肩書があるわけでもないのに会社内やグループ内で傍若無人な振る舞いをする「女子ボス」。常に周囲の人間を攻撃する迷惑者にどのように反撃したらいいのか。自らもかつて被害にあったという産業カウンセラーの川村佳子さんは「飛んできた人格否定の言葉に、短くて重みある“リアクションワード”を準備しておくといい」という――。

※本稿は、川村佳子『「女子ボス」のトリセツ』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

窓際に座る孤独な女性
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「誠実さと正論」だけでは解決できない

みんなを悩ませている「女子ボス」。女子ボスとは、自己存在の実感を求めるあまり、ハラスメント(いじめ・嫌がらせ)をしてしまう女子のこと。皆さんは、どんな人物をイメージするでしょうか?

◎いつも攻撃的な態度で、マウントをとる女子。
◎新人が入ってくるたびに、いじめ続ける女子。
◎同僚なのに、上司面する女子。

その心の中には嫉妬や差別意識、不快感の解消、そして、根底にある「自己存在への自信のなさ」があるために、理不尽な攻撃をしてきます。

産業カウンセラーの私自身も以前、歪んだ人間関係の組織で、理不尽な攻撃を受け続けた過去があります。初日から挨拶を無視される、会議の日を教えてもらえない、1人だけ人間関係から切り離され、孤立しかけたことがありました。

また、どう考えても1人ではやり終えることができない仕事を何度も押し付けられ、助けを求めに行っても、助けてもらえないという状況下で仕事を続けることになった経験があります。

それが続くと、次第に、

「自分の感覚がおかしいのではないか」
「自分はできの悪い未熟者」

といった、否定的なセルフイメージを持つようになりました。

そして、四六時中、意地悪をしてくる「女子ボス」に意識が向くようになり、本来向ける必要のある「業務」に意識が向けられなくなり、初歩的なミスを連発。悪循環にハマっていきました。

私は、ストレスが溜まっていくこと、疑心暗鬼になっていることを感じ、自分が努力をすることを前提に、指揮命令系統の明確化や、環境の調整を責任者にお願いしました。

しかし、

「あなたが変われば、相手も変わる」
「あなた、心理学を勉強してきたでしょ? あなたが解決して」

と言われ、人間関係を含めた環境の調整には、一切介入してもらうことができませんでした。

「女子ボスの存在で、これまでに何人も新人が辞めた」とボヤいていた責任者もまた、女子ボスに頭を悩まされていたはずでしたが、対処することを拒み、実際には行動に移さず、最終的には「保身」を選んだのです。ネガティブな記憶として残る、非常に悲しい出来事です。

メンタルヘルス対策の重要性を伝え、環境への介入、悩んでいる労働者の悩みを聞いてきた私は、大きな無力感とともに、ハラスメントの問題は、「誠実さと正論」だけでは解決できないことを知りました。

これだけ多種多様なやり口を使って攻撃をしてくるのですから、当然と言えば当然です。

しかし、これまでの相談業務の中で、職場の環境改善に積極的に取り組む管理職の方々、真剣な職員の方々にも本当に多く出会ってきました。

「安心して自分らしく働く」

とても簡単なようで、最終的にはこのことが皆さんの「職業生活と命を守ること」だと私は考えています。

女子ボスより精神的に有利に立つための「心の武器」を

ハラスメントは言わば「心理戦」であることも知りました。

自分の心を守るための技を身につける。見えない「心の武器」を持つことを教えてもらった気がします。

女子ボスのいる環境からすぐにでも離れることが一番でしたが、かといって、そう簡単にはいかないのが現実です。

「会社は辞められない……」

きっと、多くの方がそう思うのではないかと思います。

窓際に座る孤独な女性
写真=iStock.com/bee32
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私は、悔しさや悲しみ、誠実さはいったん脇に置き、自分の身を守ることに集中することにしました。

まずは、自分自身が落ち着くこと、そして女子ボスや組織の人間関係をよく観察してみることにしました。

戦うためには、何よりも相手を知ることが大事です。

そうすると、女子ボスの精神的弱点や、組織の人間模様がクリアに見えてきます。今まさにハラスメントの問題で悩んでいる皆さん! まずは、あなたの心を守ることが、何よりも一番大切です。

ハラスメントを続ける女子ボスのために、キャリアを捨てる、精神的に追い詰められるなど、こんなもったいないことはありません。精神を壊されてしまい、仕事へ行けなくなってしまっては、元も子もありません。

まずは敵の弱点を見抜き、女子ボスより精神的に有利に立つための「心の武器」を身につけましょう。

特に男性の皆さん! あなたの職場に、ボスキャラの女性はいませんか?

もしかしたら、気を遣いすぎて、振り回されて、疲れている男性もいらっしゃるかもしれません。今、まさに巻き込まれている男性もいるかもしれません。はたまた、すでに職場の女性から、または趣味のサークル仲間からなど、女子ボスに関する被害の相談を受けているかもしれません。

しかし、対処する術を知らずに、困っていませんか?

対処ができず、何の変化もなければ、まわりからは「何もしてくれない人」「無能な上司」、そんな不名誉なレッテルを貼られかねません。

ここから、女子ボスハラスメントから身を守るための対処法を具体的に紹介します。まずは、1つ。今のあなたに合う対処方法を見つけ、実践してください。

「これならできるかもしれない」

その気持ちが大切です。さっそく今日から実践してみてください。

【対処法A】必要以上にかかわらず、情報を与えすぎない

女子ボスとの会話は、何を言っても揚げ足取りになり、議論は泥沼にハマるだけです。「相手の話を受容する」という姿勢も欠けていますので、まともに会話ができないことが多いでしょう。

そういった人とは、必要以上にかかわることを避け、会話そのものを減らしていきましょう。

とはいえ、同じ職場の場合は、毎日顔を合わせることになりますし、定期的にどうしても顔を合わせなければならない人もいると思います。

このような場合は、とにかく「会話を広げないこと」です。

挨拶だけはにこやかに、元気良く。2人きりになったら、とにかく仕事に集中しましょう。もし、何かを聞かれて答えなければならない状況になったときなどは、短く穏やかに、そして、はっきりと言い切ってください。

オフィスで働いている女性
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この「言い切る」ことが、とても大事です。

「例の企画書、進んでいるの?」と聞かれたとしましょう。

その場合、「はい。○○日までに提出します」と短くはっきり言い切るのです。

「え〜と、おそらく○○頃までには提出できると思います……」という、自信のない答え方は避けましょう。

言葉の語尾が消えていくような答え方はせず、はっきりと言い切り、会話をすばやく終わらせましょう。

もう1つ大事なことは、こちらの「情報を与えすぎない」ことです。それは、個人的なことも含めてです。

女子ボスは、常に心の中が不安で揺らいでいるため、根掘り葉掘りさまざまなことを尋ねてきます。例えば、家族のことや休日の過ごし方など、あらゆる情報を探ってきます。平気でプライバシーを侵害してきますので、こちらが情報を与えすぎないことが大事です。

「情報を与えないこと=境界線を引くこと」になりますので、聞かれたことに答えすぎないことが大事です。

大切なことは、必要以上にかかわらないこと、情報を与えすぎないことです。

★ポイント 自分と相手の間に境界線を引くようなイメージでかかわる。

【対処法B】「許せない」という自分の自然な感情を肯定

女子ボスから日常的に言葉や精神的な暴力を受けていると、

「自分の努力が足りないから注意される」
「もっと仕事ができるようにならないと……」

と自省し、「許せない」「憎い」「悔しい」と思う気持ちを押し殺してしまいます。

川村佳子『「女子ボス」のトリセツ』(フォレスト出版)
川村佳子『「女子ボス」のトリセツ』(フォレスト出版)

さらに、「自分が甘えているからではないか」といった根拠のない精神論から抜け出せなくなり、自分を責め続けている人もいます。

暴力下(精神的な暴力も含む)に置かれたときは、多くの人がそうなってしまうものです。一度、そういったネガティブな感情を、押し殺すことなく、きちんと見つめてみてくだい。

「私はあの人を許せない」
「傷ついている」
「なんてひどい上司だ」

と理解し、自分の感情を見つめて、自分の味方になることが大切です。そして、その自分の自然な感情を許してあげてください。

自分の感情を見つめるときには、我慢していた自分の気持ちに気づき、涙が出てくるかもしれません。悔しさや怒りで、大声で叫びたくなるかもしれません。

でも、それでいいのです。

それも自分の大切な一部と思い、しっかり受け止めてあげてください。コントロールする必要があるのは「行動」だけ。「自分の感情」は決して否定しないと心得ることが、自分の「心を守る第一歩」です。

★ポイント 自分の自然な感情を肯定し、自分の胸に○を描くイメージを持つ。

【対処法C】事前準備が肝心「リアクションワード」

相手からの攻撃的な言葉や嫉妬の矢は、突然飛んでくることが多いものです。あまりにも突然のことに驚きすぎて、とっさに言葉が出てこないなんてことはありませんか?

また、耳をふさぎたくなるようなひどい言葉や態度に衝撃を受けて、頭が真っ白になってしまうこともあるかもしれません。

そんなとき、しばらく時間が経過してから自分の気持ちに気づき、後からだんだんと腹が立ってくるという場合も多いのではないでしょうか?

女子ボスは、自分の欠点を見つめることも、受け入れることもできませんので、有害だと思う人物には、絶対的な屈服を求めています。

彼女の頭の中では、「あなたが自ら泣いて許しを請う」イメージや、「あなたがいないと困ります」といった絶対服従するイメージを最終ゴールにしています。

それは前述のとおり、自分が威圧されている人の投影なのですが、無意識の働きですので、本人は気づいていません。

職場の上司や先輩に向かって反抗的な態度や言葉は得策ではありませんが、ママ友同士や趣味のコミュニティやグループなど、本来対等な関係を築く環境下では、自分を守るための「リアクション」を考え、準備しておくことは、自分の身を守るための防衛策の1つです。

人格を否定するような言葉が飛んできたときのために、重みのある「リアクションワード」を準備しておきましょう。あなた自身も、「自己主張ができた」と思える「スッキリ」できる言葉です。

具体的には、

「は?」
「こわ!」

という短いワンワードや、

「今の言葉は少々失礼ですね」

といった責め立てるわけでもない、怒りをぶつけるわけでもない、でもスカッとするあなた専用のリアクションワードを、自分のために準備してみてください。

ポイントは、必ず主語を「私」にすることです。主語を私にして相手に伝える方法を、「I message」と言います。

「私は、今の言葉に傷つきました」
「私は、あなたのその態度は失礼だと思います」
「謝ってください」

どんな状況であろうと、誰であろうと、自分の心を傷つけさせてはいけません。

ハラスメントは、心の暴力です。自分を守るためのウソや演技、リアクションワードを武器として持ち、相手から二度と失礼な言葉を言わせないためのお守りとして、心の中に準備しておくことをおすすめします。

★ポイント ウソや演技など、リアクションワードは、心のお守り。