「投資は余裕資金で」と言われますが、その基準はあいまいだ。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「私は余裕資金に3つの基準を設け、最も厳しい基準を採用することで投資を楽しめるようになりました」という――。
スマートフォンで為替チャートを見ている人
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投資は「ワクワクするかどうか」が大事

私は今、投資を楽しんでいます。

もちろん、収益を上げることも大切ですが、それ以上に、「ワクワク」するか否かを、投資判断の一番の基準にしています。ですので、時には大失敗もしますし、見方によっては、あえて失敗しにいっているのか、と思われるような投資もしています。

それってFPとしてどうなの? との賛否両論はあるでしょうが、少なくともそのおかげで、こちらでの原稿ネタは尽きることがないわけです。

ただ、そんな自由気ままな投資ができるのは、私に、人並外れた資産があるからではありません。それは、「投資は、余裕資金でやること」を徹底しているから。そして、その余裕資金の基準を、相当厳しく設定しているからです。

そこで今回は、いつもの「投資失敗体験記」からちょっと視点を変えて、「投資は、余裕資金で」について考えてみたいと思います。

そもそも、“余裕資金”とは?

「投資は、余裕資金で」については、われわれFPもあちらこちらで繰り返しお伝えしている投資の基本中の基本であり、それについては誰も異論はないでしょう。

では、その「余裕資金」とは、いったい、どんな資金なのでしょうか?

それをハッキリさせないことには、いったい、どれくらいのお金を投資に回していいのか分かりませんよね。

実際、「投資をやりたいんですけど、どれくらいのお金を、投資に回していいんでしょうか?」といった質問をよく受けるのですが、これはまさに、余裕資金の基準がハッキリしていないからです。

余裕資金の基準がハッキリすれば、投資に回せる金額も、その基準を基に、ある程度見積もることができるはずです。すなわち、余裕資金の基準をハッキリさせることが、投資の第一歩とも言えるでしょう。

そんな余裕資金の基準ですが、大きく分けて、「緩い」「普通」「厳しい」の3つの基準が考えられます。

緩い基準の、余裕資金とは?

緩い基準の余裕資金は、「当面使わないお金」です。

一般的には、「半年程度の生活費や、近々必要となる教育資金など」以外のお金となります。ですので、数年先のリフォーム資金や、数十年先の老後資金も、この緩い基準でいえば「余裕資金」となります。

そしておそらく、世間一般でも、この基準で余裕資金を捉えている人は多いでしょう。

実際、銀行や証券会社などは、「眠っているお金は、投資で増やそう」「将来のお金は、じっくり投資で育てよう」などと、当面使わないお金(緩い基準での余裕資金)は投資しようとアピールしています。当面使わないお金であれば、長期分散投資をすることでリスクを減らし、たとえリーマンショックやコロナショックのようなことがあっても、長期的には預貯金を上回る収益を上げることができる、と。

緩い基準では、“私は”投資しない

しかし私は、この緩い基準での余裕資金は、それは余裕資金とは考えず、投資には回しません。

それがたとえ、長期分散投資であっても、です。

なぜなら、ちょうど資金を必要とするタイミングで、リーマンショックやコロナショックのような大暴落にかち合ってしまっては、人生設計は大きく狂ってしまうからです。

イエス、ノーと書かれた壁の前に立つ人
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たしかに長期分散投資であれば、そのような大暴落があっても、長期的視点においては、いずれは回復する可能性は高いです(実際、回復しています)。しかし、いずれ回復するとは言っても、資金が必要なタイミングで資産が大きく毀損きそんしてしまっては、人生設計の屋台骨が揺らいでしまう可能性があるのですから。

ちなみに、私がまだ余裕資金のスタンスを確立しておらず、資産の大半を投資に回していた頃、リーマンショックで大損を被りました。そのときはまだ30歳前後で、それほどお金が必要ない時期だったので、なんとかやり過ごすことができ、その後の相場回復で一息つくことができました。

しかし、もしそれが今のタイミングだったなら、車購入やリフォームの計画が大きく狂ってしまい、いろいろ大変だったかと思います。

また、長期分散投資の「長い目で見れば増える」についても、これはあくまでも過去のデータ(実績)です。今、新型コロナやウクライナ情勢など、世界規模で大きな変化が起きている中、これまでのデータ(実績)が通用しないフェーズに突入している可能性も否定できません。世界情勢の不透明感は極めて高く、投資も何が起こるかまったく分からない、この一言に尽きます。

そんな中で、それが遠い将来であっても「目的の決まっている資金」を投資に回すことは極めてリスクが高いと、私は考えます。

普通基準の、余裕資金とは?

普通基準の余裕資金は、「目的の決まっていないお金」です。

この基準であれば、たとえ数十年先の老後資金であっても、「老後資金」との目的がある以上、それは余裕資金とはなりません。すなわち、何らかの目的のためのお金であれば、それは投資に回すことはないというスタンスとなります。この基準にて「投資は余裕資金で」を徹底すれば、たとえ投資で大失敗したとしても、人生設計の屋台骨が揺らぐことはないでしょう。

普通基準と言いながら、世間一般的にはかなり厳しめの基準かもしれませんが、慎重を期するのであれば、これくらいのスタンスでもよいかもしれません。

しかし私は、この普通基準での余裕資金であっても、それは余裕資金とは考えず、投資には回しません。

なぜなら、それなりにまとまった金額での投資となれば、失敗したときの損失額も大きく、それで人生設計の屋台骨が揺らぐことがないにしても、やはり心理的なダメージは避けられないからです。

実は、私もかつては、この普通基準の余裕資金で投資をしていた時期がありましたが、大きな損失が出たときには、しばらくは何も手につかないほど凹んでおりました。また、含み損が気になって仕方なく、さらには日々の値動きに一喜一憂し、投資額が増えるにつれ、投資を楽しむどころか、むしろ苦しんでもいました。

厳しい基準の、余裕資金とは?

厳しい基準の余裕資金は、「なくなっても気にならないお金」です。

この基準であれば、失敗しても心理的ダメージは少なく、また、日々の値動きに捉われることも少なく、悠然と構える余裕が出てくるでしょう。

なんといっても、「なくなっても気にならないお金」なのですから。

ただ、「なくなっても気にならないお金」などないよ、というのが正直なところだと思います。なのでここは、「もともとはなかったお金」と読み替えてもよいでしょう。

そして、この「もともとはなかったお金」は、自分の意思で生み出す(色付けする)ものです。

普通預金の10万円、定期預金の50万円など、今、自由になるお金があれば、それを「もともとはなかったお金」と、自分に思い込ませるのです。もしくは、「欲しい服をグッとこらえて3万円捻出」「今月は積極的に残業をこなして給料5万円アップ」など、能動的に「もともとはなかったお金」を生み出すこともできるはずです。

ちなみに私の場合、このサイトでの原稿ギャラは「もともとはなかったお金」として、投資に回しています。

私自身、これまで、余裕資金の基準には迷走しておりましたが、今では、この厳しい基準にたどり着き、ようやく、心から投資を楽しめるようになりました。

投資ありき、で考えない

もちろん、どの基準で余裕資金を捉えるかは人それぞれで、私の基準を押し付けるつもりはありません。

一人ひとりが、ぜひ、自分なりの「余裕資金」を見つけてください。

もっとも、余裕資金で投資をしたからといって、資産が増えるか減るかは分かりません。であれば、投資そのものを楽しもうというのが私のスタンスです。そして、このスタンスについては、ぜひオススメしたいと思っています。

ただ、投資を「楽しめる」か「負担に思う」かは、実際に投資をやってみないと分かりません。投資は楽しいものだと思っていたけど、実際にやってみると、資産が減ることに耐えられず、日々の値動きも気になって仕方なく、しんどい……と思う人も少なくありません。

その際、(投資に回している)余裕資金を「緩い」もしくは「普通」基準で捉えていることが、その「しんどい」理由となっている可能性もあります。であれば、余裕資金を「厳しい」基準で捉えて、その余裕資金で投資をしてみてください。

それによって吹っ切れて、投資を楽しめるようになるかもしれません(かつての私のように)。

しかし、厳しい基準での余裕資金でも、やっぱりしんどい……なら、残念ながら、性格的に投資に向いていないかもしれないので、その場合は、ムリに投資をする必要はないでしょう。投資に向いていない人がムリに投資をすれば、体調や日々の生活に支障を来す可能性もあります。

投資はあくまでもライフプラン実現の選択肢の一つであって、他にも「収入を増やす」「支出を減らす」「目標設定を変える」などの選択肢はあります。国や金融機関の「投資は必要」に惑わされないでください、それは、「われわれに投資をしてほしい」側のキャッチコピーなのですから。