も家族のための時間をもっと増やせるように変わっていけたらいいですね」

※記事上の女性管理職とは、同社内において直属の部下を持つ管理職を指す。

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉、座右の銘
「Don’t think. Just do it!」(考えるな、ただ実行しろ)
映画『トップガン マーヴェリック』より

スケジュール帳とムーミンのリトルミイのボールペン

Q 趣味
ベランダでの家庭菜園

Q ストレス解消法
料理と晩酌

Q 愛読書
ドバイにはなぜお金持ちが集まるのか』福田一郎著

Q Favorite item
スケジュール帳とムーミンのリトルミイのボールペン

木島葉子(きじま・ようこ)
アフラック生命保険 取締役専務執行役員 CAO(Chief Administrative Officer)/CDIO(Chief Diversity & Inclusion Officer)兼 アフラック収納サービス 取締役
1986年、実践女子大学を卒業しアフラック(日本支店)に入社。料金部やコールセンターで経験を積み、2012年、執行役員に昇進。日本法人化のプロジェクトリーダーとなった17年、常務執行役員に。18年、アフラック生命保険取締役上席常務執行役員。20年より現職。