やりたいことがなくて当たり前
芝浦工業大学の学生の方から受けた相談の中で、特に多かったのは就職に関する悩みでした。
たとえば、「特になりたい職業がない」と打ち明けてくれた学生がいましたが、まず前提として、やりたいことがないというのは当たり前だと思うんですよ。それに20代の時点で考えていることが正解である確率は低いと思ったほうがいい。
エンジニアをやってみて、向いていると思ったらそれでいいし、向いていなかったら別のことをやればいいと思います。やったことがないことを積極的に試しておいたほうがいいですね。やったことがなかっただけで、不得意だと思い込んでいたことの中に、めっちゃ得意な分野が見つかることもあるので。手当たり次第いろいろやってみるのがいいんじゃないかなと思います。
一番給料の高いところに行くのが正解
また、修士1年の学生は、就職活動中に自分の軸がブレていることに気がついて、何を基準に業界を絞っていけばいいのか悩んでいましたが、おそらく現段階では一番給料の高いところに行くのが正解なんじゃないかなと思います。
なぜなら、修士の学生が就職活動を通じて入れそうだと思っている会社の数と、世の中にある仕事の数が全然違うんですよ。会社に入ってみたら、こういう仕事があったんだとか、やっぱりこっちのほうが楽しそうじゃんっていうのは必ず出てくるので、優秀な人ほど転職する機会は増えてくるはずなんです。その場合、お金があると転職先を選ぶ時に余裕が生まれますし、副業を始める余裕も出てくると思います。なので、まだ道が定まっていないのであれば、お金優先で考えてもいいんじゃないかなと思いますけどね。
優秀な人材とは
ところで、優秀な人材とはどんなタイプの人間でしょうか。
僕にとっては、想像を超えた答えを出してくる人、他の人が出せないような答えを出してくる人です。他の人がやっていることをうまくやったとしても、その人は代替可能ということになりますよね。誰もやっていないことをやっている人は、社会に見つけられたり評価されたりしない限りは単なる「頭のおかしい人」だと思われがちですが、そういう人と優秀な人とは僕の中ではけっこうラインが近いんです。なかなか世間で出会う機会はないですし、まねしてなれるものではないと思います。まねしている時点でなれないわけです。
AIがデザイン業界にもたらす影響
代替可能という点では、AI(人工知能)についての質問もありましたが、そもそもAIが人間の仕事を奪うというよりは、ツールとしてみんなが使えるものなので、うまく使ったほうがいいという話なんだと思っています。
たとえば、設計に必要な構造計算。そこはAIまかせにしちゃったほうが楽だし完璧です。今後、人間がやるよりも機械がやったほうがいい分野は広がってくると思うんですよ。業界や会社にもよりますけど、お金が動いているところほどAIを使うことになってくると思います。
デザインという感性が重要になる分野でも、個人の思い込みでつくるよりも、データから寄せていったほうがつくりやすいんですよね。一般大衆の知識がどのレベルにあるかという認識がデータとしてあるほうが、多くの人に受け入れられるデザインをつくることができる。逆に、オリジナリティーが高すぎると一般大衆が理解できないということが起きてきます。そこらへんのバランスも、データを使ったデザインにはなかなか勝てないんじゃないでしょうか。一般多数に向けたマス市場では、今後AIの進出はかなり広がっていくと思っています。
一方で、フェラーリという会社がめちゃくちゃ高くて、速くて、その代わりに維持・メンテナンスが大変な車をつくっているんですけど、どうやってデザインしているかというと、非合理的なものをあえて選んでいるんですよ。合理的な車が欲しかったらトヨタとか日産を買えばいいんですけど、そうじゃない非合理的なものが欲しい人が求めているデザインは、AIには難しいと思います。
嫌われ慣れることが大事
仕事以外の悩みで多かったのは、人間関係ですね。
ある学生は、人に流されやすく、自分の意見を主張したり、感情を表に出すことができないと悩んでいました。それはたぶん、伝えるのが苦手なんじゃなくて、言った後に反発されたり嫌われたりするのがいやだという話だと思うんですよね。伝え方のうまい・下手はあんまり関係ないんですよ。それを言いたいかどうかという、モチベーションの問題なので。嫌われても言いたいことを言う気持ちがあるのか、黙っていようと思うかです。でも、口に出してみると思っていたほど嫌われないので、言ってみたほうが実は世の中楽ということに気づくと思います。
しがらみ抜きの友人関係
また、ある大学1年生からは「友達ができない」という相談がありましたが、大学の外に仲の良い人がいるのであれば、大学で無理して友達をつくる必要はないと思います。
ただ、社会人になってからできる友達って、基本的にはその社会的なポジションや損得を踏まえた上でつくられる友人関係であることが多いです。お互いがどこの会社にいるとか、どういう肩書であるとかには無関係に友達をつくれるのは、大学時代が最後じゃないですかね。
社会的地位でつながっていく関係しかないと、年を取れば取るほど、つらくなるらしいので、早めに結婚して子どもができて親戚も多ければいいんですけど、そうじゃない場合はやっぱり大学生のうちに友達をつくっておいたほうがいいんじゃないかなあと思います。必須ではないですけど。
ひろゆきさんの結婚観
女子学生の方からは学生結婚についても聞かれましたが、日本の場合は積極的にはお勧めはしないですね。女性がキャリアをつくるのが難しくなってしまうからです。日本の場合だと、新卒で子どもが0歳とか1歳で就活しても、受かる人ってほぼいないと思うんですよね。他の国であれば、別に子どもがいようがいまいが普通に働いてます、という女性はざらにいるので、もしそうなった時は外国へ行ってください。
あ、僕ですか? 結婚して幸せかというと、結婚する前から7年ぐらい一緒に生活していたので、特に何も変わっていないですね。
もともと結婚は好きにすればいいと考える派閥だったんです。どうでもいいがゆえに結婚はしたくないという人もいますが、僕はどうでもいいがゆえに結婚してもしなくても良い派です。フランスに来る時に配偶者ビザのほうが取りやすいというのがあったので、書類上結婚というかたちにしただけなので、あんまり変わっていないですよ。
学生のうちにこれだけはやっておけ
最後に、今のうちにできることについて少し。
車の免許と、もし将来バイクに乗るつもりならバイクの免許も取っておいたほうがいいと思います。要は、社会人を始めちゃうと長い休暇をなかなか取れなくなるんですよね。
もしお金があったら、長期間ほかの国に行って暮らすというのも、今のうちにやってみるといいんじゃないかなと思います。ある程度大きな企業やメーカー系だと、基本的に日本国内だけで閉じている会社って少ないんですよね。そうすると、言葉も通じない人や、別の国の文化の人がどうやって暮らしているのかをまったくわからないのと、ある程度わかっているのとではものの考え方、捉え方が違ってくると思います。
日本人は、わりと日本人の感覚が世界中普遍的だと思い込みがちで、実はそうじゃない国や文化のほうが多いということをわかっていない人が多かったりするんですよ。それに、外国文化を知っているほうが、結果的に今後社会がどうなっていくかという未来予測が当たりやすくなるんじゃないかなと思います。
学生のうちに留学経験を積みたいなら、お金の問題が大きいと思うんですが、ドイツやチェコなど、ヨーロッパは学費が無料の大学が多いです(編集部註:国公立校であることが前提で、現地語で学ぶ学生であることが条件になっていることもある)。
お金が無くてもストレスを発散できるか
あと、お金の問題についてもうひとつ。お金がなくてもこうやったら楽しめるよね、という生活の楽しみ方を知っていることは、長い人生を生きていく上でけっこう重要なことです。
お金がない中で人が集まって、どうやって時間を潰すかを考えるのは学生のうち。たぶん、社会人になったらあんまりやることがないと思います。ストレスがたまったらお金を使って発散するタイプの人がいますけど、あれをやり続けるとお金がたまらないので、なかなかキツい生活状況になります。逆に、お金を使わないでもふつうにストレス発散できま〜すっていう人は、お金がたまる一方で強い。
お金に頼らない生き方の訓練として、大学時代にどうやって暇つぶしするかというのを人間関係の中で見つけられるといいんじゃないかなって思います。